料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

文字の大きさ
77 / 150
3章 王都

12 横暴な貴族

しおりを挟む
「そこの貴方、巷で話題の料理とやらを早く作って頂戴」

 ランドールさんから今日は誰も来る予定はないと聞いているのだが、いきなり食堂に入ってきたドレス姿の少女が命令してきた。
 外にはライアンさんたちから二人が警備のために扉の前に立っていてくれたはずなのだが、押しとおってきたのかそれとも、ランドールさんの知り合いなのだろうか。
 ドレスは豪奢だが、襟から見える首元はかなりやせ細っていて初めて会った際のミーナやイーリスを彷彿とさせる。
 個人的には食事を作ってごちそうしてもいいのだが、ランドールさんと敵対する貴族だったりしたら面倒なことになるだろうな。

「何を呆けているのかしら、私が作れと言ったら作ればいいのよっ」

 作るべきか作らないべきかで悩んでいたら少女が怒鳴りだした。
 まあ、料理を待っているのに料理人が相手を見つめたまま、ぼうっとしていたら客の立場なら誰だって怒るだろう。

「誰の許可を得てこの建物に入っているのだ、リッシー伯爵令嬢」

「許可? こんなあばら家に入るのに許可なんて必要かしら?」

 結局どうしようか悩んでいる間にランドールさんがやってきてくれた。
 後ろにはライアンさんの姿も見えるから、入口で警備していくれていた誰かが伝えに走ってくれたのかもしれない。

「必要に決まっているだろう。ここはシェリルバイト家の区画なのだから、関係のないものが立ち入るのはルール違反だ」

「大人が勝手に決めたルールでしょう? それに、たかが子爵令息程度が伯爵令嬢である私に対してその言葉遣いはどうなの?」

「ああ、まだ伯爵はその程度の情報収集もできていないのか。私は数日前からシェリルバイト領の領主…つまりは子爵になったのだよ」

 ランドールさんから聞いた限りではこの国の貴族制度は公候伯子男の順番で、前の世界と大差ない感じらしい。
 要するに爵位としては伯爵よりも子爵のほうが地位は低くなる。
 とはいえ、継承権のない伯爵令嬢と子爵ならば子爵のほうが地位としては高くなるということらしい。

「あなたが子爵になっていようが私の行動を制限する理由にはなりませんわ。それにラット男爵やエンデバー伯爵はここで食事をしたそうじゃない」

「行動を制限はできないがシェリルバイト家の区画に無断で立ち入ったことを糾弾できる立場にはある。それにその二人は私が直接お招きしたのだよ…勝手に入ってきた君とは違ってね」

「……ふんっ、いいですわ。今日のところはここで引きましょう。ですが、いつまでも勝手ができるとは思わないことねっ」

 ドレス姿の伯爵令嬢は顔を真っ赤にしながら鼻息荒く食堂から去っていった。
 まあ、なんにしてもランドールさんがあれだけ敵愾心をむき出しにするんだから勝手に料理を出さなくて正解だったってことかね。

「マサトさん、大丈夫ですか?」

「ああ、ミーナ。別にちょっと声を荒げられてだけで何にもされてないから大丈夫だよ」

「貴族ってああいう方もいるんですね。びっくりしました」

「いやいや、シェリルバイト家の人が特別なだけで貴族ってのはたいていああいうもんだと思うぞ」

「さすがにたいていっていうのは言い過ぎですが、貴族というだけで平民に対して居丈高になるのが多いのは事実かな」

 ランドールさんが申し訳なさそうに弁明してきた。
 まあ、貴族であるランドールさんとしては貴族全員がああいう感じだと思われるのも心外だろう。

「とはいえ、面倒なことに巻き込んでしまったようで申し訳ない」

「いえいえ、そういえばあの子はどうやって中にまで入ってきたんですかね。扉の前には警備で誰かいましたよね」

「どうも、こちらよりも大人数で乗り込んできたようでね。ライアンたちといえども相手に怪我をさせずに倍以上の人数を制圧するのは難しかったようだ」

 ライアンさんたちは料理のおかげでそこらの人間よりもステータスは高くなっているが、それ故に無傷で相手を拘束するのは難しくなっているのかもな。

「そのことも気になってましたけど、面倒なことってどういうことですか?」

 ミーナがランドールさんに控えめながらも質問する。
 最初のころは結構委縮していたのだが、付き合いもそれなりに長くなってきたから普通に会話する分には問題ないレベルにはなっているらしい。

「さっきのリッシー家は我が家と敵対関係にある貴族でね、しかも王宮にも同じ勢力の人間が結構いるから厄介なんだ」

 なるほど、敵対関係にあるうえに王宮にも同様の勢力があればシェリルバイト家が何か企んでいるとでも吹き込まれれば王宮も動き出しかねないということか。

「そうですか……そうですね。この国でもだいぶ料理の技術が広まった……というか、最悪シェリルバイト領に行けば技術の習得が可能なレベルにはなりましたしね」

「それは、この国から出ていくということでいいのかな?」

「そうですね。少し前からどうしようか悩んでいたというのもあるのですが、厄介ごとに巻き込まれる前に出ていった方がいいのかもしれませんね」

 国にかかわったらこういうことになるかもしれないというのはシェリルバイト家にかかわる前から考えていたことだ。
 前の世界の創作物でも現実でも、権力を持った人間に近づけば恩恵があるとともに厄介ごとにもかかわるって知識があったからだ。
 まあ、俺は前の世界については記憶がないから知識としてのものになるが、概ね間違ってはいないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...