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1章 名もなき村
30 白根とレモンライム、再び
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「この白根は土の中に埋まってる部分を主に食べることになるから、道具を持ち込んで掘り出してください」
森の中に入れば収穫の仕方の指導だ。
「木に生っているレモンライムみたいなものはすべて収穫してしまっても、次の年にはまた実が生りますのでいいですが、白根みたいな独立してるものに関しては翌年のことを考えてすべて収穫はしないことをお勧めします」
「斑芋みたいに適当に放っておけば増えるんじゃないのか?」
「どちらかと言えば緑菜に近いですね。放っておくと花が咲いて種ができるので全部採ってしまうと困りますね」
「ああー、野生の種じゃ村長が種を取っておいて村人に渡すなんてことないもんな」
「でも、こっちの白いやつもそうだけど、レモンライムなんて食べてもすっぱいだけだろ?」
「そこで、ミーナたちの出番ですよ。レモンライムと白根を使って簡単な料理を作ってみますね」
村には搾り器なんてないので、レモンライムは素手で絞って果汁を出してもらう。
種なんかが入って、多少見た目が悪くなるが味はそこまで変わらないので勘弁してもらおう。
「レイジ、水筒の水は使っていいから、レモンライム水を作ってもらえるか? ミーナはこっちで白根の皮をむいて一口大に切ってもらえるか?」
味見なので白根は一本で十分だろう。
レイジには鍋に水を入れてから水筒を渡す。
白根と緑菜の鍋に使う分の水を確保できれば残りの水は全部使われても問題ないだろう。
ミーナから受け取った白根の根と茎を水の入った鍋に入れてカセットコンロにかける。
「兄ちゃん、お前さん魔法使いだったんか!?」
「違いますよ。これは魔道具で魔力を持っている人間なら火を起こせるようになっているんですよ。まあ、これは特別にカスタマイズしてもらったんで俺専用ですけど」
「ははあ、他の地域ではこんなもんもあるのか?」
「いやあ、俺の故郷くらいしかないと思いますけど、これも二、三回使ったら魔力を補充しなきゃいけないし、火もこれ以上大きくならないんで戦闘には使えないですよ」
「なるほどなぁ、兄ちゃんにとっては便利かもしれんけど普通の人間には不必要なもんだな」
この世界の人間は火を使って食材をどうにかしようなんて考えてもいないから、こんなものは旅をする人間でもいらないんだろう。
「白根の地面に埋まっていた部分は土を落として、皮をむいたらこんな感じで鍋で茹でてください。結構時間がかかるので水の状態で入れてもらえればいいです」
この人たちがかまどで料理するかはわからないが、できる限りの情報は渡しておく。
「水が沸騰……こんな感じで大きな泡ができてきたら水が十分に熱くなった証拠なので白根の葉の部分と緑菜も入れます」
「地面に埋まってた部分と一緒に入れちゃあ、あかんのか?」
「緑菜を日常的に食べてる皆さんならわかると思いますが、葉の部分は柔らかくて火が通りやすいので沸騰した後に入れても簡単に熱が入ります。でも、根や茎の部分は硬いので長く火にかけないと食べづらいんですよ」
「はー、いろいろ考えるもんだな」
「先のとがった木かなんかで刺してみて、簡単に刺さったら熱が入った証拠なので火からあげます」
竹串なんかも存在しないので、わざわざ木を削って作った木串で確認する。
味付けはもちろん塩のみ、食堂の料理に慣れきってしまっているレイジとミーナにはつらいだろうけど調味料の存在は秘匿しておきたいので我慢してもらうしかない。
「ほお、確かに手間はかかるが食料が増えるのは良いもんだな。緑菜もいつもはそのまま食ってるが、こうやって火にかけると食感が変わっていいな」
「こっちのレモンライムもただただすっぱいだけかと思ってたけど、水に混ぜるだけで逆にこの酸味がいいアクセントになるな」
「兄ちゃん、こっちの白根と緑菜にレモンライムをかけるのはどうだ?」
「ああ、いいですね。好みは分かれると思いますけど酸味が嫌いじゃなければ味付けの一種としてはアリだと思いますよ」
この人たちは村に定住するまでは商人だったり、護衛だったりで村の外を出歩いていた人たちだから新しいことに慣れるのも早いな。
自身の利益を第一に考えているのがいいのかもしれない。
「こいつらは、俺たちが収穫するってことでいいんだな?」
