ブルー・クレセンツ・ノート

ラグ＝ナ＝ローク

DAS RHEiNGOLD#2

────ハルカ（アラクネ種、ルーノ族）


　孵化という経験はとても不思議な体験だった。

　深淵の底には、あの青い月があった。
　そこからとても懐かしい、心に響く音色が聞こえた。
　気がついたら、私たち4人はその月の向こうに飛び込んでいた。
　本能が体を動かしたのだ。

　目が覚めると水槽みたいなものの中にいた。

　ルフィリアさんが駆け寄ってきて状況を説明してくれた。
　どうやら精密検査をしている最中だったらしい。

　周りを見渡すと、みんなもいた。

　みんなも私も人間の姿をしていなかった。
　でも、不思議と違和感も嫌悪感も覚えなかった。

　精密検査が終わり、体の動作確認を済ませた後、宮廷内を案内された。
　本物の宮殿なんて写真や動画でしかみたことなかったけど、そのどれよりも、比較にならないくらい美しかった。
　これから、ここに住むと聞かされた時は嬉しすぎて飛び上がり、天井に頭をぶつけたくらいだ。
　痛くてしかたなかったけど、それ以上に自分の身体能力が向上しすぎていることに驚いた。

　普通に壁も歩けるし、天井だって歩けちゃう。
　まるで忍者になった気分だ。

　8本に増えた足も、あって当たり前のように感じている。
　今はむしろ、みんな2本足で不便じゃないかな？　って思っているくらいだ。
　それくらい便利に使える足なのだ。

　でも、糸はまだうまく使えない。
　ミユキと一緒にいろんな資料を読みながら研究をしている。
　ミユキは、ユキリンにトラップを仕掛けるのに必死なようだ。

　この前、さっそく試していた。

　でも失敗した。
　ハーピ種の警戒心や周辺状況の察知能力はとても高いようで、すぐに気づかれてしまうのだ。

　うまく捕まえられるようになるのは、まだ先だとおもう。
　でもミユキのことだから時間の問題だろう。
　あの執念には脱帽する。
　最近は、ミユキの影響か、私も一緒になってユキリンを捕まえる方法を考えるようになった。
　これはアラクネ種の本能なのかもしれない。
　
　
　転生装置の外に出られて一番嬉しかったのは、ルフィリアさんを交えて、ミユキと一緒に腐女子トークに没頭できることだった。ルフィリアさんは、忙しいのに時間を見つけては私たちのところにやってきては、その話題を投げてくるのだ。この前は、一晩中3人でその話で盛り上がったくらいだ。すでに毎日が楽しくて仕方がなかった。


　孵化から一週間ほどたった頃、みんな新しい体に慣れてきたようなので、いろいろな方々にご挨拶をして回った。

　ニダヴェリールの世界龍オーヴァーロード、ロクシーさまに謁見するときはとても緊張した。
　とても美しく優しく聡明な方で、その一挙手一投足全てが芸術のようだった。
　皆が敬愛し、慕っている理由がよくわかった。ルーノ族の皆さんが、あの方のためなら喜んで死ねるといっているのも理解できる気がした。

　最後に伺った先が、ククリさんの部屋だった。
　ルーノ族でも別格扱いの方なので、とても緊張したが、とても気さくで暖かい方で、ルフィリアさんが言っていた通り、すぐに大好きになってしまった。
　でも、年齢を知ったときには驚いた。しかし、出身種族のガルダーガ族の中ではかなり若い部類に入るらしいと言われ、その美しさと若さに納得した。

　ククリさんの計らいで、数日ほど旅行させてもらえることになった。

　ルフィリアさんの目の色が変わったので、よほど素晴らしいところなのだろう。

　どんなところか今から楽しみで仕方がない。