82 / 150
3章 王都
17 国王
しおりを挟む
「陛下、私たちはこのあたりで退席させてもらいましょう。これ以上我が領の客人に対して無礼をするわけにはいきませんから」
「まて、子爵。確かに宰相はやりすぎだが、ポーションを使っていないなどそう簡単に信じられる話ではないだろう」
ああ、要するに国王としても俺がポーションを使っているからなんかしらの対価を払うべきだというのが根底にあったのだろう。
まあ、国の財源を使っているのだから、何かしらの還元を求めるのは国王としては正しいのだろう。
とはいえ、それを前面に押し出してしまうのも国王としての器量を疑われるから、宰相の無茶に乗っかった形か。
「陛下、嘘ではありません。現に客人には私たちからポーションは与えていませんし、我が領の人間のポーション使用率も下がってきています。シェリルバイト家や騎士団ではポーションを1月以上飲まないことも珍しくはありません」
俺と生活するようになってからレイジとミーナはポーションを口にしていないし、食堂に入り浸っていたイーリスたちもポーションを口にすることはなかったみたいだ。
ウィリアムさんやランドールさんみたいな騎士団の人間はけがをした際にはポーションを口にしていたみたいだが、飢えをしのぐために口にすることはなかった。
「それが客人の能力なのか? 神の加護と言っていたが…」
「いいえ、料理の技術が伝わるにつれて食料が増えましたので、ポーションに頼る必要がなくなったのです。……陛下、料理の技術が広まるというのはそういうことです。ポーションを与えて国民を支配する方法はできなくなります」
まあ、為政者としてはポーションを与えておけば従順になる国民というのは都合がいいだろうから、欲にまみれた人間なら料理の技術が広まるのを良しとはしないかもしれないな。
とはいえ、こっちとしては神様に頼まれているから広まってもらわないと困るんだけど。
「ポーションが必要なくなる……ならば、なぜ子爵は客人に好きにさせておるのだ」
「我が領は元より領民のためになるのなら権力など必要としていないからです。強権が振るえなくなることよりも、領民が飢えることもなく生活できることが重要です」
「……ふむ。…確かに国民が飢えることは我としても憂慮していた」
「それに料理を食べることによって得られることもあるのです。……まあ詳しくはまた王城に訪れた時にお知らせしましょう」
「客人よ……宰相の無礼は謝罪するゆえに王城への仕官をもう一度考えてくれぬか」
「残念ですが、宰相の件がなかったとしても要請に応えることはできません。私にとってはこの国の王よりも神様によってもたらされた使命のほうが大事ですので」
結局のところはそこに回帰する。
いくら一国の王が謝罪を行おうと、神様の使命に勝るものではない。
まあ、今回の召喚状がなければもう少し王都で食堂を経営するのも悪くはなかったのだが、権力によって活動が制限されるのならこの国にいる意味も少ないだろう。
王都にいる限り召喚状を無視するわけにもいかない以上、王城に呼ばれまくるのは目に見えている。
「仕方がないな。……子爵、ならびに客人の退出を許す」
「では、退席させていただきます」
その後は特に問題もなく、王城を脱出することができた。
正直な話、あの宰相や食堂に押しかけてきた令嬢の父親あたりが絡んでくると思っていたのだが、ランドールさん曰く、流石にあそこまでの騒ぎを起こせば宰相は当分の間は拘束されるらしい。
ちなみに、リッシー伯爵とかいう令嬢の父親は顔を青ざめながら震えていたそうだ。
顔を知らないからよくは分からなかったが、謁見場にいた貴族の何人かは顔色が悪くなっていたからその中の誰かだったんだろう。
「しかし、盛大に国王に反旗を翻す形になりましたけど、ランドールさんたちは本当に大丈夫なんですか?」
「まあ、我が家は子爵の地位にいるけど、国王陛下に対して貸しがたくさんあるからね。それに王都の騎士団がシェリルバイト領に攻め入ってきても、マサト君のおかげでシェリルバイト領の兵力は増強されているから問題ないよ」
まあ、レイジの成長具合を考えれば王都の騎士団や傭兵なんかはウィリアムさんをはじめとした騎士団の相手にもならないだろう。
レイジに聞く限りでは、レイジ一人で倒せるホーンピッグに対して騎士団や傭兵は数十人単位で狩りを行って負傷者が大量に出るらしいし。
「とはいえ、私としてはマサト君たちと別れなければならないのは残念なのですよ。陛下が召喚状なんて出さなければもう少し一緒にいられたのですがね」
「まあ、流石に起こってしまったことは仕方がないでしょうね。このままこの国にいると王城への呼び出しが頻繁に起こりそうなので、出国は変えられません」
「そうですね。こっちの後始末は私や父に任せて、マサト君は当初の目的を優先してください。……ただ、聖王国の貴族や王族も宰相につながる人間がいるので、地盤が整うまでは貴族に絡まないほうがいいでしょう」
聖王国は王都からみて北の方角にある国らしいし、あの宰相の領地も北の方らしい。
まあ、国境に接するわけではないらしいが付き合いが皆無というわけではないのだろう。
「シェリルバイト家が懇意にしているような貴族はいないのですか?」
「我が家はどちらかといえば迷宮都市のほうに近いですからね。国王陛下に対しての説明が終わりましたら、聖王国の方にも説明させますので」
まあ、この国でもウィリアムさんたちが村へ来なければ貴族にかかわるつもりはなかったし、料理の技術を広める過程で貴族は大事でもないから問題ではないだろう。
「まあ、当分は市井に対して料理の技術を広めるほうを優先させますよ。他国なら王国とは違う食材が見つかるかもしれませんしね」