「村長の考え次第ですけど、森の中に入って回収するのである程度腕の立つ人たちじゃないと難しいと感じています。ですから、基本的には皆さんにお願いする形になるんじゃないですかね」
まあ、いろいろ考えてるあの村長のことだから今回の人選も将来のことを見据えてしているとは思うが。
「いやいや、それもそうだが、レイジはいいのか? 俺たちと一緒でレイジならここまで苦も無く来れるだろう?」
「いいんだ、僕はマサト兄ちゃんと一緒にいるから」
「ああ、皆さんにはまだ伝わってないですよね。レイジとミーナは俺がこの村を立ち去るときに一緒に来てくれることになっているので二人に関しては考えないでもらっても大丈夫です」
「……二人はそれでいいんか? 旅っていうのは二人が考えてるのよりも過酷で大変なもんなんだぞ?」
「いいんだ、僕もお父さんとお母さんが見てきた景色を見てみたかったんだ」
「ミーナはマサトさんに救ってもらいました。だから、これからの人生はマサトさんのために生きたいんです」
レイジはきっと俺に出会う前から漠然とこの村から出てみたいと思っていたのかもしれない。
でも、ミーナのほうは明らかに盛りすぎだ。
俺みたいなのに対して恩人みたいに言っても誰も納得なんてしないだろう。
「そうか、まあ、二人だけになった時に手を差し伸べられなかった俺らが何か言うのも筋違いだからな」
「兄ちゃんも連れていくなら二人のことをちゃんと守ってやってくれよな。まだまだ、二人とも子供なんだから」
「わかっていますよ。でも、俺のほうも二人に助けられてばかりなんで守るというよりは三人で協力していけたら、と思っていますよ」
神様の加護があるとはいえ、あの力は強大にすぎる。
襲ってきた魔獣や獣は可食部もほとんど残さずに爆散してしまう有様なのできちんと狩れるレイジの力は必要だ。
ミーナは言わずもがな、料理に関しては俺以上の才能の持ち主だからな、旅の最中でも手伝ってもらうことは山ほどあるだろう。
「マサト兄ちゃんとミーナを守るのは僕の役目だから」
「ミーナだって、マサトさんに教わっていろいろできるようになってるんですから」
「ということなんで、村のこと、とりわけ森に関しては皆さんにお任せしますよ。皆さんが日常的に退治している獣の肉もおいしく食べられるんで」
白根やレモンライムは緑菜なんかと上がるステータスが同じだろうから、俺としてはむしろ肉のほうを村のみんなには食べてもらいたい。
森の中に入れば収穫の仕方の指導だ。
「木に生っているレモンライムみたいなものはすべて収穫してしまっても、次の年にはまた実が生りますのでいいですが、白根みたいな独立してるものに関しては翌年のことを考えてすべて収穫はしないことをお勧めします」
「斑芋みたいに適当に放っておけば増えるんじゃないのか?」
「どちらかと言えば緑菜に近いですね。放っておくと花が咲いて種ができるので全部採ってしまうと困りますね」
「ああー、野生の種じゃ村長が種を取っておいて村人に渡すなんてことないもんな」
「でも、こっちの白いやつもそうだけど、レモンライムなんて食べてもすっぱいだけだろ?」
「そこで、ミーナたちの出番ですよ。レモンライムと白根を使って簡単な料理を作ってみますね」
村には搾り器なんてないので、レモンライムは素手で絞って果汁を出してもらう。
種なんかが入って、多少見た目が悪くなるが味はそこまで変わらないので勘弁してもらおう。
「レイジ、水筒の水は使っていいから、レモンライム水を作ってもらえるか? ミーナはこっちで白根の皮をむいて一口大に切ってもらえるか?」
味見なので白根は一本で十分だろう。
レイジには鍋に水を入れてから水筒を渡す。
白根と緑菜の鍋に使う分の水を確保できれば残りの水は全部使われても問題ないだろう。
ミーナから受け取った白根の根と茎を水の入った鍋に入れてカセットコンロにかける。
「兄ちゃん、お前さん魔法使いだったんか!?」
「違いますよ。これは魔道具で魔力を持っている人間なら火を起こせるようになっているんですよ。まあ、これは特別にカスタマイズしてもらったんで俺専用ですけど」
「ははあ、他の地域ではこんなもんもあるのか?」
「いやあ、俺の故郷くらいしかないと思いますけど、これも二、三回使ったら魔力を補充しなきゃいけないし、火もこれ以上大きくならないんで戦闘には使えないですよ」
「なるほどなぁ、兄ちゃんにとっては便利かもしれんけど普通の人間には不必要なもんだな」
