保健室の秘め事

叔父の心配

３

　お昼休み、朝のゆきちゃんとのやり取りを思い出しながら、いつもより少し遅れて、保健室を訪ねた。頭がぼんやりしている。笑顔で迎えてくれる今井先生、言わなきゃ。寂しいけど、言わなきゃ。





　「あの、今井先生……」



　「なんですか？今日は元気がないようですが、佐藤先生となにかありましたか？」





　……なんで、わかっちゃうんだろうな。気付いた時には、私の目からは涙がこぼれていた。嫌だ、言いたくない。ゆきちゃんのことは好きだけど、やっぱり、今井先生と会えなくなるのは嫌だ。……ふわっと、今井先生の香りが、私を包んだ。





　「いまいせんせ……？」



　「……僕たち、少し離れましょうか」



　「っ、やだ……。今井先生と会えなくなるなんて、嫌……」





　今井先生の腕の中で、私は小さな子供みたいに駄々をこねた。私の涙が、今井先生の白衣を濡らしていく。今井先生は、私の身体を抱き締めながら、落ち着いた声で話す。

　本当に少し離れるだけです。会う頻度を、週二日くらいに減らしましょう。今井先生がなにか言う度に、私は首を横に振った。今井先生は、寂しくないの……？私と会えなくなっても、いいの……？





　「……さぁ、今日は教室でお昼を食べなさい。良い機会です、色んな友達を作るといいですよ」





　……これ以上は、聞いていられない。私は今井先生の腕の中から強引に抜け出すと、失礼します、も言わないで、保健室を飛び出した。校舎の中を全力で走る、時々、他の生徒とぶつかりながら。私は、どこへ向かっているんだろう。

　息切れと涙でボロボロになった私が行き着いたのは、屋上だった。よく、ゆきちゃんがお昼休みを過ごしている場所。キョロキョロと周りを見回すと、フェンスに寄りかかって、うたた寝をしているゆきちゃんを見つけた。





　「ゆき、ちゃん……」



　「ん、雛……？」





　私が名前を呼ぶと、ゆきちゃんは目を覚まして、私の名前を呼んだ。そして、私が泣いているのを見ると、慌てて駆け寄ってきた。どうした、雛！？……どうもこうもないよ。私、もしかしたら、今井先生に嫌われちゃったのかもしれない。