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中編
◆自由気ままな夜を
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〇
数十年前、堅壁はいつものように厳格な空気を纏いそこに健在していた。しかし、そんなお堅い壁の中でも、それを豪快にかき混ぜる者がいたのだ。
弟子達が声を揃え修行を熟し、それを見守る堅壁のお師匠。お空には、太陽が輝いている。腕も上達してきた弟子を眺め、頷く師匠。その背後から、そろりと近づく影があった。
すっと差し出された鏡、そこに太陽の光が反射し、見事に師匠の頭に着地する。そうするとどうだ、丸めた頭がまるで光っているみたいではないか。
黒髪の美しい十三歳の男児は、それを見て大笑い。
「あはははっ! 光った光った! おい皆、お師匠様の頭が光ったぞ!」
「夜射……! 修行もせず何をしておる貴様はぁ!!」
「怒った怒った! 逃げろー!」
「待て貴様、今日こそただじゃ済まさんぞ!」
庭に飛び出し、弟子たちの間を潜り抜けて逃げる。そしてその中に一つの顔を見つけると、眼を輝かせて彼の手を取った。
「大将、行くぞ!」
「待て、何故私もなのだ!」
「み・ち・ず・れ」
「ふざけるな!」
怒鳴りつつも、大将は手を引かれるがままに夜射と駆ける。あっという間に裏庭の方に姿を消した二人、弟子達はいつもの事であるからか慣れたように言葉を口にする。
「あいつ、よくやるよなぁ。すっげぇや」
「なー」
「そこ! 私語は慎め!」
「「はいっ!」」
堅壁は今日もお堅い。たった一人の人物を除いては。
そして一時間後、その部屋には拳骨一つ喰らった夜射が、師匠の前で正座をしていた。
「全く、お前という奴は。いい加減懲りんか、これで何度目だ。言ってみろ」
「んー、五十くらい?」
首をかしげて答えると、更に正確な答えが戻って来る。
「五十三回目だ馬鹿者」
「うわっ、師匠そんな正確に覚えているんですか? なんかちょっと引く」
「黙れ」
本当に引いたような顔をしている弟子を、もう一度殴ってやろうかと思ったが、こうも短時間に二発殴るのは気が引けた。代わりに大きなため息をつく。
「お前は力も実力も確かだと言うのに、もう少し真面目だったらどれ程良かったものか」
眉間にしわを寄せる師匠に、夜射は言う。
「けどお師匠様、世の中真面目な奴が損するんですよ。そんだったら多少反感買ってでも楽しい事した方が良いと思いません?」
「俺は、俺のしたい事をしているだけですよ」
そうして、まさに悪戯っ子の笑みを見せた。
「そういやお師匠様、父さんとか母さんとかから連絡とか来てないの?」
「……いや、何も」
「そっか! ま、明日はちゃんと訓練もやりますよー、気が変わってなければですけどねー」
けらけらと笑って、怒られる前にと部屋から走って出ていく。その直ぐに、廊下の方から女中の「廊下は走ってはいけませんよー?」という注意の声と、それに答える「ごめん!」の軽い声が耳に届いた。
夜射は、師匠が追ってこない事を確認すると足を緩めて庭に目をやる。先程大将を連れて逃げた所だ。
「おい、夜射」
「おぉ大将。さっきは悪かったな」
「心にもない謝罪はいらない。本当お前という奴は、もっと真面目になれないのか。実力はあると言うのに、勿体ないぞ」
「ははっ、お師匠様と同じ事言うのなぁ、お前は」
いつものように小さく軽く笑い、縁側に座る。一際大きなあの木は季節によって実らせる花を変える、とても不思議な木だ。今は桜が咲いている。しかし、もう散り始めだ。
「なぁ大将、木登りってした事あるか?」
「え、無いけど……。まさかお前」
「おっし、そこで見てろよ大将! 俺は今からあそこに登って、そして飛び降りる」
「は? ちょっと待て、そんなの危な――」
大将の言葉は最後まで聞かずに、せっかちに木の下まで走ると、一気によじ登る。そして上の方に到着し、そこで手を振った。
「お前も来いよ。いい景色だぞー」
「わ、私は木に登れない! いいから降りてこい、危ないだろ!」
風が吹き、夜風の黒髪が靡く。そこに見えたのは、挑発的な表情だ。
「へー、根性無しだなぁお前は」
「なっ……誰が根性無しだ! あぁ分かった登ってやるさ、今に見とけよ!」
