保健室の秘め事

桜屋敷 櫻子

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秘密の放課後

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 右を見る、人はいない。左を見る、人はいない。後ろを振り返る、よし、人はいない!周囲に人がいないことを確認して、私は目の前の保健室の扉を小さくノックした。扉には「留守です」のプレート。でも、中に今井先生がいることを、私は知っている。

 



 「今井せんせ、」





 私は小さな声で、今井先生を呼んだ。すると、中からガチャリ、と鍵を開ける音がした。そして、カラカラカラ、と扉が開く。保健室の中からは、紅茶の良い香りがした。その香りに誘われるまま、私は保健室の中へと足を踏み入れる。





 「失礼します」



 「はい、どうぞ。午後もしっかり勉強してきましたか?」



 「もちろんです!」





 保健室の中に入り、扉を開けてくれた今井先生と他愛のない話をする。そして、私はもはや定位置となった、今井先生のデスクの脇の椅子に腰を下ろす。最近、クッションを新調してくれたらしく、椅子の座り心地はふかふかだ。

 今井先生のデスクの上には、紅茶の入ったティーカップが二つと、見ているだけで幸せになれるような、綺麗なデコレーションのされた二種類のケーキが一つずつあった。ケーキの隣で、シルバーのフォークがキラキラと輝いている。





 「わぁ、今日は二種類なんですね!」



 「はい、ショートケーキとチョコレートケーキ、どちらにします?」



 「うーん……」





 私が悩んでいる間にも、今井先生の淹れた紅茶は冷めていく。けど、ショートケーキとチョコレートケーキ、どちらも美味しそうなので、とてもとても決めかねる。

 私がうんうん唸っていると、デスクの前に座った今井先生の手が、スッとケーキのお皿に伸びた。そして、ショートケーキとチョコレートケーキ、両方のお皿を私の前に移動させる。

 ん?と、今井先生の顔を見ると、ニコッと微笑まれた。その笑顔にズキュンと射抜かれ、私の心臓はドキドキし始める。かっこいい、相変わらずイケメン、ヒロにそっくりだとか、そっくりじゃないとか、もうそういう次元を超えている気がする。





 「今井せんせ?」



 「そんなに悩んでもらえると、二種類作った甲斐があります。良かったら、両方どうぞ」





 ……なにそれ、なにその笑顔。反則ですよ。



 

 「でも、今井先生の分、なくなっちゃいます……」





 正直、両方食べたいし、お腹も空いてはいるけど、一応、遠慮しておく。





 「構いませんよ。女の子は欲張りな方が可愛いんです、両方どうぞ?」



 「え、っと……じゃあ、両方いただき、ます」





 今井先生は「いつも」こんな感じだった。





 顔だけイケメンなわけじゃなくて、内面もとってもイケメンな今井先生。ちょっと意地悪なところもあるけど、すごく優しくて。しかも、お店で売っているようなレベルのケーキを作れてしまう器用な人。そして、ヒロに似ている(やっぱりこれは大事だ)。



 私はそんな素敵な今井先生と、毎日、放課後の時間を共にしているのだった。いや、正確には、お昼休みも毎日、今井先生と一緒に過ごしている。お昼休みにはお弁当を持って、放課後には荷物を持って、保健室を訪れる。それが、私の日課になっていた。
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