revived

高坂ナツキ

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 とはいっても、三人の席は諒真を中心に隣同士なのだが……。
 クラスの中にいる生徒たちも転入生のいる空間に慣れたのか昨日のようにことあるごとにい咲良の傍へと寄ってくる気配はない。

「やあやあ、おはよう。リョーマ、咲良ちゃんにアヤちゃん」

 とは言っても、このように声をかけてくる輩が皆無というわけではない。

「おはようございます、シゲさん」

「今日も元気そうだね、シゲ」


「毎日毎日ハイテンションで、元気そうだなシゲは」

「咲良ちゃんは優しいけど、今日も今日とて二人はオレに辛辣じゃない!?」

 指摘された二人はそんなことナイナイと言いながら教科書などを机の中に入れ続ける。

「あはは、楽しいですね。」

「咲良が喜んでくれるならシゲも道化になった甲斐があったってもんだよ。ね、シゲ?」

「道化になんてなってないし、勝手に道化扱いしてるのはアヤちゃんとリョーマだろ!?」

「いやいや、そうやって無自覚に笑いを振りまけるのは大事なことだぞ、シゲ」

「笑いを振りまいた覚えはねーんだけどな! まあ、リョーマも今日は調子がよさそうだし良いけどな」

 やはり少しは心配していたのか、昨日とは違い調子のよさそうな諒真の様子を見てあからさまにホッとする様子を見せる重吾。

「おう、今日は昨日みたいに身体も痛くないし調子はいいぞ」

「それは良かった。また、昨日みたいに雨に降られても癪だからな」

「ふふ、やはりシゲは昨日の雨は諒真のせいにしていたんだね」

「……? どういうことです?」

「昨日は諒真が普段とは違う言動をしていたものだからね、雨でも降るんじゃないかと言っていたら実際に振り出したのさ。でも、この様子なら今日は雨の心配もなさそうだね」

「俺にそんな特殊能力はないから単なる偶然だけどな」

 能力という言葉を使う際には慎重になりながらも諒真は軽い言い訳をする。
 そんな風にバカ話をしていると、あっという間に時間が過ぎるのかほどなくチャイムが鳴り響き担任教師がやってくる。
 特に記すこともなくいつものように授業が始まりいつものように昼食を取りいつものように帰宅の時間になる。

「諒真、今日はどうするんだい?」

「今日は図書室に寄るかな……。昨日はそれどころじゃなかったし」

「咲良ちゃんは? 今日はひとりで帰るの?」

「実は今日になって書類に不備が見つかったみたいなので職員室によって行かないとならないんです」

「ふむ、じゃあ今日もシゲと帰ってやるとするかな」

「いやいやアヤちゃん、オレと帰れるって結構なお得感があると思うよ?」

「ふむ、その軽口を今の一割にまで減らせれば静かな帰り道が確保できるんだがな……」

「ごめん、それは無理だよ。もしそんな風になっちゃったらオレの個性が死んじゃうもん」

 嵐が過ぎ去るかのように二人は諒真と咲良に別れの言葉をかけてから教室か消えていった。

「芦沢さんは職員室の場所はちゃんとわかる? わからなかったら一緒に行くけど」

「大丈夫ですよ、諒真さん。職員室へは転入の際に一度行っていますし、昨日も諒真さんに案内してもらいましたから」

「そっか、じゃあまた明日ね」

「はい。でも、もし帰りに見かけたら声をかけさせてもらいますね」

 咲良と諒真はそんな風に声を掛け合い教室の前で別れる。その直後に諒真が向かうのは諒真にとって教室の次に使用頻度の高い学校施設、すなわち図書室である。
 本は知識を吸収するためのツールであり、一度読めばそれで事足りるという考え方の諒真にとって繰り返し使用する勉強関係以外の本は図書室や図書館などで読むのがちょうどいい。
 昨日読み終わった本を図書委員を通じて返却し、今日も今日とて新しい本を読み始める。

 読書を始めると周りが見えなくなる諒真にとって気づけば最終下校時刻になっていることも珍しくはなく、自分に合う面白い本に出合えたこともあって気づけばあたりは暗くなっていた。
 人気の無い校舎は薄暗く、見る人が見ればそれは不気味に映っただろう。こんな風景を見た人間は幽霊や七不思議に思いを馳せるのだろう。

