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第七章 愛執編
出生の秘密
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「鉄の十字架」とは処刑方法のひとつで、鉄板でできた十字架に罪人を架けて砂漠に放置するものである。通常、夜明け前後に設置される十字架は、気温の上昇と共にその温度を上げていく。それに縛り付けられた罪人は、高温の鉄板に皮膚を灼かれながら、熱と乾きによる緩慢な死を待たねばならない。
アルヴィラ砦の北10キロ地点に展開した竜騎兵は全部で三十騎ほどだった。
「舐められてるな」
カイヤーンは不敵な笑みを浮かべて呟く。
カイヤーンは自身の部族の兵を二十騎従えて、ファーリアと共に砦を出た。ファーリアはカイヤーンの馬に同乗している。
「本当にいいのか?」
カイヤーンの問いにファーリアが頷く。
「わたしだって、自分の意志でここにいたと思われたら、立場がない」
「わかった」
カイヤーンはファーリアを縄で縛り上げ、ファーリアの長剣を取り上げた。
「……カイヤーン、ずっと聞きたかったのだけど」
ファーリアはふと切り出した。
「なんだ」
「あのとき、なぜわたしを殺さなかったの?」
「ああ……それはな、族長があんたに短剣を渡したからさ」
ファーリアは腰に差したままの短剣を見た。
「これが?なぜ?」
「その剣の剣身に名が彫ってあるだろう」
「ああ、確か『カナン』?」
「カナンってのは、族長のかみさんだった女だよ。二十年前の戦で別れ別れになって、最後は奴隷に堕ちて死んだとか。あんた、カナンって名に聞き覚えはないか?」
「……えっ……?」
思いがけない話に、ファーリアは理解が追いつかない。
「で、俺は思ったのさ。あんたが族長の息子かなんかなんじゃないかってな」
ファーリアは固まった。
息子。
つまり。
「……お……父……さん……?」
父親などいないと思っていた。母親の記憶ですら曖昧だ。
「お母さんの、名前……?」
そんなの、覚えていない。誰も教えてくれなかった。
「……まあ、思い過ごしかも知れねぇけどな。死ぬ間際に、あんたにかみさんの影を重ねたのかも知れん。まあどっちにしろ、族長があんたにその剣を託したなら、俺は族長の遺志を尊重しないわけにはいかないからな。それに俺はあんたの腕は買ってるんだ。俺の部隊を相手に、逃げもせずに単身斬り込んできた命知らずはそうそういない」
「ああ、あれは……」
戦場に出たばかりで引き際を知らなかっただけだ、とは、なんとなく恥ずかしくて言えなかった。
「ところで、俺も聞きたい。なんでこの役目に俺を名指ししたんだ?」
「あなたが一番、ユーリに対して情が薄そうだなと思った」
ジェイクとハッサは、恐らくユーリの友人だ。ユーリが望まないことをするのは、たとえそれしか方法がないとしても、決して楽しくはないだろう。
「ハッ!」
カイヤーンが声を上げて笑う。
「あんた、やっぱり只者じゃねぇや」
「……もし本当にカナンというのが私の母の名なら、私は……私は、父を……殺してしまった……のか?」
ファーリアは男の顔を思い出す。
(あれが、父親?)
初対面だとばかり思っていた男。思い返しても、その顔に何の愛着も感じられない。
だが、袈裟懸けに斬った感触は、今でも手に蘇る。
『……何故、お前はそちら側にいる……?』
あの言葉の意味が、ようやくわかった。
『お前の身体には遊牧の民の血が流れている――』
アルヴィラ砦の北10キロ地点に展開した竜騎兵は全部で三十騎ほどだった。
「舐められてるな」
カイヤーンは不敵な笑みを浮かべて呟く。
カイヤーンは自身の部族の兵を二十騎従えて、ファーリアと共に砦を出た。ファーリアはカイヤーンの馬に同乗している。
「本当にいいのか?」
カイヤーンの問いにファーリアが頷く。
「わたしだって、自分の意志でここにいたと思われたら、立場がない」
「わかった」
カイヤーンはファーリアを縄で縛り上げ、ファーリアの長剣を取り上げた。
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ファーリアはふと切り出した。
「なんだ」
「あのとき、なぜわたしを殺さなかったの?」
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ファーリアは腰に差したままの短剣を見た。
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「その剣の剣身に名が彫ってあるだろう」
「ああ、確か『カナン』?」
「カナンってのは、族長のかみさんだった女だよ。二十年前の戦で別れ別れになって、最後は奴隷に堕ちて死んだとか。あんた、カナンって名に聞き覚えはないか?」
「……えっ……?」
思いがけない話に、ファーリアは理解が追いつかない。
「で、俺は思ったのさ。あんたが族長の息子かなんかなんじゃないかってな」
ファーリアは固まった。
息子。
つまり。
「……お……父……さん……?」
父親などいないと思っていた。母親の記憶ですら曖昧だ。
「お母さんの、名前……?」
そんなの、覚えていない。誰も教えてくれなかった。
「……まあ、思い過ごしかも知れねぇけどな。死ぬ間際に、あんたにかみさんの影を重ねたのかも知れん。まあどっちにしろ、族長があんたにその剣を託したなら、俺は族長の遺志を尊重しないわけにはいかないからな。それに俺はあんたの腕は買ってるんだ。俺の部隊を相手に、逃げもせずに単身斬り込んできた命知らずはそうそういない」
「ああ、あれは……」
戦場に出たばかりで引き際を知らなかっただけだ、とは、なんとなく恥ずかしくて言えなかった。
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「ハッ!」
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(あれが、父親?)
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だが、袈裟懸けに斬った感触は、今でも手に蘇る。
『……何故、お前はそちら側にいる……?』
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『お前の身体には遊牧の民の血が流れている――』
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