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一樹の過去と海のトラウマ③
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【3年前】
「可愛いね。君、名前なんて言うの?」
ことの発端は、中学二年のとき学校帰り変態のクソジジイに襲われそうになった。薄暗くって良く見えなかったけど、ジリジリと間を詰め、カチャカチャとベルトを外す生臭い息を吐くジジイは気持ち悪かった。
自分にもある『それ』が酷く汚いものとして、そのジジイの足の間に存在していた。足が竦んで動けなかった。僕は大声で母でもなく、天国の父でもなく『一樹』を呼んだ。来るはずもないのに。
一樹は、魔法使いじゃない。王子様でもない。この場合、僕がお姫様になってしまうので適切ではない。
──僕は心臓があまり強くない。だから、あまり速く走れない。逃げられない。どうして一樹を呼んだんだろう。それは、腐れ縁だけど、ことあるごとに僕を助けてくれるのは、他でもない、幼馴染みの一樹なのだと無意識の記憶で、覚えていた。
「おじさんと、遊ぼうかあ」
ニタァとわらう、不精髭の脂っぽい不潔感漂う風体に後退りしかできない。吐く息が生臭い。気持ち悪い。
「あ、あっちへ行ってください!」
押し倒されて、しりもちをつく僕の、変態ジジイはベロリと首を舐めた。
気持ち悪い!気持ち悪い!
「おじさんと、いいことしようねぇ~」
自分の非力さが悔しい。こんな時、何故声がでないんだろ。身体が動かないんだろ。
何処からともなく現れた一樹が、息を切らせて、変態オヤジを蹴りあげ、足腰に力が入らない僕を立たせ背中に隠した。上手く立てない僕は、一樹を後ろから脱力しながら抱きしめた。
全速力で走った温度、威嚇、怒りの感情が離れていても背中の熱が伝わる。
「消えろクソジジイ!!この変態野郎!!そのキったねえ腐ったタマ、足でブッ潰すぞ!」
変質者が去ったあと怖くて怖くて、気持ち悪くて、買い食いした焼きそばパンを吐いた。
「海!」
「汚い………みんな、僕も、男の人も、おんなじっ!汚い!」
「同じじゃない!海、俺はあの変態野郎と同じに見えるか?」
いつのまにか涙と鼻水でグショグショになっていた顔を左右に振る。
「一樹は、違う」
顔を一樹の胸に埋められる。いい匂い。安心する、制汗剤か何かだろうか。胸苦しさが消えていく。
「守るから。俺が二度と海がこんな目にあわないように。守るよ。その心臓で、悲しい思いも、つらい思いもしてきただろ。もうそんなことないように、今も、逃げれなくて………守るからさ。いくらでも頼ればいい。海の役に立つことが、俺は嬉しい」
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