料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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3章 王都

11 順調

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「いやー、ランドール殿の誘いに乗って正解でしたな。まさか旅商人の間で噂になっているシェリルバイト領の食事がいただけるとは」

「我が領の秘密兵器ですからね。ですが、これを教えた以上はこちらへと食料品の融通をお願いしますよ」

「もちろんですとも。……それで、私の領にもこの技術を広めては……」

「ええ、それはもちろん。シェリルバイト領へ料理人の天職持ちを紹介状付きで送っていただければ基本レシピを教え込んでお返ししますよ」

 こんな感じで俺の食堂はランドールさんの貴族としての横のつながりと料理技術を広めるために活用されている。
 料理人をシェリルバイト領で鍛える件については王都に行く前にシェリルバイト領で、ジョシュアさんやランドールさんとあらかじめ決めておいたことだ。
 俺とミーナしかいないうえに食料の安定供給ができない王都では他領の人間に料理を教えるのは難しいので、シェリルバイト領でイーリスやロバート、ボブを中心に教え込んでもらうことになっている。

 教えるのはパンを中心に肉料理をいくつかとスープの類だ。
 パン職人のイーリスがいるのだからパンを教えるのは当然として、獣や魔獣はどの領でも処分に困っているようだから肉料理が中心になる。
 あとはどの領でも作っている緑菜と紫トマトをメインにしたトマトスープを教えるらしい。
 とりあえず、これだけ教えておけばどの領でもステータスがそれなりには上がるはずだ。

 ジョシュアさんとしてはこれに加えて、かまどや窯の作り方と引き換えに派閥の連帯感を高めるのと食料の輸入を頼むらしい。
 まあ、俺がこの世界に来てからシェリルバイト領内の食料消費はかなり増えているから余っているところからもらわないと領内の人間すべてに食料を配布するのは当分難しいのだろう。

「いやー、マサト君のおかげで外交もうまくいっているよ。今までは獣退治の時の境界線決めや騎士の合同演習くらいでしか交流のなかった近隣領主もこぞって私につなぎを求めている状態だからね」

「役に立っているのならホッとしますよ。料理技術を広めるのにシェリルバイト領の力を貸してもらっている状態なので、何かしらでお返しができているのなら心が軽くなります」

 本当にランドールさんには感謝している。
 俺たちだけだったら市井に料理技術を広めるのも貴族につながりを持つのもこの程度の苦労では足りなかっただろう。
 ジョシュアさんやランドールさん、ウィリアムさんが俺のことを信じていろいろなことを任せてくれたからこそ、ここまでうまくいっているのだろう。

「そういえばマサト君、この間言っていたベーコンは出来上がったのですか?」

「ええ、何とかうまくいきましたよ。保存食に近いものなので少し硬めですが、冷暗所においておけばそれなりの日数は保つかと」

 自作のベーコンはかなりしっかりと塩分を入れて、がっつりと乾燥、燻製したおかげか水分量がかなり少ないようだ。
 前の世界で考えるとベーコンというよりは干し肉とかジャーキーに近いような感じになってるっぽい。
 まあ、この世界だと保存食自体が少ないからベーコンはこのレシピで広めようと思う。
 冷蔵庫なんかの保存用品が発明、普及してきたら自然と水分量の多いベーコンも考えつくだろう。

「では、夕食にはそのベーコンが食べられるのですね」

「結構硬めになってしまったので美味しいと感じるかどうかはわからないですけどね」

 この世界の人間は野菜や果物ばかり食べていた弊害か、硬めのものよりも柔らかいものを好む人が多い。
 ステーキよりもハンバーグのほうが愛好者が多いし、ボアカツよりもかつ丼にした方が人気が出ているのがその証拠だ。
 まあ、この辺も食生活が浸透してきて硬い食品も食べるようになれば改善されていくのかもしれない。

「ではマサト君、今日のお客はさっきの方で終わりですので、あとは自由に過ごしてください」

「わかりました。夕食が出来上がったらランドールさんたちに運んでもらいますね」

 食堂を使う客数は一日に一組か二組、シェリルバイト領にいたころに比べたらびっくりするくらい少ないが、王都で入手できる食材の量には限りがあるからこれ以上増やすのは現実的ではない。
 ライアンさんたちは新しい食材を大量に仕入れようとしているらしいが、王都で採集できる植物関係は先にシェリルバイト領に送られることになっているからそれほどの量は確保できない。
 獣や魔獣の肉はシェリルバイト領に送ることはできないから食堂にすべて持ってこれるが、王都の兵士や騎士の頭を飛び越してシェリルバイト領の騎士が森で暴れるわけにもいかないのでその量はたかが知れている。
 大体、一日に取ってこれる肉の量は多くてもデビルボア一頭くらいで、ほとんどはホーンラビットや小型のホーンピッグくらいだ。

 まあ採集はレイジのストレス発散と実践訓練として頼んでいるようなものだから成果自体は少なくても問題ない。
 食堂が作成できたことで食堂内の畑も使えるようになったから、爆弾米や王都で新しく発見した食材も畑に植えたから賄いで食べる分くらいは確保できているのも大きいのかもしれない。

 王都で新しく手に入れた食材は黄ニラと呼ばれる、まんまニラが黄色になっている植物と弾丸大豆という完熟すると空に向けて豆を発射する大豆だ。
 黄ニラのおかげで餃子を作ることが可能になったが、レバニラのほうは新鮮なレバーが手に入らないので作るのは自重している。

 弾丸大豆のほうは若い豆、いわゆる枝豆の状態で渡されたので湯がいて出したら食堂関係者全員から好評だった。
 どうも、莢から豆を口の中に出す感触が楽しいらしい。
 豆自体も柔らかく気づいたらプチプチと連続で食べてしまうのだとかなんとか。

 俺としては枝豆よりも完熟した後にできる大豆で豆腐や味噌の作成を頑張ってみたいものだ。
 ただ、異界のレシピを見る限り味噌には麹菌が必須なのだが、この世界に麹菌が存在するかどうかが問題だな。
 まあ、この辺も試してみるしか解決策はないんだよな。
 麴職人とか発酵職人とかの天職で持っている人がいれば簡単なんだけどな……。
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