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「だよね。じゃあ彩夏に頼むしかないかな……」
「学校への欠席の連絡かい?」
「はい、実は先日の無断欠席の際に連絡するようにと釘を刺されてしまいまして……」
「そういえば、私が転入した時に担任の先生が注意してましたね。欠席の際にはなるべく連絡するように、とかなんとか」
「うん。だから休むなら連絡を入れておかないと……。流石にすぐに親に連絡がいくことはないだろうけど危ない橋はできるだけわたりたくないし」
「ふむ、そういうことならワタシの方から連絡を入れようか」
真剣に悩んでいる様子の諒真に対してブライアンが提案をする。
「いいんですか?」
「ああ、どうせ明日の決戦に向けて色々と校内でやらなければならないこともあるし、咲良君の欠席連絡も保護者のワタシがすることになるからね」
「校内でやること……ですか?」
「スプリンクラーを外部からの操作で作動できるようにしたり、万が一のためにプールに水を溜めておいたりした方が何かと都合が良いだろう?」
なるほど、水であの男の能力を封じると言われて咲良の能力を使うことばかり考えていた諒真ではあったがブライアンの方ではほかにも方法を模索していたらしい。
「俺は芦沢さんの能力を頼るしかないと思ってましたけど、確かに水を使うだけならほかにも方法はありましたね」
「まあ、これは完全に保険だけれどね。相手が動き回ってしまえばまた能力を発動されかねないし、その時は咲良ちゃんの能力に頼るしかないけれどね」
「それでも水源が複数あるのは私にとってもありがたいですよ。一度使ってしまった水をまた集めるのは大変ですから」
「やっぱり手元から離れた水をもう一度使えるようにするのは大変なの?」
今日の戦闘の様子を思い出しながら諒真は咲良へと質問をする。確かに今日の戦闘でも手元から離れた水は徐々になくなっていき最終的にはペットボトルから補充をしていた。
「能力の使用半径から出なければ操ることはできるんですけど、そこから離れてしまった分は再度手で触れなければ操れないんですよ」
「だから、結局のところ散ってしまったモノを使うよりもほかのところから補充をした方が効率が良いということだね」
咲良の説明に対してブライアンが補足をする。諒真としてはその説明で十分に納得がいった。それならば水が補充できるように水源を確保するのも意味はあるのだろう。
「でも、そういえば考えたくはないんですけど、もし俺たちが敵に負けた場合ってどうなるんでしょう?」
もちろん諒真としても相手に勝つつもりでこの訓練を行っている。しかし、いくら訓練を積んでもそれは付け焼刃、確実に相手に勝てるという保証はない。そして、あの男に負けた場合相手は満足して素直にこの街を去るのか、それとも学校のみんなや他の人々を虐殺し始めるのかは今の段階ではわからない。
「一応、他の支部へ応援を要請してはいるよ。……ただ、手が空いているところは遠くてね準備などにも時間がかかるから早くてもこちらに着くのは三日後なんだ」
「三日……ですか」
「もちろん、この支部の戦闘要員でも足止めをするけれど能力者ではないからあまり期待はしないでほしい。そしてなにより他の何をおいても君たちの安全が一番大事だからね、他の誰が犠牲になることになっても君たちが生き残るようにさせてもらう」
「それは他の人……例えば学校の生徒や町の住民が被害にあうことになったとしても、ということですか?」
「ああ、そうだよ。ここは能力者の研究施設。能力者とそうでないものを天秤にかけるとしたら能力者の方が重くなる。もちろん他の能力者にとって脅威になるような人物は除くけれどね」
要するにブライアンは諒真たちが負けそうになったら二人が死ぬ前に介入をし、他支部の能力者が到着するまで敵を足止めにするということだ。それも一般人が犠牲になることもいとわずに。
その事実に諒真の表情は強張っていく。自分の失敗が関係のない人たちの命にかかわると知れば誰でもそんな反応を返すだろう。
