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BY THE BOOK OF DAYS
移動要塞フォーマルハウト
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────ククリ(人狼ガルダーガ種、ルーノ族・長老、ニダヴェリール宮廷特別顧問)
「ククリ様、ルカティア様から連絡が入っております」
ディー=トライプはそういうと、深紅の霧状になった胴体からルシオーヌの血液の入った瓶と、生体情報の記録デバイスを取り出した。
「ルカティア? 聞こえる?」
「やっほー、ククリさん。聞こえるわよ」
「変わりはない?」
「まあ、順調といったところかな。
さっき、フォーマルハウトの船に拾ってもらえたのよ。
アストレアに用事があるっていってたから乗せてもらうことにしたの」
「それは運がよかったね、でもどうやって取引したの?」
「近くで、デネブの船が例の実験やってたから、
生存者確保してそれを出しに交渉したの」
「じゃ、生存者は全てフォーマルハウトに預けられたの?」
「フォーマルハウトだけに話しつけにいったのに、
近くにいたレグルスとデネブと当分じゃないとダメだって言い張るのよ」
「妙だね……生存者は何名いたの?」
「12名だけ」
「あらら、かなり食べられちゃったのか」
「でも、ルキフェルは第四世代、マモンは第五世代、レヴィは第五世代を一匹づつ殺せた」
「数が増えないどころか減らせたのか。
大収穫だったね。
ところでデネブの周囲には何かいた?」
「あの船の周辺、空間の歪みがありすぎで、全く近づけないの。
生存者を引き渡すのも、かなり離れたこころを指定されて、そこから転送してたしね」
「さすがはシャノン学派ってところだね。バベッジ学派はようやく同等レベルの防御力を実用化できたみたいだけど、シャノン学派が、まだ頭一つ抜き出してる感じか……」
「バベッジ学派は色々手を出しすぎなんじゃないの?」
「彼らは理想が先に進むからしかたないよ。そこは無色のホムンクルスたちの趣味の領域だから、たとえ王侯に命令されても、誰も言う事は聞かないとおもうよ」
「ガイゼルヘルでもだめなの?」
「たぶんね。ガイゼルヘルさんが死ねっていえば、喜んで死ぬだろうけど、彼らにとって研究理念はそれ以上の存在らしい」
「ほんとうに、へんなやつらよね。だったら、ガイゼルヘルにシャノン学派集めさせて、全員殺させちゃったら? このままだと、ノスフェラトゥに餌やってるのといっしょじゃない」
「ガイゼルヘルさんが戻れたのは彼らのおかげだから難しい問題だよね。
ティフォーニアが判断に困っているのはそこなんだよね。
さっきもそのことでエリューデイルの愚痴を聞いてたところだしね」
「せめて、場所と時間くらい事前に申請させるとかできないの?」
「ルークの話では、空間転移が可能な条件はとても微妙らしいから、予定を立てるのが難しいらしい。大陸を動き回ってチャンスが来たらその時にやるしか今のところは方法はないっていってたよ」
「シャノン学派の船に兵士を常駐させるとかできないのかな?
それはルシーニアからティフォーニアに相談してもらっているけど、ユグドラシル内部の問題は、ティフォーニアとラフィノス族が決める事だからね」
「ガイゼルヘルが邪魔でもしてるの? ティフォーニアは世界龍なのだから、気にせず進めれば良いのに」
「ティフォーニアは、彼の意見も一理あるとおもっているから、討論をして、精査しているのさ」
「なんか焦れったいわよね。
そういえばヴェルキエーレには補佐官の席は、まだ用意されないの?
あの子たちの方が、ずっと聡明だとおもうけど?」
「まだ、独り立ちしてないって認識だからそれまでは鉱山の守衛って感じだろうね。
私としても、今の状況で前線に投入されるのはまだやめてほしいとおもってるから。
それに、ノスフェラトゥの件では、一番の加害者と被害者はヒューマノイドってことになるから、ユグドラシルに内包されている世界でのヒューマノイドを今後どう扱うべきかってところがとても難しいと、エリューデイルは悩んでいたよ」
「ヒューマノイド作ったのってティターノとアルデバドスでしょ?
ガイゼルヘルとエリューデイルさんに責任とってもらえばいいじゃない?
ノスフェラトゥの件も含めて。
アースバインダーが二人もいれば簡単でしょ?」
「あはは、ルカティアらしいね。でも、始祖は二人でもむりだろうね。
ガイゼルヘルさんもエリューデイルも自分の失態だと本気で思ってるからこそ、ノスフェラトゥとヒューマノイドの今後について、ティフォーニアと本気で討論し合ってるんだとおもうよ」
「……あ、わすれてた、転移された街、エレーナの世界だって」
「了解、ティフォーニアに伝えておくね、ありがとね。
こちらも、報告。
送ってくれたルシオーヌの血液と細胞だけど、異常無し。
ところで、ロンギヌスは大丈夫そう?」
「うん。とってもいい子にしてる。ゼディーさんに感謝だね」
「そっか、よかった。
なんか、また、エリューデイルからヘルプの呼び出しが来た。
今日は、かなり追い詰められてるみたい、かわいそうだから、会議室にお茶でも持っていって、空気を入れ替えてくる」
「……想像しただけで、その会議室ぜったい行きたいくないわ」
「私もだよ。でも、誰かがやらないとね……」
「じゃ、がんばってね。また連絡するね」
「またね」
ルカティアたちは、順調のようだ。
フォーマルハウトもついにアストレアにご相談か。
無色のホムンクルスたちもいろいろ悩み抱えてそうだな。
無色のホムンクルスは、癖のあるやつしかいないから、ガイセルヘルさん戻って来てくれたのはかなりありがたい。
彼は判断早くて、一刀両断してくれるので、みてて気持ちいい。無色のホムンクルスには彼みたいな上司が一番合ってそうだよね。グーンデイルさん、本当に人を見る目がある。惜しい人を亡くしたよ。
でも、私、なんでティフォーニアの宮殿でお茶汲みさせてられてるんだろ?
愛娘たちが独り立ちするまでの相談役って話だったのに……。
しかも、一日中、ティフォーニアとガイゼルヘルさんとエリューデイルが入れ替わり立ち替わり個別相談にくるし……。
しばらくは、お茶飲みながら医務室でゆっくりできるって話はどこへいった?
