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ロンギヌスの牙
龍都の守護者
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────グーンデイル(人狼アルデバドス種、アルデバドス族・長老、アールヴヘイム王侯第1席、アースバインダー)
アールヴヘイム崩落の主犯は、虚無なる奈落の世界龍、カインである。
崩落が始まった直後、私は、我が主フリギアン=ギアの宮殿に向かっていた。
獣車が、宮殿の外門を抜けたところで、突然、身に悪寒が走り、敷地内の異様な雰囲気を知覚した。
獣車を止めさせ、車外を見回してみると、普段はそこかしこで働いているはずの従者や庭師、近衛兵の姿が一つも見えなかった。
不審に思いながら、意識を集中し、知覚範囲を拡げたところ、絶句した。
庭園には、死体が大量にあり、生存者は一人もいなかったのだ。
私は、獣車を飛び降り、獣化して、宮殿の中へ突進した。
宮殿の中も、状況はかわらなかった。
周囲には、死体しかなかった。
しかし、宮殿の最深部、我が主フリギアン=ギア様の寝室付近に、二つの生体反応を感じとった。
一つは、過去に二度ほど知覚したことのある生体反応であり、この大地の生物を超越した存在だった。
そして、もう一つは、よく知っている生体反応であり、今にも消えそうなほど弱りきっていた。
私は、ギア様の寝室へと急いだ。
そこで見たのは、我が主の首筋に牙を突き立て、恍惚とした笑みを浮かべながら彼女の生き血を喰らい尽くしている、カインの姿だった。
我が主は、すでに意識を失っているようだった。
思わず、私は、カインに飛びかかったが、知覚できない無数の何かに身体中を貫かれ、床に崩れ落ち、身動きできなくなってしまった。
私の血液は、ゆっくりと床を赤く染めていった。
だが、私はアールヴヘイムの中心地・龍都ギアのアースバインダーである。
守護する大地が滅びないかぎり死ぬことがない。
そして、この龍都ギアにいれば、傷を負っても短時間で回復するはずだった。
しかし、回復の兆候がまるでないのだ。
あの無数の見えない刃は、私の再生能力すら無力化するというのか?
いや違う……。
見えづらいところに落ちていたが、私自身と同化していたはずの鎮守鎖が、ちぎれて床に落ちていることに気づいた。
く……そんなことまで可能なのか……。
カインは、分離できないはずの私の鎮守鎖を切断してしまったのだ。
終始、奴は、何もなかったかのように、私を一切見ることもなく、ただ我が主の血液を貪り続けているだけだった。
世界龍とは、ここまで絶対的な生命体なのか?
私は、生命体として到達できない壁を本能で感じ嘆いた。
アースバインドなど世界龍には無力だったのだ。
主を守れない守護者なぞ、何のための守護者か!?
首席の王侯でありながら、私は、無様に死に逝くことしかできないのだ。いや、鎮守鎖を失った私は、すでに王侯ですらない、一匹のアルデバドスだ。
奴は、私から、王侯として死ぬことすら奪い去ったのだ。
……
すこし、気を失っていたようだ。
どういうわけか、私はまだ生きている。
だがもう、体を動かすことはできなくなってしまったようだ。
意識もかなり薄らいでいる。
私は、ほとんど機能しなくなってしまった知覚器官で、周囲を探ってみた。
どうやら地下にいるらしい。
おそらくここは、我が主フリギアン=ギアの瞑想室だ。
入室は禁止されていたので入ったことはなかったが、他の部屋との位置関係で推測できた。
この部屋にいるのは、私を含めて5人。
我が主フリギアン=ギア……瞑想台に寝かせられているようだ、意識はないが、まだかろうじて存命のようだ。
王侯第5席のアーグゥインと王侯第8席のフォールクヴェイル……何も、龍都ギアの守護を任されている歴戦の英雄だ。どうやら、彼らも私と同じく、カインに致命傷を負わされたようだ。この様子だと鎮守鎖も切断されてしまっているのだろう。二人から意識の動きは感じられない。気を失っているようだった。
そして、カインもこの部屋にいる。
奴は、ここで何をするつもりなのだ?