「大丈夫ですよ、諒真さん。私たちはあの男に勝ちますし、二人とも死ぬことはありません。だって、私は命がけであなたを守りますし諒真さんも私を命がけで守ってくれますから。だから、他の人が犠牲になることはありませんし私が死ぬことも諒真さんが死ぬこともありません、そうでしょう?」
そう言った咲良の表情は確信に満ちていた。あの男を本当に倒せるかどうかも命を落とさずに咲良を守り切れるかどうかも諒真にはまだわからなかったが、咲良の表情からはソレを成し遂げる確信と諒真に対する深い信頼が表れていた。
「……そうだな。うん、そうだよね。俺たちが力を合わせればあの男は倒せるし、お互いが命を懸けて相手を守れば二人が死ぬことはない。だから、他の人が犠牲になることはない」
咲良の信頼に応えるためにも、諒真は自信をもってそう返答した。
「ふむ、二人がそう考えていてくれているのならば問題はないね。もちろんこちらとしては二人の生命を最優先で考えさせてもらうけれど、戦闘に関しては二人を頼るしかないのも事実だからね。こちらはこちらで準備を進めておくから、二人は好きにやるといいさ。差し当たって、ワタシは学校の関係者に二人は風邪を引いたから明日はお休みをすると連絡を入れてくるよ。二人もほどほどのところで仮眠をとるようにね」
そう言い残し、ブライアンは訓練室を後にする。
「ではでは、私たちは明日を生き抜くためにも訓練を続けましょう。仮眠や装備の確認などがあるので昼前ぐらいまでが限界ですかね」
「それは要するにこれから十時間近く訓練を続けるということだよね?」
仕方のないこととは言え、若干うんざりしたような声で諒真は確認する。
「もちろん適宜休憩はとりますから大丈夫ですよ、仮眠前に気絶されても困りますしね」
「気絶している暇はない……か。まあ、そうだね俺には何もかもが足りないから君を守るためには付け焼刃でも努力を続けないとね」
「はい。付け焼刃でも何度も叩かれれば本物になりますから、手加減はしませんよ」
覚悟していても、また諒真自身から努力すると言い出したとはいえ、咲良のその言葉には思わず背筋がゾッとした。
もちろんその言葉の重みが、咲良の覚悟が伝わってきたのはもちろんのことだがそれよりもなによりもその表情が、諒真自身を信頼しきっているその笑顔が諒真自身に重くのしかかっていた。
「じゃあ、その信頼に応えるためにも頑張るしかないかな」
でも、だからこそ諒真は努力をすることができる。咲良からのこの上ない信頼をその身に浴びている実感があるからこそ。
その後の激しい訓練、そして食事と仮眠を経て男の指定した時刻が迫る中、諒真と咲良、そしてブライアンは戦いの最終確認を行わおうとしている。
「まずはじめに、諒真君と咲良ちゃんには良い知らせと悪い知らせがあるんだけど、どちらから聞きたいかな?」
不意にもたらされたブライアンの二択に諒真は思わず顔をしかめる。
どちらがいいか、などと聞かれたところで両方聞かなければならないのには違いないしどちらから聞いたところでこの先の運命が大きく変わるとは思えない。
「では、悪い方からでお願いします」
咲良はブライアンのこういった態度には慣れ切っているのか淡々とした態度で先を促す。
「では悪い方から話させてもらおうかな。実は諒真君と咲良ちゃんが仮眠に入った後、ウチの職員が件の男を発見してね。人気の無いところに誘い出してどうにか倒せないか頑張ってみたんだけど、逃げられてしまったんだ」
「あの男を見つけたんですか!?」
「一体どこにいたんですか?」
ブライアンのもたらした情報に思わず諒真は椅子から立ち上がって驚く。
「君たちの通う学校を見張るようにビルの屋上で佇んでいたそうだよ、咲良ちゃん」
「あれ? でも昨日、他の支部の人たちが到着するまで時間がかかるって言ってましたけど、もう到着していたんですか?」
「いやいや、さすがに昨日の今日では無理だったよ諒真君。だから、この支部にいる非能力者の戦闘員と戦闘向きではない能力者を警戒に当たらせていたんだけどね。運よく、というか運悪くあの男を発見してしまったんだよ」
「なるほど、確かにいくらこの支部の戦闘員でも能力を持たなければあの男には太刀打ちできなかったでしょうね」
