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「これが……俺の……能力」
口に出してみて初めて実感が得られるようだった。人知を超えた不可思議な能力といえば正にそれにあたるだろう。
「はい、その右腕は間違いなく諒真さん自身の新しい能力です」
「これは素晴らしい能力だよ、諒真君」
満面の笑みを浮かべた咲良と興奮を隠しきれないといった様子のブライアンに自身のつぶやきを肯定されて諒真自身の理解はますます深まってゆく。
「そうか……これが」
諒真は呟きつつ右腕を二、三度軽く振ってみるがその異質な姿とは裏腹に以前までの右腕と同じように違和感なく動かせる。
そんな諒真の姿に心底満足したのか咲良は傍に置いてあったペットボトルを手に取りつつ
「では能力使用の第二段階に移りましょう」
と、諒真に語りかける。
「第二段階……?」
ニコニコとしながらペットボトルの中に入っている水を自分の左手に振りかける咲良の様子を不思議そうに見ながら諒真は自身の中に発生した疑問を口に出す。
能力の発動方法が分かった今、残る課題は能力の解除だけだと思っていた諒真にとっては咲良の行動は不思議としか言いようがなかったが次の瞬間にはその行動の意味を推し量ることができた。
なぜならば、咲良が左腕に振りかけていたペットボトルの水がまるで意思を持つかのように咲良の左腕に絡みつていたからだ。
ブライアンや咲良が申告していたように咲良は紛れもない能力者でありいままさにその能力を発動させているのだろう。
「見ての通り私の能力は自身が触れた水を自由自在に操ることができるというものです」
その言葉を裏付けるように咲良の左腕に絡みついていた水は次々に変化してゆき最後にはまるで鉄でできているような鋭い日本刀の形に変化していた。
その姿はある種、感動を覚えるような光景ではあったが、咲良がいきなり能力を発動させたことに対する回答がまるで見いだせず諒真自身が困惑していると
「これから私の作り出した水の刃で諒真さんに斬りかかります。能力者は普通の人と比べてトラブルに合う確率が高いんです。それが能力を発動させた人間の宿命なのか単なる偶然なのかはわかりませんがそれが事実です」
「えっと……つまり……」
「はい、自衛の手段をその身に叩き込むまでが能力の使用方法の講義です」
相も変わらずニコニコとしながら一つ一つ丁寧に説明してくれる咲良だったが、諒真自身はその言葉にただただ冷や汗をかくしかなかった。
深夜に怪物じみた男に襲われ体中を切り刻まれて、目を覚ましてみたら今度は自分と同年代の可愛らしい少女から「あなたに斬りかかりますね」などと言われて「よろしくおねがいします」などと言えるような奴は人類の進化うんぬんよりも前に脳みその検査を行わなければならないほどの馬鹿野郎だけだ。
当然のことながらそこまでの馬鹿にはなりきれない諒真が助けを求めるようにブライアンの方に目を向けると
「素晴らしい、これは素晴らしい能力だよ諒真君。こんな能力はワタシですら見たことも聞いたこともない。これは研究意欲が高まるよ」
などと興奮した様子でまるで止める気配はない。それどころかデータが欲しいから早く実戦訓練を始めてほしいとでもいうように目をキラキラさせている。
肝心の大人もまるで止める気配を見せずにいるので諒真がいやいやながらも覚悟を決めると
「もちろん怪我をしないように手加減はしますよ?」
と咲良が諒真の不安を打ち消すように言葉をかけるが、そもそも諒真にとっては刃物で襲い掛かられるという状況そのものが嫌なのであって怪我をしないからと言ってやる気満々になるかといえばそんなことはなかった。
「わかった。俺も傷つけないように気を付ける」
駄々をこねるように否定し続ても講義が終わらないことは目に見えているので戦闘訓練を開始する一言を言い放つ。
すると、それに呼応するかのように咲良は水の刃絵を右手に持ち替えて諒真に向かってくる。
格闘技はおろか喧嘩の類ですらろくに経験の無かった諒真ではあったが、自分めがけて振り下ろされる水の刃は勢いも緩く難なく防ぐことができる。
