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中編
世を護る四つの巨壁
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同時刻、陰壁のお屋敷の部屋で、四壁の長の四人が顔を突き合わせ話し合っていた。
真剣な空気の中、封壁の羅宇が溜息を付く。
「皆さん進展は無し、ですか」
「そのようだな」
それぞれの近状報告と、今起こっている問題についての分かっている事等々。しかし、特にこれと言った進展は見込めない。
宴我はあーあっと声を漏らし、椅子にふんぞり返る。
「大ボスの尻尾さえ掴めれば早いんだけどなぁ。どこ潰しても、金で使われる小間使い共でよ、まいっちゃうよなぁ……」
「しかし、小間使いを潰す事により、確実に被害件数は減っております」
「毎度、かなり減ったと思ったら急に増えるんだけどな。根本的な解決にはなんもなっちゃいねぇし、雑魚を潰してもあんま意味ねぇんじゃねぇの?」
羅宇の言う事は確かだ、しかし、減っても増えていくのが現状。それを言うと、彼も遺憾ながら同意せざるを得なかった。
「それは否めないですね。現に、そう言ったデータがありますので。大将さんが現役として動けるうちに対処したいものですが」
羅宇はそう言ってから、きょどきょどした様子の幻映に声を掛ける。
「幻映。聞いていますか?」
「は、はい。一応……」
「それなら宜しい」
一つ頷き、本題に戻った。
「今まで、陰壁と我等封壁が小間使いであろう小組織を、堅壁と陽壁が根源の尻尾探しを主に行っておりましたが、少し見直す必要があるかもしれませんね」
「かもしれぬな」
こちらのやり方を変えれば少しは状況が変わるかもしれない。何事も、物は試しだ。
羅宇が今度の捜査形態についての話し合いに話題を切り替えようとした時。
『あー、良かったまだやってた~!』
その声が突然割り込んできて、四人の視線が一斉にそこに集まって行く。
その力は普通の人間が持つ者とは違う、正に「超越なる力」と言った物に感じた。
彼の突然のご登場に、四人がそれぞれの驚きの顔を見せている。しかし、そんな事には構わず、超越者は話し出す。
『子ども待たせてるからさ、あんま時間はかけられないけど。とりあえず、僕は超越者ね。証拠が欲しいならこの力を感じてみな、四壁の師匠たちならこれくらいの判断は付くよね?』
『手短に話すねー。あのね、君たちがずっと追いかけている魔潜の事なんだけどね。ちょーっと僕の長男が関わっている可能性が高いんだよねぇ。最近だとあの子自身は大人しかったんだけど、また何か動き出しそうな雰囲気だからさ』
『君達が次々潰しているその小さな組織に、あの子自身が直接関与しているとは思えないけど、根源ではあるだろうからさ。だからね、大将の所の白刃と愉快な仲間たちにその子の事お願いしたんだ。だーかーらっ、白刃達に協力してあげてね』
『話は以上。任務頑張って! じゃあね』
返事も聞かずに去って行ったが、この超越者、さらりと凄く重要な事を言い放たなかったか。
「今の、一発で理解できた人ー?」
宴我の問いかけに、羅宇と大将の二人が頷く。
「あのくらいでしたらいつもの部下の報告の時と同じ分量です」
「あぁ。若者は特に、相手の事も気にせず一気に伝える事がある。処理出来て当然だ」
逆になんでお前は出来なかった、宴我はそう言いたげの目を向けられていた。
「うげー、すっげぇな。爺さん所の愛弟子の名前が出てた事は分かったんだけどよ。な、幻映」
「ぅえっ、あ、は、はい!」
突然話を投げかけられた幻映はビクリと震え、言葉に詰まりながら答える。なんだろう、そんな反応をされたら虐めているみたいになるではないか。
「そんな露骨に怯えられたら流石の俺も傷付くぞぉ?」
「貴方は何事も唐突過ぎるのです。宜しいですか、犬でも猫でも撫でる時はいきなり頭から行くのではなく、下から向かって手を認識させる事が大事なのですよ」
