107 / 132
惹かれ合う
散漫
しおりを挟む
「先生、これ違くないですか?」
生徒に指摘されて気づく。どうやら配ったプリントが違ったらしい。
「すまない、こっちだ」
俺はそのプリントを回収して本来のプリントを配り、そのまま授業を進める。授業が無事終わり教室を出ようとした時、ゴンといい音を立てて頭をぶつける。
「いっ…」
「先生大丈夫ですか!?」
近くにいた生徒たちが駆け寄る。俺は額を抑えながら手で制す。
「大丈夫だ」
「先生疲れてるんじゃ無いですか?」
「そうかもな」
俺は適当に流して次の授業の準備をする。
「落ち着きがありませんな、灰月先生」
「………今日、引き受けた高校生の大学受験なんですよ」
「おお!そりゃソワソワしますわな」
同僚の人に話しかけられる。ふと腕時計を見るとまだテストの時間だ。今頃、ペンを握って書いているのだろう。
「その子、大丈夫そうですか?」
「ええ」
「はは、やけにしっかりとした返事だ」
烏坂なら大丈夫、その確信はあるのにソワソワとしてしまう。
「タバコでも吸って来たらどうですか?」
「…じゃあ、次の授業が終わったら、」
「はは、待ってますよ」
この人は同じ喫煙者仲間だ。度々喫煙所で鉢合わせては世間話をする。
ハラハラと手を振った後、その人は次の授業のため去っていた。
「であるからして、ここは…」
「あの、先生」
「なんだ?」
「どこの話をしてるんですか?」
「話を聞いてなかったのか?今は…」
俺はプロジェクターに目を移すと、そこには全く関係ないスライドが映されていた。
「……すまない。すぐ変える」
「いえ、もっとすぐ言えばよかったですね」
生徒に気を遣わせてしまった。俺は手元を軽く操作していると、さっきの生徒が話しかけてくる。
「先生大丈夫ですか?なんかさっきも話題に上がってましたよ」
「俺も人間だからな」
パッと正しいスライドに切り替わり、俺は授業を続ける。手元の資料を見ながらペラペラと喋るが、何も頭に入ってこない。今質問されたら答えられる気がしない。
チャイムが鳴り、俺はすぐに切り上げる。資料を手早くまとめて教室を大股で去る。ことが出来なかった。
またゴンと頭をぶつける。同じところをぶつけてさっきよりも強い痛みが走る。
「っ、だ、…」
「先生!?」
「すまない、大丈夫だ…」
「先生、さっきも頭ぶつけませんでした?」
「…聞いたのか」
「はい。先生、やっぱり疲れてるんですよ。ちゃんと休んでください」
「ああ、そうする」
俺は重い足を動かしてなんとか喫煙所に辿り着く。そこにはさっきの同僚の人がいた。
「来ましたか」
「……ええ、」
「また頭ぶつけたんですか?」
「まぁ、」
「ははは!」
その人は大きく笑うと、新しい煙草を取り出し、火をつける。
俺もポケットからタバコとオイルライターを出す。キンッといい音を出してライターを開けた後、音を出して火をつける。煙草に火を移し、煙を吐く。プカプカと煙が上がっていくのをボーッと見ていると、隣から話しかけられる。
「心ここに在らず、ですね」
「全く、その通りです」
幾分か、煙草を吸って落ち着いて来てはいるがそれでも不安で沢山だ。勉強面が不安なのではない、烏坂は沢山頑張っているし、模試でもいい成績を残していた。
俺が心配しているのは、行く途中に何か巻き込まれていないかとか、帰りは大丈夫だろうかとか、何も食べずに受けて倒れていないかとか、そんな事だ。自分でも思う、かなり過保護だと。ただ、ここまで心配するほどのことが今までに沢山あった。何が起こってもおかしくないのだ。
「今日早めに上がります?」
「そう、させてもらいます。大事な時期なのに申し訳ないです」
「いえいえ、自分も娘や息子の受験の時はかなり心配しましたから、気持ちが分かりますよ」
その人はカラカラと笑う。
「こんなことを聞くのも野暮ですが、灰月先生はご結婚されていませんでしたっけ」
「ええ。恋人もいません」
「珍しいですね、灰月先生ならすぐに結婚出来そうですが。知ってますよ、生徒からかなりの頻度で告白されてるの」
「全部断ってます」
「あはは。初恋泥棒だ」
「大学生で初恋ねぇ…」
それは遠い目をする。そんな奴いるのだろうか。いやいるか。俺だって、この歳で恋をした。しかも相手は15も年下。人生本当に何があるかわからない。自分が恋するなんて、夢にも思わなかった。
「結婚しないんですか?」
「…昔は、絶対ありえないって思っていました。けど、最近は、少し視野に入れてます」
「おお!」
その人は明るい声をあげる。人生結婚が全てではない。俺もそれをわかっている。結婚なんてしなくても生きていける。ただ、結婚してもいいと思ってしまったのだ。いや、結婚したいと。
俺は大きな溜息を吐く。いくらなんでもキモ過ぎる。結婚すれば、全てが手に入るなんて事じゃないのに。まだ、気持ちすら伝えてないのに。
ただ無性に、烏坂と一緒に生きたいと。
そう、思ってしまうのだ。