しかし水の刃が諒真の変質した右腕に触れた瞬間、ギャリギャリと甲高い音が鳴り響き火花が散った。日常では聞きなれないその音と火花に驚き諒真はとっさに咲良から距離を取る。
「今のはっ……右腕で受けなかったら大惨事だったのでは?」
「え? でも子供でもよけられる速度でしたしこれぐらいしないと能力の実感なんて得られませんよ?」
心底不思議そうな顔をしながら咲良が諒真の問いかけに答える。確かに能力者というものが諒真を殺したような男みたいなのばかりだというのならこれくらい防げないなら自衛には物足りないのだろう。
「でもでも俺、格闘技とかの経験もないしいきなり火花が出るような勢いの攻撃はちょっと怖いかな……なんて」
「その辺については大丈夫ですよ。能力に目覚めた時点で身体能力も底上げされるので以前よりも体がスムーズに動くはずですよ」
咲良の言うことに間違いはないようで確かに以前とは比べようもないほどに体は思った通りに動いた。
「……確かに」
自分の身体の調子を確かめるように諒真は軽く前後左右にステップを踏んでみるが思った以上に切れがいい。
「理解していただけたみたいなので次はもう少し速くいきますね」
諒真の顔から恐怖の感情が薄れていくのを見て取った咲良は宣言通り先ほどよりも勢いをつけて諒真に襲いかかる。
横薙ぎに繰り出される刃を先ほどと同じように右腕一本で防ぐと、またもや甲高い音とともに火花が散る。先ほどの攻防でさすがの諒真も覚悟が決まっていたのか今度はいきなり距離を取るような真似はしない。それどころか渾身の力を込めて襲い来る凶刃を弾き返す。
「くっ!」
少し力を籠めすぎたのか刃を弾き返された咲良が体勢を崩すも諒真の方もバランスを崩してたたらを踏む。
「良い感じですよ。その調子で新しく手に入れた能力に慣れてください」
諒真が積極的に攻撃を防いだのがうれしいのか咲良は笑顔を浮かべつつ距離をつめてくる。笑顔の少女が振るう刃は速度自体は先ほどまでと大して変わらなかったが、単発で終わったそれとは違い二度三度と諒真の身体めがけて繰り出される。
先ほどは力を籠めすぎて失敗した諒真だったが、今度は同じミスをしないように咲良が繰り出してくる攻撃を丁寧に防ぎ続ける。
諒真が慣れてきたのを数度の攻防で理解した咲良はあえて右腕で防ぐのが困難な場所への攻撃を織り交ぜ始める。
とは言っても、速度自体は先程までと同じなので諒真は飛躍的に向上した身体能力のおかげもあって防げる攻撃は右腕で防ぎ右腕が届かない場所への攻撃は確実に避けきる。
避けた際に水の刃が床の一部を切り裂いたのかその部分はチェーンソーで斬られたようにささくれ立った傷跡が刻み込まれていた。
その光景を見て諒真はゾッとすると同時に自身の能力にかつてないほどの頼もしさを感じる。明らかに通常の刃物よりも切れ味の鋭い咲良の能力ですら傷ひとつない様子からしてよっぽどの破壊力がない限り右腕で防げば致命傷にはならないだろう。
そのまま数分間同じような攻防を続けていると唐突に咲良の方から距離を離してきた。
「……これで講義の方は終わりか?」
思わず、といった風に諒真は咲良へと声をかける。
「そうですね。諒真さんも慣れてきたみたいですので準備運動はこれくらいで大丈夫ですね。少し休憩したら次は実戦に近づけた訓練を行いましょう」
今までの攻防を準備運動と切って捨てられたのをショックに思いながらも休憩できると知って安堵する諒真。一撃食らえば死にかねない攻防は思った以上に心と体に負担を強いたのか動きを止めたとたんに心臓がバクバクと鳴り響き汗がどっと噴き出てくる。
咲良はそんな諒真の様子に気づいて部屋の隅から飲み物を取り出すと諒真に手渡してくる。
「あ、ありがとう」
お礼を言いつつ受け取った飲み物を口に流し込むとよほど体が水分を欲していたのか一気に飲み干してしまう。
「いえいえ、お安い御用ですよ。それにしても諒真さんは筋が良くて楽ですよ」
「そ、そうかな」
これまで運動方面では十人並みで過ごしてきた諒真は突然発せられた褒め言葉に照れてしまう。
「はい。私の攻撃もよく見えていますし、判断も的確で身体もよく動いてます」
「それは芦沢さんが手加減してくれたからだと思うよ」
「いやいや、謙遜することはないよ諒真君。君の能力は見ていてほれぼれするほど凄まじいよ」
口に出してみて初めて実感が得られるようだった。人知を超えた不可思議な能力といえば正にそれにあたるだろう。
「はい、その右腕は間違いなく諒真さん自身の新しい能力です」
「これは素晴らしい能力だよ、諒真君」
満面の笑みを浮かべた咲良と興奮を隠しきれないといった様子のブライアンに自身のつぶやきを肯定されて諒真自身の理解はますます深まってゆく。
「そうか……これが」
諒真は呟きつつ右腕を二、三度軽く振ってみるがその異質な姿とは裏腹に以前までの右腕と同じように違和感なく動かせる。
そんな諒真の姿に心底満足したのか咲良は傍に置いてあったペットボトルを手に取りつつ
「では能力使用の第二段階に移りましょう」
と、諒真に語りかける。
「第二段階……?」
ニコニコとしながらペットボトルの中に入っている水を自分の左手に振りかける咲良の様子を不思議そうに見ながら諒真は自身の中に発生した疑問を口に出す。
能力の発動方法が分かった今、残る課題は能力の解除だけだと思っていた諒真にとっては咲良の行動は不思議としか言いようがなかったが次の瞬間にはその行動の意味を推し量ることができた。
なぜならば、咲良が左腕に振りかけていたペットボトルの水がまるで意思を持つかのように咲良の左腕に絡みつていたからだ。
ブライアンや咲良が申告していたように咲良は紛れもない能力者でありいままさにその能力を発動させているのだろう。
「見ての通り私の能力は自身が触れた水を自由自在に操ることができるというものです」
その言葉を裏付けるように咲良の左腕に絡みついていた水は次々に変化してゆき最後にはまるで鉄でできているような鋭い日本刀の形に変化していた。
その姿はある種、感動を覚えるような光景ではあったが、咲良がいきなり能力を発動させたことに対する回答がまるで見いだせず諒真自身が困惑していると
「これから私の作り出した水の刃で諒真さんに斬りかかります。能力者は普通の人と比べてトラブルに合う確率が高いんです。それが能力を発動させた人間の宿命なのか単なる偶然なのかはわかりませんがそれが事実です」
「えっと……つまり……」
「はい、自衛の手段をその身に叩き込むまでが能力の使用方法の講義です」
相も変わらずニコニコとしながら一つ一つ丁寧に説明してくれる咲良だったが、諒真自身はその言葉にただただ冷や汗をかくしかなかった。
深夜に怪物じみた男に襲われ体中を切り刻まれて、目を覚ましてみたら今度は自分と同年代の可愛らしい少女から「あなたに斬りかかりますね」などと言われて「よろしくおねがいします」などと言えるような奴は人類の進化うんぬんよりも前に脳みその検査を行わなければならないほどの馬鹿野郎だけだ。
当然のことながらそこまでの馬鹿にはなりきれない諒真が助けを求めるようにブライアンの方に目を向けると
「素晴らしい、これは素晴らしい能力だよ諒真君。こんな能力はワタシですら見たことも聞いたこともない。これは研究意欲が高まるよ」
などと興奮した様子でまるで止める気配はない。それどころかデータが欲しいから早く実戦訓練を始めてほしいとでもいうように目をキラキラさせている。
肝心の大人もまるで止める気配を見せずにいるので諒真がいやいやながらも覚悟を決めると
「もちろん怪我をしないように手加減はしますよ?」
と咲良が諒真の不安を打ち消すように言葉をかけるが、そもそも諒真にとっては刃物で襲い掛かられるという状況そのものが嫌なのであって怪我をしないからと言ってやる気満々になるかといえばそんなことはなかった。
「わかった。俺も傷つけないように気を付ける」
駄々をこねるように否定し続ても講義が終わらないことは目に見えているので戦闘訓練を開始する一言を言い放つ。
すると、それに呼応するかのように咲良は水の刃絵を右手に持ち替えて諒真に向かってくる。
格闘技はおろか喧嘩の類ですらろくに経験の無かった諒真ではあったが、自分めがけて振り下ろされる水の刃は勢いも緩く難なく防ぐことができる。
しかし水の刃が諒真の変質した右腕に触れた瞬間、ギャリギャリと甲高い音が鳴り響き火花が散った。日常では聞きなれないその音と火花に驚き諒真はとっさに咲良から距離を取る。
