灰かぶりの王子さま~カボチャの馬車で迎えに行くから~〖完結〗

カシューナッツ

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心臓が痛い、みんな嫌い⑤

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僕は外に出て電話をかけた。雨が降っていた。どんどん雨が強くなる。一樹に電話もかけず、美山さんをそのままに、ふらふら帰ってしまいたかった。
でも、傘はない。ハロウィンの催し物のポスターが図書館にも貼ってあった。シンデレラなら魔法使いが助けに来てくれる。カボチャの馬車で。舞踏会には王子様がいる。でも僕は助けて貰えない。いくら待ってもカボチャの馬車はこない。主役にはなれない。僕はただのその他大勢だ。それに僕は一樹を傷つけた。

『どうせ一樹も、結局は……可愛いお姫様しか助けたくないよね……そうでしょ?美山さん可愛いもんね。陰キャの僕なんて、もう捨てなよ』

嫉妬でついて出た独り言が惨めだ。

「海!」

急にかけられた声に驚く。振り向くとジャケットを羽織り、眼鏡に髪型も整えられた一樹がいた。知らない人のようだった。

「帰るぞ、海。美山も帰るってさ」

何だ、居たのか。見てたのか。聞いていたのか。僕はそんなに憐れだったか。それとも僕の保護者?

「一緒に帰れば?美山さん、一樹を待ってた。一樹も美山さんが来るから来たんだろ?行けよ」

二人で歩く姿は絵になるんだろうな。羨ましいな。悔しいな。悲しいな。表面ではその体を装う。

本音を言えば、僕は心の奥では一ミリも美山さんを可哀想なんて思っていない。そして、一樹と歩く姿を想像し悔しいとも悲しいとも思わない。それは一樹は僕を選ぶからだ。雨に濡れている僕を置いていけない。ざまあみろだ、か弱いふりしやがって。笑った後、下を向く。僕は一樹の心を読んで、行動を読んで、先回りする。


こんな人間が僕は一番嫌いじゃなかったっけ?


それに僕は一樹を裏切った。あんな悲しそうな顔をさせた。そんな友達、誰が選ぶんだよ。

「馬鹿!前見ろ!」

 ふらふら車道に出そうになった僕の腕を一樹は掴んだ。雨に濡れて熱でもあるのか。一樹に触れられてるところが熱い。何だか、ひどく疲れた。

「一人にして──嫌なんだ。全部嫌なんだよ。美山さんも、一樹も、僕も嫌だ!全部嫌だ!」

泣いてもこの雨だ、誰も解らない。雨音で泣き声なんて誰にも気づかない。

「落ち着け!聞けよ!謝りたかったんだ。隠れて聞いてた。全部録音した。図書館のパソコンのブースでコピーも取った。だから、もう──」

「──隠れて聞いてたなら、何で、庇ってくれなかったの?あんな風に言われた僕は傷つかないと思ったの?クラスであんな扱いだったなんて知らなかったよ。──一樹は、知ってたんだね。知ってて仲良くしてくれてたわけだね」

「でも、これで、これであんな奴らお構いなしに小説が書ける。もう盗まれたりすることなんてなくなる!」

「盗まれたことも知ってたの?近寄んな!一樹なんか大っ嫌いだ!これ以上惨めにさせないでよ!小説なんてもう二度と書かない!」

僕は泣いていた。そして、呼吸が苦しくなって、息が出来なくなった。あ、僕のポンコツの心臓が文句を言ってる。目の前が暗くなる。世の中って理不尽だな。中々上手く行かない。昨日、喜び勇んで着ていく服を迷っていた僕に言いたい。『全部無駄だよ』って。『傷ついて帰ってくるだけだよ』って。


美山さんのやさしさも嘘だと言うことも

クラスで僕の小説が賭けの対象にされてたのも

僕は一樹のおまけだと言うことも

僕には小説の才能がないってことも

一生懸命書いても『つまんない』で終わることも

本当に大切な友達を失うことも

そして、何年かぶりの発作。救急車で搬送され、長年お世話になっている担当医の塚井先生が通っている総合病院に搬送されて、久々に診てもらった。先生は、

「もう大丈夫。でも、心も身体の一部だから労ってあげてね」

と言った。それから、

「ずっと廊下で一樹君が待ってる。行ってあげなさい。ずっと泣いてる。帰っていいよ」

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