「そういう問題ではなかろうが。折角幻映が出席しているのだ、今のうちに四壁ですべき話は済ませるぞ」
そもそも幻映は小動物ではないと言う話なのだが、そこは流すようだ。大将としても無駄話で時間を潰したくはない。
「それもそうですね。次回また来る保証はありませんし」
「大将さん、とりあえず白刃くんに連絡をしてください」
「あぁ」
速やかに術を使い、通信を繋げる。相手がその術に答え、浮き上がった画面に接続完了の文字が現れる。
そうすると、向こうの白刃が映し出される。
『え、何通信術? 誰と誰とー?』
『こら黙ってろ山砕。後でどうなっても知らぬぞ』
『あっ、ごめんなさーい……』
どうやら仲間と一緒のようだ。一瞬だけ山砕が覗いたが、覇白に止められ引っ込む。
「今、大丈夫か?」
『えぇ、まぁ一応は。少々お待ちくださいね』
音声がミュートにされ白刃が少しだけ画角から外れるが、五秒程で戻ってきた。
『はい、大丈夫です。それで、いかがなさいましたか師匠?』
「訊くが、超越者から頼まれ事はしなかったか」
「先程四壁の会議に突如現れてな、魔潜の親玉の事を詳細は残さずさらりと手がかりだけを残して去って行ってしまった。そこで、お前等にその事について頼んだから協力しろと。そちらは何を聞かされている」
訊くと、白刃の方も大した情報は与えられていないようで。困ったように苦笑いで答える。
『いえ、こちらも超越者の所の長男の動きが最近怪しいから様子見ておいてと、それだけでして』
「やはりか……まぁよい。何か分かり次第連絡をしなさい。出来る限りの事はしよう。こちらとしても、魔潜の尻尾は早く掴みたい」
『分かりました。では』
「あぁ。楽しめよ」
大将が通信を切り、白刃にも協力してもらい、そちらの進展も今後は踏まえなければならないなと考える。その事は宴我にも伝わった。
大将が、この事態を白刃にあまり知らせたくなかったと言うのは知っている。しかし、これは丁度いいと宴我は思った。
「まぁ、いいんじゃね? 爺さん、あの弟子さん次の堅壁の長に選ぶつもりなんだろ?」
幾度か聞いていた話だ。その事を言うと、大将は微妙な反応を示す。
「一応、そのつもりではあるが。そうなるとは限らん」
「お、何。他におきにの弟子いるん?」
「そういう問題ではない。気に入っていると言う理由だけで師の立場を譲る訳なかろうが」
「ま、堅物爺さんがんな理由で継承者決めないか。継承者と言えば、お前等はどうするつもりなんよ」
宴我が流れで突然訊いてくる。歳としてはまだやっていける歳だが、そろそろ考えなければならない時期だろう。ちなみに宴我は、お気に入りの弟子がいる為そいつに継がせようと思っている。
「候補は既に上がっております。本格的に引かねばならなくなった時に彼等の中で選抜を行う予定です」
「ほへー。で、幻映は?」
「……あ、はい。えっと、その」
回答に困っている、と言うよりかは、出せる答えはあるがそれを上手く言う事が出来ないと言ったと事か。
幻映は言葉を詰まらせた後に、その場からいなくなった。ほんの一瞬で気配を消して、立ち去ったのだ。
「って、そんな嫌な質問だった今の!?」
「宴我……どう責任とるつもりですか」
羅宇の目はこう言っていた。「折角顔を出していたと言うのに、なんて事をしてくれた」と。完全に、お怒りだ。
「ちょ、幻映! 悪かった! 悪かったから戻ってこーい! 俺が羅宇に絞められる!」
慌てて近くのどこかにいるであろう幻映を呼び掛ける。
そうすると、向こうから待機していた緑陽が、抱き着いている幻映を軽く抱えて部屋に入ってきた。
「あはは……すみません。ちょっと、無理だったようです」
「後継者の事でしたよね、幻映様の代わりにお答えしましょう。ご存じの事かと思いますが、陰壁は代々血筋で師を選んでおります。ですので、次に選ばれるのは必然的に、幻映様の甥っ子である鏡月くんになります」
