料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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5章 帝国

16 失敗

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 帝国での活動はリヒトのバックアップもあって、かなりうまくいっている。
 また、結婚だ囲い込みだとあるかと思っていたが、リヒトや王妃、第一から第三までの皇子が上手く抑え込んでくれているようで少なくとも俺たちに直接そういう話が来ることもなかった。

 兵士の中にいた料理人の天職持ちの人たちは半分は帝都のあちこちに散らばって、料理の技術を教えている。
 俺が天職を持っていなくても簡単な料理ならできるといったから、リヒトが帝都市民に対して技術を広く公表することを決めたからだ。
 残りの半分の内、さらに半分は帝国軍で料理指導、最後に残った四分の一は市民から見つけてきた料理人の天職持ちに対して料理の技術指導についている。
 料理人の天職持ちだった兵士たちには、帝国で作れる料理のレシピはかなり渡したし、なにか疑問があればすぐに質問に来られるようにしているので、帝国での料理の技術が王国並みになるのもそう遠くないだろう。

 問題は、ミレーヌが行っている発酵食品の開発だ。
 結局、紅大豆は味噌や醤油に使える食材だと判明したのだが、発酵に必要な麹造りに手間取っている感じだ。
 ミレーヌが言うには発酵に必要な菌がいること自体は、発酵職人の天職で理解できるらしい。
 だが、どうやって作ればいいのかの指示は異界のレシピで出せても、この世界の麹菌が増える最適な温度や条件はミレーヌの天職に頼るしかいない状態だ。
 だから、ミレーヌはあらゆる条件を試しながら、最適な条件を探している。

 俺が見た感じでは麹菌自体の増殖には成功しているが、成功率は三割弱……研究用の資料には十分だが、発酵食品を作ろうと思えば原料になる麦や米を無駄にする行為にしか見えないだろう。
 帝室にいる人間は味付けの重要性を理解しているが、米や麦の生産は始まったばかりでこの成功率では皇帝としてのリヒトはゴーサインを出せないでいる。

「もー! うまくいきませんわ!」

「流石にその言葉遣いは皇女としてはしたなさすぎないか?」

「別にここには先生たちしかいないからいいじゃないですか」

 ここ数か月一緒に料理を作っているうちにミレーヌは俺のことを先生と呼ぶようになってきている。
 まあ、俺が様付で呼ばれるのを嫌がり続けたのが原因だから、強くは言えないんだが、レシピを教えているだけで調理技術自体は上の人間に先生と呼ばれるのは何ともむず痒いもんだ。

「リヒトさんも最近は食堂に来ないですしね」

「あー、リヒトね。なんか皇帝としての仕事が忙しいらしいよ」

 料理人の育成に食材の収集、帝国内部の各国への情報の公開など、皇帝であるリヒトでないとできない采配が多すぎるらしい。
 王妃や皇子たちからの料理の要望はたまに来るのだが、最近リヒトは食べられれば何でもいいという感じになっていてかなり健康に悪い感じなんだよな。

「皇帝陛下のことは今はいいです。それよりもこの麴というものですよ」

「まあまあ、最初に言っただろ、発酵食品は作るのに時間がかかるって」

「それはそうですけれど……」

「それにそろそろですよね」

「ああ、海から海産物が届くらしいな」

 帝城についてすぐのころに俺からもミレーヌからも、海の食材の重要性はリヒトに伝えてある。
 海の近くにはもともと帝国とは違う国があったらしいが、海から来た魔獣によって壊滅……周辺国家を保護したときにその地域も帝国に組み入れて今では皇帝直轄地となっているらしい。
 なので、海産物はリヒトの一声で簡単に集まるのだが、帝都に届けるためには氷魔法の使い手と水魔法の使い手が必須。
 結局、その辺の人材に手すきができるまでは海産物を届けることもできず、帝都周辺に手を入れることを優先していたというのがリヒトの弁だ。

「魚介が届いたら魚醤に挑戦してみてもいいしな」

「この前から作り始めているザワークラウトみたいな作り方なんですよね?」

 帝国は王国とは違って冬になると大雪が降って、畑仕事どころではなくなるということで、リヒトに冬に向けての保存食も欲しいと言われている。
 その一環で作り始めたのが、白根のたくあんと緑菜のザワークラウト、それに豚のベーコン作りだ。
 ベーコンは醤油を使った方がおいしくなるが、塩と香辛料だけでも作れないことはないので強行している。
 まあ、食堂で作ってる分は醤油を使ったものだけど……。

「魚と塩を入れて保存しておけば魚醤ができる……らしいからまあ、ザワークラウトと同じだな」

 異界のレシピにはそう記してあるが、作ったことはない……前の世界の記憶がないからはっきりしたことは言えないが、普通に生きて北であろう俺が魚醤なんて調味料を作ったことがないだろうことは想像に難くない。
 結局、ザワークラウトにしろ、たくあんにしろ、魚醤にしろ発酵食品ではあるのだから、ミレーヌの手を借りて試しながら作っていくしかないんだよな。
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