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11、美紗がいたい場所はどこ?
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「助けて!」
冷たい手が、美紗の足を雲の上へと引き上げる。
されるがまま、美紗は雲の上に這い上がった。
「河太郎!」
足をつかんだ主を振り返って、美紗は安堵の溜息をもらす。
「危ねえことしないでくんなさいよぉ。おいらが魔王様に怒られちまうんだから」
しゅんとしている河太郎に、美紗は、
「ごめんごめん」
と舌を出して、反省しているのかしていないのか分からない顔。
「望みの海が入っていた小瓶を持ってるでしょう?」
河太郎に訊かれて、美紗は革袋の中をまさぐり、
「これ?」
と空の小瓶を河太郎の目の前へ持ってゆく。
「そうそう、その口のコルクを抜いて、この海に向けて――」
言われたとおりにすると、海と雲が音もなく小瓶に吸い込まれ、しゅるっと入ってしまった。首をかしげて小瓶をみつめていると、瓶の中でちゃんと重い水は下のほうへ、雲は上のほうへと移動してゆく。おもしろ半分、振り混ぜたら河太郎が、やめておくんなさい! と悲鳴をあげた。
河太郎の湿った手に引かれて、からの猫の袋を片手に魔王の待つ部屋へといそぐ。重い扉を押し開けると、
「遅い!」
と第一声、魔王に怒鳴られた。声の主はテーブルの上にちょこんと立って、胸を張っている。
「料理が冷めてしまうではないか。人の家の中を勝手に歩き回って、なんとデリカシーのない娘だ。まったくどこへ行っていたのだ」
頬を膨らませて答えない美紗の代わりに、
「望みの海を使って、自分の国へ手を伸ばしていました」
と河太郎がありのままを報告する。
「美紗はあちらへ帰りたいのか? あちらでの毎日は最悪だったのだろう?」
美紗の心をのぞき見るように、金色の目を細めた。
「違うよ。あたしはただ、木の枝に置きっぱなしにした色鉛筆を探してただけだよ」
「すべて折られているものを?」
「だからだよ。真希への恨みを忘れないために」
魔王はにっと笑った。
「よいことだ」
美紗もにっと笑って、
「じゃあディナーにしよう!」
「海鮮地獄尽くし、スペシャルメニューを特注したぞ」
わーい、とばんざいする。猫の袋を敷いて椅子に座る美紗の横から、河太郎はそそくさと退出した。
洒落た仕草で料理を運んでくるのは、牛の頭に大きな角を持ったボーイだ。
「地獄巡り其の一、地獄血の池スープでございます」
赤いスープにあさりと海老が沈んでいる。ひとくち飲んでみるとトマトの風味に海の幸が香って、とてもおいしい。スプーンに乗せたスープをふうふうしている美紗に、魔王は自分専用に特注した小さな小さなスプーンを口に運びながら、
「美紗、そろそろその革袋を私に返す時間だぞ。一日という約束だったろう」
「えー、一日は二十四時間、だから明日の昼までだよ」
「いや、一日は日没と共に始まるのだ。日が暮れたのだから、もう約束の日は終わったぞ」
二人はにらみあう。先に目をそらしたのは、美紗のほうだった。
「だってこれを返したら、魔王は『闇の呪書』を使ってもとの大きさに戻るんでしょ?」
当然とばかりにうなずかれ、
「あたし怖いもん。けっこうひどいこと言ったり身勝手なことしたりした気がするから」
「自分で気付いていたのか」
感心したような声を出す魔王。美紗は余計に焦って、
「ほら、そんなふうに言われたら絶対返せない! 魔力が戻った途端、仕返しされちゃうもん」
う~ん、と魔王は腕を組んで考える。眉間にしわ寄せ首をかしげ、それからぽん、と手を打った。
「美紗、私を信用しろ」
「できるか!」
美紗は一蹴した。
冷たい手が、美紗の足を雲の上へと引き上げる。
されるがまま、美紗は雲の上に這い上がった。
「河太郎!」
足をつかんだ主を振り返って、美紗は安堵の溜息をもらす。
「危ねえことしないでくんなさいよぉ。おいらが魔王様に怒られちまうんだから」
しゅんとしている河太郎に、美紗は、
「ごめんごめん」
と舌を出して、反省しているのかしていないのか分からない顔。
「望みの海が入っていた小瓶を持ってるでしょう?」
河太郎に訊かれて、美紗は革袋の中をまさぐり、
「これ?」
と空の小瓶を河太郎の目の前へ持ってゆく。
「そうそう、その口のコルクを抜いて、この海に向けて――」
言われたとおりにすると、海と雲が音もなく小瓶に吸い込まれ、しゅるっと入ってしまった。首をかしげて小瓶をみつめていると、瓶の中でちゃんと重い水は下のほうへ、雲は上のほうへと移動してゆく。おもしろ半分、振り混ぜたら河太郎が、やめておくんなさい! と悲鳴をあげた。
河太郎の湿った手に引かれて、からの猫の袋を片手に魔王の待つ部屋へといそぐ。重い扉を押し開けると、
「遅い!」
と第一声、魔王に怒鳴られた。声の主はテーブルの上にちょこんと立って、胸を張っている。
「料理が冷めてしまうではないか。人の家の中を勝手に歩き回って、なんとデリカシーのない娘だ。まったくどこへ行っていたのだ」
頬を膨らませて答えない美紗の代わりに、
「望みの海を使って、自分の国へ手を伸ばしていました」
と河太郎がありのままを報告する。
「美紗はあちらへ帰りたいのか? あちらでの毎日は最悪だったのだろう?」
美紗の心をのぞき見るように、金色の目を細めた。
「違うよ。あたしはただ、木の枝に置きっぱなしにした色鉛筆を探してただけだよ」
「すべて折られているものを?」
「だからだよ。真希への恨みを忘れないために」
魔王はにっと笑った。
「よいことだ」
美紗もにっと笑って、
「じゃあディナーにしよう!」
「海鮮地獄尽くし、スペシャルメニューを特注したぞ」
わーい、とばんざいする。猫の袋を敷いて椅子に座る美紗の横から、河太郎はそそくさと退出した。
洒落た仕草で料理を運んでくるのは、牛の頭に大きな角を持ったボーイだ。
「地獄巡り其の一、地獄血の池スープでございます」
赤いスープにあさりと海老が沈んでいる。ひとくち飲んでみるとトマトの風味に海の幸が香って、とてもおいしい。スプーンに乗せたスープをふうふうしている美紗に、魔王は自分専用に特注した小さな小さなスプーンを口に運びながら、
「美紗、そろそろその革袋を私に返す時間だぞ。一日という約束だったろう」
「えー、一日は二十四時間、だから明日の昼までだよ」
「いや、一日は日没と共に始まるのだ。日が暮れたのだから、もう約束の日は終わったぞ」
二人はにらみあう。先に目をそらしたのは、美紗のほうだった。
「だってこれを返したら、魔王は『闇の呪書』を使ってもとの大きさに戻るんでしょ?」
当然とばかりにうなずかれ、
「あたし怖いもん。けっこうひどいこと言ったり身勝手なことしたりした気がするから」
「自分で気付いていたのか」
感心したような声を出す魔王。美紗は余計に焦って、
「ほら、そんなふうに言われたら絶対返せない! 魔力が戻った途端、仕返しされちゃうもん」
う~ん、と魔王は腕を組んで考える。眉間にしわ寄せ首をかしげ、それからぽん、と手を打った。
「美紗、私を信用しろ」
「できるか!」
美紗は一蹴した。
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