 しかし、いたって常識人の諒真にとっては自分の身に不思議なことが起きてもそんな不確定であいまいなものに思いを馳せることはない。
 もちろん今日も考えているのは夕食の献立や明日の学校の準備だったのだが、そんな諒真の耳に妙に聞きなれない音が響く。
 それはまるで鉄琴のような、あるいは細いパイプを打ち鳴らすような甲高い音。その音がリズムを刻みながらキンキンと校舎の一部から響いてくる。

 ふと不思議に思った諒真はその音源の聞こえる方へと足を向け、その光景を見た瞬間に自分の迂闊さと考えの至らなさに即座に後悔した。
 そこにいたのは不吉を具現化したような男。およそ学校という空間には馴染みのないその男はあろうことか刃物を握りしめていた。
 そして、その男と対峙しているのは一昨日であったばかりの少女。少女の右手には刀の形状をした水が握りしめられており、その周囲にはそこだけ無重力かのように水の塊がふわふわと浮いていた。

 そう、説明するまでもなく諒真を殺した男と咲良が能力を用いて戦っているという光景だった。

「ククク。……いいぞいいぞ、お前は出会った中でも最高の獲物だっ!」

「…………ッ」

 男が間合いを詰めてさらに向かってその剣を振り下ろすとそれに合わせて咲良は右手に握った水の刃で咄嗟に防ぐ。
 両者の得物が触れ合う瞬間、まるでチェーンソーが鉄を切り裂くように火花が舞い散る。
 男の攻撃を見事に防いだ咲良は次はこちらの番だと言わんばかりに水の塊をいくつかの氷弾へと変えて男に向けて放つ。

「いいないいな、お前の攻撃にはきちんと俺を殺そうとする殺意が込められている!」

 男は喜々とした表情でそのすべてを新たに左手に生み出した日本刀で叩き落す。

「絶対にあなたはここで殺します」

 砕かれた氷弾の分だけ咲良の周りに浮いている水は減っていたが、咲良は男から目を離さずにそう言い放つ。その両目には何が何でも成し遂げると言った決意が見て取れた。

「ククク。そんなに興奮することを言うなよ。しかし、嬉しい限りだな殺すべき標的が二人に増えるだなんて、こんなに気持ちのいい日は生まれ変わって以来だ」

 二人。そう、確かにあの男は殺すべき標的が二人に増えたと言った。

「やっぱり……あの人を狙ってるんですね」

「当たり前だ。何のために何人も何人も殺してきたと思っている。……すべては最高の獲物を作り出すためだ」

 ある程度予想していたのか動揺の色こそ見せなかったが、咲良は苦虫をかみつぶしたような表情で右手の水の刃を握り直す。

「そんなことのために……そんなことのためにあの人を殺したんですね……」

 ギリッとこちらまで響き渡りそうな強さで歯を食いしばる。

「そんなこと? そんな風に言われるとは心外だな。最高の刺激を得るためには最高の獲物が必要だ。自分で殺した人間が自分自身を殺しにくる……こんなに心地いい刺激はないだろう?」

 化け物のような男は恍惚とした表情で言い切る。

(自分で殺した人間……殺した……それはもしかしなくても……)

 嫌な予感が諒真の思考回路を埋め尽くす。あの男に殺された人間、それが果たしてどれくらいいるのかは諒真には想像もつかないがそのうちの一人は間違いなく諒真だ。

「わかっているんだぞ、あの小僧はここに通っているんだろう? そしてあの路地裏で無残に死んだわけでもない。ならば、俺やお前のように生まれ変わって特殊な能力を手に入れているのだろう?」

「…………。答える義理はないと思いますけど」

「ククク、構わんよ。あの小僧の顔は覚えている。お前を殺した後でゆっくり探し出せばいいだけの話だ」

「……私が死ぬとしてもあなたもここで殺しますからそれは不可能です」

「いいぞいいぞ、その覚悟その殺気。最高に心地いい空気だ」

 それでお互いに言うべきことは言い切ったのか咲良は覚悟を決めた表情で、男の方は愉悦を抑えきれないといった表情で互いの動きに集中する。

(死ぬ、殺す。芦沢さんはそれだけの覚悟を持っているのか)

 二人のピリピリとした空気が周りに伝播していく中、諒真ただ一人が物陰で身動き一つとれなくなっていた。
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