「まて、子爵。確かに宰相はやりすぎだが、ポーションを使っていないなどそう簡単に信じられる話ではないだろう」
ああ、要するに国王としても俺がポーションを使っているからなんかしらの対価を払うべきだというのが根底にあったのだろう。
まあ、国の財源を使っているのだから、何かしらの還元を求めるのは国王としては正しいのだろう。
とはいえ、それを前面に押し出してしまうのも国王としての器量を疑われるから、宰相の無茶に乗っかった形か。
「陛下、嘘ではありません。現に客人には私たちからポーションは与えていませんし、我が領の人間のポーション使用率も下がってきています。シェリルバイト家や騎士団ではポーションを1月以上飲まないことも珍しくはありません」
俺と生活するようになってからレイジとミーナはポーションを口にしていないし、食堂に入り浸っていたイーリスたちもポーションを口にすることはなかったみたいだ。
ウィリアムさんやランドールさんみたいな騎士団の人間はけがをした際にはポーションを口にしていたみたいだが、飢えをしのぐために口にすることはなかった。
「それが客人の能力なのか? 神の加護と言っていたが…」
「いいえ、料理の技術が伝わるにつれて食料が増えましたので、ポーションに頼る必要がなくなったのです。……陛下、料理の技術が広まるというのはそういうことです。ポーションを与えて国民を支配する方法はできなくなります」
まあ、為政者としてはポーションを与えておけば従順になる国民というのは都合がいいだろうから、欲にまみれた人間なら料理の技術が広まるのを良しとはしないかもしれないな。
とはいえ、こっちとしては神様に頼まれているから広まってもらわないと困るんだけど。
「ポーションが必要なくなる……ならば、なぜ子爵は客人に好きにさせておるのだ」
「我が領は元より領民のためになるのなら権力など必要としていないからです。強権が振るえなくなることよりも、領民が飢えることもなく生活できることが重要です」
「……ふむ。…確かに国民が飢えることは我としても憂慮していた」
「それに料理を食べることによって得られることもあるのです。……まあ詳しくはまた王城に訪れた時にお知らせしましょう」
「客人よ……宰相の無礼は謝罪するゆえに王城への仕官をもう一度考えてくれぬか」
「残念ですが、宰相の件がなかったとしても要請に応えることはできません。私にとってはこの国の王よりも神様によってもたらされた使命のほうが大事ですので」
結局のところはそこに回帰する。
いくら一国の王が謝罪を行おうと、神様の使命に勝るものではない。
まあ、今回の召喚状がなければもう少し王都で食堂を経営するのも悪くはなかったのだが、権力によって活動が制限されるのならこの国にいる意味も少ないだろう。
王都にいる限り召喚状を無視するわけにもいかない以上、王城に呼ばれまくるのは目に見えている。
「仕方がないな。……子爵、ならびに客人の退出を許す」
「では、退席させていただきます」
その後は特に問題もなく、王城を脱出することができた。
正直な話、あの宰相や食堂に押しかけてきた令嬢の父親あたりが絡んでくると思っていたのだが、ランドールさん曰く、流石にあそこまでの騒ぎを起こせば宰相は当分の間は拘束されるらしい。
ちなみに、リッシー伯爵とかいう令嬢の父親は顔を青ざめながら震えていたそうだ。
顔を知らないからよくは分からなかったが、謁見場にいた貴族の何人かは顔色が悪くなっていたからその中の誰かだったんだろう。
「しかし、盛大に国王に反旗を翻す形になりましたけど、ランドールさんたちは本当に大丈夫なんですか?」
「まあ、我が家は子爵の地位にいるけど、国王陛下に対して貸しがたくさんあるからね。それに王都の騎士団がシェリルバイト領に攻め入ってきても、マサト君のおかげでシェリルバイト領の兵力は増強されているから問題ないよ」
まあ、レイジの成長具合を考えれば王都の騎士団や傭兵なんかはウィリアムさんをはじめとした騎士団の相手にもならないだろう。
レイジに聞く限りでは、レイジ一人で倒せるホーンピッグに対して騎士団や傭兵は数十人単位で狩りを行って負傷者が大量に出るらしいし。
「とはいえ、私としてはマサト君たちと別れなければならないのは残念なのですよ。陛下が召喚状なんて出さなければもう少し一緒にいられたのですがね」
「まあ、流石に起こってしまったことは仕方がないでしょうね。このままこの国にいると王城への呼び出しが頻繁に起こりそうなので、出国は変えられません」
「そうですね。こっちの後始末は私や父に任せて、マサト君は当初の目的を優先してください。……ただ、聖王国の貴族や王族も宰相につながる人間がいるので、地盤が整うまでは貴族に絡まないほうがいいでしょう」
聖王国は王都からみて北の方角にある国らしいし、あの宰相の領地も北の方らしい。
まあ、国境に接するわけではないらしいが付き合いが皆無というわけではないのだろう。
「シェリルバイト家が懇意にしているような貴族はいないのですか?」
「我が家はどちらかといえば迷宮都市のほうに近いですからね。国王陛下に対しての説明が終わりましたら、聖王国の方にも説明させますので」
まあ、この国でもウィリアムさんたちが村へ来なければ貴族にかかわるつもりはなかったし、料理の技術を広める過程で貴族は大事でもないから問題ではないだろう。
「まあ、当分は市井に対して料理の技術を広めるほうを優先させますよ。他国なら王国とは違う食材が見つかるかもしれませんしね」
5
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる