料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

文字の大きさ
55 / 150
2章 領都

18 四人でのパン作り

しおりを挟む
 キラーバードの卵を使ったオムレツはうまく行ったと思う。
 いや、なんていうか俺としてはうまくできたと思うのだが、あとから作った二人が初めてにもかかわらず俺とほとんど同じ出来のオムレツを作っているのだからあんまり自信をもってうまくできたとは宣言しにくいのだ。

 もうこれからはオムレツは二人に作ってもらおう。
 俺は揚げ物とか炒め物とか誤魔化しが効くものだけ作っていきたいなあ……。
 なんて思ってみたところで、初めて作る料理は俺が見本を見せないとどうしようもないのも事実なんだよな。

「これが……あの、害獣として忌み嫌われていたキラーバードの卵……なんてふわふわしていて、それでいてほのかな甘さが口の中に広がる。……どうして、私たちはこれをゴミのように扱っていたのでしょう」

「レイジとミーナに出会った村でもみんなそう言ってたな、どうしてって。でも料理という概念がなかったんだから仕方がないさ。これからは食材として認識して無駄にしないようにすればいいんじゃないかな」

 とはいえ、領都に料理ができる施設ができないとこれからも使い道のない食材ではあるのだが。
 生食可能とはいえ、流石に生卵をそのまま食えとは言えないしな。

「なあ、マサト兄ちゃん。このオムレツはおいしいけど騎士の人たちに作るには手間がかかりすぎるよね?」

「そうだな。焼き始めてしまえばすぐにできるけど、騎士の人たちは一斉に来るから作り置きできないオムレツは騎士団向きではないかな」

 あの人たちも時間をずらして小分けに来てくれればいいんだが、なぜか全員一斉に来るんだよなぁ。

「じゃあ、マサトさんキラーバードのお肉を使うんですか?」

「そうだな、ウィリアムさんにも唐揚げを出すって約束したから、今日の夜はキラーバードのから揚げをメインにして、あとは緑菜と白根を使ったコンソメスープでいいかな。領主様たちに出す方はコンソメスープに紫トマトを使って少し豪勢にするのと緑菜と水瓜のサラダもつけておこうか」

「じゃあ、パンも焼かないといけないね。僕はもう少しでキラーバードの解体が終わるからそうしたらパン作りも手伝うよ」

「そうだな、イーリスにもパンの作り方も教えておきたいしな。料理の天職持ちなら何回か作ったら感覚で作れるようになるだろうし」

「は、はい。頑張ります」

 あとは、今ある材料だとパウンドケーキくらいなら作れるから甘味として領主様には献上してもいいかもな。
 もしかしたら女性陣には普通のパンよりもこっちのほうが好評かもしれないし。

「じゃあ、一番最初にマサトさんに教えてもらった基本のパンを作りますね。それを覚えたら、あとは中身を変えたりするだけですし」

「そうだな、とりあえずはそれでいいか。酵母菌の作り方とか砂糖の入手方法とかいろいろ考えないとこの世界じゃあ再現できないから、他の作り方も考えておくけど」

 なんにしてもこの世界は食材が少なすぎるんだよな。
 火を通さなくても食べられるものだけが食材として認識されているから仕方がないっちゃ仕方がないんだが。

「お父様やウィリアムもいろいろ植物や獣を集める方策を練っているのでもう少しお待ちいただければ……」

「ああ、わかってるよ、イーリス。なにせ俺たちが到着してからまだ一日しかたっていないからね」

 正確には昨日の夕方近くになってから到着したからまだ一日もたっていないんだよな。
 しかし、いくら唐揚げが食べたいからって一日もたたずにキラーバードを獲ってくるウィリアムさんたちって……。

「じゃあ、ミーナはパン作りの材料を持ってきますね。イーリスさん、これも教えますから一緒に来てくださいね」

「わかりました、ミーナさん」

 ふむふむ、イーリスとミーナはそこそこ良好な関係を築けそうだな。
 俺は今のうちにパウンドケーキのレシピを調べておくか。
 ……うーむ、昔はすべての材料を一ポンドずつ使うからパウンドケーキなんて呼ばれていたらしいが、異界のレシピではそれぞれ量が微妙に違うんだな。
 まあ、グラニュー糖とかベーキングパウダーのなかった時代だからレシピが違うのかな。
 とりあえずは異界のレシピ通りに作っていくか、お菓子はレシピの分量を守らないとあっという間に失敗するっていうし。

「マサトさん、もしかしてまた新しい料理を作ろうとしてます?」

「いやいや、ミーナ。これは料理の準備だけだから。それに材料とか作り方はパンとほとんど同じだからパンみたいなものだって」

 単に、グラニュー糖を入れるときに何回かに分けたり、卵を更に分けて入れたり、小麦粉を入れるときにはよく篩って入れたりするだけで……。
 いや、全然違うな、これ。
 まあ、でも工程自体は卵を入れる以外はショートブレッドとそう違わないしいっしょみたいなものだろう。

「ミーナも手伝いますから、ちゃんと教えてくださいね」

「……わかったよ。パン作りのほうが終わったらみんなで作ろうか」

 なんというか、ミーナにすごまれると了承の返事しか出せないんだよな。
 とはいえ、料理人の天職持ちの二人にも工程を見せておくのも重要だからな。

「マサトさんもこっちで一緒にパンを作りましょう?」

「そうだな、最近はレイジとミーナに任せていたけど久々に一緒に作るか」

 村にいたころは三人で作っていたんだが、村を出てからは翌日の仕込みなんかをしなきゃいけなかったから二人に任せきりだったんだよな。
 ……決して、俺が作るパンよりも二人が作る方が美味しく仕上がるから任せていたとかじゃあないんだ。

「マサト兄ちゃん、こっちも一段落したから僕も手伝うよ」

「そうだな、四人で作ろうか」

 いつもは解体後の骨やなんかは裏庭畑にある生ごみ処理機に入れるんだが、今回のキラーバードは鶏ガラスープを作るためにも残しておこう。
 根菜やハーブなんかが見つかればブイヨンに挑戦してもいいんだが、見つかるかどうかわからないからな。
 とりあえず、この領の基本は緑菜と白根と斑芋を具材にした鶏ガラのスープに白根の種から作ったパン、あとはデビルボアとかキラーバードなんかのその地で獲れる獣の肉って感じになるのが一番か。

 レイジとミーナはパン作りも手慣れたもので捏ねる直前まではほとんど二人だけでやってしまう。
 ミーナはイーリスに分量とか混ぜるときの注意点とかを説明してるからレイジよりは遅くなっているが、それでも俺が作っているのより早いのは軽く涙が出てくるな。

「よし、あとは捏ねるだけだから、ここからはイーリスもやってみようか」

「は、はい。がんばります」

「じゃあ、イーリスさんにはミーナの生地を半分任せますね」

「はい。……わわっ、なんか不思議な感触ですね」

「そっか、イーリスは貴族だからこういうものに触れたことがないのか。レイジとミーナは農村で生活してたからか、あんまりそういうことは言わなかったからなあ」

「そうだね、畑の土いじりとかで慣れてたからあんまり不思議には感じなかったかな」

「ミーナもですね。毎日、畑で作業してたので日常的な感触でしたね」

「まあ、料理は手とか身体が汚れることもよくあるけど、食堂には風呂もあるから帰り際に入っていくと良いよ」

「……お風呂? ですか?」

 やっぱりこの世界では貴族の間でも風呂はないのか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...