ゼディーが作ってくれた露天風呂がなかったら、絶対耐えられないよ。
早く騒動が落ち着くと良いな。
……
数日後、ルカティアから再び連絡が入った。
「ファルシオン、体調が悪そうなの……」
「とりあえず、検査結果を確認するね。でも日数的にはまだ深刻ではないなず。
栄養補給はちゃんとできてるかい? 食べられなくなった食べ物とかでてきた?」
「うん、大丈夫。送ってもらった食料は全部ちゃんと食べられてる」
「なら大丈夫かな。ちょっとまってね、検査済ませちゃうから」
「うん」
「血液も、細胞も問題無し。大丈夫、周期は2日くらいずつ短くなることもあるけど、変わらない時もあるから、急激に短くなることはないはず。急激に短くなるようなら、一大事なので注意してね」
「うん、わかった」
「他に変わった事とかある? 私が最近、気になってるのは無色のホムンクルスの学会の動向なんだよね」
「学会?」
「うん、フォーマルハウトの船に近づいてる他の船とかそういうの気づいた?」
「私たちが乗り込んでからは、近くに船の気配を感じたことはないかも?」
「ククリさんのところになにか情報が入ってるの?」
「いあ、全くない。ただ、フォーマルハウトがアストレアに相談ってきいて、ずーっと引っかかってたんだ。私がフラガ=ラ=ハやっていたころにフォーマルハウトとは、3回程あって直接話をしたことがあるのだけれど、とにかく研究に没頭できればそれでいいって感じのやつなので、今の環境は、彼にとってはなんの悩みもないはずなんだよね。
そんな奴がアストレアに向かうってのは、相談というよりも、アストレア周辺の安全域にはいりたがってるのかな? って感じたの」
「なるほどね……どうしよ、降りた方が良い?」
「君とルシオーヌが搭乗しているうちは安全だと思うおもうよ。
なにかあったらアストレアどころかニダヴェリールとムスペルヘイムを敵に回すようなものだからね。
でも、他の船が近づいてくるとか、船の軌道がおかしいときは、気をつけた方がいいかも」
「そっか。でもさ、最初に見つけたときは、デネブとレグルスの近くにいたよ?」
「それなんだよね。それ、デネブとレグルスに追われてたのかも」
「え? なんで?」
「理由まではわからないけど、レグルスはともかく、デネブの空間操作技術だったら、フォーマルハウトのシールドなんか無効化できるだろうって、ルークがいってたから、レグルスは人手と相転移装置が欲しくて、デネブと交渉してフォーマルハウトを狙っていたのかもしれないね。
でも、たまたま空間転移のタイミングが来ちゃったから、デネブはそれを優先して、しかも、君たちアストレア関係者が来ちゃったものだから、手を出しずらくなったって感じがしてならない。
ただね、レグルスがデネブに対して提供できるカードは武装くらいしかないから、なんでデネブは協力したのかなってところで止まってるのが現状。
そう言えばさ、フォーマルハウトにいるヒューマノイドの人口ってわかる?」
「この前引き渡した子の話だと、2万人くらいってきいてるけど?」
「やっぱりかー」
「なに?」
「フォーマルハウトの船の設備なら1千年もかからずにヒューマノイドの人口は億を超えているはず。
きっと、なんども、脅されてヒューマノイドを奪われたんだろうね。
でも、もう差出せる人口としては少なすぎるから、今は相転移装置を狙われている状況なんじゃないかな?
場所的に、ニーベルング鉱床のほうが近かったからそっちに向かったけど、君たちと合流できたから、より安全なアストレアに行くことにしたって考えるのが妥当だろうね」
「なるほどね……どうすればよい?」
「ルカティアとロンギヌスがいるから、手が出せないとは思うけどね……。
私としてはフォーマルハウトに恩を売っておきたいのだけれど、力を貸してもらえるととても助かる」
「それは構わないけど、数次第では船は守れないわよ? 大きすぎて」
「うん、なので、ティフォーニアに相談して、ちょうどいい機会だから、ヴェルキエーレたちに浮遊要塞の警護の演習をさせてもらうようにお願いしようとおもっている」
「なるほど……あの子たちも暇持て余してそうだしね」
「うん。そこで君への追加の任務。
フォーマルハウトと直接合ってお話ししたいのだけれど、調整してもらえるかな?
とにかく私の憶測なので、彼の話を聞かないとどうにもならないのよ」
「でも、なんて伝えれば良い?」
「いまから言うことそのまま正確に伝えてもらうようにお願いしてくれる?」
「うん」
「『フラガ=ラ=ハから、フォーマルハウトへの伝言 δβ::3853::603 λη4269273 ενΛωη』
以上、覚えてくれた?」
「『フラガ=ラ=ハから、フォーマルハウトへの伝言 δβ::3853::603 λη4269273 ενΛωη』
あってる?」
「うん、よろしく。返事待ってるね」
「了解」
杞憂に終わってくれると良いのだけれど……。
……
私は、ディー=トライプの転移機能をつかって、移動要塞フォーマルハウトに訪問した。フォーマルハウトに話を聞くためだ。
「まさかあなたが、相転移の実験素体だったとは思いもよりませんでした」
フォーマルハウトは、ルークにまとめてもらった私の調査データを興味深げに端末でみながら、そう言った。
「私も、『ククリ』と君が面識があったとは思わなかったよ。
そのあたりの記憶は、完全に消えちゃってるから」
「そうですか、我々の蜜月の日々まで忘れてしまったのですね……
ほんとうに残念です」
「過去の捏造はやめようね。
そろそろ、本題にはいろうか。
昔の馴染みだし、君には恩を売っておきたいから、お悩み相談なら歓迎するよ?
お悩み相談係のお婆ちゃんてのが、今の私の仕事だからね」
「思わぬ再会で舞い上がってしまいました。
状況からいうと、バベッジ学派の移動要塞は、もうこの要塞しかのこっていません。
皆、要塞の安全区画だけ離脱して、この要塞に結合して研究を続けている状況です」
「夢追い人の多い君たちの学派には、パトロンがいないとこの世界は厳しすぎるのかもしれないね」
「まったくです。フリギアン=ギアが健在の頃が懐かしくて仕方ありません。
ニダヴェリールで保護していただけませんか?」
「ごめん、無理。
きみたちは、ユグドラシルの住人なのだから」
「……ですよね」
「でも、シールド技術もかなり進歩したみたいじゃない?
もう少しがんばれば、シャノン学派だって怖くないのでは?」
「それはそうなのですが、こちらの準備が終わる前に彼らに捕まる確率の方がはるかに高いのです」
「でも、どうしてまた仲間内で海賊行為が始まったの?」
「ノスフェラトゥのパンデミックのせいで、調達できるヒューマノイドの個体数が激減したためです。我々の相転移技術は、彼らにとっては魅力的な技術ですからね」
「まぁ、予想どおりってことか。でも無色のホムンクルスって同族裏切るほど性根腐ってた? そんなイメージ全く無かったよ」
「昔は、お互い尊重しあい見解の違いだけで片付いていたのですが、アールヴヘイムの大崩落とノスフェラトゥのパンデミックが同族の絆よりも、研究理念の成就を優先する我々の本質を浮き彫りにしてしまったといったところでしょうね」
「学会はもう開かれていないの?」
「いえ、見解の近いもの同士では定例で続けられているとおもいます」
「分裂しちゃったのか」
「はい。バベッジ学派は完全に孤立しました」
「チューリング学派とかマッカーシー学派とは仲よかったよね?」
「彼らは、ドラッケンの要塞で、監禁されて研究を続けています」
「パンデミックの中心地にいたのが災いしたわけだ」
「そのとおりです」
「ドラッケンの都市は、結局どの学派が主導権を握ってるの?」
「ノイマン学派です」
「そんなに野心家な感じではない印象だったけど?」
「ドラッケンの研究の中心となった学派ですから、パンデミックの際、人狼の支配から解放されただけでなく、ベイ=O=ウーフという大きなアドバンテージを得られたこともあり、彼らの研究理念にそった世界を再構築しようとしているようです。
ユグドラシルは寛容ですから、それに干渉する可能性も低いでしょうし」
「まぁ、実害がないなら容認してくれるだろうね。君は賛同できなかったの? 誘われたわけでしょ?」
「ええ。もともと彼らとは理念が対立していましたので、彼らの傘下に入ることは、自由な研究ができなくなるということですから。チューリング学派とマッカーシー学派の同胞たちは辛い日々を送っていることでしょう」
「だとすると、無色のホムンクルス同士での諍いってことになっちゃうから、アストレアは干渉しないだろうね」
「はい。それで、アストレアの領域内に移動要塞を駐留して時間を稼ごうという試みにでたのです」
「なるほどね。どれくらいの時間が必要かな?」
「……できれば1万年、最低3千年くらいは欲しいですね」
「駐留する理由を捏造する方が研究するよりも難しそうだね」
「……ですよね」
「そこまで追い詰められてたんだね」
「はい……」
「どうしたものか……」
「その……ドリアン=ルークとは仲がよろしいのでしょうか?」
「うん、悪くないと思うけど、嫌な予感しかしないからダメ」
「アイオニアン=ゼディーではだめですか?」
「同じ!」
「……はぁ。ククリさんは、私と私の要塞の住人に死ねとおっしゃるのですね?」
「そういう言い方はやめてね。
相転移技術をどこかの学派に高値で売りつけたら?」
「それはできません。死ねと言っているようなものです」
「めんどくさいなぁ……」
「ええ、まったく」
彼は誇らしげにいった。
「褒め言葉じゃないよ。
……そうだなぁ、今ね、アストレアで検討されていることの一つは、ヒューマノイドのことなんだ。パンデミックの元凶であり、被害者でもある彼らの存在をユグドラシルとして容認すべきか否かってね。
長いこと平行線が続いてるんだ。何か打開策、提案できる?
