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仔猫の待ち人と正体④
しおりを挟む土曜日、美山さんと図書館待ち合わせで二人で勉強したり、本を読んだり、好きな音楽を聴かせあった。
「砂川くん?髪切ったんだ。解んなかった」
会って三時間、今更だけど、そう言われて嬉しかった。初めてだった。見た目で褒められたのなんて。この日の為に、ヘアサロンにも行った。自分で予約を取り、貯金を下ろした。
「今の髪は重いから軽くして切り揃える甘い感じで、色白な女性的な感じを生かして軽くして中性的な感じに………」
髪を切られると、髪が自分のコンプレックスと共にはらはらと床に落ちていく感じがした。スッキリした髪型に、美山さんは気づいてくれるだろうか。ヘアサロンからの帰り道、良く解らないけど男のひとにナンパされて怖かった。
隣から甘い女の子の香りがする。柔軟剤?これが噂のデートにつける香水?僕は楽しいけれど美山さんは終始、何処か浮かない顔をしていた。そして僕が、
「お昼どうしようか、あのさ、僕、隠れ家カフェっていうの、調べてきて──」
と言いかけると、
「一樹くん、遅いね。迷っちゃったのかな。お腹空くし最悪。あのさ、一樹くんから着信無いの?もうっ!砂川くんどんくさいから!一樹くんと一緒にデートできた女子なんていないのに。激レアなんだから!こっちはさあ、ツーショットの写メ取ってインスタに一緒にハロウィン限定のパンプキンプディングパフェ食べてるとこあげようと思ってたのにっ!せっかくのハロウィンぶち壊し!楽しみにしてたのに!ちょっとさあっ!伝えた?一樹くんに時間と場所!」
「あ、あの、僕だけ誘われてるのかって………一樹には………」
語尾が小さくなる。ここまで罵られるとは思わなかった。そもそも僕はいらない。必要ない。僕は一樹のおまけだった。美山さんは僕を嘲笑って言った。
「はぁ?誰もあんたなんか誘うわけないじゃん。小説ヲタの陰キャなんて。あ、もしかしての将来の夢、小説家だったりする?ダッサっー!なれるわけないじゃん!一樹くんだってそう思ってるよ」
「夢見て、夢見て、………何が悪いんだよ!!」
図書館に僕の怒声が響きわたった。美山さんは可哀想なものを笑う目をして言った。
「あんた自分じゃ気づかないかと思うけど、文章下手だし話もありきたり。つまんない。まあ、クラスの皆でコピーして、コンクール出して全国行くか賭けたけど。まさか全国行くとはね。てかさ、今の話先生に言っても無駄だから。委員長で、クラスの皆が味方の私と陰キャのアンタ。先生はどちらを味方する?断然あたしでしょ」
手が、悔しさで震える。今の言葉も、言い返せない。コンクールもクラス皆に馬鹿にされて賭けの対象にされてたのも勿論悔しい。けれど、文章下手、話もありきたり。そしてとどめに『つまんない』その一言だけでザクザク書いたものを踏みにじるように処理されたことが切なかった。小説を書くのは大変だけど夢の世界にいるみたいだ。その造り上げた夢の世界が崩れていく。
「あんた、クラスにいられるの一樹くんがいるからだよ。ほら、早く電話!」
美山さんはイライラしながら僕を急かした。僕、惨めだな。そう、思った。
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