灰色に夕焼けを

柊 来飛

文字の大きさ
67 / 132
止められない想い

ビールの味

しおりを挟む
 僕が夕飯を作っていると、先生が帰ってくる。ちょうど火を止めたところだったため、玄関まで迎えにいくとお土産にお菓子をくれた。
  先生の耳には僕があげたピアスが付いていて、付けてくれたことに僕は舞い上がった。

 夕飯を食べ終わり、お風呂に入り終わると、先生はベランダでビール片手に飲んでいた。
 僕はトテトテとその隣に行く。

「先生、ビール飲んでるんですね」

「ああ」

 先生がお酒を飲むことは知っていたが、飲んでいる姿は珍しい。何かあったのだろうか。でも、それを聞くのは野暮では無いか?悩みがあったから、今日鬼神さんに会いに行った可能性もあるんだし。
 僕が黙っていると、先生は空になったビール缶を外の室外機の上に置き、僕の頭を撫でる。

「今日も、何かあったのか」

「……なんで、先生は、分かるんですか、分かっちゃうんですか…?」

 僕は先生の胸に顔を埋める。
 そして、今日会ったことを話す。

「動画が、拡散されてて。クラスのみんなは味方してくれているんですけど、僕をよく知らない人とか、あの男の子のファンの子達が勘違いしちゃってて」

「何かされたのか?」

「いえ。また施設育ちのくせにって言われただけです。施設育ちだから、何なんでしょうか。僕は、母に愛されていた自覚はあります。ただ、育つ場所が違っただけなのに…」

「そうだな」

「施設育ちだから、親に愛されなかったとか、可哀想な奴みたいに聞こえて。僕だけじゃなくて、母と先生まで馬鹿にされてるみたいで、」

「………優しいな、お前は」

「?、何がです?」

 何が優しいのだろう。優しいのは先生だ。こんな僕の話を聞いてくれて。

「こんなとき、僕が成人してたら、お酒でもパーっと飲んで忘れられるのでしょうか」

「飲んでみるか?」

「え?」

 先生は空のビール缶を片手にどっかに行くと、代わりに新しいビール缶を片手に戻ってきた。

「ん」

「だ、ダメですよ!」

「そう言うと思って、ノンアルだ」

 確かに、缶にはノンアルと書いてある。が、飲んでいいのか、これは…。
 僕がアワアワしている間に、先生はカシュっと音を立てて缶を開ける。

「ほら、飲めなかったら俺が飲む」

 僕は缶を受け取り、そっと飲み口に唇を近づける。ビールの匂いってこんな感じなんだ。ノンアルだけど。
 コクリと飲んでみると、何とも言えない苦い味が広がる。

「ん゛…、や゛、これ。よくこんなの飲めますね」

「お前も分かるようになるさ」

「か、返します…、苦い…」

 コーヒーとはまた違った苦さだ。少し甘いものだと思っていたが、全然違った。

「ハハッ、どうだ?初めてのビールは」

「こんなの、本当に将来飲むようになるんでしょうか…」

「さあ、それはお前次第だな」

 先生は僕から受け取ったビールをゴクゴクと飲む。そんな勢いでよく飲めるな。

 感心していると、ふと僕は気づく。

 あれ?僕が飲んだやつを、先生が飲んでいる。僕が、口つけたやつを…。

 僕は顔のみならず全身が熱くなる。

 せ、先生と、間接キス、したんだ、して、しまった。恋人同士どころか、親友でもない、ただの同居人なのに。
 
 チラリと先生の方を見るが、先生は特に気にしてなさそうだ。
 そりゃそうか。先生から見た僕はまだまだ子供。妹みたいなものだし。
 僕だけだ、気にしているのは。

「僕、明日もあるのでそろそろ寝ますね」

「…あんまり、1人で抱え込むなよ」

 頭をひと撫でされてから、僕はその場を去る。
 ベッドに入っても、眠気は来ないし、目は冴えるばかりだ。


 初めての間接キスは、苦いビールの味だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...