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12、二人で眠ればあたたかい
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魔王が用意させた寝室には、天蓋つきのふわふわベッドが用意されていた。ずいぶん離れた向こうの壁に、かごに入った小さなベッドが置かれている。押し問答のすえ結局美紗が革袋を抱いて寝ることになったので、魔王はまた特注サイズを用意させねばならなかった。食器もバスローブもベッドも、家来たちが魔力を集結させて魔王様の意に添うものを作っているのだ。
ベッドは豪華でふっかふか、だけど美紗は革袋を抱いたまま寝付けずにいた。どうして色鉛筆がなかったのだろう、不安の種が、頭にくっついて離れない。風に吹かれて袋から出て、木の下に落ちてしまったのだろうか。草の上で土にまみれ、ばらばらになっていたらどうしようと、美紗は泣き出しそうになった。いくら布団を掛けても、ちっともあったかくない。雲のお風呂は最高に気持ちよかったし、ディナーはとてもおいしかったけれど、お母さんと夕樹と作るえび焼売がなつかしい。あたしは一生ここで暮らすのかなあ、と考えてみる。べつにそれも悪くはないんだけど、お母さんたちにはちゃんとお別れくらい言いたい。
魔王はいじわるだけど、悪い人ではない気がする。革袋を返さなければ、ずっとこのまま、ここにいさせてもらえそうだ。だけど美紗自身がどうしたいのか、それが一番分からない。仕返しもできたし気も済んでしまった。
暗闇の中で目を開けていると、今日見た様々なものが浮かび上がる。冷蔵庫に貼ってあったあたしの似顔絵、昔の手紙、猫のぬいぐるみ―― なんだかむしゃくしゃしてきた。昔のあたしの大切なものは、みんな誰かに関わるもの。お母さんが描いてくれた絵や、友だちからの手紙や、おばあちゃんの買ってくれた猫や。今のあたしが大切なのは、この自分自身だけ。なんだか人でなしに育ったみたいで腹が立つ。自分を人でなしなんて分かってしまう、まともな感覚が残っていることも腹立たしい。
真希の大切な好きな人の写真も、明美の大切な真希からのプレゼントも、みんな誰かにつながっている。真希の言ったとおり、あたしだけがひとりぼっちなんだ。
美紗はやおらベッドに身を起こしスリッパを突っかけると、つかつかと扉に向かった。無用なことを考えるときは、ほかのことをしたほうがいい。トイレにでも行って来よう。扉を押すとやけに重い。その理由はすぐに分かった。扉に寄りかかって、天狗のじいさんがいびきをかいていたのだ。
「なんでこんなとこで寝てるの?」
美紗はちょっと怒って、その耳元で大きな声を出した。じいさんはびくっとして目を開けると、
「わしゃあ、おぬしの見張りをしているのじゃ。おぬしが、そいつをいつまでたっても魔王様に返さねえから、みんな仕事が増えてるんじゃぞう」
と革袋をにらむ。
「見張りが寝てちゃだめでしょ。あたしが逃げないようにトイレに連れてってよ」
じいさんは、どっこいしょ、と立ち上がった。
「わがままな娘じゃなあ」
トイレから帰ってくると、向こうの壁のほうにぼんやりと、小さな二つの光が見える。
「眠れないのか?」
声をかけられて、それが魔王の金の瞳だと分かった。美紗はうなずいて魔王のほうへ近付く。考えてみたら、いつも夕樹と二段ベッドで寝ているのだから、こんなに離れて寝たら淋しいに決まっている。
「せっかく同じ部屋にいるんだから、もっと近くで寝よう」
美紗はかごを抱き上げると、広い部屋を横切って自分の枕の横に置いた。枕元には窓がある。カーテンの隙間からさしこむ月明かりに誘われて、そっとカーテンを引くと、豪華なベッドとかごの中の魔王が透明な光の中に浮かび上がった。冷たい窓に額をくっつけると、下に広がる石の町は冷ややかな銀の光に照らされて静かに眠っている。
「ここで寝てよ、いいでしょ」
ちょこんと首をかしげて、美紗は魔王の銀色の髪を撫でる。魔王は猫みたいに頭を振って、
「偉大な私を馬鹿にするな。美紗、寝相はいいのか?」
「悪いよ。でもあんなに離れてちゃ淋しいでしょ」
魔王は溜息をついて、かごの中の布団にもぐり込んだ。