それができるなら時間の猶予を配慮してもらえるかもよ?」
「……提案ですか」
「もう一つはノスフェラトゥをどうすれば絶滅させられるか?
始祖の発見方法とかでもいいよ?」
「それ、研究施設をアストレア内に設立していただけますか?」
「他の学派もいっしょになるとおもうけどいい?」
「それはちょっと……」
「君たちじゃないと提案できないことってのが、唯一の突破口だと思う。
演習目的で護衛をつけるにしても、それなりの理由が必要になるから、君にはそれを用意して欲しいんだ。
『海賊行為が横行しています、すこし保護してください』とかだと、無色のホムンクルスまで、ヒューマノイドと同じ天秤に乗せられちゃうよ?
ガイゼルヘルさん、そういうところかなり厳しいからね」
「そうですね。
今から、同胞に召集をかけて、緊急会議を開くことにします。
いろいろとご意見をいただきたいので、しばらくこちらに滞在していただくことはできますか?」
「観光施設は充実してる? お風呂とか、食事とか」
「どうでしょう……。
あ、そうだ、ヒューマノイドの生活区画をご視察いただくのは如何でしょう?
ククリさん、あまりヒューマノイドと関わりはないのでしょ?」
「うーん……ティフォーニアに相談してみる。
私は部外者だから私が視察しても意味ないしね。
あと、お風呂と食事は今から確認してきめる」
「それは助かります。全ての区画へのフリーパスを発行しますね」
「いいの? 相転移技術のデータ抜き出して売っちゃうかもよ?」
「あなたが、そんな方ではないのは知っていますよ」
「君は、お人好しだなー」
「いまの我々にとっては、あなたが唯一の希望ですから、交渉材料の可能性を見出していただければとても助かるのです。我々にとって当たり前でも、価値のあるものが眠っているかもしれません」
「私が滞在してれば海賊行為から回避できるってだけでしょ?」
「それもあります」
「今日は、設備と食事だけ確認したらすぐ帰るね。
あとは、ティフォーニアに判断してもらう。
期待しないで自分たちで良い提案を検討してね」
「わかりました」
「それから、いま厄介になってるうちの子たちだけど、隔壁の隙間みたいな部屋じゃなくて、もうすこしまともな部屋を割り当ててもらえるとうれしいな」
「はい、よろこんで。あの、なぜ転移ゲートを使わないのでしょうか?」
「つかいたくても使えない子がいるからね。大切な娘だから、なにかあったら、ニダヴェリールもムスペルヘイムも容赦なく報復すると思った方がいいよ」
「それだけでも護衛の理由になりませんか?」
「この船を降りれば済む話じゃないの?」
「……たしかに」
「それじゃ、生活区画だけでいいから案内よろしくね、ほか興味ないし」
「はい。ではこちらへ……」
食事と生活施設は想像よりかなりよかった。浴場も住民のことをよく考えた使いやすく多様性のある作りだった。生活しているヒューマノイドの雰囲気や表情もよかったので、かなり良い待遇を受けているのだと感じた。
ただ残念なのは、生活区画から空を見られないことだった。
「せっかく素晴らしい空があるのに、それを見て生活できないのはもったいないよ。
空は、ユグドラシルの住民の財産だよ?
あと、視察期間中に露天風呂には入れないのもちょっと気が滅入るかも、得意のシールド技術でどうにからないの?」
と、わがままをいってみたことろ、フォーマルハウトは早急に検討すると言っていた。彼としてはもう必死だ。なりふり構っていられないのだろう。ちょっと意地悪なことしたかな?
私は、早速、アストレアに戻り、ティフォーニアに状況を説明した。
ガイゼルヘルとは違って、ほとんどヒューマノイドと接点をもってこなかった我々が、彼らの生活を視察する機会を持って見たらどうだろうか? という提案をしてみた。
私が撮影した要塞内部の動画を見みて、ティフォーニアは興味を示したようだ。
それに最近は連日の討論で息がつまる想いをしていたのだろう、リエルと一緒に滞在することを即決したのだ。彼女にとっては久々の休養といったところだろう。
驚いたのは、ガイゼルヘルさんだ。彼も視察を申し出たのだ。大殺戮が起こると、みんなして反対していたら、彼の一番の目的は、ロンギヌスと面会することだわかった。すでに別人と化してしまったが、彼が最も敬愛する王侯に直接あって帰還の報告をしたかったらしい。
また、ティフォーニアが視察するものと同じものを見ないで再び討論の席につくのは、公平性に欠けるというのが、彼なりの考えのようだ。生真面目な彼がそこまでいうなら大虐殺は起こらないだろうという結論に達した。
エリューデイルにはお留守番をまかせて、ティフォーニアには私が、ガイゼルヘルさんにはリエルがついて、1週間ほど滞在することになった。滞在期間中はバベッジ学派の無色のホムンクルスを交え、彼らの見解を参考にしながら、ヒューマノイド今後についての討論を行うことになった。
この決定を聞いた時のエリューデイルの表情は本当にうれしそうだった。
エリューデイルにとって、よい休養になることだろう。
早速、ニーヴェルング鉱床の愛娘と連絡をとり、6名ほど派遣してもらうように依頼した。
彼女たちは、訓練や会議といった毎日によほど退屈していたらしく、愛娘3名と孫娘3名が意気揚々と駆けつけた。
防衛プランを彼女たちに提案させ、ティフォーニアの承認を得るように指示した。
平常時は待機2名で、ローテーションして、休憩を挟み、緊急時には6名全員で対応することに決まった。
その決定にフォーマルハウトはとても感謝していたが、あくまでも視察期間中のみだから、それまでに良い提案を出せるよう頑張るように伝えた。彼は、すこしだけ希望が見えてきたらしく、悲壮感が漂っていた表情がすこしだけ明るくなっていた。
……
視察開始日、フォーマルハウトに搭乗した我々は、その変わりように驚いた。
全ての天井に空が映し出されており、露天風呂や、特別展望台なども増設されていた。
食事もさらに豊富に選べるようになっており、もはや、移動要塞ではなく、観光施設の様相を呈していた。
無色のホムンクルスというのは、ルークと同類の加減をしらない、頭のいいバカということがよくわかった。でも、この改修は私には高評価だが、私の評価が上がったところで意味はないのだよね……。
先にここで生活していた愛娘たちは、この要塞の快適さを十二分に満喫していたようだった。