「しかし、今の彼の事を考えると、そのためにこちらに帰ってもらうと言うのは少々苦な話でしょう。その時の鏡月くんがどうであるかによりますね。場合によっては、後継者の選出方法を変える必要があるでしょう」
これが幻映の言いたかった答えだ。しかし、これを三人の前で喋るには、大幅な分量オーバーだ。
「そう言いたかったのですよね、幻映様」
「そう、それ。ありがとう緑陽」
代わりに答えてくれて、幻映も安心したようだ。先程のは逃げたのではなく、緑陽に代弁を頼んだのかもしれない。
緑陽は一瞬だけ宴我に目をやり、幻映に戻すとまるで子どもに言い聞かせるかのように言う。
「皆さんを困らせちゃ駄目ですよ? 見掛け怖いのは分かりますが、宴我さんも良い人ですから。陽壁の人はなんか本能的に怖く感じますが、陰壁に必要な存在ですし、良くしてくれているのですから。ね?」
幻映は素直に頷いて、頑張ってみるよと答える。お前何歳だよとは言いたくなったが、もうこのような事は慣れた。しかし、それはともかくだ。宴我はずっと、思っていたことがある。
「なぁ。氷月の時も思ってたけど、陰壁にとって俺等ってどういう認識になっとんの?」
「粗方、やけに目立つ無駄に煩い輩、とでも思われているのでしょうよ」
羅宇の馬鹿正直な自身の見解に、宴我は苦笑いする。
「ひっどいなぁ。陽気と言ってくれよ陽気とよぉ」
そんな彼に、緑陽は笑みを浮かべて言った。
「ご安心ください、宴我さん。よき友だと思っている者も少なからずいますよ。多分、十人くらいは」
「母数いくつだよ……。お前、もしかして俺の事嫌い?」
「ご想像にお任せします。幻映様、わたしは外で待機しておりますので、何かあったらまたお声がけください」
「あと、赤い大型犬とは、無理に関わらなくていいのですからね。よく吠えますから」
ちなみに、宴我の髪は赤みを持っている。
「……? うん。ありがとね、緑陽」
幻映はこの屋敷に犬はいないよなと首をかしげるが、緑陽が言うのだからその通りだろうと返事をした。
その返事の後、緑陽は再び部屋を後にする。
宴我が「俺、何かしたかな」とぼやき、幻映を見る。そしてまた分かりやすく怯えられ、内心少しだけ落ち込んだ。
真剣な空気の中、封壁の羅宇が溜息を付く。
「皆さん進展は無し、ですか」
「そのようだな」
それぞれの近状報告と、今起こっている問題についての分かっている事等々。しかし、特にこれと言った進展は見込めない。
宴我はあーあっと声を漏らし、椅子にふんぞり返る。
「大ボスの尻尾さえ掴めれば早いんだけどなぁ。どこ潰しても、金で使われる小間使い共でよ、まいっちゃうよなぁ……」
「しかし、小間使いを潰す事により、確実に被害件数は減っております」
「毎度、かなり減ったと思ったら急に増えるんだけどな。根本的な解決にはなんもなっちゃいねぇし、雑魚を潰してもあんま意味ねぇんじゃねぇの?」
羅宇の言う事は確かだ、しかし、減っても増えていくのが現状。それを言うと、彼も遺憾ながら同意せざるを得なかった。
「それは否めないですね。現に、そう言ったデータがありますので。大将さんが現役として動けるうちに対処したいものですが」
羅宇はそう言ってから、きょどきょどした様子の幻映に声を掛ける。
「幻映。聞いていますか?」
「は、はい。一応……」
「それなら宜しい」
一つ頷き、本題に戻った。
「今まで、陰壁と我等封壁が小間使いであろう小組織を、堅壁と陽壁が根源の尻尾探しを主に行っておりましたが、少し見直す必要があるかもしれませんね」
「かもしれぬな」
こちらのやり方を変えれば少しは状況が変わるかもしれない。何事も、物は試しだ。
羅宇が今度の捜査形態についての話し合いに話題を切り替えようとした時。
『あー、良かったまだやってた~!』
その声が突然割り込んできて、四人の視線が一斉にそこに集まって行く。
その力は普通の人間が持つ者とは違う、正に「超越なる力」と言った物に感じた。
