131 / 150
5章 帝国
16 失敗
しおりを挟む
帝国での活動はリヒトのバックアップもあって、かなりうまくいっている。
また、結婚だ囲い込みだとあるかと思っていたが、リヒトや王妃、第一から第三までの皇子が上手く抑え込んでくれているようで少なくとも俺たちに直接そういう話が来ることもなかった。
兵士の中にいた料理人の天職持ちの人たちは半分は帝都のあちこちに散らばって、料理の技術を教えている。
俺が天職を持っていなくても簡単な料理ならできるといったから、リヒトが帝都市民に対して技術を広く公表することを決めたからだ。
残りの半分の内、さらに半分は帝国軍で料理指導、最後に残った四分の一は市民から見つけてきた料理人の天職持ちに対して料理の技術指導についている。
料理人の天職持ちだった兵士たちには、帝国で作れる料理のレシピはかなり渡したし、なにか疑問があればすぐに質問に来られるようにしているので、帝国での料理の技術が王国並みになるのもそう遠くないだろう。
問題は、ミレーヌが行っている発酵食品の開発だ。
結局、紅大豆は味噌や醤油に使える食材だと判明したのだが、発酵に必要な麹造りに手間取っている感じだ。
ミレーヌが言うには発酵に必要な菌がいること自体は、発酵職人の天職で理解できるらしい。
だが、どうやって作ればいいのかの指示は異界のレシピで出せても、この世界の麹菌が増える最適な温度や条件はミレーヌの天職に頼るしかいない状態だ。
だから、ミレーヌはあらゆる条件を試しながら、最適な条件を探している。
俺が見た感じでは麹菌自体の増殖には成功しているが、成功率は三割弱……研究用の資料には十分だが、発酵食品を作ろうと思えば原料になる麦や米を無駄にする行為にしか見えないだろう。
帝室にいる人間は味付けの重要性を理解しているが、米や麦の生産は始まったばかりでこの成功率では皇帝としてのリヒトはゴーサインを出せないでいる。
「もー! うまくいきませんわ!」
「流石にその言葉遣いは皇女としてはしたなさすぎないか?」
「別にここには先生たちしかいないからいいじゃないですか」
ここ数か月一緒に料理を作っているうちにミレーヌは俺のことを先生と呼ぶようになってきている。
まあ、俺が様付で呼ばれるのを嫌がり続けたのが原因だから、強くは言えないんだが、レシピを教えているだけで調理技術自体は上の人間に先生と呼ばれるのは何ともむず痒いもんだ。
「リヒトさんも最近は食堂に来ないですしね」
「あー、リヒトね。なんか皇帝としての仕事が忙しいらしいよ」
料理人の育成に食材の収集、帝国内部の各国への情報の公開など、皇帝であるリヒトでないとできない采配が多すぎるらしい。
王妃や皇子たちからの料理の要望はたまに来るのだが、最近リヒトは食べられれば何でもいいという感じになっていてかなり健康に悪い感じなんだよな。
「皇帝陛下のことは今はいいです。それよりもこの麴というものですよ」
「まあまあ、最初に言っただろ、発酵食品は作るのに時間がかかるって」
「それはそうですけれど……」
「それにそろそろですよね」
「ああ、海から海産物が届くらしいな」
帝城についてすぐのころに俺からもミレーヌからも、海の食材の重要性はリヒトに伝えてある。
海の近くにはもともと帝国とは違う国があったらしいが、海から来た魔獣によって壊滅……周辺国家を保護したときにその地域も帝国に組み入れて今では皇帝直轄地となっているらしい。
なので、海産物はリヒトの一声で簡単に集まるのだが、帝都に届けるためには氷魔法の使い手と水魔法の使い手が必須。
結局、その辺の人材に手すきができるまでは海産物を届けることもできず、帝都周辺に手を入れることを優先していたというのがリヒトの弁だ。
「魚介が届いたら魚醤に挑戦してみてもいいしな」
「この前から作り始めているザワークラウトみたいな作り方なんですよね?」
帝国は王国とは違って冬になると大雪が降って、畑仕事どころではなくなるということで、リヒトに冬に向けての保存食も欲しいと言われている。
その一環で作り始めたのが、白根のたくあんと緑菜のザワークラウト、それに豚のベーコン作りだ。
ベーコンは醤油を使った方がおいしくなるが、塩と香辛料だけでも作れないことはないので強行している。
まあ、食堂で作ってる分は醤油を使ったものだけど……。
「魚と塩を入れて保存しておけば魚醤ができる……らしいからまあ、ザワークラウトと同じだな」
異界のレシピにはそう記してあるが、作ったことはない……前の世界の記憶がないからはっきりしたことは言えないが、普通に生きて北であろう俺が魚醤なんて調味料を作ったことがないだろうことは想像に難くない。
結局、ザワークラウトにしろ、たくあんにしろ、魚醤にしろ発酵食品ではあるのだから、ミレーヌの手を借りて試しながら作っていくしかないんだよな。
