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第一章「嬉遊曲」

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 目を開くと俺は赤子へと転生していた。

 一縷の希望は掴めたように思えた。

 この世界にフィオナさえいれば。

 体が大きくなってからは商隊の護衛を主に引き受ける用心棒として各地を回って過ごした。だが、どの国に赴いても彼女の転生体に出会うことは叶わなかった。

 それから、五十になろうかと言う頃に古傷の悪化が進んで死んだ。

 目を開くとまた赤子になっていた。

 次は捨て子だった。そして生きる力の無い赤子を拾い上げたのは竜だった。

「お前に我らの魔法を教えてやろう」

 歳の割に擦れた瞳と卓越した剣術を扱う子供の成長を竜は楽しんでいたように思う。

 だからこそ尋ねたのだ。この世界の常識と別の世界の常識が同じとは限らない。言語すら異なる可能性があるのにそんなものを覚えて意味はあるのか、と。

 竜は幼子の生意気な問いを笑い飛ばした。

「竜は不思議とどこの世界にも存在する」

 人間より大きな体と空を駆けたり自然を操ったりする強大な力を持つ隣人。人間と敵対したり共存したりと関わり方は様々だ。だが、確かに二つの人生のどちらでも竜という姿の生き物を目にしてきた。今生に至っては育ての親だ。

「あるいは〝いた〟とされている」

 人間が生まれたから竜という生き物の物語が生まれたのか。竜がいたから人間が誕生するに至ったのか。どちらが先かは分からないが、人間たちは常に竜への畏怖を携えて歴史を紡ぐのだ。

 龍は首をもたげて空を仰いだ。

「私にはもう必要のないものだ」

 その竜の羽はボロボロだった。鱗も代謝が上手くいかないのか古いものばかりで所々剥がれかけている。
 長い生の中で智を蓄えたもの特有の瞳は、切ないほどに優しかった。

「長旅の暇つぶしにはなろうよ」

 竜は持ちうる限りの知恵と経験を俺に教えてくれた。

 その生では魔術師として大成し、使える人間も前の生より大幅に増えた。

 それでも彼女は見つからなかった。

 その後も死んでは赤子に生まれ直し、姫を見つけきれなかった絶望に打ちひしがれてはもう一度を繰り返した。

 幸いだったのは竜に教わった魔法がどこの世界でも使えたことだろう。
 
 火炎を放射する魔法が、別の世界では煙草に火を付ける程度の威力しかない。雷を操る魔法がスタンガン程度の威力しかない。空を飛ぶための魔法が跳躍の距離や高さを僅かにのばす程度しか出来ないというアクシデントは発生したが。
 
 
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