楽園遊記

紅創花優雷

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後編

君の手を取りし雨の日

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 赤子を育てるのはこれで二度目だ。長男は拾った時に既にそれなりの大きさにはなっていて、三男も見つけた時には既に赤ちゃんとは言えない年齢だった。
 次男は夜泣きが凄くてそのたびに対処に当たるのが大変だったが、この子は夜だろうと昼だろうと案外大人しい。次男が次男だ、逆に心配になる。
『悟陸ー? ヤンチャ過ぎるのも困るけど、もう少し手のかかる子でも大丈夫なんだよー?』
 そうは言ってみるが、それを理解できているかは分からない。渡した音の鳴る輪っかのおもちゃを夢中になって揺らしている。
 まぁ元気そうだしいいか。その結論に至って、心命原は悟陸をふかふかの布団の上に置いた。
 その後、ふと今日の日付が目に入る。春の終わりが近づく、四月の時だ。そう言えば、丁度この日の事だった。
 雨に濡れた、まだ独り立ちできるような歳でもない少年。転んだだけで済まされない怪我を負って、何処かに向かって走って行った。
『ちょ、そこの君! こんな天気も悪い中、傘も差さないで何しているのさ』
 驚いて声を掛けると、少年はちらりと心命原の方を見て、何も答えずにもう一度走り出す。あれは、よからぬ雰囲気しかしない。
 心命原は追いかけて、その手を掴む。
「何すんだよおっさん! はなせよ!」
 これは、初めての事だ。まさか超越者たる自分が人の子におっさん呼ばわりされるとは。まだ年端もいかない少年からすれば、二十代もおっさんになってしまうのだろう。まぁ、自分はそんな数えられるような年齢ではないのだが。
『おっさんって、僕は超越者! おっさんとかそう言うのには当てはまらないのー!』
「え、超越……そ、そんなのいるわけねぇだろ! 変なうそつくな不審者!」
 この時代、超越者の存在が色濃く信じられていた時に、それを居ないと断言した少年。手を振り払おうとしたが、それは出来なかったようだ。
 とりあえず、不審者と思われようとおっさんと言われようと話が出来なければ。気を紛らわす事は出来ないか。
『超越者だと分かってまでそこまで言える子は滅多にいないよ。ほら、これで信じてくれる?』
 空を指さすと、それに応えるように厚い雨雲が割れ、ここら一体だけに太陽の光が差し込む。少年はそれを見ると、驚きと関心で目を輝かせた。
 やはり、子どもは子どもだ。こう言ったモノには大きく興味を示す。これで多少の警戒心は解けただろう。
『それで、一人で何をしているのか教えてくれる?』
「家出」
 訊くと、少年は吐き捨てるように答える。親と喧嘩でもしたのだろうか、いやこの感じは、そんな理由ではない。
 伝わって来るのは、誰かに対する嫌悪感と拒絶、それに隠れた大きな悲しみと、それらによって自暴自棄になったその心。
 しかし、まだ取り返しのつかない状態ではない。この状態なら、その魔が牙をむかないようにする事が出来るはずだ。
『そっかぁ』
『じゃあ、僕のお家来る?』
 笑顔でそう問いかけると、少年はこくりと頷き、手を伸ばす。今度は向こうから、その手を握らせてくれた。

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