安い挑発に乗り、大将は木に手を掛ける。訓練で培った力を使い、夜射のいるところまでたどり着くと、そこから見えた景色は、なんとも言えない素晴らしいモノだった。
人々が生きる町、その背後に土地を分ける雄大な自然がそれを見守る。そんな感じだ。
「これは、いい景色だな」
率直な感想を口にし、夜射に目をやる。そこにいた彼は、その緑の瞳に見た事のない感情を宿しているいるように思えた。
「夜射?」
「ん。あぁ、うん」
「いい景色だ」
そして次の日、夜射は宣言通り、恐ろしい程に真面目に訓練に参加する。座学でもまともに学び、他の弟子達も内心ざわついていた。
なんせ、あの夜射だ。体調でも悪いのか、そう皆が思っていた。その日夕食の時間、珍しく人より早く食べ終わった夜射は立ち上がり師匠に声を掛ける。
「お師匠様」
「どうした? まさか、今日一日真面目にやったから褒美をくれとか言うのではなかろうな」
師匠としても、粗方これだろうと考えていた。子どもがよく使う手だから。しかし、夜射は首を振り、微笑む。
「俺は、ただしたい事をします。それだけです」
そんな一言だけを残し、ご馳走さまでしたと姿を消す。
それから、夜射は屋敷から姿を消したのだ。その次の朝には、既に部屋にはいなかった。ただ、そのまま置いて行かれた物達だけがそこには残っていた。
その事は一時期騒ぎになる。しかし、それも落ち着いた五年後のある日。
堅壁の上空に、白龍がいる。なんだなんだと集まる屋敷の者達。
「お師匠様、何事なのですか?」
立派な少年となった大将が、五年前より少し老けた師匠に尋ねる。しかし、彼にも状況は分からなかった。
何用だと龍に声を掛ける前に、それは降下し、そこに降り立つ。
風が通り抜け、大将はゆっくりと目を見開く。
大将の目に映ったのは、悪戯っ子のようなその軽い笑顔と、暗くも美しい夜空をそのまま写し取ったような黒い髪。
「よぉお前等、久しぶり」
そしてその隣でどこか嬉しそうに微笑む、美しい女人。
「お師匠様、お元気そうで何より。俺の事、覚えていますか?」
変わらない表情の弟子に、どこか安心する。
「忘れる訳無かろうが、お前のようなふざけた弟子」
「ははっ、まだボケてないようで良かったですよ。華玉、前話したけど、一応、俺ここの弟子なんだ。ま、外されてなければの話だけれど」
「そうなのね。皆さぁん、初めまして。私は華玉、龍王の妹で、そして夜射くんの彼女でーす」
ニコニコとそう告げると、弟子たちの間に衝撃が走る。
そりゃまぁ、夜射は顔が良い。女が出来たとしたらそれはもうそれに釣り合う可愛らしい子だろうと思っていた。しかし、彼女の場合それにもう一つ、さらりと告げられた「龍王の妹」という肩書がある。
「本当は戻って来る気はなかったんだけどさ。ちょっと気が変わってね」
「俺の彼女、可愛いだろう? たいすけクン」
大将を目に、にやりとし、それで一つは察した。こいつは、女人に触れた事のない彼に、ついでにその門の名の通りお堅い師匠や弟子達に見せつけに来たのだ。
「お前……私に彼女自慢をしに戻って来たのか」
「それも理由の一つよ。だけど、それは飽く迄もオマケだ」
「色々見て来たけど、やっぱここが一番楽しかった。俺、快楽主義だからさ」
「また頼むよ、お師匠様」
笑って手を伸ばすと、師匠は頷きそれを取る。
「うむ。では、また一から修行しなおしてやろう。覚悟は出来ているだろうな、問題児」
「おーっと、変な所に火つけちゃった。大将、また逃げるのに付き合ってくれよ」
「はっ。五年も修行を放っていたのだ、その分存分に叩き直されるがいい」
「見捨てられたっ!」
その会話で、弟子達が笑いだす。久しく、その屋敷にそれが訪れたのだ。
話を聞けば、どうやら夜射はあれから旅をしていたみたいだ。特にこれと言った理由はなく、ただしたいからした、そう言っている。そしてその中で龍の華玉と出会い、交際が始まったと言う。
夜射曰く、本当にガチで凄く好みだったと。龍王の妹である事は付き合ってから、彼女の実家である龍ノ川に行った時に初めて知ったらしいが、今更手を引けなかったらしい。
華玉は直ぐに屋敷内のアイドル的存在になった。なんて言ったって、可愛いから。そして龍であると言う事が加算され、注目の的なのだ。特に、龍の存在を確かなものと認識していなかった者達からは。
