revived

高坂ナツキ

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 二人が一息ついたのを見ておもむろにブライアンが会話の中に入ってくる。

「そうですか?見た目も禍々しいし、なにより右腕しか変わっていないっていうのがなんか中途半端な感じがするんですけど」

 自身に起きた変化に違和感を覚えなかっ諒真ではあったが、この感想は正直なものであった。爬虫類の鱗を逆立たせたような見た目はお世辞にも綺麗とは言えないし、なによりも右腕にしか能力が発動しないというのはとてつもなく中途半端な感じがする。

「いやいや、咲良ちゃんの能力でも切れないその硬度は誇っていいものだよ。それに肉体の強化ならともかく肉体を人間以外のモノに変質させるというのはワタシですら聞いたこともないからね」

 ブライアンがどれほどの能力者と出会ってきたのかは諒真にはわからないが一つの研究所の所長を任されるくらいなのだからそれなりの数は見てきているのだろう。そんなブライアンの言には一定の信頼度があり、自信満々に告げる言葉にも妙な説得力があった。

「レアな能力だっていうのは分かりましたけど芦沢さんみたいな綺麗な能力の方が良かった気もしますよ」

「いえいえ、私の能力もこれはこれで色々制約があるんですよ」

 能力のこととはいえ急に綺麗だと褒められ咲良は慌てたように否定する。

「そうなの?傍で見てたこっちからすると水を自在に操っていたように見えたし、汎用性が高そうな感じだったけど……」

「能力に対しての訓練は長期間行っているので諒真さんよりは自在に操れている自信はありますけど、そもそも水のないところでは何の役にも立たないものだっていうのが大きいですね」

「そっか、水を操るだけで水を生み出しているわけじゃないから能力を使おうとしたら水を持ち歩くか水のある場所まで移動しなきゃならないんだね」

「ですです。それに能力者は等しく身体能力が底上げされるんですけど、私みたいに能力の使用可能距離が長いとあまり身体能力自体は上がらないんです」

「そうなの?」

「それは確かだね。咲良ちゃんの能力は咲良ちゃん自信を中心に半径十メートル以内の水を自由自在に操るというものだけど、諒真君みたいに能力が自分の体にしか作用しないような能力者と比べると身体能力の向上率は落ちるね。また、能力の使用可能距離が百メートル以上なんて能力者にも何人かあったことがあるけど生まれ変わる前と比べても身体能力はほとんど変わっていないとその全員が言っていたからね」

「所長の言う通りです。前にいた研究所でも能力の使用半径によって身体能力の向上率が変わると教わりました」

「仮説としては能力者から離れた距離で能力を発動させるのには莫大なエネルギーが必要だからその分身体能力の向上が起きにくいというものと、自身の身体を強化する能力を使用するには能力で強化された部分以外もその能力に耐えられるようにならなければいずれ肉体が自壊するからというものがあったね」

 ブライアンはまるで授業を行う教師のようによどみなく説明を行う。

「そうか、俺の身体以前よりも格段に動かしやすいのは能力を使う上で体を酷使することが前提にあるからなのか」

 諒真が納得半分感心半分といった感じの言葉を吐く。

「ところで諒真さん、だいぶ回復したみたいですし次の訓練に入ってもよろしいですか?」

 そんな諒真の様子を見て休憩は十分だと感じたのか咲良が提案をしてくる。

「ん、そうだね。汗も引いてきたし脈も正常に戻ってるからもう大丈夫だよ」

「ではでは、次は攻撃速度を上げる代わりに威力を抑えた攻撃にしますね」

 言うなり咲良の周りを浮遊していた水の塊が咲良の右腕の中で棒状に集まったかと思うと次の瞬間にはたちまち凍ってゆく。

「芦沢さんの能力って水を凍らせることもできるんだ?」

「はい、能力の使用半径内なら水を凍らせるのも水蒸気にするのも自在ですよ」

「何かを操るという能力者の利点の一つだね。他の研究所には水を生み出す能力者もいるけどその子は大量の水で相手を制圧したり高圧で発車した水で相手を攻撃したりはできても水を凍らせるなんてことはできなかったからね」

