イシュラヴァール放浪記

道化の桃

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第七章 愛執編

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 馬でしばらく駆けると、すぐに砦が見えてきた。
「ユーリ・アトゥイー!」
「アトゥイーが戻ったぞ!」
 見張りの兵たちが声を上げた。城門が開けられ、二人を乗せた馬は砦の中へ駆け込んでいく。城の入口で馬を降りると、ユーリは守るようにファーリアの肩を抱いて中へと入っていった。
「アトゥイー!……来たのか!」
 ジェイクは上層階のテラスにいた。ちょっと離れてカイヤーンもいる。
「……やっぱりあんただったか」
 ジェイクがファーリアを見て言った。ジェイクとファーリアは、過去に一度、砂漠の市場で会っている。
「国軍がこちらに向かっている」
 ユーリが言う。
「知っている。――あれだろう」
 ジェイクは砂漠の彼方を指した。そこには先程の騎馬隊が見えた。
「……何をやっているんだ?攻めてくるつもりではないのか?」
 国軍の数は多く見積もっても数十騎ほどしかいない。ユーリは首を傾げた。
「――『鉄の十字架』を立てるそうだ――見せしめだよ、俺たちへの」
 ジェイクが言いにくそうに言った。
「見せしめ?」
 ジェイクは苦い顔で視線を落とした。そこへファティマがバタバタと駆け込んできた。
「ねえ!どうして助けに行かないの!?ユーリ・アトゥイーが来たんでしょう!?」
 ファーリアは息を呑んだ。現れた娘に見覚えがあったからだ。
「……アトゥイー!」
 ファティマも目を丸くする。
「良かった、会えたのね!」
「あなた、仕立て屋さんの……なんでここに?」
「今は説明している暇はないわ。ねぇユーリ・アトゥイー、お願い、ダーナを助けて」
「ファティマ!黙ってろ!」
 ジェイクが床に向かって怒鳴った。
「……どういうことだ?ダーナがどうしたって?」
 ユーリが言った。
「あそこにダーナがいるのよ!ユーリ・アトゥイー!あなたが行けば開放するって」
「黙れ!」
 ジェイクがもう一度怒鳴った。
「いやよ!じゃあダーナが処刑されるのをぼーっと見てろっての?あんたそれでも人間!?」
「なんだって……?ダーナが……処刑?」
 ユーリは呆然と砂漠を見遣った。そこでは国軍兵士が何やら作業をしている。
「もう一時間もしたら気温が上がりきっちゃうわ。ねぇ、ユーリ・アトゥイー、助けてやってよ。あの子、あんたのことが……」
 ユーリは身を翻した。
「行くな!!」
 ジェイクがユーリの腕を掴んだ。
「放せ、ジェイク」
「いいや、今回ばかりは放さない。ダーナには気の毒だが、お前の方が何倍も大事なんだ」
 ファティマが床に泣き崩れた。
「……俺は、行かないと」
「ダメだ、アトゥイー。あれは罠だ。お前を誘い出すための」
「ここで見捨てたら、何のために戦っているのかわからないだろうが!」
 ユーリとジェイクが押し問答をしているのを、ファーリアは為すすべもなく眺めていた。
 ふとテラスに目をやる。こうしている間にも、太陽は徐々にその高度を上げ、夜の間に冷え切った砂漠を温めていく。
「よう、久しぶりだな」
 テラスの端で腕を組んでいたカイヤーンが、ファーリアに声を掛けた。
「あなたは――」
「カイヤーンだ。久しぶりだな、『国王軍の』アトゥイー」
「ユーリの仲間だったのか」
「まあ、成り行きでな。遊牧民はほとんど反乱軍についているぜ」
 ファーリアはカイヤーンに尋ねたいことが山程あった。だが、今はその余裕はない。
「ユーリは、どうなるの」
「まあ、あそこに行ったら国軍にとっ捕まって、王都送りだな。そこで拷問と処刑が待っている」
 ファーリアは背筋が凍りついた。
 ――王国に仇為す大罪人――。
 確かに王はそう言った。
(あのひとは、ユーリを絶対に許さない……)
 ファーリアはマルスの冷たい瞳を思い浮かべた。
「……カイヤーン、わたしをあそこまで連れて行け」
「ファーリア!何を――!?」
 ユーリが叫ぶ。
「わたしと引き換えに、ダーナを開放させる」
「ばかな。ダーナは俺が助けに行く、お前はここにいろ!」
「ユーリ、あなたがあそこに行ったら、絶対に捕まる。あれは治安部隊の竜騎兵だ。何人で攻めても、辿り着く前にみんな狙い撃ちにされる」
 銃で武装した竜騎兵は、マントの色で識別される。彼らの持つ銃は、リンが持っているものほど射程は長くないはずだが、それでも剣や弓の敵ではない。
「――確かに、あんたと引き換えになら交渉できるな。王の愛人だったか?」
 ジェイクが言った。
「ジェイク!お前まで、何を言い出す!?」
「まあ、ダーナを見殺しにしたとなっちゃあ、ジェイクとユーリ・アトゥイーの求心力もガタ落ちだわなぁ」
 カイヤーンが他人事のように言う。
「大丈夫、わたしが殺されることはない――誰も、死なずに済む」
 ファーリアはそう言って、微笑んだ。
「いやだ!いやだ!!お前はまた俺を置いていくのか!?」
 ユーリはジェイクの腕を振りほどき、ファーリアの両肩を掴む。 
「時間がない。ユーリ、……ごめんね」
 ファーリアはユーリの唇に口づけをして、囁いた。そして、カイヤーンを伴って階下へと駆け下りていった。
「いやだ!ファーリア!行くなぁぁあっ!!!」
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