諒真とは違い咲良の方は支部の戦闘員の実力をわかっているのかブライアンの言葉に素直に納得する。
「具体的にはどのくらいの戦力であの男とぶつかったんですか?」
イマイチ納得のいっていない諒真はブライアンに重ねて質問をする。
「大した戦力じゃあないよ。拳銃で武装した戦闘員が六人と煙を生み出す能力者と静電気を操る能力者の計八人だよ」
「その人数でも倒すことができなかったんですか?」
「とは言っても、能力者の二人は戦闘に参加していないから直接戦ったのは六人の戦闘員だけだけどね」
「……一つの傷もつけられませんでしたか?」
それまで黙っていた咲良はブライアンにひとつの質問をする。
「その通りだよ、咲良ちゃん。奴の能力の前には二十発も撃てないハンドガン程度ではかすり傷も与えられなかったそうだよ」
「かすり傷も……。そんな奴相手に俺達で勝てるのかな」
「大丈夫ですよ、諒真さん。いくら化け物のような相手でも能力者と対峙した経験は少ないはずです。だったら条件は互角ですよ」
「そうかな?」
「そうですよ。大体、諒真さんだって慣れれば拳銃を持った戦闘員程度ならかすり傷一つ負わずに制圧できるようになりますよ」
咲良の慰めなんだかわからない言葉が諒真にかけられる。
「納得いったもらったところで、良い方の知らせに入らせてもらおうかな」
「あ、はい。あの男に逃げられたことが悪い知らせなら、確かに良い方の知らせも気になります」
「良い方の知らせというのはね、幸いなことに敵は約束を守り、今日一日学校の人たちに危害を加えることはなかったそうだってことだよ」
「それは一安心です。それで下準備の方は上手くいったんですか?」
既に諒真の携帯電話には、重吾と彩夏から体調を心配するメールが届いていたので二人に関しては心配していなかった。それでも、他の人に関しては情報がなかったのでブライアンの言葉にはいくばくかの安堵を覚えた。
「もちろん下準備は万全さ。屋内プールの方には水を満杯に入れておいたし、既に咲良ちゃんに渡したリモコンで校庭のスプリンクラーや廊下、トイレの水道を瞬時に作動させることができるよ」
「学校への欠席の連絡かい?」
「はい、実は先日の無断欠席の際に連絡するようにと釘を刺されてしまいまして……」
「そういえば、私が転入した時に担任の先生が注意してましたね。欠席の際にはなるべく連絡するように、とかなんとか」
「うん。だから休むなら連絡を入れておかないと……。流石にすぐに親に連絡がいくことはないだろうけど危ない橋はできるだけわたりたくないし」
「ふむ、そういうことならワタシの方から連絡を入れようか」
真剣に悩んでいる様子の諒真に対してブライアンが提案をする。
「いいんですか?」
「ああ、どうせ明日の決戦に向けて色々と校内でやらなければならないこともあるし、咲良君の欠席連絡も保護者のワタシがすることになるからね」
「校内でやること……ですか?」
「スプリンクラーを外部からの操作で作動できるようにしたり、万が一のためにプールに水を溜めておいたりした方が何かと都合が良いだろう?」
なるほど、水であの男の能力を封じると言われて咲良の能力を使うことばかり考えていた諒真ではあったがブライアンの方ではほかにも方法を模索していたらしい。
「俺は芦沢さんの能力を頼るしかないと思ってましたけど、確かに水を使うだけならほかにも方法はありましたね」
「まあ、これは完全に保険だけれどね。相手が動き回ってしまえばまた能力を発動されかねないし、その時は咲良ちゃんの能力に頼るしかないけれどね」
「それでも水源が複数あるのは私にとってもありがたいですよ。一度使ってしまった水をまた集めるのは大変ですから」
「やっぱり手元から離れた水をもう一度使えるようにするのは大変なの?」
今日の戦闘の様子を思い出しながら諒真は咲良へと質問をする。確かに今日の戦闘でも手元から離れた水は徐々になくなっていき最終的にはペットボトルから補充をしていた。
「能力の使用半径から出なければ操ることはできるんですけど、そこから離れてしまった分は再度手で触れなければ操れないんですよ」
「だから、結局のところ散ってしまったモノを使うよりもほかのところから補充をした方が効率が良いということだね」