ニーヴェルング鉱床にも同じ設備が欲しいといってくる始末だ。
早期に居住区に移動していたルカティアとルシオーヌは、日を追うごとに様変わりしてゆく要塞内部の様子に驚いたそうだ。
……
「今日も体調は問題ないね」
ルシオーヌの検査を終え、ちょっとしたカウンセリングをしていた頃、ガイゼルヘルさんが部屋を訪れた。
「失礼する。よろしいかな?」
「ええ、どうぞ、ごゆっくり」
この移動要塞に来てからの彼の日課だ。
ロンギヌスの前に跪《ひざまず》いて、昔の話だとか、今悩んでいることとかを話しかけているようだった。
エリューデイルからは涙もろい熱血漢と聞いたが、毎日、かつてグーンデイルだった戦闘獣に、涙を流しながら語りかける様を見て納得した。とても真直ぐで純粋な方なのだとよくわかった。誤解されやすい性格だが、とても思慮深く、聡明な方だというのもきっとそうなのだろう。だからこそティフォーニアは彼との討論を続けているのだ。
「失礼した」
「おつかれさま」
彼は部屋を後にした。
「ねえ、ククリさん。あの人誰?」
ルカティアはいつものように冗談を言った。
「いいかげん、その冗談にはあきたよ。あれも、彼なんだから認めてあげたら?」
「ほんとーに、信じられない。完全に別人よね」
「僕も未だに驚いてる、まだ慣れないよ」
ルシオーヌまでルカティアに同調している。
「ところでさ、ヒューマノイドの件、どうなってるか聞いてる?」
ルシオーヌはヒューマノイドの友人ができたこともあり、ヒューマノイドについての討論の行方が気になるようだった。
「バベッジ学派の見解が強い後押しになっているみたい」
「良い方向に?」
「どちらともいえないかな。バベッジ学派は、自分の研究にしか興味ないから最低限の干渉しかしないんだ。だけど、重要事項については完全に実権を掌握している。
哲人支配って言葉きいたことあるかな?」
「聡明で独占欲のない賢者が施政を司るとかいうやつだっけ?」
「うん、だいたいそんな感じ。バベッジ学派は、ヒューマノイドに対して、気づかれないように細かな監視をして、問題の根を摘み取るように気を配ってるけど、可能な限り、彼らが希望を持って生きられる生活環境を提供しているのだってさ」
「十分すぎる待遇だね」
「うん。でも、必要以上の権力は絶対に与えない」
「どうして?」
「彼らの自治能力を全く信用していないから」
「なるほどね」
「この要塞のヒューマノイドが生き生きとしているのは、洗脳や圧政ではなく、様々な自由、たとえば高度な技術知識とか娯楽や芸術に自由に触れられるようにしておきながらも、必要以上の権力が個人に集中しないようにして、致命的な身分差が生まれないようにバベッジ学派によって絶妙にコントロールされているからなんだってさ」
「それなら問題ないのでは?」
「哲人支配の問題点はしってる?」
「施政を司る人次第で、最悪の独裁状態になりやすいってことかな?」
「うん。たまたまバベッジ学派は、欲のない研究バカで、ヒューマノイドについてつまらないことに振り回されたくないから、彼らを絶妙なバランスでフォローしてヒューマノイドがのびのびと生きられる仕組みを作り上げて、不満を最小限におさえることで、自分たちが研究に集中できるようにしているってだけなんだよ」
「つまり、大昔にアルデバドスが判断を下したことをそのままやってるってこと?」
「そういうこと。でも、バランスさえ保たれれば、ヒューマノイドは無害のままいろんなことに挑戦して人生を謳歌できるってことも証明されたんだ」
「そうだね。でもさ、程度の差こそあれ、高次元知的生命体だっておなじでしょ?」
「うん。その程度の差がどこまで許容できるかが、焦点になってるんだってさ。ヒューマノイドを絶滅させて、ノスフェラトゥの家畜にされたヒューマノイドのコロニーを除去できれば、ノスフェラトゥたちは食料が確保できなくなるから休眠状態に入るか、ノスフェラトゥどうして共食いするしかなくなる。それによって得られるメリットは計り知れない。そんなメリットだらけの条件に勝てるだけのメリットを見出せるかだよね?」
「そうだね。ノスフェラトゥの問題がからむとヒューマノイドは圧倒的に不利になるよね」
「バベッジ学派が提案してた内容の一つに『ノア計画』とかいうのがあるけど、それは、アストレアにヒューマノイドの居住区をつくって、それ以外のヒューマノイドを絶滅させるって話だ」
「それも極端だね」
「ガイゼルヘルさんは、バベッジ学派の下でヒューマノイドを監視して、ノア計画を実施するならヒューマノイドの存在を容認してもいいってところまでは、譲ってきたところだよ。ティフォーニアは、他の低次元世界の状況も含めて判断を考えているから、ヒューマノイドの自治能力の欠落について、まだ疑問の余地があると考えているようだ」
……
視察期間が終わり私はアストレアへ戻った。
とても意義のある討論が行えたようで、アストレアで行う会議にバベッジ学派をはじめとした諸学派の無色のホムンクルスを招き入れて意見を交わすことになった。
フォーマルハウトの移動要塞については、当面、アストレア近郊への駐留許可がおり、護衛のヴェルキエーレの6名はアストレア近郊の安全区域に到着するまで継続して残ることになった。
アストレアからの各学派への召集に応えたのは、バベッジ学派の他はノイマン学派とシャノン学派だけだった。他の学派はすでにノイマン学派とシャノン学派のどちらかの傘下に入っているため、代表として意見を表明するのは2学派だけでよいとの見解だった。
ノイマン学派の代表者は、自動人形の技術が実用レベルに到達していたため、すでにヒューマノイドを必要としていなかった。彼らはヒューマノイドの絶滅を提案した。
シャノン学派の代表者は、アースバインダーの帰還という最大のカードがあるため、今後も空間転移を継続し、異世界の住人を確保して空間転移の安定化を測りたいとの希望を伝えた後、ヒューマノイドを高次元次元生命体に改造する技術について提案した。
シャノン学派の提案にガイゼルヘルは興味を示したようだった。
しかし、現状、ノスフェラトゥに餌をやっているような状態なので、対策ができない限り空間転移を禁止するように伝えた。
ノイマン学派の代表者は様子見と情報収集に徹しており、シャノン学派の代表者とバベッジ学派の代表者の主張がぶつかり合うといった感じになっていた。
今は、ノア計画の是非と、シャノン学派の空間転移対策が焦点になっているようだ。