しかし彼は相変わらずのようで。
「大将逃げるぞ!」
「またか貴様! いい加減大人にならんか」
「やーなこった! 華玉、付いてこれるか?」
「えぇ、龍の脚を嘗めないことね!」
怒った師匠から逃げる。五年前とは違って、そこには華玉も一緒だ。
何となくその三人で日々を過ごすことが多かった。大将も口では「巻き込むな」だの「真面目にやれ」だの注意をするが、彼自身もまんざらでもなさそうで。華玉は仲よしな二人を微笑ましそうに眺め、そこに混じる。そして夜射は、純粋に、とても楽しそうだった。
数年後、華玉と夜射が本格的に結婚をし、そして子供を作った。それは、夜射が二十四の時だった。
「凄いな。女人のお腹はここまで膨らむものなのだな」
大将は膨らんだそのお腹を不思議そうに見ている。妊娠している人だなんて初めて見た者だから、興味深いのだろう。
「うふふ、大将くんも触ってみる? たまに振動するんだよ」
「いや、大丈夫だ。女人の体は安易に触れていいモノでは」
「もう、お前はおかてぇな。ほらよ」
断ると、夜射はそんな彼の手を取り腹に触れらせる。その時丁度、中の子が中から母体を蹴った。確かに、命がその中にいたのだ。
「おぉ……生きている」
「死んでいたら困るな。折角の子供だ」
夜射ももうすぐ子供が生まると思うと、それが待ち遠しいようで。優しく腹を撫で、子に話しかけてみていた。
「それで、名は決めたのか?」
「んー、どうしよっかなぁーって。色々考えてみてはいるんだけどさ」
まだ悩んでいるようだ。産まれるのはもうすぐな為、そろそろ決めたいのだが。
「そうなの。中々良いのが思いつかなくって……。あ、そうだ! 大将くん、決めてよ。私達の息子の名前」
「え、私で良いのか?」
「いいなそれ! 大将、頼むよ。俺達親友だろ?」
「あ、あぁ。分かった。考えよう」
引き受けはしたが、名前なんて考えた事もない。さて、どうしようか。思考を巡らせ、様々な名を思いつくが、どれもあまりピンとこない。悩んでいると、その時ふと風が吹いた。
今年初めての春風かもしれないな。そう心の中で呟き、そしてそこから一つの言葉が浮かび上がる。
「春風」
「シュンフ?」
「あぁ。春風と書いて、シュンフだ。どうだろうか」
反応が心配だったが、二人はそれを気に入ったようだ。
「春風、か。いいなそれ、気に入った。流石だな、大将」
「えぇ、いい名前だと思う。私も好きだなぁ」
その命が生まれるまであと少し。なんだか大将も楽しみになってくる。
そして、暖かな春陽気の中で、その子は顔を出す。母親譲りの白髪だが、おそらく顔つきは父親似だろう。鬱陶しい程の美人になるのだろうなと思うと、少し妬けてくる。
その予想は当たっており、それはもうすくすくと美少年に育っていった。まだ幼子だと言うのに、微笑むだけで異性を惚れさせる事が出来そうだ。
修行終わり、大将が汗を拭いていると春風が水の入ったコップを差し出してくる。
「たいすけ、これ」
「ん、ありがとう春風。気が利くな」
父親と違っていい子だなぁと、嬉しく思って口にすると、ただの水のはずのそれから尋常じゃない程の酸っぱさが口の中で暴れる。
「んっ!」
「おいしい? それね、パパがね、たいすけにあげたらよろこぶっていってたの」
とても純粋な笑顔で、本当に喜んでいるかどうかを確かめる。そうすると、隠れていた夜射が慌てた様子で顔を出す。
「うげっ、なんでそれ言っちゃうんだよ春風! 秘密だって言ってじゃんか」
やはりこいつの差し金だ。自分があげたら悪戯だとバレてしまうから、わざわざ子を使ったのだ。
「や……夜射ぁ!!!」
「やべっ。春風おいで! 鬼ごっこだ、大将が鬼な」
「うん! おにごっこやる! たいすけ、じゅうびょうかぞえてね」
「わ、分かった」
この時、大将は心に決めた。後で、春風が見ていない時だ、そこで一発殴る。
律儀に十秒を数え、真っ先に夜射を追う。
「ちょ、待てよ大将! そんな俺に標的定めなくとも、まって、マジでお前、前より脚速くね?!」
「ちょ、なんか言ってよ!」
これはガチギレだ。どうしたものかと走り、地に足を突き付けたその瞬間だった。
「うっ……」
