料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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5章 帝国

18 フライ

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「へー、これがあのぐにゃぐにゃしてた海の魔獣か」

 リヒトにイカリングを振舞った時の反応がこれだ。
 前の世界では地域によってはイカは食べないと言われているらしいが、この世界ではそもそも獣も魔獣も食べられていなかったのが料理の技術が広まった結果、食べられるようになってきている。
 要するに偏見が少ないうちに広めてしまえば、この世界では毒持ち以外は食べるのが当たり前という状況に持っていけるということだ。

「味付けはソースかタルタルソースがおすすめかな。両方とも帝国産のものが出来てるから試してみてくれよ」

 鳥型魔獣から卵を回収する当てができたので、マヨネーズやタルタルソースの開発には成功している。
 どうやら、この世界にはサルモネラ菌に相当する菌はいないらしく、基本的に魔獣や獣の卵は生食可となっている。
 ソースも適当な果物と根野菜、葉物野菜なんかで制作が進んでいる……正直、完成度は食堂のソースと比べるまでもないが、それでもこの世界産の調味料ということでわずかながらでもステータスが向上するのが特徴だろう。

「豚カツみたいな調理方法なんだな……うん、美味い。こっちのスープには海藻が使われてるのか」

「干してみたけど結構出汁が出るみたいだから、使い道は多そうだぞ」

 海藻は生のまま食べるとワカメに似たような味と食感で、干すと昆布のように出汁がよく出るというものだった。
 かなり有用な海藻なので、是非ともリヒトには気に入ってもらって大量に確保してほしいものだ。

「ふーん、味自体が特別優れてるわけじゃないけど、あって邪魔になるもんでもないな……海辺では防衛の邪魔になるから定期的に刈ってるし、これからは食料として保存させるか」

「魚はミレーヌが言うには魚醬には使えそうって話だけど、今回はフライにしてみた」

「イカリングと違って四角くなってるのがそうか」

「こっちもソースでもタルタルソースでもどっちでも大丈夫だぞ」

 この魚も不思議なもので生で使ってみると青魚っぽいんだが火を通すと臭みがなくて、白身魚っぽいんだよな。
 骨も簡単に離れるし、それほど固くもないんで魚を食べ慣れていない人にとっては食べやすい魚になるだろう。

「うんうん、これもいいな。家族はパスタを気に入ってる奴が多いが、俺としてはマサトの作るフライやカツが最高だな」

「まあ、リヒトは将軍として兵士と訓練したりもするんだろ? 身体を動かす男性と部屋に引きこもってることが多い女性じゃ食の嗜好が違うのは当然だよ」

「そんなもんか」

「王国じゃ家事や畑仕事に追われてる女性もガッツリ肉料理を食べてたけど、貴族の女性はサンドイッチとかケーキが好きな人が多かったしな」

 これは男女差別とかでもなく、単純にこの世界では肉体労働をする人間に男性が多く階級が上がれば上がるほどに女性は家の中に引きこもって書類仕事をすることが多くなる。
 王国の神殿で聞いた話だと、女性の方が内向きの天職を獲得することが多く、男性の方が戦闘系なんかの外向きの天職を獲得することが多いのだとか。
 まあ、この辺もステータスが成熟してきたら変化していくのかもしれないが、今のところは食の嗜好は男性が肉系、女性が軽い食事というものになっている。

「なるほどなー……それはともかく、ミレーヌはちゃんと活躍出来てるか?」

「さっきも言ったが、魚醤やらなにやらミレーヌの協力のおかげでいろいろ進んでるよ。……ただ発酵食品はどれもこれも作るのに年単位の時間がかかるからな成果が目に見えるようになるのはもう少し先になるだろうな」

 魚醤も身が崩れて旨味成分が溶け出すのに一年はかかる……味噌や醤油に至っては一年で入口、まともな味のものにするためには三年から十年くらいはかかるだろう。

「まあ、あれには他に重要な仕事は任せてないから、マサトに任せるぞ」

「本人のやる気が続く限りは手伝ってもらうよ」

 多分この言葉は皇帝としてのものというより、父親としてのものなんだろうな。
 ミレーヌは父親としてのリヒトを否定しているけど、結構子煩悩なところがあるんだよな、この男。
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