生徒に指摘されて気づく。どうやら配ったプリントが違ったらしい。
「すまない、こっちだ」
俺はそのプリントを回収して本来のプリントを配り、そのまま授業を進める。授業が無事終わり教室を出ようとした時、ゴンといい音を立てて頭をぶつける。
「いっ…」
「先生大丈夫ですか!?」
近くにいた生徒たちが駆け寄る。俺は額を抑えながら手で制す。
「大丈夫だ」
「先生疲れてるんじゃ無いですか?」
「そうかもな」
俺は適当に流して次の授業の準備をする。
「落ち着きがありませんな、灰月先生」
「………今日、引き受けた高校生の大学受験なんですよ」
「おお!そりゃソワソワしますわな」
同僚の人に話しかけられる。ふと腕時計を見るとまだテストの時間だ。今頃、ペンを握って書いているのだろう。
「その子、大丈夫そうですか?」
「ええ」
「はは、やけにしっかりとした返事だ」
烏坂なら大丈夫、その確信はあるのにソワソワとしてしまう。
「タバコでも吸って来たらどうですか?」
「…じゃあ、次の授業が終わったら、」
「はは、待ってますよ」
この人は同じ喫煙者仲間だ。度々喫煙所で鉢合わせては世間話をする。
ハラハラと手を振った後、その人は次の授業のため去っていた。
「であるからして、ここは…」
「あの、先生」
「なんだ?」
「どこの話をしてるんですか?」
「話を聞いてなかったのか?今は…」
俺はプロジェクターに目を移すと、そこには全く関係ないスライドが映されていた。
「……すまない。すぐ変える」
「いえ、もっとすぐ言えばよかったですね」
生徒に気を遣わせてしまった。俺は手元を軽く操作していると、さっきの生徒が話しかけてくる。
「先生大丈夫ですか?なんかさっきも話題に上がってましたよ」
「俺も人間だからな」
パッと正しいスライドに切り替わり、俺は授業を続ける。手元の資料を見ながらペラペラと喋るが、何も頭に入ってこない。今質問されたら答えられる気がしない。
チャイムが鳴り、俺はすぐに切り上げる。資料を手早くまとめて教室を大股で去る。ことが出来なかった。
またゴンと頭をぶつける。同じところをぶつけてさっきよりも強い痛みが走る。
「っ、だ、…」
「先生!?」
「すまない、大丈夫だ…」
「先生、さっきも頭ぶつけませんでした?」
「…聞いたのか」
「はい。先生、やっぱり疲れてるんですよ。ちゃんと休んでください」
「ああ、そうする」
俺は重い足を動かしてなんとか喫煙所に辿り着く。そこにはさっきの同僚の人がいた。
「来ましたか」
「……ええ、」
「また頭ぶつけたんですか?」
「まぁ、」
「ははは!」
その人は大きく笑うと、新しい煙草を取り出し、火をつける。
俺もポケットからタバコとオイルライターを出す。キンッといい音を出してライターを開けた後、音を出して火をつける。煙草に火を移し、煙を吐く。プカプカと煙が上がっていくのをボーッと見ていると、隣から話しかけられる。
「心ここに在らず、ですね」
「全く、その通りです」
幾分か、煙草を吸って落ち着いて来てはいるがそれでも不安で沢山だ。勉強面が不安なのではない、烏坂は沢山頑張っているし、模試でもいい成績を残していた。
俺が心配しているのは、行く途中に何か巻き込まれていないかとか、帰りは大丈夫だろうかとか、何も食べずに受けて倒れていないかとか、そんな事だ。自分でも思う、かなり過保護だと。ただ、ここまで心配するほどのことが今までに沢山あった。何が起こってもおかしくないのだ。
「今日早めに上がります?」
「そう、させてもらいます。大事な時期なのに申し訳ないです」
「いえいえ、自分も娘や息子の受験の時はかなり心配しましたから、気持ちが分かりますよ」
その人はカラカラと笑う。
「こんなことを聞くのも野暮ですが、灰月先生はご結婚されていませんでしたっけ」
「ええ。恋人もいません」
「珍しいですね、灰月先生ならすぐに結婚出来そうですが。知ってますよ、生徒からかなりの頻度で告白されてるの」
「全部断ってます」
「あはは。初恋泥棒だ」
「大学生で初恋ねぇ…」
それは遠い目をする。そんな奴いるのだろうか。いやいるか。俺だって、この歳で恋をした。しかも相手は15も年下。人生本当に何があるかわからない。自分が恋するなんて、夢にも思わなかった。
「結婚しないんですか?」
「…昔は、絶対ありえないって思っていました。けど、最近は、少し視野に入れてます」
「おお!」
その人は明るい声をあげる。人生結婚が全てではない。俺もそれをわかっている。結婚なんてしなくても生きていける。ただ、結婚してもいいと思ってしまったのだ。いや、結婚したいと。
俺は大きな溜息を吐く。いくらなんでもキモ過ぎる。結婚すれば、全てが手に入るなんて事じゃないのに。まだ、気持ちすら伝えてないのに。
ただ無性に、烏坂と一緒に生きたいと。
そう、思ってしまうのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる