楽園遊記

紅創花優雷

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中編

竜ノ川王家は四人家族

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 白刃からすれば、二度目の龍ノ川だ。強い風に目を瞑り、開けて見ればそこは見た事のあるお城の一室だった。
 あぁやっぱりと覇白が心の中で呟くと、五人の様子で大体どのような形で連れて来たのはを察した統白が、溜息交じりで牡丹に訊く。
「うむ。牡丹よ、また話も聞かずに押し切った訳じゃなかろうな」
「あらぁ、貴方だって一度決めたら意地でも譲らないじゃない? それで覇白ちゃん殺そうとしてたトーちゃんに言われたくないわよ馬鹿真面目の頑固者ぉ~」
 悪意等はない純粋な言葉の後、統白は一秒ほど固まり、その間に沈黙が流れる。
「……ごほん。皆揃ってよく来たな。祭りはもう少し後だが、楽しんでいくといい」
「今誤魔化した?」
「誤魔化したな」
 山砕と尖岩の小さな声での会話は聞こえなかった事にして、司白は覇白に話しかける。
「お帰りなさい覇白。祭りに向けて私達も準備する事があるから、後で少しいいかな。けど今は、とりあえず君達が泊る宿の話だけど、どれがいい?」
 見せてきたのは、龍ノ川旅行ガイドの宿のページだ。
「私は何処でもいいのですが、白刃達に訊いてみないとなんとも」
 一旦ガイドブックを借りて意見を聞こうとすると、その言葉に司白は何故か感動したようだ。
「覇白、昔は少し環境が違うと一睡もできない子だったのに……成長したんだねぇ」
「そうねぇ、昔は他所に泊りに行くといっつも司白ちゃんのベッドに潜り込んで。大人になったのねぇ」
 そこで成長を実感されても困るのだが。実際、数年間ずっと荒野で野宿をしていたのだ、嫌でも慣れる。柔らかい寝床があるだけ、岩の上よかマシなのだ。
 それにしても、家族に白刃達を合わせると知られたくない情報をどんどんと言われて行く。苦笑いを浮かべると、話を聞いていた統白が提案した。
「宿など探さなくとも、ここに泊ればよかろう。部屋ならいくらでも開いておるわ」
「そうねぇ、その方がお話しやすいし、いいわねぇ~。そうしなさいな。久しぶりにゆっくりしていきなさい、それにお友達も一緒なんだしね~」
 それでいいかと思ったが、この人たちが何を話すか分からない以上は避けたいような。絶対に知られたくない事だってあるのだ。折角だが断ろう、覇白はそう決めたが、他の四人がそんな事を知る訳もなく。
「では、お言葉に甘えましょうか。ね、覇白」
 いや、これは知っての返答だ。質が悪い。
「あぁ、分かった。では、そういう事でお願いします」
 家族が余計な情報を与えない事を願うばかりだ。
 ゆっくりできるように別の部屋に通し、そこの円卓を囲んで座る。そうすると、牡丹はやけにノリノリで沢山のお菓子を出した。
 朝も食べたばかりだし、なんならさっきおやつも食べた。そんなにお腹は空いていないのに、それをモグモグと食べるこの二人を見ると何だか錯覚してくる。
 手を付けないのもなんだ。白刃も一つだけ食べておく。やはり龍もそこまで人と味覚は変わらないみたいで、普通に美味しかった。
 覇白と司白の兄弟としての談笑を聞き流していると、統白がこちらをじっと見ている事に気が付き、とりあえず微笑んでおく。
「似ているな」
「父にですか?」
「まぁそれもそうだが。私が言ったのは祖父の方だ」
 父すら見た事無いと言うのに祖父の想像はあまり出来ないが、白刃にも祖父に値する人がいたのだ。覇白の叔母の結婚相手なのだから、そりゃ統白は知っているだろう。
 仮に生きていたとしたら、師匠と同い年くらいだろうか。確かちらりと同期だという話を聞いた。
 似ているんだと思いながらも返答を考えていると、先に牡丹が話を広げる。
「夜射ちゃんねぇ。本当、三代揃って美人さんよねぇ~」
「はぁ、そうですか」
 ピンと来ない。あまりにもこなさすぎる。面識のない身内の事はまさにそうだ。
 煎餅を一枚かみ砕いたところで、白刃は少しだけ祖父に関しての事を思い出す。
 昔、師匠が話していた。彼奴は所謂不真面目な優等生だった、と。
 普段は特に訓練に参加せず、時折気まぐれに参加したと思ったら、どの弟子よりも秀でた成績を残していく、そんな奴だ。太陽光を鏡で反射させ、当時の師匠の丸めた頭を光らせ大笑いして、物凄く怒られていたと言う。しかし、それでもやる時はやる。まさに不真面目な優等生だ。
 一応、写真も見せてもらった事はある。夜を写し取ったような、綺麗な黒髪の男だ。
「白刃と言ったか。お主は早々に死ぬでないぞ。お主のような人間は滅多に現れぬ」
「大丈夫です、もうしばらく死んでやる予定はありませんよ」
 そう答えると、統白はうむと頷く。
 微笑む白刃の表情を、まだ記憶に新しい笑みと重ねる。全く、死んでもとことんふざけた奴だ。死ぬならせめて、面影を残さないで欲しかった。何時までそこに居座るつもりだ、なんて。言っても届きやしないのだろうが。
 届いたとしても、奴は「悪かった」と小さく笑うだけだ。
 いい思い出が蘇ったが、それに釣られて浮かび上がった。そう言えば彼奴、龍王たる自分にこう言った。「龍って変化ができるんだろ? じゃあさじゃあさ、犬とかどうよ。俺、大型犬がいいなぁ」と。
「覇白」
「はい、父上」
「最近何に化けた」
「犬、ですかね」
「犬か……」
 なんとなくそうだとは思っていた。
 統白は頭を抱えるが、その隣の二人は逆の反応を示す。
「あらぁ、覇白ちゃんわんちゃんになったの~? 見たいわぁ」
「あ、私も見たいな」
 まさかそんな事を言われるとは思っていなかった覇白。飲んでいたお茶を一気に呑み込む。
「え、あの、それはちょっと……」
 一応、龍が人以外の形に化ける事はイレギュラーだ。それを承知の上、白刃が相手だから馬にも犬にも化けた。そう、とどのつまり、家族に見せたくはない。
 しかし、キラキラとした目を向けられると断りづらいもの。困っていると、白刃が言った。
「いいじゃないですか、見せてあげたら。可愛かったですよ、犬の貴方」
「おい」
 ここでその背中を押さないで欲しい。やりたくないのだ。
「覇白ガンバレー」
「ファイトー」
「その気持ちの籠ってない応援はなんだ!」
 山砕と尖岩のとりあえず言っておけ感満載の応援にツッコんでおく。
「とにかく、嫌ですよ。白刃相手だからやっているだけなんです」
「あら。残念ねぇ、トーちゃん」
「私は、あまり見たくないが」
 粗方まともな意見はこちらだろう。そんな所で、統白は家臣に呼ばれて仕事に戻る。覇白も祭りの準備がある為、兄と一緒に仕事に行った為、白刃達は適当に時間を潰す事にした。
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