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しおりを挟む「攻撃に慣れてきたら私の能力を破壊するようにしてください」
相手の能力、つまりは作り出した武装を破壊する。それこそが今回の作戦で諒真に求められること。
もちろんそれは容易なことではない。その証拠に諒真の攻撃は相手の武器を破壊することを視野に入れただけで何度も空振りしている。
「これは……結構、難しいなっ」
「諒真さん、一度休憩にしましょう」
思わず呟いた言葉に反応したのか、咲良の方から休憩を提案してきた。
「……はあはあっ」
ものの十分程しか動いていないはずなのに諒真は既に息を乱している。
「諒真さん、一度整理しましょう」
対する咲良の方は息も乱していないし、ごく普通に話しかけている。
「……整理?」
「今、諒真さんは私の能力を破壊しようと色々攻撃を仕掛けてきましたよね?」
「ああ。破壊することを意識しろって言われたから、芦沢さんの能力を何とかして潰そうとしてみたけど……」
上から下からそして正面からと様々な角度をつけて攻撃してみたものの、距離感が合わずに攻撃を外したり、潰そうとしているのが見え見えで剣を引かれたりとまともに当たりはしなかった。
「そうですね、諒真さんは積極的に攻撃してきてくれました。でも、その攻撃が直線的すぎるというか……、壊そうとする意志が強すぎます」
「なるほど……、意志が強すぎる…………か」
「だから攻撃が読まれやすくなりますし、壊されそうになればこちらとしても距離を取らざるを得ません」
「ってことは、相手の不意を突くしかないかな……」
「いいえ、攻撃で能力を破壊しようとするのがいけないのかもしれません。むしろ、相手の攻撃を防いだ時の方が好機だと私は思います」
「……防御の瞬間か。確かにそれなら破壊しようとしてても距離を取りづらい……か」
「ですから、これからはそれを意識してください。ただ、すべての攻撃に対して破壊しようとはしなくても大丈夫です。諒真さんが確実に対処できると思う攻撃に対してだけ試みてください」
「なるほど確かに全部の攻撃に対応しようとするよりはその方が確実か」
「もちろん相手に破壊の意志を悟らせないようにするのも大事ですけど、防御が不確実な時に他のことをしようとすると危ないという単純な理由もあります」
「……はは。俺の無事を心配してくれてたんだ。そうだよな、芦沢さんは俺のことを守ってくれるんだもんな」
「はい、そうですよ。私にとってはあの男を殺すのも諒真さんをこうして訓練するのもすべては諒真さんを守りたいからです」
ふと、思いだしたように口に出した諒真の言葉に咲良は笑顔で肯定する。
「……そうだよな、そう言われちゃあ頑張るしかないかな」
「はい、諒真さんの身を守るためにも訓練を頑張りましょう。差し当たっては今言ったことを注意しながらですね」
そう言いつつ咲良は訓練の再開を促す。もちろん諒真の方も息は整い、訓練を再開できる状況になっていたのでそれに素直に応じる。
諒真は訓練を再開するにあたって、咲良の提案を素直に受け入れた。咲良の攻撃を防ぐ傍ら、まばらではあるものの咲良に対して反撃をする。そして、もちろん確実に攻撃に対処できるとわかった瞬間には咲良の振るう武器を破壊しようと試みる。
もちろんすべてが最初からうまくいくはずもなかったが、攻防の速さや咲良の行動パターンに慣れていくうちにその成功率は上がっていった。
咲良の攻撃に合わせて訓練を続けていくうちに諒真は不思議な感覚に陥る。
最初のうちは数合打ち合っただけで両足は震え、息が上がっていた。
それも五分、十分と打ち合っていくうちに体が慣れたのかどうかはわからないが打ち合う衝撃は右腕から先には伝わらず、派手に動き回っても呼吸も脈も乱れない。
その一つ一つを実感する度に、咲良の攻撃を危なげなく躱し、受け流し、その刃を破壊する度に諒真は実感する。
これこそが能力の恩恵なのか、と。咲良もブライアンも何度となく説明していた蘇りを経たことによる身体能力の向上。それは腕力の向上や打たれ強さに留まらず、心肺機能の上昇や五感の強化にまで及ぶ。まさしく生まれ変わったような気分だ。
諒真が出会った二人の能力者がその年代の平均的な体つきながら常人離れした動きを見せていたことを実感をもって諒真は再認識する。蘇りを経た能力者はまさに新人類。ブライアンが評した人類の進化の証というのは人知を超えた能力だけを言及したものではなく、それに付随する身体能力をも指していたのだろう。