夜射が突然膝をつく。演技かと思ったが、これは本気の方だ。大将は怒りも忘れて駆ける。そうすると、彼が血を吐いているのが見えた。
「夜射!!」
「どうした夜射! 大丈夫か?!」
その声を聞きつけた師匠や弟子達がやってくる。
「どうかしたか?」
「師匠、夜射が……。走っている時に突然、こうなってしまいまして」
どうしよう、こんな事今までに無かった。師匠が夜射の状態を確認していると、向こうからとことこと春風が華玉と共に駆けてくる。
春風が心配そうな顔をしていた。夜射は、父として子にそんな事を思わせる訳にはいかないと、鉄の味を我慢しながら声を出す。
「お師匠様、俺は大丈夫です。大丈夫ですから、お気になさらず」
「そういう事は自分で立ってから言え。華玉殿、悪いが水をお願いする」
「え、えぇ」
妻である華玉も、不安になりながら急いで水を取りに向かう。そして師匠は夜射を屋敷の中に入れ、休ませた。
寝巻に着替えさせた後、直ぐに持ってこられた水を与え、少し落ち着いた所で事を尋ねる。
「夜射、一体どうした。走っている途中に吐血するなど、今までなかっただろう」
「分かりません。いきなり、ぐらっと来て、それで……」
「まぁよい。とりあえず、今日の所は寝なさい。食事はこちらに持ってくるから、何かあったら私でも誰でも呼べ。いいか、大人しくしてるんだぞ? 分かってるな」
「はいはい」
敷かれた布団に横になり、自身に苦笑いを浮かべる。まさかこの歳になって、大人しく寝ていろと釘刺されるとは思ってもいなかった。今まで、風邪も引いたことがないというのに。
「夜射くん……」
「大丈夫だ。寝りゃ治るよ、こんなん。な、だから春風も。そんな顔するな」
「パパ……。うん、はやくげんきになってね」
優しく声を掛けてくる子の頭を撫で、眠りにつく。何処でこの体が弱ったのかは分からないが、大抵の不調は休めば治るのだ。
いや、治さなければならない。家族に不要な心配を掛けさせるのは男の恥だ。そう自分に言い聞かせ、布団の中で体を丸める。
言う事を聞いてくれたのか、体の調子は確かに元に戻った。しかし、そこからだった。不定期的に、自身の体に異常が起こるようになったのは。
突然、眩暈に襲われ、倒れてしまう。また最初のように血を吐いて息が苦しくなる事もあった。周りからの心配は日に日に大きくなり、不要に体を動かすなとまで言われてしまった。
しかし、夜射はそんな事はしなかった。変わらずに他の弟子達や師匠、そして大将にちょっかいを掛け、子と遊び、妻と触れ合った。気まぐれに修行にも参加をした。
彼のその様は、まるで思い残す事などないようにしているかのようで。
そして、その二年後。ついにその時が来てしまった。
その部屋の中、師匠と大将、そして華玉と春風がいて、そしてそこには夜射がいる。
「はぁ、はぁ……。ぅあ、がぁっ……」
「夜射くん! しっかりして、お願いだから、まだ」
「そうだ夜射、お前はまだ死ぬべきじゃない! 子もまだこんな小さいのだぞ!」
妻と親友の懇願が、靄の掛かって行く脳に響く。そしてその視界の中に、不安を露にした春風が願うようにぬいぐるみを抱きしめていた。
まだ子供はこんなにも小さい。心に渦巻く不安をこうしてぬいぐるみに込めているのだ。こんな子どもを、置いて逝ける訳がない。逝きたくもない。しかし、どうも体は言う事を聞いてくれないのだ。
「俺だって、まだ死にたかねぇよっ……」
言葉を吐くと、せりあがって来る何かが体を蝕む。ただ、苦しさが感覚を支配していく。
「何故だ……何故治療術が効かぬ。大体の病気なら、これで治ると言うのに……」
必死に思いつく限りの治療術を試してみるが、どれも効果がなく、師匠にも焦りが出てくる。万病に効くと言われる最上級の術ですら、その痛みを癒す事はなかった。一体、何が彼の体を蝕んでいると言うのか。それすらも判別不能だった。魔の者の仕業と疑いもしたが、どんなに手を施してもその気配はない。
集まった者達が皆固唾を呑む。もう、どうしようも出来ないのかと。その中で、夜射は体に残る力を全て集め、言葉を放つ。
「悪い、俺はもう駄目だ。これが最後の力だ」
「皆にも伝えといてくれ。ありがとう、愉しかった。お陰でいい人生だったよ」
最期にいつものように笑うと、その力が尽き果て消えていく。
