保健室の秘め事

桜屋敷 櫻子

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幼馴染みで元カレで不良な転校生

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 午後の授業には、全く集中出来なかった。放課後になったら、保健室の鍵を返して、今井先生とは本当にお別れ……だから。

 今井先生と別れる。それは、半ば、勢いで決めてしまったことだった。今井先生の気持ちも考えもちゃんと聞かず、私が勝手に決めたことでもある。でも、これが最善だろう、と思った。きっと、もう、元の関係には、戻れないんだろうし。


 「ひーなっ!」


 私が自分の机でぼんやりしていると、健斗の声がした。あぁ、そうか、もう授業もホームルームも終わったんだっけ。お昼休み、健斗と約束したことを思い出す。
 放課後、保健室に寄って、私が用事を済ませたら、そのあとは、健斗と一緒に過ごす。健斗の家に行って、無駄話に花を咲かせる。そのあとは、また、カレカノとして……身体を重ねよう、と。

 健斗と手を繋いで、校舎の中を歩く。デカい上にイケメンである健斗と手を繋いで歩いていると、めちゃくちゃ注目されるんだ、ってことを、今さら思い出した。
 放課後で、学校にいる生徒は少ないのに、他の生徒とすれ違う度に、良い意味でも悪い意味でも注目される。一番多かった反応は、私に対する陰口だったけど。モテるんだよね、健斗。


 「なぁ、ひな?」

 「ん?」

 「保健室に用事って、なんだよ?」

 「忘れ物、しちゃってて」


 曖昧に笑って、誤魔化した。ごめんね、健斗。嘘ついた。でも、私が保健室の鍵を持っていたことは、本当に本当に、秘密にしなければいけない。
 今井先生が勝手に校外に鍵を持ち出し、スペアを作ったこと。それを、生徒である私にあげたこと。それがバレるのは、こうして、私と今井先生の関係がバレるのと、同じくらいマズいことなはず。

 健斗と喋りながら歩いていたら、あっという間に、校舎の一階の外れ、立ち寄る人はあまりいない、保健室の前に着いた。保健室の扉には、いつもの「留守です」のプレート。でも、たぶん、今井先生は中にいる。


 「健斗、ちょっと昇降口で待ってて」

 「なんで?忘れ物なら、すぐ取ってこれるだろ?」

 「今井先生に、カウンセリングをやめますって、言っておきたくて」

 「……そっか。でも、留守です、って書いてあるぞ?」

 「んーと、たぶん、中にいると思う」


 いよいよだ。ズキン、ズキン、ズキン、と、胸が痛む。保健室の扉を開けようとする手が、震える。手に力が入らない。駄目だ、このままじゃ……泣いてしまう。
 私の手が、保健室の扉から離れそうになった時、健斗の手が、私の手の上に重ねられた。健斗の加える力で、カラカラカラ、と、保健室の扉が開く。


 「……いないね」

 「留守にするんなら、鍵を掛けとけっての」


 今井先生がいない、紅茶の香りがしない、保健室。私の定位置だった場所に、もう椅子はない。もう、私がここに来ることはないのかもしれない。
 今井先生と一緒に過ごした時間は、そう短いものでもなかった。泣かないつもりだったのに、勝手に涙が溢れてくる。そんな私を抱き締めるのは、今井先生じゃなくて、健斗。

 あぁ、いっそ、全てを忘れたい。
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