灰色に夕焼けを

柊 来飛

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止められない想い

どこにでも

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 僕の腰も治り、買ってきたケーキを食べている時、先生に聞かれる。

「何でそんな猫が嫌なんだよ。嫌いなのか?」

「別に猫が嫌いなわけじゃないです。可愛いし。でも、僕は先生に従順で、どこまでもお供する気があるから忠犬なんです」

「行き先が、たとえ地獄でも?」

「先生と一緒なら、地獄でも良いですよ。むしろ、先生がいない天国の方が僕にとっては地獄です」

 この言葉は嘘偽りない、僕の本心だ。
 先生が居ない世界なんて、僕は耐えられない。先生がいるなら、そこがたとえ地獄だとしても、何でも耐えられる。先生が居ない天国なんて、そこがどれだけの楽園だとしても僕にとってはこれ以上ない地獄だ。

「………そうか」

 先生は目を伏せる。

「俺にとっても、お前が居ない世界は地獄同然だ。お前が居ない天国なんて、滅べば良いんだ」

 先生は淡々と言う。先生も僕と同じような気持ちだったのか。
 僕は、この気持ちがとても重いものだと自負している。ただの同居人に向ける感情ではないと。
 しかし、それは先生も同じだ。先生にとって僕はただの同居人なのに。

「烏坂」

「はい?」

「俺は、お前が思っているほどいい奴じゃない」

「先生?」

「だから、天国には行けねぇだろうな」

「………」

「そうだとしても、付いてきてくれるのか?」

「当たり前ですよ」

 僕は即答する。

「先生がいる地獄なら、先生が居ない天国よりもずっと天国です」

 僕は続ける。

「僕たちが、本当の地獄を味わうとしたら、それは互いが互いに会えない罰でしょうね」

 僕は自分で言っておいて恐怖に震える。先生と会えないなんて、そんなの嫌だ。
 でも、もうすぐその時が来るのだ。受験が終わって、大学を上がると同時に。

 いつまで経っても覚悟が決まらない。この想いは大きくなるばかりで、前を向けたと思っても、それは一時的な物であって僕のこと思いを完全に消す、あるいは封じ込める物にはならない。
 なんて厄介な感情なのだろうか、恋心というものは。
 先生のためなら何だって出来てしまいそうなほど、この感情は前向きなものであり、逆に先生が居ないと何も出来なくなってしまう、それほどの強さと重みがある。

「寒いのか?震えてるぞ」

「え?」

 僕の手は細かく震え、持っているフォークが小刻みに皿に当たって小さな高い音を出している。

「…お前は、高校と同時にここから出ていくのか?」

「?、だって、その期間が契約じゃないんですか?」

「別に、出て行かなくてもいい」

「え?」

「金の援助は俺がするし、一人暮らしの資金が貯まるまではここで暮らしていい」

「でも、」

「迷惑なんかじゃない」

 先生はそう言ってくれる。気持ちは嬉しい。だって、中々無いいい話だ。

 でも。

 ここに、住み続けてしまったら、それは先生の人生を邪魔することになりかねない。
 今は学生だから許してもらっている。でも、大学生…だから、社会人にもなって先生の家に住んでいたら、何かそれほどの関係があると疑われてしまう。それが無くても、そんな関係がないのに家にいるのは変だ。

 なにより、僕の心がすり減るだけだろう。
 こんな叶わない恋をして、その恋心を抱きながら。先生は善意で言ってくれているのに、僕はこんな下心を持って。

 なんて、卑しい奴なんだ、僕は。

「でも、早く独り立ちしないと」

 僕の手の震えが止まる。

「……そうか」

 先生はそれだけ言って、残りのケーキを大きな一口で食べる。
 僕のケーキは、とても甘ったるくて、僕の恋心を表しているようだった。
 
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