ある夏の夜。その命は、大切な人たちに見守られながらこの世を去って行った。
とても、静かな夜だった。
数十年前、堅壁はいつものように厳格な空気を纏いそこに健在していた。しかし、そんなお堅い壁の中でも、それを豪快にかき混ぜる者がいたのだ。
弟子達が声を揃え修行を熟し、それを見守る堅壁のお師匠。お空には、太陽が輝いている。腕も上達してきた弟子を眺め、頷く師匠。その背後から、そろりと近づく影があった。
すっと差し出された鏡、そこに太陽の光が反射し、見事に師匠の頭に着地する。そうするとどうだ、丸めた頭がまるで光っているみたいではないか。
黒髪の美しい十三歳の男児は、それを見て大笑い。
「あはははっ! 光った光った! おい皆、お師匠様の頭が光ったぞ!」
「夜射……! 修行もせず何をしておる貴様はぁ!!」
「怒った怒った! 逃げろー!」
「待て貴様、今日こそただじゃ済まさんぞ!」
庭に飛び出し、弟子たちの間を潜り抜けて逃げる。そしてその中に一つの顔を見つけると、眼を輝かせて彼の手を取った。
「大将、行くぞ!」
「待て、何故私もなのだ!」
「み・ち・ず・れ」
「ふざけるな!」
怒鳴りつつも、大将は手を引かれるがままに夜射と駆ける。あっという間に裏庭の方に姿を消した二人、弟子達はいつもの事であるからか慣れたように言葉を口にする。
「あいつ、よくやるよなぁ。すっげぇや」
「なー」
「そこ! 私語は慎め!」
「「はいっ!」」
堅壁は今日もお堅い。たった一人の人物を除いては。
そして一時間後、その部屋には拳骨一つ喰らった夜射が、師匠の前で正座をしていた。
「全く、お前という奴は。いい加減懲りんか、これで何度目だ。言ってみろ」
「んー、五十くらい?」
首をかしげて答えると、更に正確な答えが戻って来る。
「五十三回目だ馬鹿者」
「うわっ、師匠そんな正確に覚えているんですか? なんかちょっと引く」
「黙れ」
本当に引いたような顔をしている弟子を、もう一度殴ってやろうかと思ったが、こうも短時間に二発殴るのは気が引けた。代わりに大きなため息をつく。
「お前は力も実力も確かだと言うのに、もう少し真面目だったらどれ程良かったものか」
眉間にしわを寄せる師匠に、夜射は言う。
「けどお師匠様、世の中真面目な奴が損するんですよ。そんだったら多少反感買ってでも楽しい事した方が良いと思いません?」
「俺は、俺のしたい事をしているだけですよ」
そうして、まさに悪戯っ子の笑みを見せた。
「そういやお師匠様、父さんとか母さんとかから連絡とか来てないの?」
「……いや、何も」
「そっか! ま、明日はちゃんと訓練もやりますよー、気が変わってなければですけどねー」
けらけらと笑って、怒られる前にと部屋から走って出ていく。その直ぐに、廊下の方から女中の「廊下は走ってはいけませんよー?」という注意の声と、それに答える「ごめん!」の軽い声が耳に届いた。
夜射は、師匠が追ってこない事を確認すると足を緩めて庭に目をやる。先程大将を連れて逃げた所だ。
「おい、夜射」
「おぉ大将。さっきは悪かったな」
「心にもない謝罪はいらない。本当お前という奴は、もっと真面目になれないのか。実力はあると言うのに、勿体ないぞ」
「ははっ、お師匠様と同じ事言うのなぁ、お前は」
いつものように小さく軽く笑い、縁側に座る。一際大きなあの木は季節によって実らせる花を変える、とても不思議な木だ。今は桜が咲いている。しかし、もう散り始めだ。
「なぁ大将、木登りってした事あるか?」
「え、無いけど……。まさかお前」
「おっし、そこで見てろよ大将! 俺は今からあそこに登って、そして飛び降りる」
「は? ちょっと待て、そんなの危な――」
大将の言葉は最後まで聞かずに、せっかちに木の下まで走ると、一気によじ登る。そして上の方に到着し、そこで手を振った。
「お前も来いよ。いい景色だぞー」
「わ、私は木に登れない! いいから降りてこい、危ないだろ!」
風が吹き、夜風の黒髪が靡く。そこに見えたのは、挑発的な表情だ。
「へー、根性無しだなぁお前は」
「なっ……誰が根性無しだ! あぁ分かった登ってやるさ、今に見とけよ!」
安い挑発に乗り、大将は木に手を掛ける。訓練で培った力を使い、夜射のいるところまでたどり着くと、そこから見えた景色は、なんとも言えない素晴らしいモノだった。
人々が生きる町、その背後に土地を分ける雄大な自然がそれを見守る。そんな感じだ。
「これは、いい景色だな」
率直な感想を口にし、夜射に目をやる。そこにいた彼は、その緑の瞳に見た事のない感情を宿しているいるように思えた。
「夜射?」
「ん。あぁ、うん」
「いい景色だ」
そして次の日、夜射は宣言通り、恐ろしい程に真面目に訓練に参加する。座学でもまともに学び、他の弟子達も内心ざわついていた。
なんせ、あの夜射だ。体調でも悪いのか、そう皆が思っていた。その日夕食の時間、珍しく人より早く食べ終わった夜射は立ち上がり師匠に声を掛ける。
「お師匠様」
「どうした? まさか、今日一日真面目にやったから褒美をくれとか言うのではなかろうな」
師匠としても、粗方これだろうと考えていた。子どもがよく使う手だから。しかし、夜射は首を振り、微笑む。
「俺は、ただしたい事をします。それだけです」
そんな一言だけを残し、ご馳走さまでしたと姿を消す。
それから、夜射は屋敷から姿を消したのだ。その次の朝には、既に部屋にはいなかった。ただ、そのまま置いて行かれた物達だけがそこには残っていた。
その事は一時期騒ぎになる。しかし、それも落ち着いた五年後のある日。
堅壁の上空に、白龍がいる。なんだなんだと集まる屋敷の者達。
「お師匠様、何事なのですか?」
立派な少年となった大将が、五年前より少し老けた師匠に尋ねる。しかし、彼にも状況は分からなかった。
何用だと龍に声を掛ける前に、それは降下し、そこに降り立つ。
風が通り抜け、大将はゆっくりと目を見開く。
大将の目に映ったのは、悪戯っ子のようなその軽い笑顔と、暗くも美しい夜空をそのまま写し取ったような黒い髪。
「よぉお前等、久しぶり」
そしてその隣でどこか嬉しそうに微笑む、美しい女人。
「お師匠様、お元気そうで何より。俺の事、覚えていますか?」
変わらない表情の弟子に、どこか安心する。
「忘れる訳無かろうが、お前のようなふざけた弟子」
「ははっ、まだボケてないようで良かったですよ。華玉、前話したけど、一応、俺ここの弟子なんだ。ま、外されてなければの話だけれど」
「そうなのね。皆さぁん、初めまして。私は華玉、龍王の妹で、そして夜射くんの彼女でーす」
ニコニコとそう告げると、弟子たちの間に衝撃が走る。
そりゃまぁ、夜射は顔が良い。女が出来たとしたらそれはもうそれに釣り合う可愛らしい子だろうと思っていた。しかし、彼女の場合それにもう一つ、さらりと告げられた「龍王の妹」という肩書がある。
「本当は戻って来る気はなかったんだけどさ。ちょっと気が変わってね」
「俺の彼女、可愛いだろう? たいすけクン」
大将を目に、にやりとし、それで一つは察した。こいつは、女人に触れた事のない彼に、ついでにその門の名の通りお堅い師匠や弟子達に見せつけに来たのだ。
「お前……私に彼女自慢をしに戻って来たのか」
「それも理由の一つよ。だけど、それは飽く迄もオマケだ」
「色々見て来たけど、やっぱここが一番楽しかった。俺、快楽主義だからさ」
「また頼むよ、お師匠様」
笑って手を伸ばすと、師匠は頷きそれを取る。
「うむ。では、また一から修行しなおしてやろう。覚悟は出来ているだろうな、問題児」
「おーっと、変な所に火つけちゃった。大将、また逃げるのに付き合ってくれよ」
「はっ。五年も修行を放っていたのだ、その分存分に叩き直されるがいい」
「見捨てられたっ!」
その会話で、弟子達が笑いだす。久しく、その屋敷にそれが訪れたのだ。
話を聞けば、どうやら夜射はあれから旅をしていたみたいだ。特にこれと言った理由はなく、ただしたいからした、そう言っている。そしてその中で龍の華玉と出会い、交際が始まったと言う。
夜射曰く、本当にガチで凄く好みだったと。龍王の妹である事は付き合ってから、彼女の実家である龍ノ川に行った時に初めて知ったらしいが、今更手を引けなかったらしい。
華玉は直ぐに屋敷内のアイドル的存在になった。なんて言ったって、可愛いから。そして龍であると言う事が加算され、注目の的なのだ。特に、龍の存在を確かなものと認識していなかった者達からは。
しかし彼は相変わらずのようで。
「大将逃げるぞ!」
「またか貴様! いい加減大人にならんか」