彼の突然のご登場に、四人がそれぞれの驚きの顔を見せている。しかし、そんな事には構わず、超越者は話し出す。
『子ども待たせてるからさ、あんま時間はかけられないけど。とりあえず、僕は超越者ね。証拠が欲しいならこの力を感じてみな、四壁の師匠たちならこれくらいの判断は付くよね?』
『手短に話すねー。あのね、君たちがずっと追いかけている魔潜の事なんだけどね。ちょーっと僕の長男が関わっている可能性が高いんだよねぇ。最近だとあの子自身は大人しかったんだけど、また何か動き出しそうな雰囲気だからさ』
『君達が次々潰しているその小さな組織に、あの子自身が直接関与しているとは思えないけど、根源ではあるだろうからさ。だからね、大将の所の白刃と愉快な仲間たちにその子の事お願いしたんだ。だーかーらっ、白刃達に協力してあげてね』
『話は以上。任務頑張って! じゃあね』
返事も聞かずに去って行ったが、この超越者、さらりと凄く重要な事を言い放たなかったか。
「今の、一発で理解できた人ー?」
宴我の問いかけに、羅宇と大将の二人が頷く。
「あのくらいでしたらいつもの部下の報告の時と同じ分量です」
「あぁ。若者は特に、相手の事も気にせず一気に伝える事がある。処理出来て当然だ」
逆になんでお前は出来なかった、宴我はそう言いたげの目を向けられていた。
「うげー、すっげぇな。爺さん所の愛弟子の名前が出てた事は分かったんだけどよ。な、幻映」
「ぅえっ、あ、は、はい!」
突然話を投げかけられた幻映はビクリと震え、言葉に詰まりながら答える。なんだろう、そんな反応をされたら虐めているみたいになるではないか。
「そんな露骨に怯えられたら流石の俺も傷付くぞぉ?」
「貴方は何事も唐突過ぎるのです。宜しいですか、犬でも猫でも撫でる時はいきなり頭から行くのではなく、下から向かって手を認識させる事が大事なのですよ」
「そういう問題ではなかろうが。折角幻映が出席しているのだ、今のうちに四壁ですべき話は済ませるぞ」
そもそも幻映は小動物ではないと言う話なのだが、そこは流すようだ。大将としても無駄話で時間を潰したくはない。
「それもそうですね。次回また来る保証はありませんし」
「大将さん、とりあえず白刃くんに連絡をしてください」
「あぁ」
速やかに術を使い、通信を繋げる。相手がその術に答え、浮き上がった画面に接続完了の文字が現れる。
そうすると、向こうの白刃が映し出される。
『え、何通信術? 誰と誰とー?』
『こら黙ってろ山砕。後でどうなっても知らぬぞ』
『あっ、ごめんなさーい……』
どうやら仲間と一緒のようだ。一瞬だけ山砕が覗いたが、覇白に止められ引っ込む。
「今、大丈夫か?」
『えぇ、まぁ一応は。少々お待ちくださいね』
音声がミュートにされ白刃が少しだけ画角から外れるが、五秒程で戻ってきた。
『はい、大丈夫です。それで、いかがなさいましたか師匠?』
「訊くが、超越者から頼まれ事はしなかったか」
「先程四壁の会議に突如現れてな、魔潜の親玉の事を詳細は残さずさらりと手がかりだけを残して去って行ってしまった。そこで、お前等にその事について頼んだから協力しろと。そちらは何を聞かされている」
訊くと、白刃の方も大した情報は与えられていないようで。困ったように苦笑いで答える。
『いえ、こちらも超越者の所の長男の動きが最近怪しいから様子見ておいてと、それだけでして』
「やはりか……まぁよい。何か分かり次第連絡をしなさい。出来る限りの事はしよう。こちらとしても、魔潜の尻尾は早く掴みたい」
『分かりました。では』
「あぁ。楽しめよ」
大将が通信を切り、白刃にも協力してもらい、そちらの進展も今後は踏まえなければならないなと考える。その事は宴我にも伝わった。
大将が、この事態を白刃にあまり知らせたくなかったと言うのは知っている。しかし、これは丁度いいと宴我は思った。
「まぁ、いいんじゃね? 爺さん、あの弟子さん次の堅壁の長に選ぶつもりなんだろ?」
幾度か聞いていた話だ。その事を言うと、大将は微妙な反応を示す。
