灰色に夕焼けを

柊 来飛

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止められない想い

疎い

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 家に帰った後は通常通りだった。
 僕がご飯を作って、一緒に食べて、お風呂に入って。

 お風呂上がり、僕は先生の寝室に行く。先生はベッドに座ってお酒を飲んでいた。

「先生…?」

「何だ?」

 最近、先生のお酒の量が増えた気がする。その原因は、きっと僕だ。

「隣、いいですか?」

「勿論だ」

 僕も先生のベッドに座る。僕は手に持っていた缶ジュースを開けてゴクゴクと飲む。

「いい飲みっぷりだな」

「っんはっ、せっ、先生が、お酒飲んでるからっ、僕も、何か、飲みたくて、」

 一気に飲んだせいで苦しい。僕は細々と言葉を紡ぐ。これで酔えたらいいのに。酔えたら、その勢いで言えるのに。伝えられるのに。
 グイッと口元を拭うと、先生は口元を紡ぐ。そして、目元に手を当てて下を向く。

「あ゛ーー……」

「?、せんせ?」

「いや……。で、どうしたんだ?」

「先生は、今日彼を殺したいって言いました」

「言った」

「…本心、ですか?」

「本心じゃ無いと思うか?」

「………おも、わない、です」

 あんな声で、あんな目をしていて、本心じゃ無いわけがない。
 僕は先生の肩にに寄りかかる。

「あのときの先生、すごく怖かったです。あの時だけじゃ無い、ナンパの時とか、暴漢の時も」

「当たり前だろ」

「…でも、嬉しかったですよ。僕、こんなに、大切に思われてるんだって」

 僕は持っていた缶を近くの机に置く。ついでに先生の缶もヒョイっと取り上げて置くと、先生は眉を少し顰める。

「烏坂、」

「先生のお酒の量が増えたの、僕のせいですよね」

「………」

「ごめんなさい、先生」

「謝るな。俺の、俺の私情だ」

「そんなわけ、」

「俺の問題なんだ、烏坂」

 先生は目を伏せる。先生はどこまでも優しい。
 僕は先生に抱きつく。ベッドの上だからか、土台がしっかりしていなくて先生は倒れる。今僕は先生の上に乗っかっている状態だ。

「おい、烏坂…、」

「先生、お願い。正直に言って…」

 僕は泣きそうな声で懇願する。先生は目を見開いて、そして静かに言う。

「……そうだ。お前のせいだ」
 
 僕はグッと眉を顰める。先生の瞳に映る僕の瞳がゆらりと揺れる。

「そして、俺のせいだ」

「え?」

 その言葉を聞いた瞬間、僕の視界がぐるりと反転する。
 いつの間にか僕は下になっていて、先生が僕の上にいる。

「俺が悩んでいるのはお前のせいだし、俺のせいだ。勝手に決めつけるな、烏坂」

 先生は僕を見下ろしながら言う。僕が黙っていると、先生は僕の両手首を片手で一纏めにして上にあげる。

「せっ、」

「なぁ烏坂。あまり、夜にここに来ない方がいい。こんな、密室に。ここにはただでさえ、お前と俺しかいないんだから」

 僕が先生の手を解こうとしても、ガッチリと掴まれていて無理だ。足も先生が僕の上に被さっているせいで上手く動かせない。

「せんせ、手、」

「解けないだろ。俺は力入れてないぞ」

 先生は余っている片手で僕の首を撫でる。その感触にビクリと体が跳ねる。

「お前は、疎いな」

「疎い…?」

「ああ。凄く疎い。あまり、大人を舐めては駄目だ。急に押し倒したりするのも。何が起こるか、何をされるか、分からないからな」

 夜にここに来るのは駄目なのか。そりゃ夜くらい1人でいたいよな、配慮が足りなかった。
 そして、ベッドに押し倒したのも。押し倒す気は無かったと、謝らないと。

「ご、ごめんなさい、先生。夜くらい、1人になりたいですよね。後、押し倒す気は無かったんです。信じてもられないかもしれないけど…」

 僕がそう言うと、先生は深いため息を吐く。また何か間違えてしまったらしい。

「俺だからまだいい。俺以外の男にはやるな。勘違いされるぞ」

「?、先生だけですよ…?」

 何で先生以外の人にやると思ったのだろう。男性どころか、女性にもやらないぞ。そもそも、ベッドで話すシチュエーションが無いし、こんなこと先生以外と喋らない。
 それに、勘違いとは何のことだろうか。

「はぁ…。それが疎いんだよな…」

「先生、あの、」

「烏坂。今、どんな状況かわかるか?」

「せ、、先生が、僕の上に乗ってる…?」

「ああ。で、お前は身動きが取れない。反抗出来ないんだ」

「はい」

「声を出そうが誰にも気づかれないし、逃げられない」

「な、何で僕が先生から逃げるんですか…?」

 僕が先生から逃げることなどあり得ないのに。逃げてどこに向かえと言うのか。どこにもあてはないのに。

「……お前、前暴漢に襲われたよな」

「え?は、はい…」

「他人にはそんななのに、何で俺は…」

「何で先生と暴漢が同じになるんですか。先生はアイツらとは違います」

「違うのはそうだが、俺に心を許しすぎだ…。危機感が無さすぎるぞ…」

「危機感?先生、僕に酷いことするんですか?」

「する可能性だってあるだろ」

「……先生がすることなら、僕、何でも大丈夫ですよ」

 僕が言うと、先生は目を見開いた後、口を開く。



    「その言葉、後悔するなよ」

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