何様?俺様、お兄様〜義兄に落ちる10のステップ〜

桜屋敷 櫻子

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Step1

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 私と御沙希さんを乗せたタクシーが、とあるホテルの前で止まった。



 御沙希さんが予約してくれたホテルは、一泊でもそれなりにしそうなホテルだった。今さらだが、私のお財布の中身はスカスカだった。バーでカクテルの代金を払ったら、諭吉が飛んでいったもので。電車で自宅まで帰るくらいのお金はあるが、タクシー代もホテル代も払えそうにない。そのことを正直に御沙希さんに伝えると、タクシー代もホテル代も俺が持つからいい、と言われた。



 こんなことでいい人扱いするのはどうかと思うが、やはり御沙希さんは悪い人ではないのかもしれない。これで、ヤリ逃げされなければ、だけど。でも、自分に言い聞かせたじゃないか。一夜限りの関係だ、と。やり逃げはされたくない、一夜限りは嫌だ。そんな面倒なことは言いたくない。男性が面倒な女性を嫌う傾向にあるのは、何となく理解していた。でも、私は……御沙希さんをそんな酷い人にしたくなかった。





 「おい、歩けるか?」



 「ん、大丈夫です」





 先に降りた御沙希さんが、足元の危うい私を支えてくれる。タクシー代の支払いを終えた御沙希さんが、ホテルの玄関までの数メートルをエスコートしてくれる。俺様なのか、紳士なのか、よく分からない人だ。ホテルにチェックインして、案内のあった部屋まで御沙希さんが肩を抱いて歩いてくれる。徐々に頭が回るようになってきて、現状に危機感を覚えた。あれ?私、何やってる?と。



 不倫をしていた上司にフラれ、バーで泥酔し、初対面の男性に誘われるがまま、ホテルにいる。その状況は危機的状況に思えた。でも。御沙希さんが付けてくれたフレグランスの香りが香る度に、ドキドキして、これでいいのだ、と自分を説得してしまう。私は何をやっているのだろう。私は何がしたいのだろう。そう思う度にフレグランスが香る。御沙希さんに抱かれたら、このフレグランスは強く香るのだろうか。





 「部屋、着いたぞ」



 「……失礼します」



 「俺とお前の部屋だから、畏まんなくてもいいんじゃねぇ?」





 御沙希さんと私の部屋。急激に意識してしまう。御沙希さんの態度も変わった。歌を歌ってくれていた時のように、低く、甘い声で私を誘う。気持ち良いことして、嫌なことは忘れちまいな、と。低身長の私に合わせて、御沙希さんは屈んでキスをする。御沙希さんのキスはカクテルの味がした。



 また酔ってしまうんじゃないか、というくらい濃厚なカクテルの香り。目眩がしそうだ。





 「御沙希さん……また酔っちゃいそうです」



 「じゃあ、また介抱してやるよ」





 遊べるほどの数の女性が御沙希さんに惹かれる理由が分かった気がする。カクテル以上に甘いのだ、この俺様紳士は。私の身体をなぞる指先も、口説き文句の上では極上の気持ち良さを生む。認めちゃいけない気がしていたが、私の身体は御沙希さんの唇に、指先に、反応していた。一夜限り。きっと一夜限りだけど、それでもいい。私はそう決めて、御沙希さんの頬に手を伸ばした。



 まだ酔っているのか、熱かった。
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