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過去
烏坂 夕の過去
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僕の家族はおかしかった。
父は、僕が小さい頃母を置いて蒸発した。他所で出来た女の人と駆け落ちしたらしい。本当にバカバカしい。
僕には11歳離れた双子の兄と姉がいて、その2人は本当におかしかった。常識というか、知性というか、モラルというか。そういう生きていくための全てのことを頭から落とした人たちだった。
頭のネジを落としたというか、そもそもネジが無いような人だ。
母は僕たち3人を養うために朝から晩まで働いた。どんな状況でも僕たちを心配させないように笑う、芯の強い母。僕はそんな母が大好きだった。
母は僕と同じ濡羽色の髪を持っていて、長さは胸あたりまで。少しカサついている、不健康ぎみな細い手も、少しオレンジ色に色づいた薄い唇から発せられる、花を撫でるような優しい声も。
何より、色々な色を持っている、夕焼け色の目も。
そんな大好きな母の足枷となっている事実が、僕の心を深く抉った。
そんな母も体調を崩し、病気で僕が小学3年生の頃に亡くなった。
お葬式は親族だけの、とても小さい規模で行われた。なるべく金をかけない。それが兄と姉が行動するときの絶対条件だった。
母が一生懸命働いて残したお金を、2人は一瞬で蝕んでいった。僕は母が死んだ日から、家の家事を1人でやるようになった。僕が居ないと何もできないくせに、文句だけは一丁前で。
ご飯は自分でリクエストしたくせに、気分が変わったら僕に投げつけるし。僕が食べる分の料理は作らせてくれない。
学費なんかも本当に最低限で。遠足とか、修学旅行とかは行ったことがなかった。母が生きている間も、僕は負担にならないように行かなかったし、そこは別に良いのだけれど。
そんな生活も続いて、僕が中学生に上がったとき。ある事件が起きた。
2人が失踪した。
家の金目のものは全部持っていき、僕1人を残して。
それから僕は、施設に入ることになった。しかし、こんな生活が続いた僕だ。上手く馴染めるはずがない。
それに加え、あの事件のせいで、職員は僕に関わろとしなかった。ヤバい奴の妹もヤバい奴だろうと。
それなのに、施設の家事は全部僕が担当だった。本当は週で当番が決まっているはずなのに。
前も1人だったんだから大丈夫だろと。僕に決定権なんて無く、ただただ奴隷のように使われた。僕がご飯を作るのに、僕の分は無くて2日に1食とか。そんな日がよくあった。
中学校でもこの事件が流れ、僕には友達も、先生も誰も寄ってこなかった。でも、それでよかった。小学校のときだって異質扱いされていたし、今更こんなことになったって苦しくも悲しくも何ともない。
高校受験のとき、僕は寮のある学校を受けたかったが、施設はそれを拒否した。寮代がかかるから。施設にいて欲しくないのに、寮に行って欲しくない。
そんな矛盾した状況の中、結局僕は、施設から遠めの高校を受験した。ここなら、同じ中学校の生徒は誰も受けなかったからだ。
高校に合格したときも、誰も僕に声をかけなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
烏坂の過去を聞いて、俺は言葉を失った。
烏坂が何をしたと言うんだ。小学3年なんて、歳は9だぞ。10にも満たない子供に、こんなことをさせるのか。実の妹に。
施設も施設だ。前やっていたからなんて、そんなの規模が違う。前も烏坂本人から聞いたが、2日に1食なんて、生活できないだろう。
そもそも、施設から聞いていた話と違う。施設はこの施設での待遇を話さなかった。今の高校をを所望したのも、本人の意思だと。少し家庭環境がアレだと聞いていたが、これ程とは。
「せんせ、」
「烏坂…」
「………失望、しましたか…?」
その言葉を聞いて、俺は烏坂を抱きしめる。壊さないように、消えないように、慎重に。しかし、逃げないように、力強く。
「せ、せんせ、」
「失望なんてしてたら、お前のことを抱きしめないだろう」
「………そ、か…」
烏坂はフフッと笑う。こんなに辛いのに、なぜ笑うのだろうか。
「せんせ。先生のこと、知りたいです」
「ああ。話す」
