revived

高坂ナツキ

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「ちゃんと着替えなんかは準備できたみたいだね」

「はい、申し訳ないですけどお風呂、貸してもらっていいですか?」

「もちろん、ちょうど湯船も沸いたところだからタイミングもばっちりだよ」
 言いつつ、咲良をお風呂場まで案内する。

「一応、来客用のボディタオルを準備しておいたからよかったら使ってね。あとシャンプーや石鹸なんかも気兼ねなく使ってもらっていいから」

「何から何まですみません」

「いいよ、困ったときはお互い様だしね。こっちもこれから迷惑をかけるかもしれないし」

「その時は遠慮なく頼ってくださいね」

「あはは、そうだね。じゃあ出ていくけど、ゆっくり浸かってもらって構わないからね」

「はい、ありがとうございます」

 咲良のお礼の言葉を聞きつつ諒真が風呂場の扉を閉める。いつまでも風呂場の前にいるわけにもいかない諒真は自室に戻り読みかけの本を手に取るとリビングへと戻る。
 ふと思い、テレビの電源をつけてみる。チャンネルをいくつか回し、ローカルニュースをやっている番組を見つける。
 ニュースは明日の天気やら商店街の新規オープンの話題など、平和的なニュースで埋め尽くされていた。
 当然のことながら路地裏で男子高校生が死亡していたことや大けがを負っていたことなどは微塵も話題に上っていない。

「まあ、怪我をして死んだ本人がここでぴんぴんしているんだから当然か」

 それでもあちらこちらに血痕は残っていたはずだし、あの男の持っていた日本刀が建造物を切る音や話し声なんかを聞いていた人は確実にいるはずだが、喧嘩や傷害などのニュースも見当たらない。
 もちろんネットニュースやネット掲示板のローカル板も調べてみるが事件について触れているような話題は存在しない。

「これはブライアンさんたちが何かしてくれたのか、それとも本当に目撃者なんていなかったってことかな。……まあ、どちらにしても注目されていないってことはいいことかな」

 もし仮に血痕が発見されていたとしても警察にお世話になったことのない諒真にたどり着けるはずはないし、目撃者がいれば殺される前にパトカーのサイレンの一つでも聞いているであろう。
 諒真は深く考えるのをやめ、読みかけの本の読書を再開させる。テレビのチャンネルは適当に変え音楽番組を文字通り聞き流す。
 集中力がなくなり、ふと本から顔をあげるとすでに音楽番組は終わりバラエティーが始まっていた。既に咲良が風呂に入ってから一時間ほどが経っていた。

 一人っ子の諒真にとって同い年の女子がどのくらいの間、風呂に入るのかは諒真には正確にはわからないが、母親が長風呂だったせいか女性の入浴に時間がかかることはわかっている。
(ファンタジー小説なんかだと主人公がヒロインの様子を見ようとして風呂上がりの状態のヒロインとばったり会ったりするんだよなー。まあ、俺は主人公じゃないからそんなことはあり得ないんだけど)
 などと益体もないことを諒真が集中力を欠いた状態の頭でぬぼーっと考えていると諒真の背後から声がかかる。

「えっと、お風呂頂きました。あ、日本のバラエティ番組ですね。諒真さんはよく見るんですか?」

「いや、読書の際に適当に流し見する以外には天気予報とニュースくらいしか見ないよ。その様子だとお風呂にはちゃんと浸かれたみたいだね」

 諒真が振り返るとそこには私服から寝間着に着替えた咲良の姿があった。
 お風呂で温まったのか体からは軽く湯気が立っており、頬は上気したようにほんのり桜色に染まっている。

