revived

高坂ナツキ

文字の大きさ
20 / 22

20

しおりを挟む
「もちろん下準備は万全さ。屋内プールの方には水を満杯に入れておいたし、既に咲良ちゃんに渡したリモコンで校庭のスプリンクラーや廊下、トイレの水道を瞬時に作動させることができるよ」

 ブライアンの言葉通り咲良の手には小さなリモコンが握られていた。

「だったら、あとは実際に戦って勝つだけですね」

「そうだね。一応、戦闘班には学校の周囲で即座に動けるように準備させておくけれど二人が危機的状況になるまでは動かせないから気を付けてくれたまえ」

「そうですね、あの男は自分と同じ能力者と戦うことだけを生きがいにしているようでしたから邪魔をされればどんな行動に移るかわかりません。研究所の人たちに襲い掛かるならまだしも、周辺住民へ被害が出てしまったら目も当てられません」

 ブライアンの注意に対して咲良が説明を付け加える。

「そうか、周りに被害が及ばないようにもしないといけないのか。学校の周辺には民家は少ないけど皆無ってわけでもないしな」

「でも、会話した感じ私か諒真さんのどちらかがまともに正面から戦っていれば、わざわざ他の人に手を出すような感じではないと思いますよ」

「つまり逃げ出さずになるべく正面からたたく必要がある……と」

「それもなるべく校庭の真ん中で、ですね。スプリンクラーは配置を見る限り隅の方にはあまり数が配置されていないようですし、万が一にも校舎の中へと逃げだされると昨日の焼き直しで苦労する羽目になると思います」

「校舎の中に逃がすのも避けた方がいいのか?」

「私の能力の使用半径よりも学校の廊下の広さの方が狭いので十分な威力が発揮できないんですよ。いくら校舎の中の水道を使えるようにしたと言っても校舎全体を水浸しにするのは時間がかかりますし」

「つまり俺の役目はあの男を校庭のど真ん中で足止めして他へ逃げられないようにすることとアイツの能力を破壊することの二つ……かな」

 少し考えてから諒真は自分の役目を理解する。

「はい。そして、私の役目は諒真さんが敵の能力を破壊した瞬間にスプリンクラーを作動させて相手をずぶ濡れにさせることと敵の息の根を止めることの二つです」

「ふむ。二人とも自分の役割は把握したみたいだね。でも何よりも大事なことは二人が生きて帰ってくることだからね。それだけは忘れないように」

 ブライアンはそれが分かり切っていることだとは言え念押しをする。
 それは二人にとっても重要なこと。お互いにお互いの命を守りあうと宣言している以上相手を死に至らせるのは言語道断だ。

 既に夜も更け、諒真たちの通う高校からも人気が無くなったころ一人の男が校庭のど真ん中で獲物を今か今かと待ちわびていた。
 不吉なまでに真黒なコートを羽織ったその男の風貌にはおかしなところはない。
 だが、その表情はまるで悪魔のようで肉食獣を思わせるような口元も愉悦に浸りきった瞳もそのすべてから不吉な気配が漂っていた。
 すでに関係者も全て帰宅済みなのか校舎の中からは非常灯の灯りのみが漏れており他の光源は道路に備わっている街路灯のみである。

 それでも、晴れ渡った空に浮かぶ無数の星々と高校と太陽の灯りを照り返す月の灯りで十分に周りの風景は見渡せた。
 日付も変わろうかという頃合いになるころ男が愉悦の表情で見つめていた校門付近に一組の男女が姿を現した。
 二人はズボンとスカートの違いはあるものの同じデザインの制服を身に纏っていた。

 しかしこちらは表情以外は不自然なところのない黒コートの男と違い明確に異常だと思わせる容貌だった。
 なにしろ、男の方は右腕がまず普通ではない。異形と評するのが妥当であるソレは長さや太さは普通の高校生男子のそれとあまり変わらないが、右腕全体が黒色の鱗で覆われておりその爪は肉でも岩でも砕き穿ちそうなほどの破壊力が見て取れる。
 女の方は男とは違いその肉体自体は普通の人々と何ら変わらない容姿をしている。

 しかし、その周囲には数メートル台の水球がふわふわと浮いておりどういう原理なのかはわからないが女が動くたびに水球も同じだけの距離を保ちつつ女に追従している。
 そしてなによりその両腕には氷で形作られた精巧なレイピアが握られていた。いくら夜中とは言え季節は春で気温も二ケタに達する中、その氷は一向に溶ける気配も見せない。
 黒コートの男は二人が校門を乗り越えて校庭へと入ってくるのを愉悦の表情を深めながら待ちわびていた。
 いつの間に取り出したのか男の右手には触れればそれだけで切り裂かれそうなほどにするどい日本刀が握られていた。

「クックック、待ちわびた、待ちわびたぞっ!」

 二人組が校門を乗り越えて男に近づくと待ちきれないとでも言うように男の口から笑い声とともにその心情を表す一言が発せられる。

「待ちわびた? それはこっちのセリフだ。俺を殺したやつを殺し返せるんだからな」

 男のセリフに対して諒真の方も真正面から応える。

「いいないいな、その殺気。俺の肌をチリチリと焼くようなその気合。それでこそ殺しがいがある」

 日本刀を無造作に構える男に対して諒真は真正面から、咲良は少し迂回して右側面から回り込むようにして少しづつ距離を縮めていく。
 そんな二人に対して男の方は諒真の方だけを視界に入れている。前日の攻防で咲良の方は自分の能力に対して脅威はないと判断してのことだろう。