 ブライアンは訓練が再開することを察して咲良の言葉を補足しつつも二人から距離を取るように元の場所へと戻っていく。

「そうか、やっぱり芦沢さんの能力はすごいなぁ」

 自分の能力の自由のなさと比べながら咲良の能力を羨ましそうに語る諒真。

「で、では始めますよ?」

 咲良は諒真の言葉に照れつつも訓練の再開を促す。

「ああ、こっちの準備は大丈夫だからどこからでもかかってきてくれ」

「では、いきます」

 咲良の言葉を合図に二人の訓練が再開される。宣言した通り諒真の右腕にあたる氷柱は先ほどまでとは比べるまでもなく威力が落とされており火花が散ったりすることはなかった。
 それでも攻防の際に発する鈍い音はまともに肉体に当たればあざや打撲ができると簡単に想像できるほど不吉に響いている。
 咲良が繰り出す攻撃の速度は先ほどまでと比べるまでもなく速く鋭くなっており、それを防ぐ諒真は必死にならざるを得なかった。

「くっ、これは中々キツイ……かも」

 上半身めがけて繰り出される攻撃は器用に右腕を使い分けて弾き返し、下半身を狙う攻撃は向上した身体能力で避けようと試みる。
 しかし、防戦一方で凌ぎきれる速度ではなくいくつかの攻撃は諒真の身体に浅くヒットする。

「攻撃は最大の防御ですよ、諒真さん。そちらからも攻撃してきてください」

 咲良が苦しそうに声をあげる諒真にアドバイスをすると、諒真はその発想はなかった言わんばかりに動揺する。

「……でも、危なくないかな?」

「心配無用です。こちらはこの手の訓練には慣れていますから」

 女性に対して攻撃を繰り出すことに躊躇していた諒真ではあったが、明らかに自分よりも戦いなれている咲良に対して手加減することの方が失礼だと感じ恐る恐るといった感じで反撃を織り交ぜていく。

「そうです、その調子ですよ」

 諒真の攻撃は素人っぽさが抜けないものの威力は十分なようで受け止めた咲良の氷柱は幾重にもひびが入っていく。しかし、水を操るという能力は伊達ではないのかひびが入った瞬間から周囲の水分で補って元の形へと戻してゆく。

「確かにこっちから攻撃を仕掛けることで防御に余裕ができたけどこれはこれで攻撃を外したらまずくないか?」

「ええ、ですから攻撃に慣れるためにもこのまま続けますよ」

「わ、わかった」

 訓練とはいえ対峙している相手にまさか攻撃を続けろと言われるとは思ってなかった諒真は思わず動揺するも即座に気持ちを立て直し攻撃を続ける。
 近接戦闘を続ける二人の相性がよほどいいのか、お互いに大きなけがを負うこともなく訓練は続く。
 戦闘という慣れない分野を続けることで諒真自身は自分の状態を把握できないほど無我夢中だったが、咲良は相手の状態を見るのも得意だったのか諒真がへばる直前でうまい具合に小休止を挟む。

 そんなこんなで夜明け直後に始まった講義という名の戦闘訓練は昼前まで幾度かの小休止を挟みつつも順調に続いた。
 最後にはきちんと能力の解除まで行いその日は解散ということになったのだが諒真は疲労と空腹で倒れる寸前だったのだが、咲良自身はいい汗をかいたと言わんばかりの笑顔を終始浮かべていた。
 もちろんそんな状態の諒真がまともに歩けるわけもなく研究所の食堂でブライアンに昼食をおごってもらった後は、これまた研究所の車で自宅まで送ってもらったのだが家に着くなり意識を失うようにベッドに潜り混んでしまうほどだった。
 別れ際にブライアンは諒真に向かって

「諒真君、能力に関することは他の人には秘密にしておいて欲しいんだ。まだまだ公表できるようなものではないし、要らない差別や排斥が起きる可能性も決して低くないからね。それさえ守ってくれればワタシたちは君が日常に戻ることを祝福するよ」
 と言ってきた。もちろん諒真の方には否やはないのでソレを快諾した。