咲良の説明に対してブライアンが補足をする。諒真としてはその説明で十分に納得がいった。それならば水が補充できるように水源を確保するのも意味はあるのだろう。
「でも、そういえば考えたくはないんですけど、もし俺たちが敵に負けた場合ってどうなるんでしょう?」
もちろん諒真としても相手に勝つつもりでこの訓練を行っている。しかし、いくら訓練を積んでもそれは付け焼刃、確実に相手に勝てるという保証はない。そして、あの男に負けた場合相手は満足して素直にこの街を去るのか、それとも学校のみんなや他の人々を虐殺し始めるのかは今の段階ではわからない。
「一応、他の支部へ応援を要請してはいるよ。……ただ、手が空いているところは遠くてね準備などにも時間がかかるから早くてもこちらに着くのは三日後なんだ」
「三日……ですか」
「もちろん、この支部の戦闘要員でも足止めをするけれど能力者ではないからあまり期待はしないでほしい。そしてなにより他の何をおいても君たちの安全が一番大事だからね、他の誰が犠牲になることになっても君たちが生き残るようにさせてもらう」
「それは他の人……例えば学校の生徒や町の住民が被害にあうことになったとしても、ということですか?」
「ああ、そうだよ。ここは能力者の研究施設。能力者とそうでないものを天秤にかけるとしたら能力者の方が重くなる。もちろん他の能力者にとって脅威になるような人物は除くけれどね」
要するにブライアンは諒真たちが負けそうになったら二人が死ぬ前に介入をし、他支部の能力者が到着するまで敵を足止めにするということだ。それも一般人が犠牲になることもいとわずに。
その事実に諒真の表情は強張っていく。自分の失敗が関係のない人たちの命にかかわると知れば誰でもそんな反応を返すだろう。
「大丈夫ですよ、諒真さん。私たちはあの男に勝ちますし、二人とも死ぬことはありません。だって、私は命がけであなたを守りますし諒真さんも私を命がけで守ってくれますから。だから、他の人が犠牲になることはありませんし私が死ぬことも諒真さんが死ぬこともありません、そうでしょう?」
そう言った咲良の表情は確信に満ちていた。あの男を本当に倒せるかどうかも命を落とさずに咲良を守り切れるかどうかも諒真にはまだわからなかったが、咲良の表情からはソレを成し遂げる確信と諒真に対する深い信頼が表れていた。
「……そうだな。うん、そうだよね。俺たちが力を合わせればあの男は倒せるし、お互いが命を懸けて相手を守れば二人が死ぬことはない。だから、他の人が犠牲になることはない」
咲良の信頼に応えるためにも、諒真は自信をもってそう返答した。
「ふむ、二人がそう考えていてくれているのならば問題はないね。もちろんこちらとしては二人の生命を最優先で考えさせてもらうけれど、戦闘に関しては二人を頼るしかないのも事実だからね。こちらはこちらで準備を進めておくから、二人は好きにやるといいさ。差し当たって、ワタシは学校の関係者に二人は風邪を引いたから明日はお休みをすると連絡を入れてくるよ。二人もほどほどのところで仮眠をとるようにね」
そう言い残し、ブライアンは訓練室を後にする。
「ではでは、私たちは明日を生き抜くためにも訓練を続けましょう。仮眠や装備の確認などがあるので昼前ぐらいまでが限界ですかね」
「それは要するにこれから十時間近く訓練を続けるということだよね?」
仕方のないこととは言え、若干うんざりしたような声で諒真は確認する。
「もちろん適宜休憩はとりますから大丈夫ですよ、仮眠前に気絶されても困りますしね」
「気絶している暇はない……か。まあ、そうだね俺には何もかもが足りないから君を守るためには付け焼刃でも努力を続けないとね」
「はい。付け焼刃でも何度も叩かれれば本物になりますから、手加減はしませんよ」
覚悟していても、また諒真自身から努力すると言い出したとはいえ、咲良のその言葉には思わず背筋がゾッとした。
もちろんその言葉の重みが、咲良の覚悟が伝わってきたのはもちろんのことだがそれよりもなによりもその表情が、諒真自身を信頼しきっているその笑顔が諒真自身に重くのしかかっていた。