そう言って、一呼吸置いてから、俺は過去に思いを馳せながら話し始めた。
父は、僕が小さい頃母を置いて蒸発した。他所で出来た女の人と駆け落ちしたらしい。本当にバカバカしい。
僕には11歳離れた双子の兄と姉がいて、その2人は本当におかしかった。常識というか、知性というか、モラルというか。そういう生きていくための全てのことを頭から落とした人たちだった。
頭のネジを落としたというか、そもそもネジが無いような人だ。
母は僕たち3人を養うために朝から晩まで働いた。どんな状況でも僕たちを心配させないように笑う、芯の強い母。僕はそんな母が大好きだった。
母は僕と同じ濡羽色の髪を持っていて、長さは胸あたりまで。少しカサついている、不健康ぎみな細い手も、少しオレンジ色に色づいた薄い唇から発せられる、花を撫でるような優しい声も。
何より、色々な色を持っている、夕焼け色の目も。
そんな大好きな母の足枷となっている事実が、僕の心を深く抉った。
そんな母も体調を崩し、病気で僕が小学3年生の頃に亡くなった。
お葬式は親族だけの、とても小さい規模で行われた。なるべく金をかけない。それが兄と姉が行動するときの絶対条件だった。
母が一生懸命働いて残したお金を、2人は一瞬で蝕んでいった。僕は母が死んだ日から、家の家事を1人でやるようになった。僕が居ないと何もできないくせに、文句だけは一丁前で。
ご飯は自分でリクエストしたくせに、気分が変わったら僕に投げつけるし。僕が食べる分の料理は作らせてくれない。
学費なんかも本当に最低限で。遠足とか、修学旅行とかは行ったことがなかった。母が生きている間も、僕は負担にならないように行かなかったし、そこは別に良いのだけれど。
そんな生活も続いて、僕が中学生に上がったとき。ある事件が起きた。
2人が失踪した。
家の金目のものは全部持っていき、僕1人を残して。
それから僕は、施設に入ることになった。しかし、こんな生活が続いた僕だ。上手く馴染めるはずがない。
それに加え、あの事件のせいで、職員は僕に関わろとしなかった。ヤバい奴の妹もヤバい奴だろうと。
それなのに、施設の家事は全部僕が担当だった。本当は週で当番が決まっているはずなのに。
前も1人だったんだから大丈夫だろと。僕に決定権なんて無く、ただただ奴隷のように使われた。僕がご飯を作るのに、僕の分は無くて2日に1食とか。そんな日がよくあった。
中学校でもこの事件が流れ、僕には友達も、先生も誰も寄ってこなかった。でも、それでよかった。小学校のときだって異質扱いされていたし、今更こんなことになったって苦しくも悲しくも何ともない。
高校受験のとき、僕は寮のある学校を受けたかったが、施設はそれを拒否した。寮代がかかるから。施設にいて欲しくないのに、寮に行って欲しくない。
そんな矛盾した状況の中、結局僕は、施設から遠めの高校を受験した。ここなら、同じ中学校の生徒は誰も受けなかったからだ。
高校に合格したときも、誰も僕に声をかけなかった。
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烏坂の過去を聞いて、俺は言葉を失った。
烏坂が何をしたと言うんだ。小学3年なんて、歳は9だぞ。10にも満たない子供に、こんなことをさせるのか。実の妹に。
施設も施設だ。前やっていたからなんて、そんなの規模が違う。前も烏坂本人から聞いたが、2日に1食なんて、生活できないだろう。
そもそも、施設から聞いていた話と違う。施設はこの施設での待遇を話さなかった。今の高校をを所望したのも、本人の意思だと。少し家庭環境がアレだと聞いていたが、これ程とは。
「せんせ、」
「烏坂…」
「………失望、しましたか…?」
その言葉を聞いて、俺は烏坂を抱きしめる。壊さないように、消えないように、慎重に。しかし、逃げないように、力強く。
「せ、せんせ、」
「失望なんてしてたら、お前のことを抱きしめないだろう」
「………そ、か…」
烏坂はフフッと笑う。こんなに辛いのに、なぜ笑うのだろうか。
「せんせ。先生のこと、知りたいです」
「ああ。話す」
そう言って、一呼吸置いてから、俺は過去に思いを馳せながら話し始めた。
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