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カボチャの馬車で迎えに来て⑥
しおりを挟むドアを開けると一樹が壁に凭れて一目も憚らず泣いていた。
「帰っていいみたい」
「ごめ、俺、海のこと全然解ってなくて」
「いいよ。もう、夢は見ない。もともと才能ないもん」
「俺はっ、俺は海の話、好きだ。だから、海の本を作りたいから勉強して良い大学入って、出版社に勤めて、海の担当の編集者になる。海の話をこれからも一番に読みたい。それが、ずっと思ってきた俺の夢だった」
一樹は泣きながら眉を「ハ」の字に下げて笑った。
僕は首を振った。壁に可愛い飾り付け。ハロウィンだ。病棟にたまたま今日は塚井先生がいて助かった。
「今日は、ありがとう。もうハロウィンだね。昔を思い出すなあ」
僕は壁に貼ってあるカボチャの折り紙を見ていたら一樹が微笑んだ。
「ああ。病院でお前が小二の頃、入院してるとき、ハロウィンで劇をやることになったの憶えてるか?お前がシンデレラやったんだよな。病棟に男子しかいなくて、じゃんけんにお前負けて。それから、『お姫様はあんまりだ』って言うんで、シンデレラは双子で捨てられた王子様っていう無理に作った設定で、お前が『本当のシンデレラ』っていう脚本を書いた。俺はお前に毎日面会に来てたから特別に混ぜてもらった。魔法使いだったんだ」
「そんなことあったっけ?」
朧気な記憶。あまりと言うか、本当にそんなことがあったか不明瞭なこと。
「何て言ったかなあ。ハロウィンの劇から、海の口癖になったことばがあったんだよ。だから俺は、ずっとお前の魔法使いでいたいなって、思った。どんなときも力になりたいって……ガキだな。こんなこと真面目に考えてたなんて。お前はもう、俺は必要ないのにな」
記憶の雲間から光が差す。だから魔法使いはいつも助けてくれるのか。手を差しのべてくれるのか。
「『カボチャの馬車で迎えにきて』」
「え?」
「迎えにきて。いつでも。今日みたいに。ずっと。魔法使いなんだろ?灰をかぶった、きったない僕でも、性根が腐っちゃって、昔の可愛い僕じゃなくても、迎えにきて………一樹」
迎えにきて、忘れないで。どんな綺麗な女の子より、僕を選んで。カボチャの馬車で迎えにきて。
言葉が、つまる。
ああ、僕は一樹が好きなんだ。叶わないという、どうしようもない、やるせなさを何処にぶつければいいのか。
「胸かして。少し泣かせて」
額をトンっと、一樹の胸につける。
「どうした?」
「もう頼らないから。もう少しで黒帯なんだ。もう、僕なんかのお守りしなくていい。一樹も自由になっていいよ」
本当の魔法使いは僕だった。一樹をカボチャの馬車に閉じ込めてたね。
「自由なっても俺は海のそばに居たい。俺じゃ不服か?」
「不服なんかじゃないよ。嬉しいよ。クラスに戻ったら、居る場所ないな。美山さんのこと置き去りにしちゃったよ」
「ああ、録音した音源聴かせて美山に『退学になりたくなかったら、何にもしないで大人しくして、今日のことは誰にも言うな』って言ったら『言わないからごめんなさい』って泣きながら謝ってたから俺も置いてきた。まあ、大丈夫だろ」
帰ろうか。近づくハロウィン。
気づいた行き場のない気持ち。
「ねぇ、一樹」
見つめる瞳は綺麗だ。
「僕、一樹のことが好きだよ。だから──僕を追いかけて、見つけて、迎えに来て。いつでも。ねぇ、約束して」
──カボチャの馬車で迎えにきて──
僕はポンコツの心臓なんてお構いなしに入院病棟の廊下を駆ける。
痛い、胸が痛い。恋の痛みだ。
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