灰色に夕焼けを

柊 来飛

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止められない想い

敵に回したくない人

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「そういえば、昨日の告白のことは烏坂さんの先生知ってんの?」

「うん。あの人、先生の嫌いなタイプだったらしくって。怒ってた。よくわからないけど、箸も折っちゃったし」

 そこまで言うと、みんなの顔がみるみる青くなっていく。この世の終わりみたいな顔をしているから、心配になって声をかける。

「あ、、あの…」

「うわー………。何でアイツも烏坂さん選んじゃうかなー……。終わったじゃんアイツ……」

「これは………。因果応報だと思うけど…。凄いね……。夕ちゃんが気づいてないのも厄介だわ…」

 みんながポツポツ言う。僕はまだ気づいてないことがあるのか。
 僕はこういう話に疎い。友達がいなかったし、インターネットも高校に入ってからだ。みんなが話す話題についていけないことも多々ある。
 そのために、僕はちゃんとニュースは見ているのだが。

 学校が終わった放課後、帰りの準備をしていると声をかけられる。

「あ、烏坂さんじゃん。よく学校来れたね。動画見てない?」

 それは、昨日の男の子だった。

「見ました」

「へー。見たのに来たんだ。やっぱ図太いね」  

 いちいち反応してるとキリが無い為、さっさと行こうとするが、数人の男子も一緒にいる為通れない。

「噂、広まってるけど、どう?」

「どうも思いません。ただ、断られたからって嘘を流すのは、とても幼稚かと」

 僕が貶すように言うと、彼は逆上する。

「黙れよ施設育ちがよ!!」

「それの、何が悪いんですか。夕飯の支度もあるのでここら辺で」

「施設育ちが作った料理とか、誰が食うんだよ!」

 ギャハハと笑う声を背に僕はその場から去る。
 夕飯の食材を買って、料理をする。どうすれば良いのだ。施設育ちなんて、もうどうすることもできないのに。

「痛っ、」

 ぼーっとしていたら包丁で指を切ってしまった。傷口を水で洗ってから絆創膏を貼る。
 駄目だなぁ本当に。こんなに気にしちゃって。

「熱っ」

 次は火傷をしてしまった。一旦火を止めて、火傷したところを冷やす。ジンジンと火傷したところが熱を帯びて痛む。
 この痛みが今はありがたい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 夕飯を食べていると、先生が僕を見る。

「烏坂」

「…………」

「烏坂っ」

「…………」

「烏坂!」

「っ!はっはい!!」

「また何かあったろ。昨日のことか?」

「……はい」

「今度は何だ?」

「……昨日の、告白の動画をみんなに回されたみたいで」

「あ?動画?」

 先生は箸を握りしめる。まだ新しい箸は買っていない為、代えのものだ。

「前半の部分しかなくて、罰ゲームってことはその動画では分からなくなってて。それで、僕が酷い振り方をしたってことになってるらしいです。馬鹿馬鹿しいですよね」

 先生の箸がまたボキリと折れる。先生は一体何本箸を折るつもりなんだ。家から箸が無くなってしまう。というか、折る物じゃないし、そんな頻繁に折れる物じゃない。

「やっぱ殺そうぜ、ソイツ」

「駄目です!!」

 なんか、先生自分のこと話してから開き直ってないか?本当に物騒だ。本人は冗談のつもりでも、こちらにとっては冗談に聞こえないのだ。
 
「なんでそんなにソイツのこと庇うんだよ」

「庇ってるつもりは無いです。ただ、先生に人殺しになって欲しく無いからです」

「はあー。お前は本当に…」

 そう言うと、先生は僕の手を見て気づく。

「お前、手のやつどうした?怪我、したのか」

「ああこれ。今日の夕飯の時やっちゃって。でも、少し切れただけだし、火傷もすぐ冷やしました」

「火傷もしたのか!?」

 ガチャンと席を立ち上がり、僕の手を取る。

「……このことで、集中出来なかったのか?」

「……お恥ずかしいながら、」

「殺す。絶対殺す。おい教えろ、サッカー部の誰だ。殺してくる」

「やーだー!!」
  
 目が本気だ。今にでもここを出て行って手を血に染める勢いだ。僕は立ち上がって先生の横に行く。先生は座っているのに、僕とほぼ同じ…というか、まだ先生の方が高い。

「ん、せんせ」

 僕は先生の前で両腕を広げる。
 先生は頭の上にはてなマークを浮かべている。
 僕は先生の頭に手を回して、自分の腕に収める。

「から、」

「先生。僕は平気だから、そんなこと言わないで」

 先生の頭を撫でながら言う。最初こそ先生は僕から離れようとしたが、先生は僕の背中に腕を回してグッと僕を自分に寄せる。

「ふふ、先生。分かってくれました?」

「………ああ。まだ殺したいと思ってるが、思うだけなら良いだろ」

「うーん……。まぁ…?」
 
 先生が僕を離すと、僕も離れる。すると、不意に先生の頭を撫でていた手を取られる。

「手ェちっせ」

「先生と比べないでください。これでも、クラスの中では大きい方なんですよ」

「マジか…」

 指をするりと絡められ、ギュッと握られる。僕は恥ずかしくてその手を離そうとするが、先生はそれを許さない。

「せ、先生。ご、ご飯まだ残ってるから、」

「ほんとにちっせぇな…。握力いくつだ?」

「えっと…。でも僕、強い方なので30ありますよ」

「は?30で強い方なのか?」

「え?そうですけど…。先生は?」

「…学校で使ってる握力計あるだろ。それ、100超えるとエラーが出るんだが、」

「はい」

「俺が握ると、エラーが出る」

「………え?」

「前、もっと上まで測れる握力計を握ってみたら、106だった」

「嘘でしょ……」

 100越えなんて聞いたことないんだが。だから箸をあんな簡単に折ってしまうのか。

 パッと手を離される。僕は握られた手をマジマジと見る。

「先生は僕の手をへし折ることも出来るんですね」

「やろうと思えばな」

 怖いことを言って、代えの箸を取り出す。もう箸は折らないで欲しいが。

 何だか、僕は本当に凄い人と暮らしているんだな。


 言うなれば、絶対に敵に回したくない人。

 
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