「やーなこった! 華玉、付いてこれるか?」
「えぇ、龍の脚を嘗めないことね!」
怒った師匠から逃げる。五年前とは違って、そこには華玉も一緒だ。
何となくその三人で日々を過ごすことが多かった。大将も口では「巻き込むな」だの「真面目にやれ」だの注意をするが、彼自身もまんざらでもなさそうで。華玉は仲よしな二人を微笑ましそうに眺め、そこに混じる。そして夜射は、純粋に、とても楽しそうだった。
数年後、華玉と夜射が本格的に結婚をし、そして子供を作った。それは、夜射が二十四の時だった。
「凄いな。女人のお腹はここまで膨らむものなのだな」
大将は膨らんだそのお腹を不思議そうに見ている。妊娠している人だなんて初めて見た者だから、興味深いのだろう。
「うふふ、大将くんも触ってみる? たまに振動するんだよ」
「いや、大丈夫だ。女人の体は安易に触れていいモノでは」
「もう、お前はおかてぇな。ほらよ」
断ると、夜射はそんな彼の手を取り腹に触れらせる。その時丁度、中の子が中から母体を蹴った。確かに、命がその中にいたのだ。
「おぉ……生きている」
「死んでいたら困るな。折角の子供だ」
夜射ももうすぐ子供が生まると思うと、それが待ち遠しいようで。優しく腹を撫で、子に話しかけてみていた。
「それで、名は決めたのか?」
「んー、どうしよっかなぁーって。色々考えてみてはいるんだけどさ」
まだ悩んでいるようだ。産まれるのはもうすぐな為、そろそろ決めたいのだが。
「そうなの。中々良いのが思いつかなくって……。あ、そうだ! 大将くん、決めてよ。私達の息子の名前」
「え、私で良いのか?」
「いいなそれ! 大将、頼むよ。俺達親友だろ?」
「あ、あぁ。分かった。考えよう」
引き受けはしたが、名前なんて考えた事もない。さて、どうしようか。思考を巡らせ、様々な名を思いつくが、どれもあまりピンとこない。悩んでいると、その時ふと風が吹いた。
今年初めての春風かもしれないな。そう心の中で呟き、そしてそこから一つの言葉が浮かび上がる。
「春風」
「シュンフ?」
「あぁ。春風と書いて、シュンフだ。どうだろうか」
反応が心配だったが、二人はそれを気に入ったようだ。
「春風、か。いいなそれ、気に入った。流石だな、大将」
「えぇ、いい名前だと思う。私も好きだなぁ」
その命が生まれるまであと少し。なんだか大将も楽しみになってくる。
そして、暖かな春陽気の中で、その子は顔を出す。母親譲りの白髪だが、おそらく顔つきは父親似だろう。鬱陶しい程の美人になるのだろうなと思うと、少し妬けてくる。
その予想は当たっており、それはもうすくすくと美少年に育っていった。まだ幼子だと言うのに、微笑むだけで異性を惚れさせる事が出来そうだ。
修行終わり、大将が汗を拭いていると春風が水の入ったコップを差し出してくる。
「たいすけ、これ」
「ん、ありがとう春風。気が利くな」
父親と違っていい子だなぁと、嬉しく思って口にすると、ただの水のはずのそれから尋常じゃない程の酸っぱさが口の中で暴れる。
「んっ!」
「おいしい? それね、パパがね、たいすけにあげたらよろこぶっていってたの」
とても純粋な笑顔で、本当に喜んでいるかどうかを確かめる。そうすると、隠れていた夜射が慌てた様子で顔を出す。
「うげっ、なんでそれ言っちゃうんだよ春風! 秘密だって言ってじゃんか」
やはりこいつの差し金だ。自分があげたら悪戯だとバレてしまうから、わざわざ子を使ったのだ。
「や……夜射ぁ!!!」
「やべっ。春風おいで! 鬼ごっこだ、大将が鬼な」
「うん! おにごっこやる! たいすけ、じゅうびょうかぞえてね」
「わ、分かった」
この時、大将は心に決めた。後で、春風が見ていない時だ、そこで一発殴る。
律儀に十秒を数え、真っ先に夜射を追う。
「ちょ、待てよ大将! そんな俺に標的定めなくとも、まって、マジでお前、前より脚速くね?!」
「ちょ、なんか言ってよ!」
これはガチギレだ。どうしたものかと走り、地に足を突き付けたその瞬間だった。
「うっ……」
夜射が突然膝をつく。演技かと思ったが、これは本気の方だ。大将は怒りも忘れて駆ける。そうすると、彼が血を吐いているのが見えた。
「夜射!!」
「どうした夜射! 大丈夫か?!」
その声を聞きつけた師匠や弟子達がやってくる。