「はい、ありがとうございました。でも、結構時間がかかってしまって申し訳ないです」

「長風呂は母親で慣れてるから平気だよ、それに読みかけの本を読んでいたからちょうどいいくらいの時間だったよ」

「そうですか? 諒真さんがそういうならいいんですけど……」

「そうそう、それよりも温まったなら早く部屋に戻った方がいいんじゃない? 湯冷めしてももったいないしさ」

「そうですね、せっかくお風呂をか諒真さんに貸していただいたのに湯冷めして風邪を引いたら申し訳ないですしね。ところで、諒真さんはいつもどのくらいの時間に家を出て学校へ行くんですか?」 

「ん? そうだなぁ、八時前くらいには家を出る感じ……かな」

「でしたら、明日の朝は迎えに来ますので一緒に学校へ行きませんか?」

「ん……まあ、近くに住んでるのにわざわざ登校時間をずらすのも変だしね。じゃあ、一緒に行こうか」

「はい、ではでは今日のところはおやすみなさいです」

「うん、それじゃあおやすみ」

 諒真はそのまま玄関先まで咲良を送り、隣の部屋から玄関の閉まる音を聞くとようやくといった感じで一息つく。
 意識しないようにはしていたが、同い年の女の子に風呂を貸し、風呂上がりの姿を見るのは中々に緊張する物だったのだろう。

「はあ、とりあえず明日の準備をしたら俺も風呂に入って早めに寝るかな」
 誰に聞かせるわけでもないが、思わずこの後の予定が口を突いて出る。

 翌朝、学校の準備を済ませて食後のコーヒーを飲んでいた諒真のもとにチャイムの音が響き渡る。もしやと思い、インターホンの画面を覗くと、そこに映っていたのは制服に着替えた咲良の姿だった。

「芦沢さん?」

「おはようござます、諒真さん。もう起きていましたか?」
 本当に来るとは、という思いと、もう来たのかという思いの二つを胸にインターホンの電源を切り、慌てて玄関の扉を開ける。

「おはよう、芦沢さん」

「はい、おはようございます」

「直ぐ準備してくるから玄関の中でちょっと待っててもらっていいかな?」

「はい、大丈夫ですよ」

 慌てて諒真は飲みかけだったコーヒーを飲みほしてシンクに置くと、準備していった通学用のカバンを肩に下げ玄関へと向かっていく。

「おまたせ、芦沢さん」

「いえいえ、全然待ってませんよ」

 二人は外へ出て鍵が閉まっていることを確かめると、マンションを出て学校へと向かう。
 咲良と二人きりという点を除けばいつもの道を歩きいつも通りに最寄り駅に着く。
 しかし、駅でもいつもとは違う風景が見られた。いつもならば諒真よりもかなり遅くホームルームが始まる直前に登校する彩夏の姿が駅にはあった。

「おやおや、諒真と咲良は一緒に登校してきたのかい? 昨日の今日で随分仲良くなったみたいで大変に良いことだね」

 諒真と咲良が連れ立って歩いている姿を確認した彩夏は即座にそう声をかける。

「おはようございます、彩夏さん」

「芦沢さんの家が俺の家の近くだったから一緒に来ただけだよ」

「ふふ、それでも仲良くならなければ一緒には来ないだろう?」

「まあ、そうだけどな」

「だったら良いことだよ。……そういえば諒真、身体の調子はどうだい?昨日はだいぶ痛がっていたみたいだけど」

「諒真さん体を痛めていたのですか?」

「ああ、だけどもう大丈夫だよ。一晩寝たらすっきりしていてむしろ普段よりも調子がいいくらいだから」

「……だったらよかった」

 彩夏は諒真の答えに納得したのか笑みを浮かべる。一方咲良は体を痛めていた事実を知り自責の念に駆られる。

「芦沢さん、本当にもう大丈夫だから……ね」

「そう……ですね。だったら……あまり気にしないことにします」

「うん、そうして」

 諒真は暗に咲良のせいではないとフォローをし、電車の中へと乗り込む。もちろん残りの二人もそれに続き、学校へと向かう。
 特に問題が起きる気配もなく順調に教室へとたどり着く。教室の中へと入っていった三人は各々挨拶を交わしながら自分席へと向かっていく。
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