「悪い夢を見ろよ、美紗」
「魔王ちゃんもね」
笑って足を突っ込んだ布団の中は、トイレに行く前とはうってかわって、こたつの中みたいにあったかい。態度に似合わない、魔王の静かな寝息を聞きながら、美紗もやがて小さないびきをかきだした。
ベッドは豪華でふっかふか、だけど美紗は革袋を抱いたまま寝付けずにいた。どうして色鉛筆がなかったのだろう、不安の種が、頭にくっついて離れない。風に吹かれて袋から出て、木の下に落ちてしまったのだろうか。草の上で土にまみれ、ばらばらになっていたらどうしようと、美紗は泣き出しそうになった。いくら布団を掛けても、ちっともあったかくない。雲のお風呂は最高に気持ちよかったし、ディナーはとてもおいしかったけれど、お母さんと夕樹と作るえび焼売がなつかしい。あたしは一生ここで暮らすのかなあ、と考えてみる。べつにそれも悪くはないんだけど、お母さんたちにはちゃんとお別れくらい言いたい。
魔王はいじわるだけど、悪い人ではない気がする。革袋を返さなければ、ずっとこのまま、ここにいさせてもらえそうだ。だけど美紗自身がどうしたいのか、それが一番分からない。仕返しもできたし気も済んでしまった。
暗闇の中で目を開けていると、今日見た様々なものが浮かび上がる。冷蔵庫に貼ってあったあたしの似顔絵、昔の手紙、猫のぬいぐるみ―― なんだかむしゃくしゃしてきた。昔のあたしの大切なものは、みんな誰かに関わるもの。お母さんが描いてくれた絵や、友だちからの手紙や、おばあちゃんの買ってくれた猫や。今のあたしが大切なのは、この自分自身だけ。なんだか人でなしに育ったみたいで腹が立つ。自分を人でなしなんて分かってしまう、まともな感覚が残っていることも腹立たしい。
真希の大切な好きな人の写真も、明美の大切な真希からのプレゼントも、みんな誰かにつながっている。真希の言ったとおり、あたしだけがひとりぼっちなんだ。
美紗はやおらベッドに身を起こしスリッパを突っかけると、つかつかと扉に向かった。無用なことを考えるときは、ほかのことをしたほうがいい。トイレにでも行って来よう。扉を押すとやけに重い。その理由はすぐに分かった。扉に寄りかかって、天狗のじいさんがいびきをかいていたのだ。
「なんでこんなとこで寝てるの?」
美紗はちょっと怒って、その耳元で大きな声を出した。じいさんはびくっとして目を開けると、
「わしゃあ、おぬしの見張りをしているのじゃ。おぬしが、そいつをいつまでたっても魔王様に返さねえから、みんな仕事が増えてるんじゃぞう」
と革袋をにらむ。
「見張りが寝てちゃだめでしょ。あたしが逃げないようにトイレに連れてってよ」
じいさんは、どっこいしょ、と立ち上がった。
「わがままな娘じゃなあ」
トイレから帰ってくると、向こうの壁のほうにぼんやりと、小さな二つの光が見える。
「眠れないのか?」
声をかけられて、それが魔王の金の瞳だと分かった。美紗はうなずいて魔王のほうへ近付く。考えてみたら、いつも夕樹と二段ベッドで寝ているのだから、こんなに離れて寝たら淋しいに決まっている。
「せっかく同じ部屋にいるんだから、もっと近くで寝よう」
美紗はかごを抱き上げると、広い部屋を横切って自分の枕の横に置いた。枕元には窓がある。カーテンの隙間からさしこむ月明かりに誘われて、そっとカーテンを引くと、豪華なベッドとかごの中の魔王が透明な光の中に浮かび上がった。冷たい窓に額をくっつけると、下に広がる石の町は冷ややかな銀の光に照らされて静かに眠っている。
「ここで寝てよ、いいでしょ」
ちょこんと首をかしげて、美紗は魔王の銀色の髪を撫でる。魔王は猫みたいに頭を振って、
「偉大な私を馬鹿にするな。美紗、寝相はいいのか?」
「悪いよ。でもあんなに離れてちゃ淋しいでしょ」
魔王は溜息をついて、かごの中の布団にもぐり込んだ。
「悪い夢を見ろよ、美紗」
「魔王ちゃんもね」
笑って足を突っ込んだ布団の中は、トイレに行く前とはうってかわって、こたつの中みたいにあったかい。態度に似合わない、魔王の静かな寝息を聞きながら、美紗もやがて小さないびきをかきだした。
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