エリューデイルは、以前よりもほんのすこしだけ話が前進したことと、意見のぶつかり合いの仲裁相手が、無色のホムンクルス同士に替わったこともあり、精神的なストレスが減ったようだ。
どちらかというと、ティフォーニアとガイゼルヘルの葛藤の方が増えた感じだ。
私のいる医務室にカウンセリングにくる頻度でなんとなく把握できた。
しかし、お茶汲みの呼び出しの頻度は変わらない。
ほんと何とかして欲しい……。
「ククリ様、ルカティア様から連絡が入っております」
ディー=トライプはそういうと、深紅の霧状になった胴体からルシオーヌの血液の入った瓶と、生体情報の記録デバイスを取り出した。
「ルカティア? 聞こえる?」
「やっほー、ククリさん。聞こえるわよ」
「変わりはない?」
「まあ、順調といったところかな。
さっき、フォーマルハウトの船に拾ってもらえたのよ。
アストレアに用事があるっていってたから乗せてもらうことにしたの」
「それは運がよかったね、でもどうやって取引したの?」
「近くで、デネブの船が例の実験やってたから、
生存者確保してそれを出しに交渉したの」
「じゃ、生存者は全てフォーマルハウトに預けられたの?」
「フォーマルハウトだけに話しつけにいったのに、
近くにいたレグルスとデネブと当分じゃないとダメだって言い張るのよ」
「妙だね……生存者は何名いたの?」
「12名だけ」
「あらら、かなり食べられちゃったのか」
「でも、ルキフェルは第四世代、マモンは第五世代、レヴィは第五世代を一匹づつ殺せた」
「数が増えないどころか減らせたのか。
大収穫だったね。
ところでデネブの周囲には何かいた?」
「あの船の周辺、空間の歪みがありすぎで、全く近づけないの。
生存者を引き渡すのも、かなり離れたこころを指定されて、そこから転送してたしね」
「さすがはシャノン学派ってところだね。バベッジ学派はようやく同等レベルの防御力を実用化できたみたいだけど、シャノン学派が、まだ頭一つ抜き出してる感じか……」
「バベッジ学派は色々手を出しすぎなんじゃないの?」
「彼らは理想が先に進むからしかたないよ。そこは無色のホムンクルスたちの趣味の領域だから、たとえ王侯に命令されても、誰も言う事は聞かないとおもうよ」
「ガイゼルヘルでもだめなの?」
「たぶんね。ガイゼルヘルさんが死ねっていえば、喜んで死ぬだろうけど、彼らにとって研究理念はそれ以上の存在らしい」
「ほんとうに、へんなやつらよね。だったら、ガイゼルヘルにシャノン学派集めさせて、全員殺させちゃったら? このままだと、ノスフェラトゥに餌やってるのといっしょじゃない」
「ガイゼルヘルさんが戻れたのは彼らのおかげだから難しい問題だよね。
ティフォーニアが判断に困っているのはそこなんだよね。
さっきもそのことでエリューデイルの愚痴を聞いてたところだしね」
「せめて、場所と時間くらい事前に申請させるとかできないの?」
「ルークの話では、空間転移が可能な条件はとても微妙らしいから、予定を立てるのが難しいらしい。大陸を動き回ってチャンスが来たらその時にやるしか今のところは方法はないっていってたよ」
「シャノン学派の船に兵士を常駐させるとかできないのかな?
それはルシーニアからティフォーニアに相談してもらっているけど、ユグドラシル内部の問題は、ティフォーニアとラフィノス族が決める事だからね」
「ガイゼルヘルが邪魔でもしてるの? ティフォーニアは世界龍なのだから、気にせず進めれば良いのに」
「ティフォーニアは、彼の意見も一理あるとおもっているから、討論をして、精査しているのさ」
「なんか焦れったいわよね。
そういえばヴェルキエーレには補佐官の席は、まだ用意されないの?
あの子たちの方が、ずっと聡明だとおもうけど?」
「まだ、独り立ちしてないって認識だからそれまでは鉱山の守衛って感じだろうね。
私としても、今の状況で前線に投入されるのはまだやめてほしいとおもってるから。
それに、ノスフェラトゥの件では、一番の加害者と被害者はヒューマノイドってことになるから、ユグドラシルに内包されている世界でのヒューマノイドを今後どう扱うべきかってところがとても難しいと、エリューデイルは悩んでいたよ」
「ヒューマノイド作ったのってティターノとアルデバドスでしょ?
ガイゼルヘルとエリューデイルさんに責任とってもらえばいいじゃない?
ノスフェラトゥの件も含めて。
アースバインダーが二人もいれば簡単でしょ?」
「あはは、ルカティアらしいね。でも、始祖は二人でもむりだろうね。
ガイゼルヘルさんもエリューデイルも自分の失態だと本気で思ってるからこそ、ノスフェラトゥとヒューマノイドの今後について、ティフォーニアと本気で討論し合ってるんだとおもうよ」
「……あ、わすれてた、転移された街、エレーナの世界だって」
「了解、ティフォーニアに伝えておくね、ありがとね。
こちらも、報告。
送ってくれたルシオーヌの血液と細胞だけど、異常無し。
ところで、ロンギヌスは大丈夫そう?」
「うん。とってもいい子にしてる。ゼディーさんに感謝だね」
「そっか、よかった。
なんか、また、エリューデイルからヘルプの呼び出しが来た。
今日は、かなり追い詰められてるみたい、かわいそうだから、会議室にお茶でも持っていって、空気を入れ替えてくる」
「……想像しただけで、その会議室ぜったい行きたいくないわ」
「私もだよ。でも、誰かがやらないとね……」
「じゃ、がんばってね。また連絡するね」
「またね」
ルカティアたちは、順調のようだ。
フォーマルハウトもついにアストレアにご相談か。
無色のホムンクルスたちもいろいろ悩み抱えてそうだな。
無色のホムンクルスは、癖のあるやつしかいないから、ガイセルヘルさん戻って来てくれたのはかなりありがたい。
彼は判断早くて、一刀両断してくれるので、みてて気持ちいい。無色のホムンクルスには彼みたいな上司が一番合ってそうだよね。グーンデイルさん、本当に人を見る目がある。惜しい人を亡くしたよ。
でも、私、なんでティフォーニアの宮殿でお茶汲みさせてられてるんだろ?
愛娘たちが独り立ちするまでの相談役って話だったのに……。
しかも、一日中、ティフォーニアとガイゼルヘルさんとエリューデイルが入れ替わり立ち替わり個別相談にくるし……。
しばらくは、お茶飲みながら医務室でゆっくりできるって話はどこへいった?
