男装皇女の逆転劇~双子の兄に変装して偽装結婚する相手は隣国王女――と思いきや、女装した超絶美形王子に溺愛されるなんて聞いてません!~

綾森れん

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第一幕:皇女ヴァイオラ、男装して隣国王女と結婚する!?

07、婚約者ユーグとご対面

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「名案かもしれないな」

 膝の上に置いた手紙に視線を落とし、侍従長の言葉を思い出す。手紙を持参した使者は、転移陣を使って帝都を訪れたと言っていた。通常、帝国内外の要人や使者は、城壁外に建つ転移塔にやってくる。宮殿地下にも転移のが設けられているが、皇族専用だ。

「ニーノ、使者はまだ転移塔にいるだろうか?」

「いえ、おそらく宮殿内の応接間で休んでもらっているでしょう。午前中の転移塔は混みますから」

 帝都に用がある地方貴族や外交使節が皆、午前中に訪れるためだろう。

「では応接間へ行って、皇太子セザリオは辺境伯領を訪問し、婚礼延期の子細を語る用意があると伝えてほしい」

「辺境伯領へは本日うかがう予定ですか?」

 ニーナの問いに驚いて、私は首を振った。

「いくらなんでも急すぎるだろう。ジョルダーノ卿の返答をもらってからでなければ失礼だ」

「ですがセザリオ様」

 ニーナは声をひそめた。

「明日も同じ立場でいられるかどうか――」

 そう、いつ兄が目覚めるか分からないのだ。

「行くなら今しかないか」

 意を決して立ち上がった私の膝から手紙がすべり落ちた。

「皇太子殿下の外遊なら妃も同行いたします!」

 ミシェル様もソファから腰を上げ、私の腕を抱きしめる。想像以上に強い力で引き寄せられて、たたらを踏んだら、

「セザリオ様ったら危ない」

 ミシェル様は甘くささやいて抱きとめてくれた。

 やっぱりミシェル様、女性とは思えないほど怪力よね!?



 使者はニーナの予想通り、宮殿内の応接間で暖炉にあたっていた。皇太子が今すぐジョルダーノ卿を訪問したいと伝えると驚かれたようだが、ニーナは、皇太子は非常に多忙であるという理由で押し切ったそうだ。

 皇太子の封蠟が押された手紙を持たせることで、使者には転移塔での順番を繰り上げてもらい、一足先に辺境伯領へ戻っていただいた。彼からジョルダーノ卿へ事情を伝えてもらったあとで、私たち四人は宮殿地下から辺境伯邸へ転移した。

 魔法陣の光が消えると同時に、足元が見慣れない大理石の床に変わる。ほの暗い転移室の中、ジョルダーノ辺境伯領の魔術師たちに迎えられた。

「まさか本当に皇太子殿下が自らお越しになるとは!」

 皇太子が直々に状況説明に訪れるなど前代未聞なのだろう。

 魔術師たちのうしろから、執事らしき壮年の男性が進み出て、ひざまずいた。

「セザリオ殿下、ようこそジョルダーノ領へ」

 私たちは彼に案内されて、ジョルダーノ辺境伯の待つ応接間へ向かった。

 辺境伯はどっしりとした体格に似合わず、非常に焦っていた。

「皇太子殿下がお越しくださるとは、なんとお礼を申し上げればよいか。決して殿下をお呼びたてしようと手紙を書いたわけではなく――。何の準備もございませんで、恐れ入ります」

 額に汗を浮かべて早口でまくし立てる辺境伯に、私は笑みを浮かべて首を振った。

「突然の事故により婚礼の儀が延期となり、ジョルダーノ卿には迷惑をかけてしまった。せめて誠意を示したかっただけですから、もてなしは不要です」

「殿下はお忍びの訪問ですから」

 小姓姿のニーナも付け加えたが、辺境伯は両手のひらを向けて制止した。

「いやいや、そうは行きますまい。せめてお食事だけでも召し上がっていってください」

 廊下からは、小走りで行き交う使用人たちの足音が聞こえる。急遽、昼餐会の準備を整えているようだ。

「わしは使用人たちをせかして参りますゆえ、お食事の支度をお待ちいただく間、皆様方には息子の案内で屋敷の中をご覧いただきましょう」

 卿は礼をするなり、金縁が華やかな白い扉から出て行ってしまった。行き違いに応接間へ入って来たのは、青白い顔をした、痩せぎすの青年だ。くすんだブロンドに、ガラス玉のように色素の薄い水色の瞳には、どことなく見覚えがある。

 嫌な予感がするわ。この方、まさか肖像画の――

「お初にお目にかかります、皇太子殿下。ジョルダーノ辺境伯の息子、ユーグと申します」

 やっぱりぃぃぃ!

 深く礼をして伏し目がちに名乗る姿は、どこか自信がなさそうだ。

「よろしく頼む、ユーグ」

 皇太子然とした演技で応じると、頭を上げたユーグが切れ長の目で私を見た。途端に不健康そうな頬が薔薇色に染まる。

 なになに? どういう反応? まさか女性だとバレたの!?

 口元にニタァと笑みを浮かべたユーグは、白っぽい舌で乾燥した唇を舐めた。

 私は思わず後ずさり、ミシェル様を守るように抱き寄せる。

「紹介しよう。わが妃、ミシェルだ」

 ミシェル様が優雅にカーテシーをして自己紹介するが、ユーグは興味なさそうに一瞥しただけだった。失礼な態度に私が苦言を呈する前に、

「セバスチャン」

 ユーグが執事を呼んだ。

「妃殿下とお付きの方々に庭園を案内して差し上げろ」

「待て」

 私は割って入った。

「妻には邸内を見せてもらえないのかな?」

「お言葉ですが、殿下。辺境伯領では隣国との戦に備え、武器庫も充実させております。女性には刺激が強すぎる上、わが領の防衛に関わる機密事項となっておりますゆえ、奥方様やお付きの方々にはご遠慮願いたい」

 こうべを垂れたまま滔々と述べる。どうやらこの男、頭は悪くないようだ。

「分かった」

 私は苦い声で応じるしかなかった。ミシェル様の故国スーデリアが、つい最近まで帝国と敵対していた事実を、ユーグも当然知っているだろう。

「セザリオ様――」

 辺境伯邸の使用人に促されたミシェル様は、応接間の出口で私を気遣うように振り返った。

 彼女を安心させようと、私はうなずいて見せる。

「それではセザリオ殿下」

「ひっ」

 ユーグの汗ばんだ冷たい手に右手を取られて、私は思わずのけぞった。

 応接間を出ようとしたユーグとすれ違いざま、執事が彼の耳元でささやいた。

「坊ちゃま、くれぐれも失礼のないように。変な癖を出してはいけませんぞ」

 変な癖ってなに!?
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