「いいのか、俺だけを気にしていて?」

「最優先の獲物はお前の方だ。女はお前を殺した後にゆっくりといたぶってやるさ」

 その言葉がきっかけとなったのか、諒真は男に向かって一直線に突っ込んでいく。
 速度こそ普通の男子高校生からかけ離れたものではあるものの愚直に突き進んでいく諒真に対して男の方はゆったりとした動作で日本刀を向ける。
 諒真の右手と男の日本刀が真っ向からぶつかった瞬間、その日本刀は粉々に砕け散る。

 しかし、そのことを予期していたように男はいつの間にか左手に生み出していたロングソードで諒真にカウンターを放つ。
 諒真の右側から放たれるその一撃は二刀を前提に特訓していた諒真の手によってあっさりといなされてしまう。
 心の片隅で付け焼刃の特訓では太刀打ちできないのでは……と思っていた諒真の不安はこの打ち合いで否定された。
 咲良との特訓は確かに付け焼刃の一夜漬けではあったものの戦闘を生業とする能力者との攻防に確かについていけている。

 二合、三合と打ち合ううちに男の得物はロングソードからククリナイフ、バスタードソードへと変化していく。
 そして諒真の打ち砕いた男の得物はどれも一様に粉々に砕け大気中へと消えるように溶けていった。
 打ち合う数が増えるたびに諒真にとって危険な場面は増えていく。いくら特訓をしたと言っても所詮は一夜漬けの付け焼刃。数が増えるたびに対処しきれない攻撃は積み重なる。
 ただ、そういった今の諒真の力量では防ぐことも躱すことも難しい攻撃は能力の使用半径に二人を収めた咲良の能力で防がれる。

 相手の攻撃を防ぐたびに咲良の周囲に漂っている水球は徐々に小さくなっていっているが、咲良はそんなことにかまわず二人の戦いを観察し続ける。
 もちろんそれは敵の能力を見極めるためだ。
 男の得物が砕け散り、次々と変わっていくその様を目の当たりにする度に咲良の推測は確信へと変わっていく。
 その証拠に攻防を交わす二人の周りにある砂煙は男が能力を使用するたびに薄まっていく。

 これならば、打ち合わせ通りの作戦で間違いなく敵を無効化することができるだろう。
 あとはそのタイミング。諒真が敵の武器を破壊し、敵が無手になった瞬間に相手を水浸しにするそのタイミングを計るだけである。

(作戦通りなら俺がこの男の持つ武器を破壊しなくちゃならない。……でも、全然ダメだ。片側を破壊しても次の瞬間には空いていたもう片方に武器が生まれてる)

「どうした、威勢が良かったのは最初だけか?」

 少し距離を取り、これからの動き方について思案していた諒真に対して男は挑発をしてくる。

「はっ、お前の殺し方について考えていたんだよ。なにせ俺自身の敵を討つんだからな。生半可な殺し方じゃ気が収まらないんだよ」

 その挑発に対して、諒真は精一杯の虚勢を張って挑発し返す。
 相手が確実に武器を手放さない状況にあるのなら何とかして両手を使うような武器を作らせなければならない。

「くっくっく、そいつは頼もしい。だが、今のままじゃあ到底俺を殺せそうにはないな」

「それはこっちのセリフだ。俺を殺すとか言っていた割には俺の能力に傷一つつけられていないじゃないか」

 瞬間、それまで常に微笑をたたえていた男の表情が一変した。
 図星を突かれたからか、それとも自身の能力について馬鹿にされたからか、それは諒真自身にはわからない。
 だが、確実に男の雰囲気はその一言を境に厳しくなった。

「言うじゃないか……確かに俺の能力とお前の能力をぶつけたところでお前の能力を傷つけることはできなさそうだ。だが何もお前を殺すのにその能力を壊さなきゃならないわけじゃあない」

「はっ、能力に覆われていない部分を狙ってくるつもりか? お前の攻撃スピードは読めてきてるし芦沢さんの能力もある。そう簡単に生身の肉体を狙えると思うなよ」

 それは半分事実で半分虚勢。男の攻撃スピードに慣れてきているのは確かだがすべての攻撃に対処できるわけではない。また、咲良の能力で防ぐのも限界がある以上このまま長期戦を強いられると諒真たちの方が分が悪い。

「元より小手先の技でお前を殺そうなどとは思っていないさ。お前の能力を破壊できなくてもな、こういった方法ですり潰すことも可能だということだ」

 言葉を放つが早いか、男の手の中には今まで握られていたモノとはまるで違う武器が存在していた。
 それは長大で肉厚、成人男性でも片手で振るのは難しく誰が見ても扱うのには両の手を必要とする得物であった。
 確かにその武器ならば諒真の能力を破壊できずともその自重と威力で諒真の生身の肉体にダメージを与えることが可能だろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...