ゼディーが作ってくれた露天風呂がなかったら、絶対耐えられないよ。
早く騒動が落ち着くと良いな。
……
数日後、ルカティアから再び連絡が入った。
「ファルシオン、体調が悪そうなの……」
「とりあえず、検査結果を確認するね。でも日数的にはまだ深刻ではないなず。
栄養補給はちゃんとできてるかい? 食べられなくなった食べ物とかでてきた?」
「うん、大丈夫。送ってもらった食料は全部ちゃんと食べられてる」
「なら大丈夫かな。ちょっとまってね、検査済ませちゃうから」
「うん」
「血液も、細胞も問題無し。大丈夫、周期は2日くらいずつ短くなることもあるけど、変わらない時もあるから、急激に短くなることはないはず。急激に短くなるようなら、一大事なので注意してね」
「うん、わかった」
「他に変わった事とかある? 私が最近、気になってるのは無色のホムンクルスの学会の動向なんだよね」
「学会?」
「うん、フォーマルハウトの船に近づいてる他の船とかそういうの気づいた?」
「私たちが乗り込んでからは、近くに船の気配を感じたことはないかも?」
「ククリさんのところになにか情報が入ってるの?」
「いあ、全くない。ただ、フォーマルハウトがアストレアに相談ってきいて、ずーっと引っかかってたんだ。私がフラガ=ラ=ハやっていたころにフォーマルハウトとは、3回程あって直接話をしたことがあるのだけれど、とにかく研究に没頭できればそれでいいって感じのやつなので、今の環境は、彼にとってはなんの悩みもないはずなんだよね。
そんな奴がアストレアに向かうってのは、相談というよりも、アストレア周辺の安全域にはいりたがってるのかな? って感じたの」
「なるほどね……どうしよ、降りた方が良い?」
「君とルシオーヌが搭乗しているうちは安全だと思うおもうよ。
なにかあったらアストレアどころかニダヴェリールとムスペルヘイムを敵に回すようなものだからね。
でも、他の船が近づいてくるとか、船の軌道がおかしいときは、気をつけた方がいいかも」
「そっか。でもさ、最初に見つけたときは、デネブとレグルスの近くにいたよ?」
「それなんだよね。それ、デネブとレグルスに追われてたのかも」
「え? なんで?」
「理由まではわからないけど、レグルスはともかく、デネブの空間操作技術だったら、フォーマルハウトのシールドなんか無効化できるだろうって、ルークがいってたから、レグルスは人手と相転移装置が欲しくて、デネブと交渉してフォーマルハウトを狙っていたのかもしれないね。
でも、たまたま空間転移のタイミングが来ちゃったから、デネブはそれを優先して、しかも、君たちアストレア関係者が来ちゃったものだから、手を出しずらくなったって感じがしてならない。
ただね、レグルスがデネブに対して提供できるカードは武装くらいしかないから、なんでデネブは協力したのかなってところで止まってるのが現状。
そう言えばさ、フォーマルハウトにいるヒューマノイドの人口ってわかる?」
「この前引き渡した子の話だと、2万人くらいってきいてるけど?」
「やっぱりかー」
「なに?」
「フォーマルハウトの船の設備なら1千年もかからずにヒューマノイドの人口は億を超えているはず。
きっと、なんども、脅されてヒューマノイドを奪われたんだろうね。
でも、もう差出せる人口としては少なすぎるから、今は相転移装置を狙われている状況なんじゃないかな?
場所的に、ニーベルング鉱床のほうが近かったからそっちに向かったけど、君たちと合流できたから、より安全なアストレアに行くことにしたって考えるのが妥当だろうね」
「なるほどね……どうすればよい?」
「ルカティアとロンギヌスがいるから、手が出せないとは思うけどね……。
私としてはフォーマルハウトに恩を売っておきたいのだけれど、力を貸してもらえるととても助かる」
「それは構わないけど、数次第では船は守れないわよ? 大きすぎて」
「うん、なので、ティフォーニアに相談して、ちょうどいい機会だから、ヴェルキエーレたちに浮遊要塞の警護の演習をさせてもらうようにお願いしようとおもっている」
「なるほど……あの子たちも暇持て余してそうだしね」
「うん。そこで君への追加の任務。
フォーマルハウトと直接合ってお話ししたいのだけれど、調整してもらえるかな?
とにかく私の憶測なので、彼の話を聞かないとどうにもならないのよ」
「でも、なんて伝えれば良い?」
「いまから言うことそのまま正確に伝えてもらうようにお願いしてくれる?」
「うん」
「『フラガ=ラ=ハから、フォーマルハウトへの伝言 δβ::3853::603 λη4269273 ενΛωη』
以上、覚えてくれた?」
「『フラガ=ラ=ハから、フォーマルハウトへの伝言 δβ::3853::603 λη4269273 ενΛωη』
あってる?」
「うん、よろしく。返事待ってるね」
「了解」
杞憂に終わってくれると良いのだけれど……。
……
私は、ディー=トライプの転移機能をつかって、移動要塞フォーマルハウトに訪問した。フォーマルハウトに話を聞くためだ。
「まさかあなたが、相転移の実験素体だったとは思いもよりませんでした」
フォーマルハウトは、ルークにまとめてもらった私の調査データを興味深げに端末でみながら、そう言った。
「私も、『ククリ』と君が面識があったとは思わなかったよ。
そのあたりの記憶は、完全に消えちゃってるから」
「そうですか、我々の蜜月の日々まで忘れてしまったのですね……
ほんとうに残念です」
「過去の捏造はやめようね。
そろそろ、本題にはいろうか。
昔の馴染みだし、君には恩を売っておきたいから、お悩み相談なら歓迎するよ?
お悩み相談係のお婆ちゃんてのが、今の私の仕事だからね」
「思わぬ再会で舞い上がってしまいました。
状況からいうと、バベッジ学派の移動要塞は、もうこの要塞しかのこっていません。
皆、要塞の安全区画だけ離脱して、この要塞に結合して研究を続けている状況です」
「夢追い人の多い君たちの学派には、パトロンがいないとこの世界は厳しすぎるのかもしれないね」
「まったくです。フリギアン=ギアが健在の頃が懐かしくて仕方ありません。
ニダヴェリールで保護していただけませんか?」
「ごめん、無理。
きみたちは、ユグドラシルの住人なのだから」
「……ですよね」
「でも、シールド技術もかなり進歩したみたいじゃない?
もう少しがんばれば、シャノン学派だって怖くないのでは?」
「それはそうなのですが、こちらの準備が終わる前に彼らに捕まる確率の方がはるかに高いのです」
「でも、どうしてまた仲間内で海賊行為が始まったの?」
「ノスフェラトゥのパンデミックのせいで、調達できるヒューマノイドの個体数が激減したためです。我々の相転移技術は、彼らにとっては魅力的な技術ですからね」
「まぁ、予想どおりってことか。でも無色のホムンクルスって同族裏切るほど性根腐ってた? そんなイメージ全く無かったよ」
「昔は、お互い尊重しあい見解の違いだけで片付いていたのですが、アールヴヘイムの大崩落とノスフェラトゥのパンデミックが同族の絆よりも、研究理念の成就を優先する我々の本質を浮き彫りにしてしまったといったところでしょうね」
「学会はもう開かれていないの?」
「いえ、見解の近いもの同士では定例で続けられているとおもいます」
「分裂しちゃったのか」
「はい。バベッジ学派は完全に孤立しました」
「チューリング学派とかマッカーシー学派とは仲よかったよね?」
「彼らは、ドラッケンの要塞で、監禁されて研究を続けています」
「パンデミックの中心地にいたのが災いしたわけだ」
「そのとおりです」
「ドラッケンの都市は、結局どの学派が主導権を握ってるの?」
「ノイマン学派です」
「そんなに野心家な感じではない印象だったけど?」
「ドラッケンの研究の中心となった学派ですから、パンデミックの際、人狼の支配から解放されただけでなく、ベイ=O=ウーフという大きなアドバンテージを得られたこともあり、彼らの研究理念にそった世界を再構築しようとしているようです。
ユグドラシルは寛容ですから、それに干渉する可能性も低いでしょうし」
「まぁ、実害がないなら容認してくれるだろうね。君は賛同できなかったの? 誘われたわけでしょ?」
「ええ。もともと彼らとは理念が対立していましたので、彼らの傘下に入ることは、自由な研究ができなくなるということですから。チューリング学派とマッカーシー学派の同胞たちは辛い日々を送っていることでしょう」
「だとすると、無色のホムンクルス同士での諍いってことになっちゃうから、アストレアは干渉しないだろうね」
「はい。それで、アストレアの領域内に移動要塞を駐留して時間を稼ごうという試みにでたのです」
「なるほどね。どれくらいの時間が必要かな?」
「……できれば1万年、最低3千年くらいは欲しいですね」
「駐留する理由を捏造する方が研究するよりも難しそうだね」
「……ですよね」
「そこまで追い詰められてたんだね」
「はい……」
「どうしたものか……」
「その……ドリアン=ルークとは仲がよろしいのでしょうか?」
「うん、悪くないと思うけど、嫌な予感しかしないからダメ」
「アイオニアン=ゼディーではだめですか?」
「同じ!」
「……はぁ。ククリさんは、私と私の要塞の住人に死ねとおっしゃるのですね?」
「そういう言い方はやめてね。
相転移技術をどこかの学派に高値で売りつけたら?」
「それはできません。死ねと言っているようなものです」
「めんどくさいなぁ……」
「ええ、まったく」
彼は誇らしげにいった。
「褒め言葉じゃないよ。
……そうだなぁ、今ね、アストレアで検討されていることの一つは、ヒューマノイドのことなんだ。パンデミックの元凶であり、被害者でもある彼らの存在をユグドラシルとして容認すべきか否かってね。
長いこと平行線が続いてるんだ。何か打開策、提案できる?
