灰色に夕焼けを

柊 来飛

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止められない想い

ずるくて大好きな人

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 パチリと目を開けると、そこには真っ白なシーツが。
 ああ、そうか。僕、熱出して、それで…。

 昨日のことが頭に鮮明に蘇る。僕のことを話して、先生のことを聞いた。先生も施設育ちだったのか。だから、僕を預かってくれた。僕に優しいのも、きっとそれが理由。深い意味なんてない。

 横を見ても先生はいない。
 やはり、僕に愛想尽かして捨ててしまったのだろうか。先生はそんな冷たい人ではないと思っているけど、僕も僕だ。風邪なんて引かないと言ってこのザマだし。家事をすっぽかしてしまったし。


  僕には勿体無いくらい贅沢な結末だ。


 そう思い起きあがろうとすると、部屋のドアが開いた。

「せ、せんせ…」

「バカっ、まだ動くな」

 先生はお盆に飲み物と薬の箱、そしてタオルを乗せている。先生は僕の隣に来て額に乗っていたタオルを取り替える。

「先生、居た」

「当たり前だろ。お前が風邪引いてんのに何でどっか行くんだよ」

「捨てられたかと思いました」

「だから、捨てねぇよ。いい加減、信じてくれ」

「……こんなに、優しくされたの初めてで、まだ、信じられないんです。これが夢なら、もう、一生覚めないで欲しいです」

 そう言うと、先生は僕の頬をつねる。

「い、いひゃいれす、」

「痛いなら、現実だ」

 パッと手を離され、つままれた頬を撫でられる。先生の大きな手が冷たくて、僕はその手を取って首に当てる。

「まだ熱いな」

「でも、かなり楽になりました」

 笑って見せると、先生も安心したように薄く笑う。

「夕」

 不意に名前を呼ばれ、僕の流れていた時がが止まる。

「せ、」

「名前で呼べって、昨日言っただろ。覚えてないのか?」

 覚えている。その時は本当に心細くて、何か繋がりが強いものを求めた。それで導き出した答えがそれだった。

「……お、覚えて、ます」

 そう言うと、先生は満足したように僕の頭を撫でる。

「せん、」

「だから、名前だろ。俺だけ名前じゃ、フェアじゃない」

 何だか聞き覚えのあるやり取りを通した後、僕も先生の名前を呼ぶ。

「…た、鷹翔、さん」

「何だ、夕」

「も、………もっと、撫でてほしい……です」

 先生は、よし来たと言わんばかりに僕の頭を撫でる。わしゃわしゃと撫でたり、ゆっくりと撫でたり。頭だけでなく耳や頬を触ったり。とにかく沢山触れてくれた。

「………た、鷹翔さん。の、体って大きいですよね。僕の腕が背中にギリギリ回るくらいだし」

「俺は夕を簡単に抱きしめられるけどな」

 そう言って先生は僕を抱きしめる。僕は腕を伸ばすが、やっぱりギリギリだ。
 先生が僕を抱きしめる力が強くなる。僕の耳に先生の鼓動が直接伝わってくる。

「…‥生きてるんだな、夕は」

「生きてますよ」

「…‥ソファに倒れてたとき、本当に怖かった。ベッドに運んだときも、少し目を離したら消えそうで。手を離したら、どこか行ってしまいそうで。本当に、本当に、怖かった……」
 
 先生が弱音を吐く。抱きしめる力はどんどん強くなる。僕はどこにも行かないのに。

 いいや、それは嘘か。

 高校を卒業したら、僕はここを出ていくから。でも、それは先生も知っているはずだし。

「先生は、意外と怖がりで、寂しがりやですよね」

「どの口が言うんだ」

「えへへ」

 特大ブーメランの言葉を言う。でも、違ったんだ、本当は。昔の僕はこんなんじゃなかった。先生のせいですよ。僕を、こんな風にしたのは。

 
 僕を、こんなに弱くしてしまったのは。


 母以外の人の優しさを知ってしまったから。温かさを感じてしまったから。

 
    恋に、落ちてしまったから


 ああ、本当にずるい人だ。ずるい、ずるい、ずるい。優しくて、意地悪で、強くて、弱くて。

 
      僕の、大好きな人

 

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