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3章 王都
12 横暴な貴族
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「そこの貴方、巷で話題の料理とやらを早く作って頂戴」
ランドールさんから今日は誰も来る予定はないと聞いているのだが、いきなり食堂に入ってきたドレス姿の少女が命令してきた。
外にはライアンさんたちから二人が警備のために扉の前に立っていてくれたはずなのだが、押しとおってきたのかそれとも、ランドールさんの知り合いなのだろうか。
ドレスは豪奢だが、襟から見える首元はかなりやせ細っていて初めて会った際のミーナやイーリスを彷彿とさせる。
個人的には食事を作ってごちそうしてもいいのだが、ランドールさんと敵対する貴族だったりしたら面倒なことになるだろうな。
「何を呆けているのかしら、私が作れと言ったら作ればいいのよっ」
作るべきか作らないべきかで悩んでいたら少女が怒鳴りだした。
まあ、料理を待っているのに料理人が相手を見つめたまま、ぼうっとしていたら客の立場なら誰だって怒るだろう。
「誰の許可を得てこの建物に入っているのだ、リッシー伯爵令嬢」
「許可? こんなあばら家に入るのに許可なんて必要かしら?」
結局どうしようか悩んでいる間にランドールさんがやってきてくれた。
後ろにはライアンさんの姿も見えるから、入口で警備していくれていた誰かが伝えに走ってくれたのかもしれない。
「必要に決まっているだろう。ここはシェリルバイト家の区画なのだから、関係のないものが立ち入るのはルール違反だ」
「大人が勝手に決めたルールでしょう? それに、たかが子爵令息程度が伯爵令嬢である私に対してその言葉遣いはどうなの?」
「ああ、まだ伯爵はその程度の情報収集もできていないのか。私は数日前からシェリルバイト領の領主…つまりは子爵になったのだよ」
ランドールさんから聞いた限りではこの国の貴族制度は公候伯子男の順番で、前の世界と大差ない感じらしい。
要するに爵位としては伯爵よりも子爵のほうが地位は低くなる。
とはいえ、継承権のない伯爵令嬢と子爵ならば子爵のほうが地位としては高くなるということらしい。
「あなたが子爵になっていようが私の行動を制限する理由にはなりませんわ。それにラット男爵やエンデバー伯爵はここで食事をしたそうじゃない」
「行動を制限はできないがシェリルバイト家の区画に無断で立ち入ったことを糾弾できる立場にはある。それにその二人は私が直接お招きしたのだよ…勝手に入ってきた君とは違ってね」
「……ふんっ、いいですわ。今日のところはここで引きましょう。ですが、いつまでも勝手ができるとは思わないことねっ」
ドレス姿の伯爵令嬢は顔を真っ赤にしながら鼻息荒く食堂から去っていった。
まあ、なんにしてもランドールさんがあれだけ敵愾心をむき出しにするんだから勝手に料理を出さなくて正解だったってことかね。
「マサトさん、大丈夫ですか?」
「ああ、ミーナ。別にちょっと声を荒げられてだけで何にもされてないから大丈夫だよ」
「貴族ってああいう方もいるんですね。びっくりしました」
「いやいや、シェリルバイト家の人が特別なだけで貴族ってのはたいていああいうもんだと思うぞ」
「さすがにたいていっていうのは言い過ぎですが、貴族というだけで平民に対して居丈高になるのが多いのは事実かな」
ランドールさんが申し訳なさそうに弁明してきた。
まあ、貴族であるランドールさんとしては貴族全員がああいう感じだと思われるのも心外だろう。
「とはいえ、面倒なことに巻き込んでしまったようで申し訳ない」
「いえいえ、そういえばあの子はどうやって中にまで入ってきたんですかね。扉の前には警備で誰かいましたよね」
「どうも、こちらよりも大人数で乗り込んできたようでね。ライアンたちといえども相手に怪我をさせずに倍以上の人数を制圧するのは難しかったようだ」
ライアンさんたちは料理のおかげでそこらの人間よりもステータスは高くなっているが、それ故に無傷で相手を拘束するのは難しくなっているのかもな。
「そのことも気になってましたけど、面倒なことってどういうことですか?」
ミーナがランドールさんに控えめながらも質問する。
最初のころは結構委縮していたのだが、付き合いもそれなりに長くなってきたから普通に会話する分には問題ないレベルにはなっているらしい。
「さっきのリッシー家は我が家と敵対関係にある貴族でね、しかも王宮にも同じ勢力の人間が結構いるから厄介なんだ」
なるほど、敵対関係にあるうえに王宮にも同様の勢力があればシェリルバイト家が何か企んでいるとでも吹き込まれれば王宮も動き出しかねないということか。
「そうですか……そうですね。この国でもだいぶ料理の技術が広まった……というか、最悪シェリルバイト領に行けば技術の習得が可能なレベルにはなりましたしね」
「それは、この国から出ていくということでいいのかな?」
「そうですね。少し前からどうしようか悩んでいたというのもあるのですが、厄介ごとに巻き込まれる前に出ていった方がいいのかもしれませんね」
国にかかわったらこういうことになるかもしれないというのはシェリルバイト家にかかわる前から考えていたことだ。
前の世界の創作物でも現実でも、権力を持った人間に近づけば恩恵があるとともに厄介ごとにもかかわるって知識があったからだ。
