灰色に夕焼けを

柊 来飛

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アフターストーリー

懺悔

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「ゴホッ、ゲホッ…くそっ、こんな時期に風邪なんてな…」

 先生はベッドの上で咳をしていて、僕はその隣でタオルを取り替えて先生の額の上に載せる。

「安静にして下さいね」

「気が向いたらな」

 先生のベッドの上には仕事用のパソコンが置いてあり、僕が出ていったらすぐにでも取り掛かるつもりなのだろう。そんな事をさせないために僕はずっと先生の隣に座る。

「移るぞ」

「ふん!ならば先生の仇を僕がうってあげます」

「頼もしいな。…何だか、前を思い出すな」

「あ、そ、そうですね…、」

 僕は目を伏せる。だって僕はあのとき、先生の額にキスをしているのだ。

「その…鷹翔さん…僕の懺悔を聞いてください」

「何だ?」

「…僕、あの時寝ている先生の額にき、キス、したんです…」

「…………ふ、」

「え?」

「ふっ、ははは!あっはははは!」

 先生は高らかに笑い出したかと思えば僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「せっせんせ?」

「ハハハ!何だそんなことか!あのとき言ってくれれば良かったのに」

「で、でも、」

「あの時の俺はもうお前に落とされてんだ。そんなこと知ったらすぐに風邪なんて治ったさ」

「そ、そう…ですか?」

「ああ。じゃあこちらからの懺悔を聞いてほしい」

「な、何でしょう?」

「俺も、お前が風邪の時額にキスした」

「…………え?」

「俺たち2人、全く同じ事をやってたなんて知ったら面白くてな。ククク、ハハハ!」

「えええええー!?」

 僕と先生、全く同じことをしてたのか!?気づかなかった…。まぁあの時は熱で頭が朦朧としてたから当然か…。

「またキスしてくれたら早く治るかもな」

「もう!」

 先生はカラカラと笑うと、僕の頭を撫でる。

「さ、俺はちゃんと寝るから安心しろ」

「……………鷹翔さん」

 僕は身を乗り出して先生の唇に軽くキスを落とす。

「………夕、」

「………う、移したら、早く治るって言うし…」

 すっごく恥ずかしい。とても恥ずかしい。軽い気持ちでこんなことしなければよかった。僕はその後悔から先生の顔を見れなくてその場から動けない。じっと固まっている僕を見かねた先生は僕を優しく抱きしめる。

「ありがとう夕。いい夢が見れそうだ」

「…それは、良かったです…?」

「じゃあおやすみ、夕」

「おやすみなさい、鷹翔さん」

 先生は近くに置いてあったパソコンを退けるとちゃんと横になる。僕はその様子をきちんと見届けてから先生の自室を後にした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ゴホッ、ゲホッ、コホッ、うぅ…」

「言わんこっちゃない。俺の時よりも酷いじゃねぇか」

「そ、れは、コホッ、先生の仇をっ、うつためにっ、コホッ、僕の細胞たちが、ゲホッ、頑張って、くれてるからっ、ゴホゴホッ」

「そうだな」

 俺が治ったと同時に風邪を引いてしまった夕は顔を赤くして咳をしている。額に手を当てるとそりゃもう熱くて今話しているのが凄いくらいだ。

「冷たい…」

 夕は俺の手を握ると自分の首に当てる。猫みたいにスリスリと甘える姿がとても愛らしい。

「…僕、昔は風邪なんて大っ嫌いだったんです。風邪引いても家事は休ませてくれないから、余計に辛いだけで。でも、先生は違う。先生は、僕が風邪を引いたら手厚く看病してくれて。だから、風邪も悪くないなって思ったんです」

「……あの施設がおかしいだけだ」

「でも、先生が優しいことには変わりないです」

 夕の他人に対するハードルは極端に低いが、自分に対するハードルは極端に高い。他人にはほぼ何も求めないのに自分にはこれも出来ないと、あれも出来ないと自分に価値は無いと思い込んでいる。


犬のように従順にしていれば、捨てられる事はない


 そんな考えが身体に染み付いているのだ。そんな考えを捨て、猫のように自由気ままに生きて欲しいのだが、それは中々難しい事なのだろう。

「じゃあ俺は授業だから、終わったらまた来る」

「………うん」
 
 俺が夕の唇にキスを落とすと、夕は元々赤い顔をもっと赤くさせて布団を被る。これじゃもっと熱くて蒸発するだろ。

「おい死ぬぞ」

「しっ死なない!風邪移りますよ!?」

「俺はもう一回かかってるから心配すんな。夕、本当に死ぬから顔だけでも出してくれ」

「………ま、」

「ま?」

「まだ、鷹翔さんと結婚してないのに、死ぬわけない………」

「…………クソッ、お前風邪治ったとき覚えてろよ」

「えっ!?」

 オロオロする夕を置いて俺は授業に向かう。

「何で……!」

 何でそんなことを言うんだ。なんでいつも煽るようなことばかり。本人にその自覚がないことが余計に焦ったい。

「あれ?先生顔赤くないですか?まだ風邪治ってないんじゃ…」

「……いや、心配ありがとう。授業を始める」

 生徒の心配を受けながら、俺は熱い脳を落ち着かせるようにリモート授業を始めた。

 


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