 翌日、起床を果たした諒真は前日の疲労から来る肉体の倦怠感と筋肉痛に苛まされながらもそれが自分の義務だと言わんばかりに朝食と通学の準備を行いいつも通りの時間にいつも通りの場所へと向かっていった。
 公共交通機関をフルに活用して肉体を酷使することを避けた移動ではあったのだが、それでも疲弊しきった肉体にはそれでも些かばかりきつかったのか教室につくなり諒真は自分に割り振られた机にもたれかかるように着席した。
 朝のホームルームが始まるまではまだ時間があったのでゆっくりと疲労を抜こうとまったりしていると

「おいおいリョーマが朝から本も読まずに堕落をむさぼるなんて今日は雨でも降るのかぁ?」
 などと諒真にとっては長年慣れ親しんだ声がこの世のものとは思えないものを見たような言葉を紡ぐ。

「いやいや今日はページをめくるのも億劫なほど疲れててな。もう何かをする気力もないんだよ、重森重吾しげもりじゅうごくん」

「だああ、いくら疲れてるからってフルネームで呼ぶんじゃねえよ。」

「悪かったから大声をあげないでくれ、シゲ。真面目な話、今日は体育の授業はおろか教室移動もなくてほっとしているくらい体が傷んでいるんだ」

「何をやらかしたんだ? 大体昨日だって真面目な諒真にしては珍しく無断欠席してたし、親がいない一人暮らしだからって不規則な生活を送るような奴じゃないだろ……」

「何というか、昨日は同年代の美少女にぼこぼこになるまでしこたま殴られてたんだよ」

 実は俺は一昨日死んだんだけど蘇ったうえに不思議な能力を手に入れて昨日はその訓練に費やしてたんだよ。などとは、たとえブライアンに能力に関することを公にしないでくれと言われていなくても言えなかった。こんなことを言うのはまともじゃないし酔っ払いでももう少し説得力のある事を言うだろう。

「まあっ、リョーマちゃんったら一人で大人の階段をのぼっちゃったのね。童貞を捨てるときは二人一緒にって約束したじゃないっ!?」

「何故にオネエ口調? しかも、二人一緒に童貞捨てるって想像するだに気持ち悪いんだが……」

「素面でこんな恥ずかしいこと言えないからに決まってるじゃないっ。それくらいわかってよね、バカっ!」

 諒真にとってはその思考回路は全く理解できないものではあったのだが、重吾がそれ以上のことを詮索しないでいてくれるのは素直にありがたかった。

「やあやあお二人さん、朝から元気なことで実に結構だね」

 諒真が重吾と二人でバカ話をしているとふいに横合いから美人が声をかけてきた。背中まで伸びた黒髪は実に大和撫子とでもいうべき様子で一つ一つの所作も実に美しい。

「アヤちゃ~ん、聞いてよー。リョーマったらオレを置いて一人で大人の階段を上っちゃったのよ!?」

「だから、それは誤解だってーの」

「おやおや、本が恋人みたいな諒真が将来は遊び人という職業にでも付きそうなシゲに先んじて彼女を作るだなんて、今日は雨でも降るのかな?」

「そうよそうよ、先に童貞を捨てるなら日夜ナンパと女の子に優しくする方法を漫画で学んでいるこのオレ様のはずでしょ!?」

「だから捨ててなんていないって」

「本当? 本当にまだ綺麗な体なの?」

「そうそう、だから安心しろよ。シゲ。」

「というか、シゲのオネエ口調はチャラそうな見た目と相まってものすごく似合っているのがまた吐き気を催すな」
 重吾にアヤちゃんと呼ばれた美人、渕田彩夏ふちたあやかは心底不快だと言わんばかりの表情を作り長良心境を吐露する。

「その点は俺も彩夏に同意だな。びっくりするほどに合ってるからこそ気持ち悪さも一入だな」

「ひどっ。二人ともオレに厳しくない?」

「事実を言ったまでだよ、シゲ」

「厳しいっていうか、体が痛いって言ってるのに笑わそうとするシゲが悪いんだろ」
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