まあ、俺は前の世界については記憶がないから知識としてのものになるが、概ね間違ってはいないだろう。
ランドールさんから今日は誰も来る予定はないと聞いているのだが、いきなり食堂に入ってきたドレス姿の少女が命令してきた。
外にはライアンさんたちから二人が警備のために扉の前に立っていてくれたはずなのだが、押しとおってきたのかそれとも、ランドールさんの知り合いなのだろうか。
ドレスは豪奢だが、襟から見える首元はかなりやせ細っていて初めて会った際のミーナやイーリスを彷彿とさせる。
個人的には食事を作ってごちそうしてもいいのだが、ランドールさんと敵対する貴族だったりしたら面倒なことになるだろうな。
「何を呆けているのかしら、私が作れと言ったら作ればいいのよっ」
作るべきか作らないべきかで悩んでいたら少女が怒鳴りだした。
まあ、料理を待っているのに料理人が相手を見つめたまま、ぼうっとしていたら客の立場なら誰だって怒るだろう。
「誰の許可を得てこの建物に入っているのだ、リッシー伯爵令嬢」
「許可? こんなあばら家に入るのに許可なんて必要かしら?」
結局どうしようか悩んでいる間にランドールさんがやってきてくれた。
後ろにはライアンさんの姿も見えるから、入口で警備していくれていた誰かが伝えに走ってくれたのかもしれない。
「必要に決まっているだろう。ここはシェリルバイト家の区画なのだから、関係のないものが立ち入るのはルール違反だ」
「大人が勝手に決めたルールでしょう? それに、たかが子爵令息程度が伯爵令嬢である私に対してその言葉遣いはどうなの?」
「ああ、まだ伯爵はその程度の情報収集もできていないのか。私は数日前からシェリルバイト領の領主…つまりは子爵になったのだよ」
ランドールさんから聞いた限りではこの国の貴族制度は公候伯子男の順番で、前の世界と大差ない感じらしい。
要するに爵位としては伯爵よりも子爵のほうが地位は低くなる。
とはいえ、継承権のない伯爵令嬢と子爵ならば子爵のほうが地位としては高くなるということらしい。
「あなたが子爵になっていようが私の行動を制限する理由にはなりませんわ。それにラット男爵やエンデバー伯爵はここで食事をしたそうじゃない」
「行動を制限はできないがシェリルバイト家の区画に無断で立ち入ったことを糾弾できる立場にはある。それにその二人は私が直接お招きしたのだよ…勝手に入ってきた君とは違ってね」
「……ふんっ、いいですわ。今日のところはここで引きましょう。ですが、いつまでも勝手ができるとは思わないことねっ」
ドレス姿の伯爵令嬢は顔を真っ赤にしながら鼻息荒く食堂から去っていった。
まあ、なんにしてもランドールさんがあれだけ敵愾心をむき出しにするんだから勝手に料理を出さなくて正解だったってことかね。
「マサトさん、大丈夫ですか?」
「ああ、ミーナ。別にちょっと声を荒げられてだけで何にもされてないから大丈夫だよ」
「貴族ってああいう方もいるんですね。びっくりしました」
「いやいや、シェリルバイト家の人が特別なだけで貴族ってのはたいていああいうもんだと思うぞ」
「さすがにたいていっていうのは言い過ぎですが、貴族というだけで平民に対して居丈高になるのが多いのは事実かな」
ランドールさんが申し訳なさそうに弁明してきた。
まあ、貴族であるランドールさんとしては貴族全員がああいう感じだと思われるのも心外だろう。
「とはいえ、面倒なことに巻き込んでしまったようで申し訳ない」
「いえいえ、そういえばあの子はどうやって中にまで入ってきたんですかね。扉の前には警備で誰かいましたよね」
「どうも、こちらよりも大人数で乗り込んできたようでね。ライアンたちといえども相手に怪我をさせずに倍以上の人数を制圧するのは難しかったようだ」
ライアンさんたちは料理のおかげでそこらの人間よりもステータスは高くなっているが、それ故に無傷で相手を拘束するのは難しくなっているのかもな。
「そのことも気になってましたけど、面倒なことってどういうことですか?」
ミーナがランドールさんに控えめながらも質問する。
最初のころは結構委縮していたのだが、付き合いもそれなりに長くなってきたから普通に会話する分には問題ないレベルにはなっているらしい。
「さっきのリッシー家は我が家と敵対関係にある貴族でね、しかも王宮にも同じ勢力の人間が結構いるから厄介なんだ」
なるほど、敵対関係にあるうえに王宮にも同様の勢力があればシェリルバイト家が何か企んでいるとでも吹き込まれれば王宮も動き出しかねないということか。
「そうですか……そうですね。この国でもだいぶ料理の技術が広まった……というか、最悪シェリルバイト領に行けば技術の習得が可能なレベルにはなりましたしね」
「それは、この国から出ていくということでいいのかな?」
「そうですね。少し前からどうしようか悩んでいたというのもあるのですが、厄介ごとに巻き込まれる前に出ていった方がいいのかもしれませんね」
国にかかわったらこういうことになるかもしれないというのはシェリルバイト家にかかわる前から考えていたことだ。
前の世界の創作物でも現実でも、権力を持った人間に近づけば恩恵があるとともに厄介ごとにもかかわるって知識があったからだ。
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