それができるなら時間の猶予を配慮してもらえるかもよ?」
「……提案ですか」
「もう一つはノスフェラトゥをどうすれば絶滅させられるか?
始祖の発見方法とかでもいいよ?」
「それ、研究施設をアストレア内に設立していただけますか?」
「他の学派もいっしょになるとおもうけどいい?」
「それはちょっと……」
「君たちじゃないと提案できないことってのが、唯一の突破口だと思う。
演習目的で護衛をつけるにしても、それなりの理由が必要になるから、君にはそれを用意して欲しいんだ。
『海賊行為が横行しています、すこし保護してください』とかだと、無色のホムンクルスまで、ヒューマノイドと同じ天秤に乗せられちゃうよ?
ガイゼルヘルさん、そういうところかなり厳しいからね」
「そうですね。
今から、同胞に召集をかけて、緊急会議を開くことにします。
いろいろとご意見をいただきたいので、しばらくこちらに滞在していただくことはできますか?」
「観光施設は充実してる? お風呂とか、食事とか」
「どうでしょう……。
あ、そうだ、ヒューマノイドの生活区画をご視察いただくのは如何でしょう?
ククリさん、あまりヒューマノイドと関わりはないのでしょ?」
「うーん……ティフォーニアに相談してみる。
私は部外者だから私が視察しても意味ないしね。
あと、お風呂と食事は今から確認してきめる」
「それは助かります。全ての区画へのフリーパスを発行しますね」
「いいの? 相転移技術のデータ抜き出して売っちゃうかもよ?」
「あなたが、そんな方ではないのは知っていますよ」
「君は、お人好しだなー」
「いまの我々にとっては、あなたが唯一の希望ですから、交渉材料の可能性を見出していただければとても助かるのです。我々にとって当たり前でも、価値のあるものが眠っているかもしれません」
「私が滞在してれば海賊行為から回避できるってだけでしょ?」
「それもあります」
「今日は、設備と食事だけ確認したらすぐ帰るね。
あとは、ティフォーニアに判断してもらう。
期待しないで自分たちで良い提案を検討してね」
「わかりました」
「それから、いま厄介になってるうちの子たちだけど、隔壁の隙間みたいな部屋じゃなくて、もうすこしまともな部屋を割り当ててもらえるとうれしいな」
「はい、よろこんで。あの、なぜ転移ゲートを使わないのでしょうか?」
「つかいたくても使えない子がいるからね。大切な娘だから、なにかあったら、ニダヴェリールもムスペルヘイムも容赦なく報復すると思った方がいいよ」
「それだけでも護衛の理由になりませんか?」
「この船を降りれば済む話じゃないの?」
「……たしかに」
「それじゃ、生活区画だけでいいから案内よろしくね、ほか興味ないし」
「はい。ではこちらへ……」
食事と生活施設は想像よりかなりよかった。浴場も住民のことをよく考えた使いやすく多様性のある作りだった。生活しているヒューマノイドの雰囲気や表情もよかったので、かなり良い待遇を受けているのだと感じた。
ただ残念なのは、生活区画から空を見られないことだった。
「せっかく素晴らしい空があるのに、それを見て生活できないのはもったいないよ。
空は、ユグドラシルの住民の財産だよ?
あと、視察期間中に露天風呂には入れないのもちょっと気が滅入るかも、得意のシールド技術でどうにからないの?」
と、わがままをいってみたことろ、フォーマルハウトは早急に検討すると言っていた。彼としてはもう必死だ。なりふり構っていられないのだろう。ちょっと意地悪なことしたかな?
私は、早速、アストレアに戻り、ティフォーニアに状況を説明した。
ガイゼルヘルとは違って、ほとんどヒューマノイドと接点をもってこなかった我々が、彼らの生活を視察する機会を持って見たらどうだろうか? という提案をしてみた。
私が撮影した要塞内部の動画を見みて、ティフォーニアは興味を示したようだ。
それに最近は連日の討論で息がつまる想いをしていたのだろう、リエルと一緒に滞在することを即決したのだ。彼女にとっては久々の休養といったところだろう。
驚いたのは、ガイゼルヘルさんだ。彼も視察を申し出たのだ。大殺戮が起こると、みんなして反対していたら、彼の一番の目的は、ロンギヌスと面会することだわかった。すでに別人と化してしまったが、彼が最も敬愛する王侯に直接あって帰還の報告をしたかったらしい。
また、ティフォーニアが視察するものと同じものを見ないで再び討論の席につくのは、公平性に欠けるというのが、彼なりの考えのようだ。生真面目な彼がそこまでいうなら大虐殺は起こらないだろうという結論に達した。
エリューデイルにはお留守番をまかせて、ティフォーニアには私が、ガイゼルヘルさんにはリエルがついて、1週間ほど滞在することになった。滞在期間中はバベッジ学派の無色のホムンクルスを交え、彼らの見解を参考にしながら、ヒューマノイド今後についての討論を行うことになった。
この決定を聞いた時のエリューデイルの表情は本当にうれしそうだった。
エリューデイルにとって、よい休養になることだろう。
早速、ニーヴェルング鉱床の愛娘と連絡をとり、6名ほど派遣してもらうように依頼した。
彼女たちは、訓練や会議といった毎日によほど退屈していたらしく、愛娘3名と孫娘3名が意気揚々と駆けつけた。
防衛プランを彼女たちに提案させ、ティフォーニアの承認を得るように指示した。
平常時は待機2名で、ローテーションして、休憩を挟み、緊急時には6名全員で対応することに決まった。
その決定にフォーマルハウトはとても感謝していたが、あくまでも視察期間中のみだから、それまでに良い提案を出せるよう頑張るように伝えた。彼は、すこしだけ希望が見えてきたらしく、悲壮感が漂っていた表情がすこしだけ明るくなっていた。
……
視察開始日、フォーマルハウトに搭乗した我々は、その変わりように驚いた。
全ての天井に空が映し出されており、露天風呂や、特別展望台なども増設されていた。
食事もさらに豊富に選べるようになっており、もはや、移動要塞ではなく、観光施設の様相を呈していた。
無色のホムンクルスというのは、ルークと同類の加減をしらない、頭のいいバカということがよくわかった。でも、この改修は私には高評価だが、私の評価が上がったところで意味はないのだよね……。
先にここで生活していた愛娘たちは、この要塞の快適さを十二分に満喫していたようだった。
ニーヴェルング鉱床にも同じ設備が欲しいといってくる始末だ。
早期に居住区に移動していたルカティアとルシオーヌは、日を追うごとに様変わりしてゆく要塞内部の様子に驚いたそうだ。
……
「今日も体調は問題ないね」
ルシオーヌの検査を終え、ちょっとしたカウンセリングをしていた頃、ガイゼルヘルさんが部屋を訪れた。
「失礼する。よろしいかな?」
「ええ、どうぞ、ごゆっくり」
この移動要塞に来てからの彼の日課だ。
ロンギヌスの前に跪《ひざまず》いて、昔の話だとか、今悩んでいることとかを話しかけているようだった。
