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かぼちゃプリンと知らなかった母さんの悩み②
しおりを挟むそして、いつも疑問に思うこと。一樹はバスケの副キャプテンだ。身長が高くてそこそこ頭も良くて、友達もいる。
そもそも何で僕なんかの友達なんだろう。お守りみたいにそばにいるんだろう?何にもいいことなんて無い。
ただ、優越感に浸りたいから?
チビの陰キャの、身体が─心臓が─ポンコツの、一緒にいても、何もいいこと無いのに!損得勘定で人を測るなんてと、思うかもしれない。けれど、僕は出来た人間じゃない。バレンタインに女の子から告白されたりする陽のあたる場所を歩いてきた人間とは違うんだ。
「これからは一緒に帰らなくていいから!デートはね、二人でいるから成り立つんだよ。合気道もさ、あともう少しで黒帯取れそうなんだ。もう昔の僕じゃない!自分のことくらい自分で何とかするよ!それに美山さんは僕を誘った。一樹なんかいらない!もう僕には一樹は必要ない!僕はそんなに可哀相に見えるのかよ!」
走り去ると、丁度ミラーがあった。歪んで映る僕の顔。これ以上無い程、悲しそうな一樹の顔。僕は生まれて初めて胸がかきむしられるような痛みを覚えた。
*****
一樹とはいつも腐れ縁だった。小・中・高、皆同じ。誰かが仕組んだのかと思うくらい全部通して同じクラスだ。押しが強くて、選択を迫られる度僕は『YES』としか言えなくなる。昔の恩がある。守ってくれた。他にもたくさん。危機一髪というときには必ず現れて助けて貰った。
昔は、何をするにも一樹と一緒。でも、僕は小学生高学年の頃、一樹が女の子に告白されているのを見た。このままじゃダメなんだと思った。依存しているのは、僕だ。薄々解ってはいた。独り立ちしなければ。
僕は今はまだ、チビの部類だけど、昔より男らしくなった。ただ、困ったことが一つ。高校入学のとき母と約束した。いや、させられた。
『帰るときはなるべく一樹と一緒に帰る。一樹と一緒じゃないときはガタイのいい男子と帰ってくること』
ということ。
「もう高校生だよ。中学生の頃みたいなことにはならない。独りでも帰れるし、か、彼女ができるかもしれないし………大丈夫」
頭の中を過ったのは兎みたいな美山さんの可愛らしい笑顔だった。
「海はその子を必ず守れるの?」
キッチンで洗い物をしながら母は言う。
「守る!近くの合気道教室通ってるだろ。もうすぐ黒帯貰える。母さんも、僕が守るよ!」
「解ったわ。あ、オーブンそろそろね。かぼちゃプリンつくったの。一樹くんそろそろ来るかな」
「仲直りしたいって顔に書いてあるわよ。海がそうおもうのは一樹くんだけでしょ」
あ、きたきた、いらっしゃい。
「こんばんは、スミマセン遅くに。海、どうしてます?」
「いじけてる。これ、アルミのカップは今度休みの時でいいから。背、伸びたわね。もしもの為に海をお願い。あのひとが亡くなって十年もたつのね。ラガーマンでゴリゴリだったんだから。海は心臓が弱いところも、華奢なところも私ににたのね、わるいとおもってる。海にも、一樹くんにも」
「好きだからいいんです。海のことが」
「解けない魔法でカボチャの馬車で気をつけて帰って。海!途中まで一樹くんのこと送ってあげて。明るいとこまで、ね?」
明るいとこまで。僕が変態にあった区域の境目だ。
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