また、結婚だ囲い込みだとあるかと思っていたが、リヒトや王妃、第一から第三までの皇子が上手く抑え込んでくれているようで少なくとも俺たちに直接そういう話が来ることもなかった。
兵士の中にいた料理人の天職持ちの人たちは半分は帝都のあちこちに散らばって、料理の技術を教えている。
俺が天職を持っていなくても簡単な料理ならできるといったから、リヒトが帝都市民に対して技術を広く公表することを決めたからだ。
残りの半分の内、さらに半分は帝国軍で料理指導、最後に残った四分の一は市民から見つけてきた料理人の天職持ちに対して料理の技術指導についている。
料理人の天職持ちだった兵士たちには、帝国で作れる料理のレシピはかなり渡したし、なにか疑問があればすぐに質問に来られるようにしているので、帝国での料理の技術が王国並みになるのもそう遠くないだろう。
問題は、ミレーヌが行っている発酵食品の開発だ。
結局、紅大豆は味噌や醤油に使える食材だと判明したのだが、発酵に必要な麹造りに手間取っている感じだ。
ミレーヌが言うには発酵に必要な菌がいること自体は、発酵職人の天職で理解できるらしい。
だが、どうやって作ればいいのかの指示は異界のレシピで出せても、この世界の麹菌が増える最適な温度や条件はミレーヌの天職に頼るしかいない状態だ。
だから、ミレーヌはあらゆる条件を試しながら、最適な条件を探している。
俺が見た感じでは麹菌自体の増殖には成功しているが、成功率は三割弱……研究用の資料には十分だが、発酵食品を作ろうと思えば原料になる麦や米を無駄にする行為にしか見えないだろう。
帝室にいる人間は味付けの重要性を理解しているが、米や麦の生産は始まったばかりでこの成功率では皇帝としてのリヒトはゴーサインを出せないでいる。
「もー! うまくいきませんわ!」
「流石にその言葉遣いは皇女としてはしたなさすぎないか?」
「別にここには先生たちしかいないからいいじゃないですか」
ここ数か月一緒に料理を作っているうちにミレーヌは俺のことを先生と呼ぶようになってきている。
まあ、俺が様付で呼ばれるのを嫌がり続けたのが原因だから、強くは言えないんだが、レシピを教えているだけで調理技術自体は上の人間に先生と呼ばれるのは何ともむず痒いもんだ。
「リヒトさんも最近は食堂に来ないですしね」
「あー、リヒトね。なんか皇帝としての仕事が忙しいらしいよ」
料理人の育成に食材の収集、帝国内部の各国への情報の公開など、皇帝であるリヒトでないとできない采配が多すぎるらしい。
王妃や皇子たちからの料理の要望はたまに来るのだが、最近リヒトは食べられれば何でもいいという感じになっていてかなり健康に悪い感じなんだよな。
「皇帝陛下のことは今はいいです。それよりもこの麴というものですよ」
「まあまあ、最初に言っただろ、発酵食品は作るのに時間がかかるって」
「それはそうですけれど……」
「それにそろそろですよね」
「ああ、海から海産物が届くらしいな」
帝城についてすぐのころに俺からもミレーヌからも、海の食材の重要性はリヒトに伝えてある。
海の近くにはもともと帝国とは違う国があったらしいが、海から来た魔獣によって壊滅……周辺国家を保護したときにその地域も帝国に組み入れて今では皇帝直轄地となっているらしい。
なので、海産物はリヒトの一声で簡単に集まるのだが、帝都に届けるためには氷魔法の使い手と水魔法の使い手が必須。
結局、その辺の人材に手すきができるまでは海産物を届けることもできず、帝都周辺に手を入れることを優先していたというのがリヒトの弁だ。
「魚介が届いたら魚醤に挑戦してみてもいいしな」
「この前から作り始めているザワークラウトみたいな作り方なんですよね?」
帝国は王国とは違って冬になると大雪が降って、畑仕事どころではなくなるということで、リヒトに冬に向けての保存食も欲しいと言われている。
その一環で作り始めたのが、白根のたくあんと緑菜のザワークラウト、それに豚のベーコン作りだ。
ベーコンは醤油を使った方がおいしくなるが、塩と香辛料だけでも作れないことはないので強行している。
まあ、食堂で作ってる分は醤油を使ったものだけど……。
「魚と塩を入れて保存しておけば魚醤ができる……らしいからまあ、ザワークラウトと同じだな」
異界のレシピにはそう記してあるが、作ったことはない……前の世界の記憶がないからはっきりしたことは言えないが、普通に生きて北であろう俺が魚醤なんて調味料を作ったことがないだろうことは想像に難くない。
結局、ザワークラウトにしろ、たくあんにしろ、魚醤にしろ発酵食品ではあるのだから、ミレーヌの手を借りて試しながら作っていくしかないんだよな。
5
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる