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第三章 王宮編
悪夢
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あれから夜毎、悪夢を見る。
斬られて血塗れの男の傷口を、両手で必死で塞いでいる。塞いでも塞いでも、指の間からどくどくと血が流れ出てくる。こんなに血が出るはずはない、とうに人一人分よりも多い血が流れ出している。
見ると、溢れ出た血が甲板に広がって、床板の間から滴り落ちている。床板の節穴から下を覗き込むと、海が赤い色で染まっていく。おかしい。甲板の下には船倉があるはずなのに、穴の向こうは海面なのだ。
振り向くと大勢の水夫たちに取り囲まれている。無数の手が伸びてきて、押さえつけられ、犯され、身体中もみくちゃにされる。全身の骨が砕け、肉が押し潰される。肉片になって床に散らばって、ああ、わたしは死んだんだ、と思った時、節穴を覗いていた目玉が海へ落ちる。
海は、血で赤黒く粘っている。もはやそれは海水ではない、血液そのものだ。
血の海から起き上がる。まるでたった今、この血から生まれたかのようだ。血。血。血。夥しい量の血液が、ばらばらに千切れた肉を生成し、身体の中に流れ込み、脈打って、産み落とす――わたしを。
すぐ横に、斬られた男が横たわってこちらを見つめている。
「おマエのカラダにはユウボクのタミの血がナガれテいルはずダ――」
歪んだ声が脳内に不気味に響き、悲鳴を上げて飛び起きる。が、それは夢の中だけで、実際に声は出ていなかった。
宿舎の個室は静まり返っている。狭くて殺風景な部屋なのに、夢から覚めた安心感でほうっと息をつく。汗で濡れた下衣を脱ぎ、乾いたものに着替える。
もうすぐ夜明けだ。
窓に鉄格子ははまっていない。カーテンを開けると、うっすらと開けていく空が見えた。
『何故、お前はそちら側にいる?』
砂漠で果てた男の言葉が何度も蘇る。
「何故……ここにいるんだろう……」
生き延びるためか。
奴隷という運命から逃れるためか。
ひとを殺して。
『そちら側』とは何を指すのか。
一緒に来るか、とカイヤーンは言った。
何故、敵なのにあんなことを言ったのだろう。
アトゥイーは手の平を見た。うっすらと青い血管が走っている。
この血は、何なのだろう。血そのもの以上の、何か意味があるのだろうか。遊牧民の血が流れていたら、遊牧民にならなければならないのか。奴隷の血なら、一生奴隷か。
アトゥイーは頭を振った。そんなのは嫌だ。だけど、果たしてそれが戦う理由なのか、わからない。
「わたしは何故、ここで戦っているんだろう……」
――私を守るためだ――。
王はそう言った。
アトゥイーは指先でそっと唇に触れた。
――もっと強くなれ――。
そうだ。
強くなって、王を守れば、ここにいてもいいんだ。
斬られて血塗れの男の傷口を、両手で必死で塞いでいる。塞いでも塞いでも、指の間からどくどくと血が流れ出てくる。こんなに血が出るはずはない、とうに人一人分よりも多い血が流れ出している。
見ると、溢れ出た血が甲板に広がって、床板の間から滴り落ちている。床板の節穴から下を覗き込むと、海が赤い色で染まっていく。おかしい。甲板の下には船倉があるはずなのに、穴の向こうは海面なのだ。
振り向くと大勢の水夫たちに取り囲まれている。無数の手が伸びてきて、押さえつけられ、犯され、身体中もみくちゃにされる。全身の骨が砕け、肉が押し潰される。肉片になって床に散らばって、ああ、わたしは死んだんだ、と思った時、節穴を覗いていた目玉が海へ落ちる。
海は、血で赤黒く粘っている。もはやそれは海水ではない、血液そのものだ。
血の海から起き上がる。まるでたった今、この血から生まれたかのようだ。血。血。血。夥しい量の血液が、ばらばらに千切れた肉を生成し、身体の中に流れ込み、脈打って、産み落とす――わたしを。
すぐ横に、斬られた男が横たわってこちらを見つめている。
「おマエのカラダにはユウボクのタミの血がナガれテいルはずダ――」
歪んだ声が脳内に不気味に響き、悲鳴を上げて飛び起きる。が、それは夢の中だけで、実際に声は出ていなかった。
宿舎の個室は静まり返っている。狭くて殺風景な部屋なのに、夢から覚めた安心感でほうっと息をつく。汗で濡れた下衣を脱ぎ、乾いたものに着替える。
もうすぐ夜明けだ。
窓に鉄格子ははまっていない。カーテンを開けると、うっすらと開けていく空が見えた。
『何故、お前はそちら側にいる?』
砂漠で果てた男の言葉が何度も蘇る。
「何故……ここにいるんだろう……」
生き延びるためか。
奴隷という運命から逃れるためか。
ひとを殺して。
『そちら側』とは何を指すのか。
一緒に来るか、とカイヤーンは言った。
何故、敵なのにあんなことを言ったのだろう。
アトゥイーは手の平を見た。うっすらと青い血管が走っている。
この血は、何なのだろう。血そのもの以上の、何か意味があるのだろうか。遊牧民の血が流れていたら、遊牧民にならなければならないのか。奴隷の血なら、一生奴隷か。
アトゥイーは頭を振った。そんなのは嫌だ。だけど、果たしてそれが戦う理由なのか、わからない。
「わたしは何故、ここで戦っているんだろう……」
――私を守るためだ――。
王はそう言った。
アトゥイーは指先でそっと唇に触れた。
――もっと強くなれ――。
そうだ。
強くなって、王を守れば、ここにいてもいいんだ。
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