「今のはっ……右腕で受けなかったら大惨事だったのでは?」
「え? でも子供でもよけられる速度でしたしこれぐらいしないと能力の実感なんて得られませんよ?」
心底不思議そうな顔をしながら咲良が諒真の問いかけに答える。確かに能力者というものが諒真を殺したような男みたいなのばかりだというのならこれくらい防げないなら自衛には物足りないのだろう。
「でもでも俺、格闘技とかの経験もないしいきなり火花が出るような勢いの攻撃はちょっと怖いかな……なんて」
「その辺については大丈夫ですよ。能力に目覚めた時点で身体能力も底上げされるので以前よりも体がスムーズに動くはずですよ」
咲良の言うことに間違いはないようで確かに以前とは比べようもないほどに体は思った通りに動いた。
「……確かに」
自分の身体の調子を確かめるように諒真は軽く前後左右にステップを踏んでみるが思った以上に切れがいい。
「理解していただけたみたいなので次はもう少し速くいきますね」
諒真の顔から恐怖の感情が薄れていくのを見て取った咲良は宣言通り先ほどよりも勢いをつけて諒真に襲いかかる。
横薙ぎに繰り出される刃を先ほどと同じように右腕一本で防ぐと、またもや甲高い音とともに火花が散る。先ほどの攻防でさすがの諒真も覚悟が決まっていたのか今度はいきなり距離を取るような真似はしない。それどころか渾身の力を込めて襲い来る凶刃を弾き返す。
「くっ!」
少し力を籠めすぎたのか刃を弾き返された咲良が体勢を崩すも諒真の方もバランスを崩してたたらを踏む。
「良い感じですよ。その調子で新しく手に入れた能力に慣れてください」
諒真が積極的に攻撃を防いだのがうれしいのか咲良は笑顔を浮かべつつ距離をつめてくる。笑顔の少女が振るう刃は速度自体は先ほどまでと大して変わらなかったが、単発で終わったそれとは違い二度三度と諒真の身体めがけて繰り出される。
先ほどは力を籠めすぎて失敗した諒真だったが、今度は同じミスをしないように咲良が繰り出してくる攻撃を丁寧に防ぎ続ける。
諒真が慣れてきたのを数度の攻防で理解した咲良はあえて右腕で防ぐのが困難な場所への攻撃を織り交ぜ始める。
とは言っても、速度自体は先程までと同じなので諒真は飛躍的に向上した身体能力のおかげもあって防げる攻撃は右腕で防ぎ右腕が届かない場所への攻撃は確実に避けきる。
避けた際に水の刃が床の一部を切り裂いたのかその部分はチェーンソーで斬られたようにささくれ立った傷跡が刻み込まれていた。
その光景を見て諒真はゾッとすると同時に自身の能力にかつてないほどの頼もしさを感じる。明らかに通常の刃物よりも切れ味の鋭い咲良の能力ですら傷ひとつない様子からしてよっぽどの破壊力がない限り右腕で防げば致命傷にはならないだろう。
そのまま数分間同じような攻防を続けていると唐突に咲良の方から距離を離してきた。
「……これで講義の方は終わりか?」
思わず、といった風に諒真は咲良へと声をかける。
「そうですね。諒真さんも慣れてきたみたいですので準備運動はこれくらいで大丈夫ですね。少し休憩したら次は実戦に近づけた訓練を行いましょう」
今までの攻防を準備運動と切って捨てられたのをショックに思いながらも休憩できると知って安堵する諒真。一撃食らえば死にかねない攻防は思った以上に心と体に負担を強いたのか動きを止めたとたんに心臓がバクバクと鳴り響き汗がどっと噴き出てくる。
咲良はそんな諒真の様子に気づいて部屋の隅から飲み物を取り出すと諒真に手渡してくる。
「あ、ありがとう」
お礼を言いつつ受け取った飲み物を口に流し込むとよほど体が水分を欲していたのか一気に飲み干してしまう。
「いえいえ、お安い御用ですよ。それにしても諒真さんは筋が良くて楽ですよ」
「そ、そうかな」
これまで運動方面では十人並みで過ごしてきた諒真は突然発せられた褒め言葉に照れてしまう。
「はい。私の攻撃もよく見えていますし、判断も的確で身体もよく動いてます」
「それは芦沢さんが手加減してくれたからだと思うよ」
「いやいや、謙遜することはないよ諒真君。君の能力は見ていてほれぼれするほど凄まじいよ」
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