対峙している咲良にも諒真の成長が感じられるのか、攻撃の速度は訓練初期とは比べようもなく速くなり武器も長刀から二刀に変化しその手数は倍以上に増えている。
その分諒真は追いつめられるはずだったが、向上した身体能力や五感によりむしろ増えた手数分だけ相手の武器を破壊する回数も増えていった。
一時間ほど攻防を続けていたが、咲良の能力の水が尽きたのを機に二人は一時休憩にすることにした。
「見違えるような動きをしていたじゃあないか、諒真君」
「いつから見ていたんですか、ブライアンさん」
「ふっふっふ、ついさっきだよ諒真君。そろそろ休憩に入るだろうと思って夜食と水分を持ってきたのさ」
確かにブライアンのそばにはサンドイッチと大量のペットボトルを乗せたワゴンが置いてあった。
先ほど夕食を摂ったばかりとはいえ、激しい訓練をこなした後だからか諒真はサンドイッチに手を伸ばす。
一方、咲良の方は諒真ほどには動き回らなかったからかそっちには手を伸ばさずにペットボトルを一本手に取るとミネラルウォーターを飲み始めた。
「そういえば所長、諒真さん用のアレはできたんですか?」
ふと思い出したように咲良はブライアンへと尋ねる。
「……アレ?」
「ふっふっふ、アレかい? もちろんできているさ」
ブライアンはワゴンの下から洋服の入っていそうな袋を一つ取り出した。
「……服……ですか?」
「そうさ、これは諒真君用に作った防刃防弾制服なのだよ。能力者との戦闘では切られたり打たれたり凍らせられたり燃やされたり、と様々な災難に合うからね。この研究所の白衣にも同じ素材のものが使われているのだよ」
袋から取り出してみると、そこには確かに今諒真が着ているのと同じデザインの制服が入っていた。
素材が違うのは確かなようで肌触りなどが微妙に違うが、重さなどは変わりなく動き回るのに支障がないように硬さなども普通の服と違いはない。
「確かに丈夫で斬られても撃たれても破けたり貫通したりはしにくいですけど、衝撃自体は防げないので気休め程度に思っていてください」
「……気休め」
「流石に諒真君の能力程の防御力はないからね。それでも能力の範囲外の場所なら防御としては役に立つはずさ」
「なるほど、基本はやっぱり能力が発動できる右腕で受けるか避けきる方がいいってことですね」
「まあ、その方が無難だね。……ただ、それは危険に立ち向かう諒真君への餞別でもあるということさ。戦闘になれば着ている服もボロボロになることも多いだろうからね」
「……餞別。確かに今日の戦闘では奇跡的に無傷でしたけどこれからもそれが続くとは思えませんね」
「そういうことだよ。咲良ちゃんを守ろうとするならウチの職員も同じだからね、待遇もそれと同じにしようと思ってね」
「ちなみに芦沢さんの待遇はどんな感じ?」
「私は対能力者用の臨時職員なので能力者を確保した際の危険手当と破損した物品の修繕費用をもらってますね」
「要するに諒真君にも個々の臨時職員になってもらおうというお誘いさ」
咲良を一生をかけて守ると誓った諒真にとってこの誘いは魅力的だ。咲良を守るためには必然的に能力者と対峙する羽目になるしそうなれば少なくない怪我を負うし、もちろん身に着けているものを壊す確率も高くなるだろう。それらの修繕費用や危険に対する手当が出るというのならばその誘いにはのるべきだろう。
「……わかりました。そのお誘い受けさせてもらいます」
だから、少し悩みはしたものの諒真はその誘いを受けることにした。
「いやあ、本当かい? そいつは助かるよ。何せこの支部では能力者との戦闘を行えるのは咲良ちゃんくらいしかいないからね」
「そうですね、私も一緒に戦ってもらえる人がいれば心強いです」
「ではでは諒真君、連絡先の交換だけしてもらってもよいかな? 能力者が現れた時に連絡がつかないと困るからね」
「あ、はい。連絡先……です……ね」
連絡先の交換をするためにスマートフォンを取り出そうとした諒真は不意にその動きを止めた。
「どうしたんだい、諒真君?」
「連絡、……そうだ連絡しないと」
「どうしたんですか、諒真さん。……もしかして、今日何か用事とかありました?」
「あ、いや今日は何もなかったから大丈夫だよ。ただ、明日は学校には行けないよね?」
「はい、このまま訓練を続けますし休息の時間も必要ですから学校はお休みすることになりますね」
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