この世界の人間は火を使って食材をどうにかしようなんて考えてもいないから、こんなものは旅をする人間でもいらないんだろう。
「白根の地面に埋まっていた部分は土を落として、皮をむいたらこんな感じで鍋で茹でてください。結構時間がかかるので水の状態で入れてもらえればいいです」
この人たちがかまどで料理するかはわからないが、できる限りの情報は渡しておく。
「水が沸騰……こんな感じで大きな泡ができてきたら水が十分に熱くなった証拠なので白根の葉の部分と緑菜も入れます」
「地面に埋まってた部分と一緒に入れちゃあ、あかんのか?」
「緑菜を日常的に食べてる皆さんならわかると思いますが、葉の部分は柔らかくて火が通りやすいので沸騰した後に入れても簡単に熱が入ります。でも、根や茎の部分は硬いので長く火にかけないと食べづらいんですよ」
「はー、いろいろ考えるもんだな」
「先のとがった木かなんかで刺してみて、簡単に刺さったら熱が入った証拠なので火からあげます」
竹串なんかも存在しないので、わざわざ木を削って作った木串で確認する。
味付けはもちろん塩のみ、食堂の料理に慣れきってしまっているレイジとミーナにはつらいだろうけど調味料の存在は秘匿しておきたいので我慢してもらうしかない。
「ほお、確かに手間はかかるが食料が増えるのは良いもんだな。緑菜もいつもはそのまま食ってるが、こうやって火にかけると食感が変わっていいな」
「こっちのレモンライムもただただすっぱいだけかと思ってたけど、水に混ぜるだけで逆にこの酸味がいいアクセントになるな」
「兄ちゃん、こっちの白根と緑菜にレモンライムをかけるのはどうだ?」
「ああ、いいですね。好みは分かれると思いますけど酸味が嫌いじゃなければ味付けの一種としてはアリだと思いますよ」
この人たちは村に定住するまでは商人だったり、護衛だったりで村の外を出歩いていた人たちだから新しいことに慣れるのも早いな。
自身の利益を第一に考えているのがいいのかもしれない。
「こいつらは、俺たちが収穫するってことでいいんだな?」
「村長の考え次第ですけど、森の中に入って回収するのである程度腕の立つ人たちじゃないと難しいと感じています。ですから、基本的には皆さんにお願いする形になるんじゃないですかね」
まあ、いろいろ考えてるあの村長のことだから今回の人選も将来のことを見据えてしているとは思うが。
「いやいや、それもそうだが、レイジはいいのか? 俺たちと一緒でレイジならここまで苦も無く来れるだろう?」
「いいんだ、僕はマサト兄ちゃんと一緒にいるから」
「ああ、皆さんにはまだ伝わってないですよね。レイジとミーナは俺がこの村を立ち去るときに一緒に来てくれることになっているので二人に関しては考えないでもらっても大丈夫です」
「……二人はそれでいいんか? 旅っていうのは二人が考えてるのよりも過酷で大変なもんなんだぞ?」
「いいんだ、僕もお父さんとお母さんが見てきた景色を見てみたかったんだ」
「ミーナはマサトさんに救ってもらいました。だから、これからの人生はマサトさんのために生きたいんです」
レイジはきっと俺に出会う前から漠然とこの村から出てみたいと思っていたのかもしれない。
でも、ミーナのほうは明らかに盛りすぎだ。
俺みたいなのに対して恩人みたいに言っても誰も納得なんてしないだろう。
「そうか、まあ、二人だけになった時に手を差し伸べられなかった俺らが何か言うのも筋違いだからな」
「兄ちゃんも連れていくなら二人のことをちゃんと守ってやってくれよな。まだまだ、二人とも子供なんだから」
「わかっていますよ。でも、俺のほうも二人に助けられてばかりなんで守るというよりは三人で協力していけたら、と思っていますよ」
神様の加護があるとはいえ、あの力は強大にすぎる。
襲ってきた魔獣や獣は可食部もほとんど残さずに爆散してしまう有様なのできちんと狩れるレイジの力は必要だ。
ミーナは言わずもがな、料理に関しては俺以上の才能の持ち主だからな、旅の最中でも手伝ってもらうことは山ほどあるだろう。
「マサト兄ちゃんとミーナを守るのは僕の役目だから」
「ミーナだって、マサトさんに教わっていろいろできるようになってるんですから」
「ということなんで、村のこと、とりわけ森に関しては皆さんにお任せしますよ。皆さんが日常的に退治している獣の肉もおいしく食べられるんで」
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