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憧れという君はこっちを見ない

心臓3

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アレンくんにハンカチを貰って、そこに焦点を定めながら深呼吸していると落ち着いてきた。

涙も止んできた。
私は本当に酷い。アレンくんのこと困らせている。今だって、アレンくんは不安げに瞳を揺らしながら私のことを見ている。

でも、それが嬉しい。本当に私は酷い人。こんな風にハンカチを借りれたのも、さっき抱きしめられたのも全て心臓が止まりそうなほど嬉しかった。もっともっと求めてしまう。

片膝立ちで、両手を握ってきたアレンくんは王子様みたいだった。

私はこんな風に感じない、感じてはいけないって思っていたのに、止まらない。けれども止めなければ、この気持ちを受け止めきれずにまた泣いてしまいそうだ。だって誤魔化しようもなく、恋、でしかないのだから。

こんな欲に塗れた己とアレンくんを見比べると改めて自分がいかに汚い女なのか良くわかる。

私と話したいと思っていたとは、アレンくんの夢は美しい。私なんか、最近は連日のようにアレンくんと性行為をする夢を見てしまっている。そして現実でも強い自制心を持たないと触れてしまいそうになる。アレンくんに触れそうになる自分を重い全力で殴り、鋭い言葉で切り刻みでももしない限り止められない。

日々それが強くなっている。
側にいると尚更、もっと酷くなる。

さっきは、まさかアレンくんに抱きしめられると思わなくて、息が止まりそうだった。ずっと求めていた温もりをやっと得ることが出来て幸せに感じてしまった。ずっとそのままでいようとした。いたかった。心から。

けれども、そんなのはわがままだ。


私はアレンくんには釣り合わないのだから、そんな思いを抱くことそのものが間違っている。

アレンくんのことを感じたい、知りたい、触れたい、この気持ちを止めないといけない。止まらない。止めないと。


もう1度深呼吸をした。
そうでもしないと溢れ出しそうなものでもう1度泣いてしまいそうだ。変に感情的になって泣くのはやめよう。

確かに私はアレンくんとセックスする夢ばかり見ている。それは恥ずかしい。アレンくんみたいに美しい夢なんか全然見てない。繰り返すが、連日のように濃厚なキスをする夢か性行為の夢しか見てない。汚いんだ。

アレンくんに貰った資料には、願望を叶える必要があるとあった。だが、どうすればいいんだ。『アレンくん、連日のように貴方と性行為をする夢を見て辛いので抱いて、お願い。』『口付けて、お願い』とか言えばいいの?

言いたいとは思えない。
アレンくんとそういうことをするのは申し訳ないし、そういう目で見ないと決めてる。

それに第一に、私とアレンくんは付き合っていない。付き合うこともないと思うが。

そんな不確かな関係の男女がそんなことしたら泥沼に嵌ると思う。だって世の中ではそう言われているから。

私はアレンくんのことをこの世で1番美しいと思っているし、重い女になってないように見せる自信がある。だが、私の心はどうなる。
それに未成年が性欲を満たすだけの関係だなんて爛れてる。

言えるはずがない。

やっぱり改めて考えても全く持って、どうすればいいのかわからない。

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