「一応、そのつもりではあるが。そうなるとは限らん」
「お、何。他におきにの弟子いるん?」
「そういう問題ではない。気に入っていると言う理由だけで師の立場を譲る訳なかろうが」
「ま、堅物爺さんがんな理由で継承者決めないか。継承者と言えば、お前等はどうするつもりなんよ」
宴我が流れで突然訊いてくる。歳としてはまだやっていける歳だが、そろそろ考えなければならない時期だろう。ちなみに宴我は、お気に入りの弟子がいる為そいつに継がせようと思っている。
「候補は既に上がっております。本格的に引かねばならなくなった時に彼等の中で選抜を行う予定です」
「ほへー。で、幻映は?」
「……あ、はい。えっと、その」
回答に困っている、と言うよりかは、出せる答えはあるがそれを上手く言う事が出来ないと言ったと事か。
幻映は言葉を詰まらせた後に、その場からいなくなった。ほんの一瞬で気配を消して、立ち去ったのだ。
「って、そんな嫌な質問だった今の!?」
「宴我……どう責任とるつもりですか」
羅宇の目はこう言っていた。「折角顔を出していたと言うのに、なんて事をしてくれた」と。完全に、お怒りだ。
「ちょ、幻映! 悪かった! 悪かったから戻ってこーい! 俺が羅宇に絞められる!」
慌てて近くのどこかにいるであろう幻映を呼び掛ける。
そうすると、向こうから待機していた緑陽が、抱き着いている幻映を軽く抱えて部屋に入ってきた。
「あはは……すみません。ちょっと、無理だったようです」
「後継者の事でしたよね、幻映様の代わりにお答えしましょう。ご存じの事かと思いますが、陰壁は代々血筋で師を選んでおります。ですので、次に選ばれるのは必然的に、幻映様の甥っ子である鏡月くんになります」
「しかし、今の彼の事を考えると、そのためにこちらに帰ってもらうと言うのは少々苦な話でしょう。その時の鏡月くんがどうであるかによりますね。場合によっては、後継者の選出方法を変える必要があるでしょう」
これが幻映の言いたかった答えだ。しかし、これを三人の前で喋るには、大幅な分量オーバーだ。
「そう言いたかったのですよね、幻映様」
「そう、それ。ありがとう緑陽」
代わりに答えてくれて、幻映も安心したようだ。先程のは逃げたのではなく、緑陽に代弁を頼んだのかもしれない。
緑陽は一瞬だけ宴我に目をやり、幻映に戻すとまるで子どもに言い聞かせるかのように言う。
「皆さんを困らせちゃ駄目ですよ? 見掛け怖いのは分かりますが、宴我さんも良い人ですから。陽壁の人はなんか本能的に怖く感じますが、陰壁に必要な存在ですし、良くしてくれているのですから。ね?」
幻映は素直に頷いて、頑張ってみるよと答える。お前何歳だよとは言いたくなったが、もうこのような事は慣れた。しかし、それはともかくだ。宴我はずっと、思っていたことがある。
「なぁ。氷月の時も思ってたけど、陰壁にとって俺等ってどういう認識になっとんの?」
「粗方、やけに目立つ無駄に煩い輩、とでも思われているのでしょうよ」
羅宇の馬鹿正直な自身の見解に、宴我は苦笑いする。
「ひっどいなぁ。陽気と言ってくれよ陽気とよぉ」
そんな彼に、緑陽は笑みを浮かべて言った。
「ご安心ください、宴我さん。よき友だと思っている者も少なからずいますよ。多分、十人くらいは」
「母数いくつだよ……。お前、もしかして俺の事嫌い?」
「ご想像にお任せします。幻映様、わたしは外で待機しておりますので、何かあったらまたお声がけください」
「あと、赤い大型犬とは、無理に関わらなくていいのですからね。よく吠えますから」
ちなみに、宴我の髪は赤みを持っている。
「……? うん。ありがとね、緑陽」
幻映はこの屋敷に犬はいないよなと首をかしげるが、緑陽が言うのだからその通りだろうと返事をした。
その返事の後、緑陽は再び部屋を後にする。
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