灰色に夕焼けを

柊 来飛

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止められない想い

脅し

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「えっ…、」

 僕は急いで走り出す。生徒の間縫って走ると、校門前にとても目立つ人影があった。

「せっせんせっ、」

「ああ。烏坂。早いな」

「いや、あのっ、何でここに…」

「仕事休んだ」

「えっ、」

「で、迎えに来た」

 急すぎてついていけない。何で仕事を休んだのだろうか。その場で固まっていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえる。

「あっ!烏坂の先生ー!」

 後ろを向くと、さっきのクラスメイトの女の子と男の子。そして、例のサッカー部の彼がいた。
 男の子は先生の前まで来ると、人懐っこい笑顔で話し出す。

「お久しぶりですね!紹介します、隣のクラスでサッカー部の…って、分かりますよね」

 男の子はニカっと笑顔を見せるが、僕はそんな顔出来ない。男の子に視線を送るが、その子は笑うだけ。女の子も静かに口角を上げるだけだ。

「ああ、君が…。君のことは、よく知ってるよ」

 先生が笑って応答する。が、その目は笑っていない。先生が言ったその言葉にはあらゆる意味が含まれている事を、僕は知っている。薄く弧を描く先生の口元は、とてつもないほど凶悪だ。

「えっ、、あっ…、」

 彼は先生の姿を見てたじろぐ。先生の今の格好は、全身黒色の服だ。そして、僕のあげたピアスとネックレスをしていて、襟元にはサングラスがかかっている。
 角度の影響で、先生の顔が陰になる。それが余計に怖い。

「PTAの仕事で、君の親とよく一緒になるからね」

 先生はあくまでもPTAで知ったと言う。しかし、それは嘘だ。今日、彩葉と伊集院君から聞いたのだ。何でもない顔をして嘘を話す先生の姿に、僕は戦慄する。

「随分、烏坂としてくれてるみたいじゃないか」

 僕と彼は同じタイミングでヒュッと息を呑む。僕の体温がどんどん下がっていく。彼の顔もどんどん青ざめていく。
 僕は掠れた声で先生に話しかける。

「せ、、せんせ…。あの、す、スーパー…。半額商品が、売り切れちゃう…」

「まだ半額になるまで時間はあるだろ」

 それはそうなのだ。まだ半額になるまでは時間がある。でも、今は一刻も早くここから動かないと心臓がもたない。寿命がどんどん削れていく。

「な、何でここにいるんですか?」

 彼は震えた声で先生に尋ねる。先生は口角を上げたまま答える。

「最近、変な輩が多いからな」

「もし夕ちゃんがちょっかいかけられたら、夕ちゃんの先生どうするんですか?」

 クラスメイトの女の子が質問すると、先生は彼から視線を外さずに答える。

「…さあ、話し合いで事がつけばいいが…」

 先生の目が伏せられる。そして、低い声が僕の耳を貫く。


「勢い余って、殺しちまうかもな」


 彼は冷や汗をかいていて、ゴクリと喉を鳴らす。
 僕は震える手を握りしめて、先生の腕に抱きつく。

「烏坂、」

「せっせんせ!あの!今日、スーパーのポイントが高くつく日なんです!だから、あの、もっ、もう行きましょ!スーパー!半額とはいかなくても、値引き商品はもう売ってるはずですから!」

 グッと腕を引っ張るが、先生はびくともしない。それどころか僕が引っ張られてしまう。

「せん、」

「荷物持つぜ、烏坂。そうだな、じゃあもうそろそろ行くか」

 その言葉に僕はパッと顔を上げる。
 先生は彼に視線を向けると、あくまでも心配の声色で話しかける。

「さっきも言ったが、最近は変な輩が多い。君も例外ではないから、」



    ー「夜道には気をつけて」ー



 その言葉に周りのみんなが息を呑む。そんな光景も先生は気にせずに僕のバッグを奪い取ると、僕の手を掴んでその場を去る。

 ある程度離れたところまで来たとき、僕は先生に話しかける。

「せ、先生!」

「何だ?」

「何だじゃないです!な、何で…」

「だから、仕事休んで迎えに来た」

「ちがっ、いや違くはないけど、あっあんな分かりやすい脅し…」

「アイツ、ここまでやらないと止めねぇだろ。で、画鋲の件はどうした?」

 それを聞かれて僕は押し黙る。先生は僕に視線を落とし、静かな声で話す。

「俺、本当はあそこでアイツを殺しても良かったんだぜ」

「せん、」

「罰ゲームで告白されて、動画拡散されて、悪口言われて、画鋲入れられて。どれだけ俺が怒ってるか、分かるか?」

 先生は僕に顔を近づけて喋る。先生の視線と僕の視線が交わる。先生の瞳には負の感情が渦巻いている。

「どれだけアイツを殺したいか」

「せんせっ、」

「烏坂、俺だって人間だ。我慢の限界っての、あるんだぜ」

 先生は僕の髪をさらりと触り、頬に触れる。

「ナンパも、暴漢も、全員そうだ。全員殺したい」

 先生の手は氷のように冷たい。僕の口からは言葉にならない息が漏れるだけだ。

「家、帰るか」

 僕は頷くこともできないまま、家に足を運ぶことしか出来なかった。

 
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