カインは、何もない空間から、巨大な棺桶のようなものを3つ取り出し、瞑想台を中心にY字になるように並べた。
巨大な棺桶は、鉱物密度から察するに、何かしらの装置のようだった。
突然、3つの巨大な棺桶の扉が、同時に開いた。
カインは、我々、王侯の首を掴み、棺桶の中に仰向けに、フリギアン=ギアに頭が向くように、一人ずつ寝かせた。
そして、(私が知る法術式とは全く異なった)まるで直接パワーソースを操作するかのような法術式を、この部屋全体に展開すると、それに呼応するかのように、我々人狼が収められた棺の内部装置が起動しはじめた。
カインは、しばらく微動だにしなかったが、突然、動き出し、フリギアン=ギアの横たわる瞑想台の傍に立ったかと思うと、奴は、自らの手を彼女の左胸に突き刺し、彼女の心臓を引きちぎって取り出した。
奴は、取り出した心臓を、その場で3等分に切り分け、その各々に、彼女の枕元に並べてあった、3本の鎖(おそらく我々の鎮守鎖だろう)を巻きつけていた。
その作業が終わると、我ら人狼のもとにやってきて、鎮守鎖が巻きつけられた我が主の心臓の欠片を、各々、一つずつ、口から無理やり腕を胃袋まで突っ込んで入れてまわった。
突然、棺の扉が閉じ、私の知覚は遮断された。
そして、何かが動作するような音とともに、私は完全に意識を失った。
アールヴヘイム崩落の主犯は、虚無なる奈落の世界龍、カインである。
崩落が始まった直後、私は、我が主フリギアン=ギアの宮殿に向かっていた。
獣車が、宮殿の外門を抜けたところで、突然、身に悪寒が走り、敷地内の異様な雰囲気を知覚した。
獣車を止めさせ、車外を見回してみると、普段はそこかしこで働いているはずの従者や庭師、近衛兵の姿が一つも見えなかった。
不審に思いながら、意識を集中し、知覚範囲を拡げたところ、絶句した。
庭園には、死体が大量にあり、生存者は一人もいなかったのだ。
私は、獣車を飛び降り、獣化して、宮殿の中へ突進した。
宮殿の中も、状況はかわらなかった。
周囲には、死体しかなかった。
しかし、宮殿の最深部、我が主フリギアン=ギア様の寝室付近に、二つの生体反応を感じとった。
一つは、過去に二度ほど知覚したことのある生体反応であり、この大地の生物を超越した存在だった。
そして、もう一つは、よく知っている生体反応であり、今にも消えそうなほど弱りきっていた。
私は、ギア様の寝室へと急いだ。
そこで見たのは、我が主の首筋に牙を突き立て、恍惚とした笑みを浮かべながら彼女の生き血を喰らい尽くしている、カインの姿だった。
我が主は、すでに意識を失っているようだった。
思わず、私は、カインに飛びかかったが、知覚できない無数の何かに身体中を貫かれ、床に崩れ落ち、身動きできなくなってしまった。
私の血液は、ゆっくりと床を赤く染めていった。
だが、私はアールヴヘイムの中心地・龍都ギアのアースバインダーである。
守護する大地が滅びないかぎり死ぬことがない。
そして、この龍都ギアにいれば、傷を負っても短時間で回復するはずだった。
しかし、回復の兆候がまるでないのだ。
あの無数の見えない刃は、私の再生能力すら無力化するというのか?
いや違う……。
見えづらいところに落ちていたが、私自身と同化していたはずの鎮守鎖が、ちぎれて床に落ちていることに気づいた。
く……そんなことまで可能なのか……。
カインは、分離できないはずの私の鎮守鎖を切断してしまったのだ。
終始、奴は、何もなかったかのように、私を一切見ることもなく、ただ我が主の血液を貪り続けているだけだった。
世界龍とは、ここまで絶対的な生命体なのか?
私は、生命体として到達できない壁を本能で感じ嘆いた。
アースバインドなど世界龍には無力だったのだ。
主を守れない守護者なぞ、何のための守護者か!?
首席の王侯でありながら、私は、無様に死に逝くことしかできないのだ。いや、鎮守鎖を失った私は、すでに王侯ですらない、一匹のアルデバドスだ。
奴は、私から、王侯として死ぬことすら奪い去ったのだ。
……
すこし、気を失っていたようだ。
どういうわけか、私はまだ生きている。
だがもう、体を動かすことはできなくなってしまったようだ。
意識もかなり薄らいでいる。
私は、ほとんど機能しなくなってしまった知覚器官で、周囲を探ってみた。
どうやら地下にいるらしい。
おそらくここは、我が主フリギアン=ギアの瞑想室だ。
入室は禁止されていたので入ったことはなかったが、他の部屋との位置関係で推測できた。
この部屋にいるのは、私を含めて5人。
我が主フリギアン=ギア……瞑想台に寝かせられているようだ、意識はないが、まだかろうじて存命のようだ。
王侯第5席のアーグゥインと王侯第8席のフォールクヴェイル……何も、龍都ギアの守護を任されている歴戦の英雄だ。どうやら、彼らも私と同じく、カインに致命傷を負わされたようだ。この様子だと鎮守鎖も切断されてしまっているのだろう。二人から意識の動きは感じられない。気を失っているようだった。
そして、カインもこの部屋にいる。
奴は、ここで何をするつもりなのだ?
カインは、何もない空間から、巨大な棺桶のようなものを3つ取り出し、瞑想台を中心にY字になるように並べた。
巨大な棺桶は、鉱物密度から察するに、何かしらの装置のようだった。
突然、3つの巨大な棺桶の扉が、同時に開いた。
カインは、我々、王侯の首を掴み、棺桶の中に仰向けに、フリギアン=ギアに頭が向くように、一人ずつ寝かせた。
そして、(私が知る法術式とは全く異なった)まるで直接パワーソースを操作するかのような法術式を、この部屋全体に展開すると、それに呼応するかのように、我々人狼が収められた棺の内部装置が起動しはじめた。
カインは、しばらく微動だにしなかったが、突然、動き出し、フリギアン=ギアの横たわる瞑想台の傍に立ったかと思うと、奴は、自らの手を彼女の左胸に突き刺し、彼女の心臓を引きちぎって取り出した。
奴は、取り出した心臓を、その場で3等分に切り分け、その各々に、彼女の枕元に並べてあった、3本の鎖(おそらく我々の鎮守鎖だろう)を巻きつけていた。
その作業が終わると、我ら人狼のもとにやってきて、鎮守鎖が巻きつけられた我が主の心臓の欠片を、各々、一つずつ、口から無理やり腕を胃袋まで突っ込んで入れてまわった。
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