「じゃあ、その信頼に応えるためにも頑張るしかないかな」
でも、だからこそ諒真は努力をすることができる。咲良からのこの上ない信頼をその身に浴びている実感があるからこそ。
その後の激しい訓練、そして食事と仮眠を経て男の指定した時刻が迫る中、諒真と咲良、そしてブライアンは戦いの最終確認を行わおうとしている。
「まずはじめに、諒真君と咲良ちゃんには良い知らせと悪い知らせがあるんだけど、どちらから聞きたいかな?」
不意にもたらされたブライアンの二択に諒真は思わず顔をしかめる。
どちらがいいか、などと聞かれたところで両方聞かなければならないのには違いないしどちらから聞いたところでこの先の運命が大きく変わるとは思えない。
「では、悪い方からでお願いします」
咲良はブライアンのこういった態度には慣れ切っているのか淡々とした態度で先を促す。
「では悪い方から話させてもらおうかな。実は諒真君と咲良ちゃんが仮眠に入った後、ウチの職員が件の男を発見してね。人気の無いところに誘い出してどうにか倒せないか頑張ってみたんだけど、逃げられてしまったんだ」
「あの男を見つけたんですか!?」
「一体どこにいたんですか?」
ブライアンのもたらした情報に思わず諒真は椅子から立ち上がって驚く。
「君たちの通う学校を見張るようにビルの屋上で佇んでいたそうだよ、咲良ちゃん」
「あれ? でも昨日、他の支部の人たちが到着するまで時間がかかるって言ってましたけど、もう到着していたんですか?」
「いやいや、さすがに昨日の今日では無理だったよ諒真君。だから、この支部にいる非能力者の戦闘員と戦闘向きではない能力者を警戒に当たらせていたんだけどね。運よく、というか運悪くあの男を発見してしまったんだよ」
「なるほど、確かにいくらこの支部の戦闘員でも能力を持たなければあの男には太刀打ちできなかったでしょうね」
諒真とは違い咲良の方は支部の戦闘員の実力をわかっているのかブライアンの言葉に素直に納得する。
「具体的にはどのくらいの戦力であの男とぶつかったんですか?」
イマイチ納得のいっていない諒真はブライアンに重ねて質問をする。
「大した戦力じゃあないよ。拳銃で武装した戦闘員が六人と煙を生み出す能力者と静電気を操る能力者の計八人だよ」
「その人数でも倒すことができなかったんですか?」
「とは言っても、能力者の二人は戦闘に参加していないから直接戦ったのは六人の戦闘員だけだけどね」
「……一つの傷もつけられませんでしたか?」
それまで黙っていた咲良はブライアンにひとつの質問をする。
「その通りだよ、咲良ちゃん。奴の能力の前には二十発も撃てないハンドガン程度ではかすり傷も与えられなかったそうだよ」
「かすり傷も……。そんな奴相手に俺達で勝てるのかな」
「大丈夫ですよ、諒真さん。いくら化け物のような相手でも能力者と対峙した経験は少ないはずです。だったら条件は互角ですよ」
「そうかな?」
「そうですよ。大体、諒真さんだって慣れれば拳銃を持った戦闘員程度ならかすり傷一つ負わずに制圧できるようになりますよ」
咲良の慰めなんだかわからない言葉が諒真にかけられる。
「納得いったもらったところで、良い方の知らせに入らせてもらおうかな」
「あ、はい。あの男に逃げられたことが悪い知らせなら、確かに良い方の知らせも気になります」
「良い方の知らせというのはね、幸いなことに敵は約束を守り、今日一日学校の人たちに危害を加えることはなかったそうだってことだよ」
「それは一安心です。それで下準備の方は上手くいったんですか?」
既に諒真の携帯電話には、重吾と彩夏から体調を心配するメールが届いていたので二人に関しては心配していなかった。それでも、他の人に関しては情報がなかったのでブライアンの言葉にはいくばくかの安堵を覚えた。
「もちろん下準備は万全さ。屋内プールの方には水を満杯に入れておいたし、既に咲良ちゃんに渡したリモコンで校庭のスプリンクラーや廊下、トイレの水道を瞬時に作動させることができるよ」
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