クールな女医さんはお砂糖で出来ている

桜屋敷 櫻子

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プロローグ

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 次の日、私がまた500円玉を握り締めて売店に行くと、おばちゃんはレジで居眠りをしていた。疲れているのか、深い眠りについているようで、私の来店にも気付かないようだった。そして、私は、私がおばちゃんを助けてあげられればいいのに、と思った。でも、こんな身体じゃ、こんな子供じゃ、出来ることなんてない。



 私は静かに買い物をした。今日はシュークリームを買うことにした。でも、お会計をするにはおばちゃんを起こさなければならない。申し訳ないけど、私はおばちゃんに声を掛けた。起きない。エプロンの裾を引っ張って、ようやくおばちゃんは起きてくれた。そして、私の顔を見るなり、満面の笑顔を向けてくれる。いらっしゃい!と。





 「ごめんねぇ、すっかり寝ちゃってたわ」



 「おばちゃん、疲れてるの?」



 「この通り、あたし1人で売店を回しているから。定休日以外はフル稼働よ」



 「私に出来ること、ない?」





 私の言葉を聞いて、おばちゃんは考え込む。もし、私にも何か出来るなら、何かあるなら言ってほしい。おばちゃん1人で売店を回すなんて、無茶に思えたから。そして、おばちゃんは私の頭を撫でて言った。それじゃあ、乙女ちゃんが働ける歳になったら、おばちゃんを手伝っておくれ。アルバイトはいつでも歓迎だよ、と。働ける歳。高校生とか?





 「こーこーせーになったら、働ける?」



 「うーん。高校生には勉強を頑張ってほしいから、卒業してからかな」





 私が高校を卒業するのは、今から何年後だろう。それまで、おばちゃんは待ってくれると言うけど、今、何か手伝いたい。お掃除でも、何でもいい。それをおばちゃんに伝えると、今は体調を整えてあげな、と言われてしまう。まぁ、それもそうなのだけど。体調が悪化したら、売店にも来れなくなってしまう。私はおばちゃんに頷き、シュークリームを手渡した。明日はエクレアが入荷するよ。おばちゃんは鼻歌混じりにそう言った。エクレアか。食べたことがない気がする。明日も来るね、私はおばちゃんにそう言った。



 シュークリームを手に病棟へ戻ると、主治医とばったり会った。そして、そろそろ退院に向けて動いてもいいね、と言われる。退院。嬉しい言葉なのに、もうおばちゃんと会えなくなる寂しさが勝ってしまった。でも、いつまでも病院にいるわけにはいかない。ご家族に連絡しておくね。そう言って、主治医は立ち去った。何だかモヤモヤしてしまい、私はナースステーションに行った。この病棟の看護師さんたちはみんな優しい。こんな気持ちも、きっと受け止めて、助言をくれるはずだ。





 「すみませーん……」



 「あら、乙女ちゃん。どうしたの?」



 「モヤモヤする……」





 看護師さんは、静かに私の話を聞いてくれた。そして、さっき、主治医が「乙女ちゃんの退院日を決める」と言っていたことを教えてくれた。私はもう、長くこの病棟にはいられないらしい。嬉しい、寂しい、不安、楽しみ。色んな感情が胸の中で渦巻く。また父と妹と暮らし、学校に通う日々に戻るだけ。それだけ。でも、この病棟に長く居過ぎた。この病棟は第2の自宅のようなもので、看護師さんたちも家族同然だった。このこと、おばちゃんに話してみようかな。私は次の日も売店へ行った。
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