「どうかしたか?」
「師匠、夜射が……。走っている時に突然、こうなってしまいまして」
どうしよう、こんな事今までに無かった。師匠が夜射の状態を確認していると、向こうからとことこと春風が華玉と共に駆けてくる。
春風が心配そうな顔をしていた。夜射は、父として子にそんな事を思わせる訳にはいかないと、鉄の味を我慢しながら声を出す。
「お師匠様、俺は大丈夫です。大丈夫ですから、お気になさらず」
「そういう事は自分で立ってから言え。華玉殿、悪いが水をお願いする」
「え、えぇ」
妻である華玉も、不安になりながら急いで水を取りに向かう。そして師匠は夜射を屋敷の中に入れ、休ませた。
寝巻に着替えさせた後、直ぐに持ってこられた水を与え、少し落ち着いた所で事を尋ねる。
「夜射、一体どうした。走っている途中に吐血するなど、今までなかっただろう」
「分かりません。いきなり、ぐらっと来て、それで……」
「まぁよい。とりあえず、今日の所は寝なさい。食事はこちらに持ってくるから、何かあったら私でも誰でも呼べ。いいか、大人しくしてるんだぞ? 分かってるな」
「はいはい」
敷かれた布団に横になり、自身に苦笑いを浮かべる。まさかこの歳になって、大人しく寝ていろと釘刺されるとは思ってもいなかった。今まで、風邪も引いたことがないというのに。
「夜射くん……」
「大丈夫だ。寝りゃ治るよ、こんなん。な、だから春風も。そんな顔するな」
「パパ……。うん、はやくげんきになってね」
優しく声を掛けてくる子の頭を撫で、眠りにつく。何処でこの体が弱ったのかは分からないが、大抵の不調は休めば治るのだ。
いや、治さなければならない。家族に不要な心配を掛けさせるのは男の恥だ。そう自分に言い聞かせ、布団の中で体を丸める。
言う事を聞いてくれたのか、体の調子は確かに元に戻った。しかし、そこからだった。不定期的に、自身の体に異常が起こるようになったのは。
突然、眩暈に襲われ、倒れてしまう。また最初のように血を吐いて息が苦しくなる事もあった。周りからの心配は日に日に大きくなり、不要に体を動かすなとまで言われてしまった。
しかし、夜射はそんな事はしなかった。変わらずに他の弟子達や師匠、そして大将にちょっかいを掛け、子と遊び、妻と触れ合った。気まぐれに修行にも参加をした。
彼のその様は、まるで思い残す事などないようにしているかのようで。
そして、その二年後。ついにその時が来てしまった。
その部屋の中、師匠と大将、そして華玉と春風がいて、そしてそこには夜射がいる。
「はぁ、はぁ……。ぅあ、がぁっ……」
「夜射くん! しっかりして、お願いだから、まだ」
「そうだ夜射、お前はまだ死ぬべきじゃない! 子もまだこんな小さいのだぞ!」
妻と親友の懇願が、靄の掛かって行く脳に響く。そしてその視界の中に、不安を露にした春風が願うようにぬいぐるみを抱きしめていた。
まだ子供はこんなにも小さい。心に渦巻く不安をこうしてぬいぐるみに込めているのだ。こんな子どもを、置いて逝ける訳がない。逝きたくもない。しかし、どうも体は言う事を聞いてくれないのだ。
「俺だって、まだ死にたかねぇよっ……」
言葉を吐くと、せりあがって来る何かが体を蝕む。ただ、苦しさが感覚を支配していく。
「何故だ……何故治療術が効かぬ。大体の病気なら、これで治ると言うのに……」
必死に思いつく限りの治療術を試してみるが、どれも効果がなく、師匠にも焦りが出てくる。万病に効くと言われる最上級の術ですら、その痛みを癒す事はなかった。一体、何が彼の体を蝕んでいると言うのか。それすらも判別不能だった。魔の者の仕業と疑いもしたが、どんなに手を施してもその気配はない。
集まった者達が皆固唾を呑む。もう、どうしようも出来ないのかと。その中で、夜射は体に残る力を全て集め、言葉を放つ。
「悪い、俺はもう駄目だ。これが最後の力だ」
「皆にも伝えといてくれ。ありがとう、愉しかった。お陰でいい人生だったよ」
最期にいつものように笑うと、その力が尽き果て消えていく。
ある夏の夜。その命は、大切な人たちに見守られながらこの世を去って行った。
とても、静かな夜だった。
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