エリューデイルからは涙もろい熱血漢と聞いたが、毎日、かつてグーンデイルだった戦闘獣に、涙を流しながら語りかける様を見て納得した。とても真直ぐで純粋な方なのだとよくわかった。誤解されやすい性格だが、とても思慮深く、聡明な方だというのもきっとそうなのだろう。だからこそティフォーニアは彼との討論を続けているのだ。
「失礼した」
「おつかれさま」
彼は部屋を後にした。
「ねえ、ククリさん。あの人誰?」
ルカティアはいつものように冗談を言った。
「いいかげん、その冗談にはあきたよ。あれも、彼なんだから認めてあげたら?」
「ほんとーに、信じられない。完全に別人よね」
「僕も未だに驚いてる、まだ慣れないよ」
ルシオーヌまでルカティアに同調している。
「ところでさ、ヒューマノイドの件、どうなってるか聞いてる?」
ルシオーヌはヒューマノイドの友人ができたこともあり、ヒューマノイドについての討論の行方が気になるようだった。
「バベッジ学派の見解が強い後押しになっているみたい」
「良い方向に?」
「どちらともいえないかな。バベッジ学派は、自分の研究にしか興味ないから最低限の干渉しかしないんだ。だけど、重要事項については完全に実権を掌握している。
哲人支配って言葉きいたことあるかな?」
「聡明で独占欲のない賢者が施政を司るとかいうやつだっけ?」
「うん、だいたいそんな感じ。バベッジ学派は、ヒューマノイドに対して、気づかれないように細かな監視をして、問題の根を摘み取るように気を配ってるけど、可能な限り、彼らが希望を持って生きられる生活環境を提供しているのだってさ」
「十分すぎる待遇だね」
「うん。でも、必要以上の権力は絶対に与えない」
「どうして?」
「彼らの自治能力を全く信用していないから」
「なるほどね」
「この要塞のヒューマノイドが生き生きとしているのは、洗脳や圧政ではなく、様々な自由、たとえば高度な技術知識とか娯楽や芸術に自由に触れられるようにしておきながらも、必要以上の権力が個人に集中しないようにして、致命的な身分差が生まれないようにバベッジ学派によって絶妙にコントロールされているからなんだってさ」
「それなら問題ないのでは?」
「哲人支配の問題点はしってる?」
「施政を司る人次第で、最悪の独裁状態になりやすいってことかな?」
「うん。たまたまバベッジ学派は、欲のない研究バカで、ヒューマノイドについてつまらないことに振り回されたくないから、彼らを絶妙なバランスでフォローしてヒューマノイドがのびのびと生きられる仕組みを作り上げて、不満を最小限におさえることで、自分たちが研究に集中できるようにしているってだけなんだよ」
「つまり、大昔にアルデバドスが判断を下したことをそのままやってるってこと?」
「そういうこと。でも、バランスさえ保たれれば、ヒューマノイドは無害のままいろんなことに挑戦して人生を謳歌できるってことも証明されたんだ」
「そうだね。でもさ、程度の差こそあれ、高次元知的生命体だっておなじでしょ?」
「うん。その程度の差がどこまで許容できるかが、焦点になってるんだってさ。ヒューマノイドを絶滅させて、ノスフェラトゥの家畜にされたヒューマノイドのコロニーを除去できれば、ノスフェラトゥたちは食料が確保できなくなるから休眠状態に入るか、ノスフェラトゥどうして共食いするしかなくなる。それによって得られるメリットは計り知れない。そんなメリットだらけの条件に勝てるだけのメリットを見出せるかだよね?」
「そうだね。ノスフェラトゥの問題がからむとヒューマノイドは圧倒的に不利になるよね」
「バベッジ学派が提案してた内容の一つに『ノア計画』とかいうのがあるけど、それは、アストレアにヒューマノイドの居住区をつくって、それ以外のヒューマノイドを絶滅させるって話だ」
「それも極端だね」
「ガイゼルヘルさんは、バベッジ学派の下でヒューマノイドを監視して、ノア計画を実施するならヒューマノイドの存在を容認してもいいってところまでは、譲ってきたところだよ。ティフォーニアは、他の低次元世界の状況も含めて判断を考えているから、ヒューマノイドの自治能力の欠落について、まだ疑問の余地があると考えているようだ」
……
視察期間が終わり私はアストレアへ戻った。
とても意義のある討論が行えたようで、アストレアで行う会議にバベッジ学派をはじめとした諸学派の無色のホムンクルスを招き入れて意見を交わすことになった。
フォーマルハウトの移動要塞については、当面、アストレア近郊への駐留許可がおり、護衛のヴェルキエーレの6名はアストレア近郊の安全区域に到着するまで継続して残ることになった。
アストレアからの各学派への召集に応えたのは、バベッジ学派の他はノイマン学派とシャノン学派だけだった。他の学派はすでにノイマン学派とシャノン学派のどちらかの傘下に入っているため、代表として意見を表明するのは2学派だけでよいとの見解だった。
ノイマン学派の代表者は、自動人形の技術が実用レベルに到達していたため、すでにヒューマノイドを必要としていなかった。彼らはヒューマノイドの絶滅を提案した。
シャノン学派の代表者は、アースバインダーの帰還という最大のカードがあるため、今後も空間転移を継続し、異世界の住人を確保して空間転移の安定化を測りたいとの希望を伝えた後、ヒューマノイドを高次元次元生命体に改造する技術について提案した。
シャノン学派の提案にガイゼルヘルは興味を示したようだった。
しかし、現状、ノスフェラトゥに餌をやっているような状態なので、対策ができない限り空間転移を禁止するように伝えた。
ノイマン学派の代表者は様子見と情報収集に徹しており、シャノン学派の代表者とバベッジ学派の代表者の主張がぶつかり合うといった感じになっていた。
今は、ノア計画の是非と、シャノン学派の空間転移対策が焦点になっているようだ。
エリューデイルは、以前よりもほんのすこしだけ話が前進したことと、意見のぶつかり合いの仲裁相手が、無色のホムンクルス同士に替わったこともあり、精神的なストレスが減ったようだ。
どちらかというと、ティフォーニアとガイゼルヘルの葛藤の方が増えた感じだ。
私のいる医務室にカウンセリングにくる頻度でなんとなく把握できた。
しかし、お茶汲みの呼び出しの頻度は変わらない。
ほんと何とかして欲しい……。
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−−−−−−
新連載始まりました。
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余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
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試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
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