悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛

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小さく大きい温かさ

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 馬車から降りて金を払う。十分お釣りが返ってくる額だったが、それを受け取る暇もない。

 レイアを抱えて急ぎ足で家の中に入る。使用人にも簡単な事情も話さないまま、客室に向かう。2人ほど女の使用人を呼んで服を持って来させる。

 レイアはまだ怯えていて、光の下に居るのも関わらず瞳には光が入らない。
 濡羽色の分厚い睫毛が瞳に一際暗い影を落とす。目元も少し赤く腫れており、身体は小刻みに震えている。

 俺は救急箱を持ってきて手当にかかる。手を伸ばすと、レイアはビクリと身を縮こませた。

      やはり怖いか。

 使用人を呼ぼうとすると、レイアは声を上げる。

「違う、違います、違うのです。エヴェレット様が怖いわけでは無いのです。むしろ私は、エヴェレット様が助けてくれて、今、側にいてくれて、安心してるのです」

 そんな事を思っていてくれたのか。怖がられているわけではないらしい。少しの安堵が心に落ちる。
 俺は一言言ってから、レイアの首に触れる。蝶を、花を扱う様に丁寧に。
 傷口に新しいガーゼを貼ると、使用人が服を持ってきてくれた。

 使用人に頼んで俺は一回着替えるためにこの場を外そうとする。そのとき、レイアは不安そうな、寂しそうな顔で俺を見つめる。
  俺はドアを閉めると、早足で自室に戻り急いで着替える。


 ーあんな顔をされては、1秒でも離れたくなくなるだろうが。


 戻るとレイアはもう着替え終わっていた。白のシルクのワンピースで、少し大きい様で袖から手が出ていない。

ー可愛いな。

 大事なときなのに、そんな事を思ってしまう。

 そんなレイアをじっと見ていたら、レイアはオドオドしながら口を開く。
 どうやら俺のマントを綺麗に畳んでくれたらしい。確かに騎士にとって重要なものではあるが、そんなのすぐ汚れるし良いのだが。俺はそれを受け取り、近くの机に置く。

 ベッドに座れと促すと、レイアはベッドの端にちょこんと座った。
 もっと真ん中に座っても良いのだが、本当に謙虚だ。そんな態度も相まって余計にレイアが小さく見える。

 レイアと向かい合い、俺が何があったか聞く。レイアのことだ。素直にはいと答えて、何があったか喋ってくれるだろう。
 
 しかし、こんな事話したくないだろう。少なくとも、時間を置くべきだ。

 俺はレイアの返事を待たずしてこの話を切り上げる。もう夜遅いし、レイアに寝ろと言うが、レイアはまだ眠たくなさそうだ。
 いや、寝れないと言った方が良いだろう。怖いのだ、1人が。ここは安全だと分かっていても、さっきのことが身にこびりついている。
 
 俺は提案をする。飯とか、そこら辺。しかし、あんな事を体験した後で腹が空くとは思えない。何をして欲しいか聞くと、レイアは口籠る。
 焦ったくて俺が急かすと、目線を下にしたまま小声で言う。

「………さ、3秒だけ、抱き締めて、くれませんか?」

 3秒だけと言うのもレイアらしい。俺は了承してレイアを抱きしめる。
 レイアは俺の背中に一生懸命腕を回そうとする一方、俺は簡単にレイアを腕の中に収める。
 3秒経ってレイアは離れようとするが、俺は離さない。レイアが動くたびにもっと力を入れる。
 離さないでいると、明日も学園があるとか言い出した。

 馬鹿なのか?アホなのか?イカれてやがるのか?何でこの状況で学園のことが出てくるんだ。俺はレイアに今の状況を説明する。レイアは何故かありがとうと言って、俺はレイアを離す。

 何だか名残惜しくてレイアの頭を撫でてやると、レイアは猫の様に頭を俺の手に押し付ける。何だ、甘えられるではないか。

 顎の下を撫でると、レイアは小さな声を上げる。本当に猫みたいだ。

 少し続けていると、レイアは安心したのか瞼を重くさせている。俺がベッドに寝かせてやると、レイアは袖を捲って小さな白い手を出して言った。

「…‥手を、握ってくれませんか?」

 ようやく素直になったレイアに俺は自然と口元が緩む。レイアの手を握ってやると、レイアは今度こそ目を閉じて、寝息を立て始めた。

 レイアの温度が伝わってくる。俺よりも温かい。平熱が高めなのだろうか?小さくとも大きな温かさを送ってくれるレイアを前に、俺は手を握ったまま眠りについた。



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