料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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2章 領都

12 メイドさんとの食事

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「さてと、こっちも飯にするかな」

 領主館についたのは夕方で、料理をすべて出した今は日が沈みだしたころだ。
 夕食の準備としてはいつもよりは遅い時間だが、この旅の最中は二十人分以上を作っていたので数人分ならこの時間からで十分に間に合う。

「メニューは何にしますか?」

「そうだな。パンはフランスパンが残っているからそれにするとして、こっちも紫トマトを使ったスープにするかな。肉のほうはデビルボアの小間切れを生姜焼きにするか」

 騎士の人たちはちまちまと肉をつまむよりもステーキみたいに豪快に食べるほうがいいらしく、小間切れみたいなところは結構在庫が残っている。
 ちなみにハンバーグを出した時はお代わりが続出してしまって肉だねのほうが先になくなってしまう事態になってしまったので、騎士の人たちにとっては幻のメニュー扱いされている。
 まあ、ひき肉を作れば作れないことはないんだが、そのままステーキで食べてもおいしい部位をひき肉にするのはためらわれるし、野菜の下ごしらえをしている中で肉まで加工するのは旅の最中では難しかったのだ。

「じゃあ、僕はスープの野菜を切っておくね。具はさっきと一緒でいい?」

「ミーナは生姜焼きの準備をしますね」

「ああ、頼む。レイジのほうは毒抜きした斑芋も少し入れてくれ、こっちもサイコロ状に切ってくれればいいから」

 ひき肉が少しだけ残っているからこれもスープの具材にしてしまおう。
 領主一家の鍋には入れなかったが、ここにいる人間の分くらいはあるだろう。

 紫トマトは本当はパスタとかに使いたかったのだが、領都に入ったばかりで卵がまだ手に入っていないので仕方がない。

「メイドさんの分も準備してますから、ぜひ一緒に食べてくださいね」

 この場所で、このタイミングで飯の準備を始めたのは実はこれが狙いだったからだ。
 領主一家への給仕のためにメイドのうち三人は食堂へと向かっていった。
 そして残った一人は一番年上、さらに言えば他のメイドへの指示出しの仕方を見ればこの人が四人の中では一番のベテランなのだろう。

 ウィリアムさんにも領主一家の情報はいろいろ聞いてはいるが情報の確度を高めるためには複数人から聞くのがいいだろう。

「私もですか? ですが、使用人がお客様と同席するなど……」

「いやいや、俺たちはまだ領主様に目通りしたわけではないので正式な客人ではないでしょう。それに領主様たちのことをいろいろ聞きたいですし、なにより俺たちは自分たちが食べているときに他の誰かが食べずにこちらを見ているだけの状況に慣れていないですからね。助けると思って一緒に食べてくださいよ」

 レベル1の食堂に収納されている簡易テーブルを出してそこに四人分の椅子を並べる。
 ついでにパンや食器も四人分並べていく。

「ですが……」

「もう準備もしてしまいましたし、お願いしますよ。それに料理の味もいろんな人にみてもらいたいんですよね」

 とにかく勢いで押し切ってしまおう。
 使用人としての職務意識で断っているだけで、料理自体に興味がないわけではないはずだ。
 なぜなら、領主一家への料理を作っている最中からそうだったのだが、メイド全員こちらの作っている料理をちらちらとみていたのは確認済みだからだ。

「そうだよ、一緒に食べたほうがおいしく食べられるよ」

「ミーナもみんなで食べたほうがいいと思います」

 おっ、二人も俺に追従してくれるみたいだ。

「さあ、スープのほうも完成ですよ。ミーナのほうはできたか?」

「はい、マサトさん。生姜焼きもおいしく出来上がりましたよ」

「……無作法とは思いますが、そこまで言われてお断りするのも非礼ですね。ご一緒させていただきます」

「はい、お願いしますね。こちらでの食事のマナーなどは知らないので多少のマナー違反があっても見逃してもらえれば幸いです」

 向こうはこんな食事をとるのは初めてだから、お互い様だが、こちらから言っておけば軋轢はそうそう生まれないだろう。
 基本的な食事マナーは俺が指摘しているので見苦しくない程度にはレイジもミーナもこなせるだろうが、こちらの常識、貴族のマナーなんかは異界のレシピでも学びようがないのでそこが心配だ。

「それはもちろん。むしろ私のほうがこのような食事は初めてですので、皆さんにとってはお見苦しいかもしれないことが不安ですわ」

「食事は楽しくとるのが一番ですよ?」

「そうそう、マサト兄ちゃんもマナーは大事だけど、堅苦しくなりすぎて味がわかんなくなったらもったいないって言ってたし」

 まあ、その辺は俺の持論だな。
 なんにでもマナーや規則は大事だが、それにとらわれすぎて本来の意味を果たせなくなるのは本末転倒だ。
 栄養を取るだけなら食材そのままでもいいし、生きるだけならポーションだけでもいいのだ。
 だからこそ、手間暇かけた料理はそれ相応に楽しんでもらいたい。

「ええ、こちらもうるさくは言いませんし、用意したカトラリーはスプーンとフォークだけです。こちらはウィリアムさんも普通に使えていましたし、領主館で働くような人たちは使えると聞いていますが大丈夫ですか?」

 村の人たちは手づかみというか、緑菜をちぎるくらいでカトラリーなんて使っていなかったが、ウィリアムさんを筆頭に領都で過ごすような人たちは皿に切った野菜や果物を載せてフォークやスプーンで食べるくらいはするらしい。
 この辺はメインにしている食材の違いで、領都付近では緑菜以外に果物や水分の多い野菜が食卓に上がることもあるかららしい。
 ちなみに、村長と調合師は普通にカトラリーを使いこなしてた。

「ええ、そちらのカトラリーなら領主館の人間は使えますわ。ただ、金属製のものは初めて見ましたけれど」

 そういや村長のところもそうだったけど基本的に生活に使われるものは木製で、金属製のものは武器や防具なんだよな。
 あとは、調合師の家には金属製のものがごろごろしていたが、ポーションづくりをするうえで木製だと腐食したりしみ込んだりするから仕方がないらしい。

「肉なんかは木製のフォークでは食べづらいですからね。柔らかい野菜や果物なら木製でも何ら問題はないかもしれませんが……。じゃあ、いただこうか」

「食べよう食べよう」

「パンは二本あるので半分ずつですね。領主様に出してしまったのでシナモンロールがないのが残念です」

「僕は、生姜焼きにはフランスパンのほうが合うと思うな」

「ミーナは甘いパンのほうが好きだからな」

 料理はいつものように各自の皿に取り分け済みだ。

「このような温かい食事は初めてですわ」
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